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SAO~刹那の幻影~

作者:鯔安
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第六話

 
前書き
\絶賛迷走中/

書き直し第六話 

 
「いやあ、ほんとに助かったよ。ポーションが切れかかっていてね、君たちが来てくれなかったら、もしかしたら危なかったかもしれない。仲間の分も改めて礼を言うよ。ホント、ありがとう」

 爽やかな笑みを顔に描き、先ほどまで赤い光点に囲まれていたプレイヤーの一人、青髪の片手剣士は、死地を乗り越えたばかりとはとても思えぬ、(ごく)軽い口調でそう言うと、ぺこりと礼をした。
 どの角度からでも一面爽やかを誇る彼、青剣士の顔に、よく笑っていられるな、と皮肉交じりでも一つ言ってやりたくなる。が、いつでも笑みを絶やさない、という履歴書の余白に書きそうなこんなことでも、つい数分前まで、自分と仲間三人のHPを危険値ギリギリまで減らして奮闘していたことを考えれば、それも立派な一つの才能だ。
 一方の『仲間三人』は、戦闘が終了しポーションを一飲みした後、この青剣士の命令か、礼だけ言って散っていったため、その才があったかはわからないが。



 という一瞬の脳内補完を終えてから、一応と、周囲の警戒を再開する俺の横で、青剣士の笑顔に毒されたらしいシーラが、顔を緩めた。

「いいよいいよ。困ったときはお互い様って言うからね。――うん、さっきもおんなじこと言ってたね、あたし……うーん」
「ははは、オレも時々あるよ、そういうの。語彙力には自信があるんだけど……なんでだろうな。楽しいとうまく考えられなくなる、みたいなことがあんだろうな」

「ふうん、そう言われればあたしもそんな気がするなあ。ユウと話してる時とか、なんでか頭カラッポになっちゃうんだもん」

「ぐッ……」

 無関心を貫き通すと心に決めていたはずが、シーラの一声に、つい口元が跳ねてしまう。
 一緒に引っ張り出されそうになる不快感を寸前で飲み下すと、俺は、青剣士が空気を読める系男子であることを祈りつつ、大きめのローブを被る左の手を、ゆっくりと上へ持ち上げ始めた。
 祈りが通じたか、ちらりとこちらを見るだけに留まった青剣士は、違和感一つないしぐさで上を仰ぐと、小さくため息をつき、ぽつりと呟いた。

「……へえ、仲良いんだね。うらやましいな」

 様になった青剣士の演技に、シーラの顔がにへらと崩れる。さらに何かを発しようと口を開いた直後、その瞬間に、俺は、彼女の頭上まで運ばれていた手刀一本を振り下ろした。
 ガツンと一つ、鈍いが快感を伴う音が、あたりに響いた。

「――いったあ!何すんの!HP削れたらどうするつもり!?」

 一息間を置いて、その眼をわざとらしくうるうるさせたシーラが、頭を抱え、しゃがんだまま俺に抗議した。こんなもんでダメージが通るなら、お前もう三回ほど死んでるな。と、俺は心の中で小さく鼻を鳴らす。
 その呆れによって湿気ていく両の目をまばたきで拭きはらい、左斜め下で俺のリアクションを待つシーラから視線を外すと、俺は、協力者青剣士殿に目だけで礼をし、続けて言った。

「同時に二つのことを考えるっていうのは、なかなかできるもんじゃないですからね。それこそ某聖徳太子さんでも呼んでこないと……」

「ええ!?無視なの!?放置なの!?」

 騒ぐシーラには一ミリも興味を向けず、さらに話題を九十度曲げる。

「にしても大変でしたね、あの敵の数。突撃兵(トルーパー)剣士(フェンシー)に……何気にコボルト全種類いたんじゃないですかね。アレ」

「ははは、かもね。オレはトルーパーが苦手だから、そいつが苦しかったことばっかり覚えてるよ」

 青剣士が、その笑みをわずかに苦くし、面目ないと頭をポリポリ掻く。
 戦闘時の記憶でも蘇ったのか、ぼうっとしながら、雄大な毛髪を所有しているくせにしばらく頭皮に刺激を与え続けていた彼だったが、ふと、その手が止まった。
 不審に思う間もなく、だんだんと、にやついたその顔も神妙になり、考え込むようにうつむいていく。その角度がある一定まで達した時、はたとその顔に光が戻った。
 勢いのまま、青剣士は興奮丸出しといった喜びの表情で、俺に迫った。

「そうだ!そうだよ!トルーパー!君たちにも教えなきゃいけないんだ!忘れてしまっていたなんて……駄目だな、オレ」

 いきなりのハイテンションからいきなりのローテンションへと落ちていく青剣士を、おそらく困惑の表情で見届けた俺は、凍りついたその顔を戻すことも忘れ、自嘲じみた言葉の尾を引く彼に、尋ねた。

「どうしたんです?教えなきゃとか忘れてたとか……」

 恐る恐るといった風に俺はそう訊く。すると青剣士は、はっと、沈んだ瞳に生気を取り戻し、しばらく悩むそぶりを見せた後、静かに語りだした。

「そうだね……順を追って説明しようか」



「まず、オレたちのこと。君たちもそうだと思うけど、オレのパーティーは、第一層のボス部屋を探していたんだ……言うのもなんだけど、結構な時間ね」

 後ろを言葉にした時の青騎士のしみじみとした表情に、少なからず心が痛む。それほどの時間をかけて彼らが攻略してきたモノを、俺はシーラの知識を以て、日帰りの数時間で済ませようとしていたわけだ。
 いくら第一層早期突破のためとはいえ、テスター権の横暴は、それはあまりに――まて、ここを攻略していた連中の中に、そのテスターは居なかったのか?……いや、居るはずだ。現状、彼ら彼女らは様々な面でトッププレイヤーなのだから。にもかかわらず、ボス部屋はいまだ発見されていない。それすなわち、ベータテストの知識は役に立たないということ。
 ……シーラを仕置く理由がまた一つ見つかった。
 緩みそうになる頬を理性で支えると、感傷から帰還した青剣士が、再び口を開いた。

「その甲斐あって、二十階、ここ、最上階まで登ってこれたのはいいんだけど――」

 そこで青剣士が一呼吸。

「完全にマッピングしたはずなのに、どこにも見つからなかったんだよ。あるはずのボス部屋がね」

「え、ええ!?そんな、ありえないよ!第一層の迷宮は全部で二十階で、その最上階のどこかにボス部屋への大扉がある。NPCも言ってる確定事項だよ!?きっとどこかに見逃がしてるとこがあるんだって!あたしがベー……だむッ!」

 再びの鈍い音、しかし今度は快感など感じる間もなく、俺の左手、しかもゲンコツがシーラの脳天へ命中し、その言葉を止めた。
 ほぼ前回と同じタイミングで、彼女が頭を抱え、目に水分を蓄える。放っておけばまた喚き出すだろうが、俺は、今回ばかりは全力で、それを阻止した。
 ――お前、こんな出会ったばっかのヤツに、自分が《ベータテスト経験者》だってこと暴露するなよ。ただでさえ皆が皆、このゲームに幽閉されて気がたっているんだ。批判できるオモチャと見られれば、すぐに(なぶ)られる……その上、この一ヶ月で幾人ものプレイヤーが死んだ責任を、テスターに求めているバカな輩もいるんだから。
 と念じながらの睨みは、さすがのシーラにもある程度理解されたようで、不服そうに膨れる彼女に一息安堵した俺は、前方で何かしらの反応を起こさんとしているはずの青剣士を、誤魔化すための言い訳を頭に巡らせながら、ゆっくりと目線を剣士の方へと戻した。
 さすがに感づかれたかもしれないなと、内心ハラハラしていた俺だったが、次の瞬間、青剣士から放たれた一声は、彼への最初の印象である『頭の回転が速そうな人』を、思いきり川へ投げ捨てるレベルのものだった。

「あははは、君たち本当に仲がいいね。もしかして……付き合ってたりするのかな?」

「ねえよ」

 敬意など忘れて即答する俺の隣で、バカ正直に顔を赤くするシーラに、ひとしきり笑みを零した青剣士は、仕切り直しとばかりに咳払いを一つし、言った。

「それでマッピングが全部終わった後、オレたちも同じことを考えてね、見落としがあるはずだと思って、地図上をもう一回りしてみたんだ。それでもやっぱり他の道は見つからなかったんだけど、頑張って探してる内、代わりに変なモノを、何かのボタンを見つけたんだよ」

「は?ボタン?」

「そう、ボタン」

 間抜けな響きの俺の疑問に、青剣士が真面目な面持ちで答える。
 目をぱちくりさせていると、わずかに苦笑を漏らした青剣士が、すぐにそれを振り払い、続けた。

「壁の模様に同化してて、すぐには気づかなかったんだけどね。ともあれ他になんのあても無いしで、散々もめたんだけど、押してみることになったんだ。何が起こってもいいよう、回復薬(ポット)もいっぱい用意して……知り合いに連絡もしたりしてね。それで、準備万端、決心を固めていざ押してみたんだけど……君たちも聞いただろ?あのアラーム音。あれが鳴って、そしたらいきなりモンスターが大量に湧出(ポップ)してきたもんだから不意を突かれちゃってさ、オレ、リーダーだって言うのに、何もできなくて……なんとか態勢整えようと後退しながら皆必死に戦ってたら、君たちが助けに来てくれたわけだよ」

 話すにつれて暗く沈んでいく青剣士の顔から、その時ついに笑顔が消えた。
 俺たちが青剣士たちの助太刀に入った時点で、その場にいたモンスターの数は、すでに尋常ではなかった。到着前に彼らも何体か倒しているはずなので、最初はもっと多かっただろう。
 その数が突然目の前に現れるのだ。俺からすれば、青剣士の反応は極当然のもので、むしろその後パニックにならずに仲間を守り切った事実を誇れるレベルだと思える。
 だが、青剣士にはその功績よりも、前の失態とも言えない失敗が、より重く伸し掛かっているらしい。
 考えすぎだと、言ってやることは簡単だったが、表面を掠める程度の慰めを受けたところで、彼の気苦労が収まるとは思えない。ましてや、長身に落ち着いた物腰、明らかに年上の彼には、何を言ったところで子供の戯言と内心で流されるのが関の山だろうと、一度そんな考えが浮かんでしまえば、もう俺に、沈黙以外の選択肢は残っていなかった。
 思考の示す通り、せめておちつくまでそっとしておこうと、落ち込む青剣士をちらりと見、だんまりを続ける俺だったが、その時ふと、左目の端で何かが動いた。

「うんうん、すごかったよねあの敵Mobの数!アレがいきなり出てくるんでしょ?そんな状況で生き残れる自信ないよ、あたし。やっぱり皆すごいねえ」

「っ――」

 俺の喉から、掠れた声が漏れた。
 二人には聞き取られなかったらしく、表情に再び灯りを取り戻し、笑う青剣士とシーラを横目にしながら、溢れる感情を堪え、俺は唇を噛んだ。
 それでも胸中に渦巻くこの気持ちは消えてくれなかったが、そうしている内に、いつの間にか話は次の段階へと進んでいた。

「でもね、実はあのトラップ、どうやらただの罠じゃないらしいんだよ」

 すっかり元の調子に戻った青剣士の、小学校教師めいた言葉に、シーラが『?』を頭に浮かべる。
その反応に気をよくしたのか、青剣士は大げさに「ふっふっふ」と笑い、ふんぞり返ると、右の親指で自分の後ろを示し、言った。

「ついてきてくれ!」



 キザなその背を追って一分、すぐに青剣士は歩みを止めた。
 ここは確か、一時間ほど前、まだこの青剣士に出会う前に立ち寄った場所だ。角を曲がった先は三方を壁に囲まれた袋小路で、宝箱、この世界で言うところの《トレジャーボックス》があるわけでもない、ハズレの道だったはずだが――

「ここ、あたしたちも前に来たよ?ここがどうかした?」

 なぜ俺の言うべきことを先に言いやがる。
 瞬間にその一文を表示した脳に、ある種の失望とやるせなさを覚えた俺は、再び軽度の鬱状態へと移行しかける。が、ありがたいことに直後響いた青剣士の一声に、危ういところで俺は我に返った。

「ここがさっき言った、トラップボタンのところだよ。ほらよく見るとあそこに……」

 そう言って青剣士が指さす方に目を凝らすと、前方十メートルほどまで迫った星空模様の壁に、それと同色だが小さな突起物が確認できた。よく見つけられたなあと、そのあまりの小ささ見づらさに、思わず感嘆の声を上げそうになる。

「うへえー、ちっちゃい。こんなとこにこんなのがあったんだ。全然気づかなかったよ」

 耳に入るシーラの高い声。反射的に左隣を見やるが、驚いたことに、つい先ほどまでそこに佇んでいたはずの、彼女の姿がきれいに消えていた。
 疑問をわずかに掠め、遅れて声のした方向を理解した俺は、まさかそんなヘマはすまいと、半分祈りながらゆっくりと例のボタンへ視線を戻してみる。すると案の定、下方向に手前一メートルでそのボタンを興味津々と眺めまわす、シーラの後ろ姿があった。
 哀愁も糞もないその背に感じた、前とはまた少し別の深まるやるせなさはとりあえず心の奥底にしまっておくことにして、あいつを一人にはできんという謎の使命感と、七割ほどの好奇心も相成り、俺は例のボタンとシーラのそばに近寄っていった。

「ああ!押さないでくれよ!?まだ何か出てくるかもしれないから!」

 トラウマを叫ぶ青剣士に、「大丈夫ですよ」と、ついでに小声で「多分」を付け加え、細幅の通路で、共にシーラの背を目指し、歩く。
 無駄な努力と知りながら、あたりの壁を見回し、慎重に眺めつつ、シーラとの距離を半分ほどまで詰めたころ、俺は不意に、何か違和感を感じた。
 以前来た時の、圧迫されているような感覚が薄まっている気がする。空気も心なしか晴れているようだ。
 その原因は、がんばればシーラの頭に一発かませるほどの距離までたどり着いた時、明らかになった。

「……なあ、シーラ。ここって続く道あったか?」

「続き?この先って行き止まりだったんじゃ――」

 そこまで言って、ふと、困惑を浮かべたシーラの顔が、俺の眼が向く方向、袋小路になっているはずの右通路へと向けられた。おかげで彼女も俺の感じた違和感を察し、理解したようで、光景を捉えたその目が驚きと共に見開かれる。
 突き当りの壁に、いつかにはなかった大穴が開いていたのだ。

「それだよ。オレが言った『ただの罠じゃない』ってのは」

 左腰に携えた直剣に手をかけ、青剣士が俺のわきに進み出た。

「コボルトの湧出(ポップ)と同時に現れたんだ。オレのマップはもうここ以外完全コンプリートしてるわけだから、あのボタン、あれが文字通り、迷宮区の最後の砦だったんだろうね」

「……要するに、あの先にボス部屋があるかもってことですか。トレジャーボックスが大量の『隠し金庫』みたいなオチは勘弁ですね……」

 半ば自動的に飛び出した自らの冗談を鼻で笑い、穴の暗闇に目を凝らす。明度(ガンマ)が限りなくゼロに近いようで何も見えないが、青剣士には何か感じ取れるのか、おもむろに腕を組むと、断言を言った。

「そんなことはないさ!……あれだけ守りが堅かったんだから。第一層攻略は目の前だよ――まあでも、一応確認はするつもりだよ。大見得切った手前、こんなこと言うのも恥ずかしいんだけど……よかったら少し付き合ってくれないかな?」

 苦笑いをこちらに浴びせ、尋ねる青剣士に、俺とシーラは二つ返事で了解する。
 満面の笑みでありがとうを返してきた青剣士に、社交辞令も兼ねて挨拶を送ろうと頭を回した俺は、不意に、組み上げた言葉にワンパーツ不明な部分があることに気づき、間抜けにも、それをどストレートに表へ放出してしまった。

「そういえば、青剣士さん。あんた名前は?」

「ああ、そういえば名乗ってなかったな。オレはディアベル。今さらかもしれないけど、よろしく!」
 
 

 
後書き
よくわからないオリジナル設定の説明回でした。

感想、アドバイス、過激でないだめだし等、ありましたらよろしくお願いします 
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