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不思議な縁

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第五章


第五章

 この店は彼の馴染みでもある。奇麗な店で落ち着いた雰囲気もある。少し時間があればよくここで時間を潰す。紅茶が絶品でもある。
 店に入る。すると入り口のすぐ側の席に河村さんがいた。白い店の中の白い椅子とテーブルにいた。そこでコーヒーを飲んでいる。カップも白であるから黒いのはそのコーヒーだけであった。先輩のシャツまで白であった。
「よお」
 手を向けて挨拶をしてくる。本当に今にも酒を飲みそうな程上機嫌であった。テーブルの上には真っ赤なあのカープの帽子まで置かれている。見ればこれも白ではなかった。赤以外に見間違えようのないはっきりとした帽子であった。
「しゃもじはないんですね」
「バッグの中だよ」
 先輩は笑ってこう返した。
「メガホンもな」
 どうやら一式持っているらしい。広島ファンにとってしゃもじとは実に古くから縁のあるものである。ヤクルトファンの緑の傘と同じだ。かって阪神との試合では緑の傘が嫌になる程見られたものである。
「持ってるぜ」
「やっぱり」
「まっ、合コンの時は出さないから安心しろ」
「はい」
 当然と言えば当然であった。いきなり野球の話をしても戸惑う女の子が普通である。これが関西で虎の帽子ならいいが。間違っても兎の帽子は駄目である。彼女が出来ないどころでは済まない。
「じゃあ行くか」
 先輩はすぐに席を立った。
「えっ、もうですか!?」
「もう時間だぜ」
 河村さんは自分の時計を達之に見せて言った。
「そうですね」
「じゃあ行くか」
「わかりました。それじゃあ」
「コーヒー飲みそびれたな」
「ですね」
 その言葉に思わず苦笑してしまった。
「俺は紅茶を飲むつもりでしたけど」
「ああ、御前は紅茶派だったな」
「はい」
 コーヒーも飲まないわけではなかったがどちらかと言うと紅茶が好きなのだ。この店では紅茶が美味いこともあり飲むのはいつも紅茶である。
「まっ、今日は酒だ」
 先輩は笑いながら言った。
「カープも勝ったしな、楽しく合コンやろうぜ」
 楽しく話をしながら店を出る。先輩は店を出るとすぐに携帯をかけた。
「あっ、俺」
 どうやら自分の彼女と連絡を取っているらしい。94
「あっ、そっちももうすぐか」
『うん』
 河村さんの彼女らしき女の人の声が返ってきていた。
「そうか、じゃあいつものカラオケでな」
『わかったわ。それじゃあね』
「ああ」
 これで電話が切れた。先輩は話が終わるとすぐに達之に顔を向けた。
「こっちに来てるってよ」
「もうすぐ見えますかね」
「だろうな。まっ、カラオケまで歩いて行こうぜ」
「わかりました。じゃあ」
「ああ」
 二人はそのカラオケまで歩いて行った。喫茶店からあまり離れてはいない。達之は歩きながら河村さんに声をかけてきた。
「ところでカラオケですけれど」
「何だ?」
「先輩歌うのってまたあれですか?」
「あれって何だよ」
「TMレボリューションですよね」
「まずはあれだよ」
 先輩は上機嫌で答えた。
「あれですかっといくぜ」
「じゃあ俺はスピッツでも」
「相変わらずそれ好きだな」
「いい歌じゃないですか」
「まあな。それからTOKIOだよな」
「はい」
 達之はTOKIOも好きなのだ。グループの中では山口が一番好きである。
「じゃあ俺はジャニーズはスマップでな」
「いつも思うんですけれど中居巨人ファンなのにいいんですか?」
「あいつファン辞めたらしいぜ」
「そうなんですか」
「今じゃ阪神ファンらしいぞ」
「また茨の道ですね」
「馬鹿っ、今じゃカープの方がそうだよ」
「そうでしたっけ」
「昔は全然逆だったのによ」
 先輩は顔を苦くさせていた。とにかくカープが好きな人である。
「九十一年が懐かしいぜ」
「そうなんですか」
「あの時はなあ。本当によかったよ」
 河村さんがそう言ったところでカラオケボックスの前に着いた。フリータイムとのことだ。カラオケボックスというのは不思議なもので田舎にあるものはいやに高い。だが都会、それもちょっとした街だとすぐに冗談みたいに安くなる。それが非常に不思議であった。
「そろそろ来るぜ」
 河村さんは店の前で達之に対して言った。
「もうすぐですか」
「ああ、ほら来たぜ」
 スカートの女の子とジーンズの女の子の二人連れがやって来た。
「!?」
 達之は片方の彼女を見て目を丸くさせた。
「あの」
 そして河村さんに尋ねる。
「彼女達、ですよね」
「ああ」
 先輩はそれに答える。
「俺の彼女何回も会ってるだろ」
「はい」
 その通りだ。スカートの女の子は紛れもなく先輩の彼女であった。それは見間違えようがなかった。それに達之も彼女を見ては驚いてはいなかったのだ。
 問題はもう一人だ。先輩の彼女の横にるジーンズの女性、それは何と桃子であった。
「お待たせ」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 達之と桃子は互いの顔を見て呆然としていた。
「待ったかしら」
「いや、丁度今来たとこだぜ」
 河村さん達はそんな二人をよそに挨拶をしていた。長い髪に少し赤を入れた派手めの彼女である。大きな二重の目が印象的である。達之のタイプとは少し離れているが。
「おう堀」
 先輩は達之に声をかけてきた。

 
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