【銀桜】1.闇夜篇
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-おまけ-「他人に頼らず自分でやれ」
「ほら、はやくしろよ」
「いや、その……」
「なに遠慮してんだよ」
「だから兄者……」
「そんなに嫌か?俺の……」
「そうじゃなくて。これしか……作れなかったのか」
闇夜の訪問者――高杉が万事屋を去ってから、双葉は再び眠りについていた。
その後銀時に起こされた彼女が目にしたのは、お茶碗に盛られたおかゆ。
兄が寝ている間に作ってくれたのだが、双葉は微妙な表情でそのおかゆを盛ったスプーンを口元に差し出す銀時を見る。
「贅沢言ってんじゃねぇよ。お前だってウチの家計苦しいの知ってんだろ。俺の懐も冷蔵庫も空っぽだよ。あるもんで我慢しろ」
我儘を言うつもりはないが、今『おかゆ』を見るとどうしてもあの時を思い出してしまう。
高杉の毒入り『おカユ』と兄が作ったフツウの『おかゆ』。
冷蔵庫が空っぽなら料理がかぶってしまって当然だが、何とも言えないこの心境。
こんなことをイチイチ気にする自分に嫌気が差しつつも、差し出されたおかゆを中々食べれないでいた。
「だいたいよ~、モグ、テメェが勝手にピザ注文すっから、モグモグ、金が一気になくなったんだろーが、モグモグ」
「兄者、さり気なくおかゆを食べるな」
双葉に指摘され、銀時はスプーンを口にくわえたまま手を止める。
「いらねぇんじゃなかったの」
「誰がいらないと言った」
「あっそ。……ほらよ」
そうして先ほどと同じようにおかゆをスプーンに盛り、双葉の口元に差し出す。
双葉はそのスプーンをしばし眺め――
「スプーン換えてこい」
「なんだオイ!お父さんが使ったお風呂に入りたくないお年頃の娘か、テメェわ!?」
「いや、お父さんと自分のパンツを一緒に洗濯したくないお年頃の娘だ」
銀時のツッコミに大真面目な表情で双葉は返答してきた。
この表情からするとどうやら本気らしい。
「どんだけデリケートだっ!テメェは俺とお父さんを病原菌かなんかだと思ってんの?」
「どうでもいいからスプーン」
「どうでもいいってなんだ。なんかしつこくツッコんでたこっちが恥ずかしくなってきた」
ブツブツと文句をもらしながら、銀時は無意識におかゆをかき回す。
わざわざ取り替えるのもめんどくさいので、銀時はスプーンをビシッと双葉の前に突き出した。
「スプーンこのまんまでいいだろ。つーか、そんなにこのおかゆ食べたくないの?お前おかゆ嫌いだったっけ。好き嫌いはやめなさい!」
「いや、別にそういうわけでは……」
釈然としない妹の態度に、銀時は頭をかいて渋々話を続ける。
「じゃ他に喰いたいモンでもあんの?言っとくけどピザ駄目だから。今ホントお金ないから。絶対無理だからね」
「ピザ食べたい」
「おい、さっき俺が言ったこと聞いてた?」
直後に首を縦に振る妹。良くいえば素直、悪く言えば欲望を剥き出しにした返答である。
どっちとも取れるその態度に、銀時は溜息をついた。
「また今度な、今度」
妹をたしなめてから、銀時は再度スプーンにおかゆを盛る。
「さっさと食べろ。冷めちまうだろーが」
双葉の口元におかゆが盛られたスプーンが差し出される。
おかゆの好き嫌いは関係ない。ただ今は食べづらいだけ。
でもそれは食べない理由にはならい。せっかく兄が作ってくれたこのおかゆを。
双葉は唇をスプーンに近づけ――
「……れる……」
「あ?」
双葉は急に動きを止めて何か呟いた。
よく聞こえなくて銀時は耳を傾けるが――
「ひとりで食べれるわァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
“ボカッ”
「あああああああああああああああああああああああああああああっ!」
頬が紅潮した双葉にブッ飛ばされ、壁に激突した銀時はそのまま気絶した。
荒い息を吐きながら双葉は呼吸を整え、別の意味でバクバクした心臓もすぐ平常まで戻す。
「全く、私をなんだと思っている」
そのまま寝ようと布団にくるまる。
だが、ふいにお茶碗が目に入った。奇跡的に無事だったらしく、中身はこぼれていない。
落ちていたスプーンでおかゆを口の中に入れる。
二、三口食べた後、双葉はポツリと呟いた。
「おいしい」
しばらくして。
双葉が眠りにつく頃、お茶碗は空っぽになっていた。
=終=
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