戦国異伝
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第百七十四話 背水の陣その十
「わたくしは負けません!例えどの様な相手でも!」
「ならば我等も!」
「ここは退きませぬぞ!」
二人もだ、必死にだった。
その謙信に向かう、そうしてだった。
何とか謙信を止めていた、そして戦場では。
長政も自ら槍を取り兵達を叱咤激励している。多くの敵を自らの槍で倒しつつこう言うのである。
「怯むな、今はな」
「今はですな」
「何とか踏み止どまり」
「そうじゃ、戦え」
こう言うのだった。
「退く道はない、だからな」
「そうですな、今はそれしかありませぬ」
「戦うしか」
「生きるのならば」
「戦いそうするしかありませぬな」
「案ずるな、鉄砲も弓矢も放ち槍を前に出せばよい」
そうすればよいと言うのだった。
「ではよいな」
「はい、それでは」
「ここは」
「上杉の軍勢とて人じゃ」
少なくともだ、彼等はというのだ。まさに軍神と呼ぶべき戦ぶりを見せている謙信はともかくとして。
「人ならば同じじゃ」
「我等と」
「だからこそ」
「臆することはない!」
長政は強い声で言い切ってみせた。
「戦え!撃つのじゃ!」
「鉄砲をですか!」
「それを!」
「弓矢も放て、長槍も出すのじゃ」
織田家の戦をせよというのだ。
「よいな、さすれば生きられるわ!」
「わかりました、では!」
「我等怯みませぬ!」
「全く!」
兵達も応える、こうしてだった。
彼等は長政の采配の下果敢に戦った、そうして何とか上杉の軍勢を寄せ付けなかった。少なくとも崩れはしなかった。
そうして一日戦った、すると。
夕闇が迫る頃になってだ、謙信はというと。
これまで敵陣の中で後藤、可児と戦いつつ声で後ろにいる自軍を動かしていただ。急に二人との戦を止めて。
まただ、馬を跳ばして織田家の陣を飛び越えて馬首を振り向かせてそのうえで織田家の将兵達に言った。
「明日です」
「明日か」
「明日また来るというのか」
「今日はこれで終わりとしましょう」
こう彼等に言うのだった。
「戦の続きは朝です」
「そうか、今はか」
「今は終わりか、戦は」
「また会いましょう」
こう言ってだった、自ら殿軍となってだった。
謙信は兵を退かせた、こうして今の戦は終わった。
場は夜になろうとしている、だがその中でだった。
柴田はふう、と大きな息を吐き出してからだ、集まってきた諸将に言った。
「何とかなったのう」
「はっ、今日は」
「凌ぎましたな」
「危ういところでしたが」
「何とか」
諸将もこう柴田に応えた。
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