永遠の空~失色の君~
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EPISODE34 血の繋がり
眼下に青い海が見える。ISの実習ではいつも見る光景だが、それが違うのは今自分がいる高度にある。海上からおおよそ100m以上の高度で飛行する鉄の塊など今自分の首元で光っている青白いチョーカーがその正体を具現化させれば同じこと、むしろそちらの方が速いのだが、あいにくとこの海という場所にも、空という場所にも領域というものが存在し、そこには国境という意味合いも含まれてくる。それが速度と何の関連性が?と聞かれれば物理的な速さの話ではないと答える。
ISを使用しての飛行もできないことはない。むしろ物理的な速度はそちらの方が速いし、その分時間も短縮できる。だが、その分手続きというものに時間と労費を取られる為これはどちらかというと面倒な部類に入る。もっと言うとこれから出向くのは学園の外で公表されていない事実上の二人目の男性操縦者が急に現れればそれだけでもかなりの騒ぎになる。それは好ましくないということも大きな要因ではあるが、ライのIS自体規格外な部分が多い上セカンドシフトしてからは一切アクセスを受け付けない為国境を越える際に検査でもされたらたまったものではない。ある意味不審者を自国の代表候補生が連れているようなもので彼女の評判を落としかねない為、このような回りくどいとも言える手段を取っている。
小さな窓から見える景色から視線を今度は機内に移す。普通の一般人とは違う広い内部に高級感漂う椅子に内装が彼女が普通の高校生ではなく選ばれた人材であることがうかがえる。
セシリア・オルコット。イギリスの代表候補生にして名家であるオルコットの現当主であり友人でもある。
では、何故今自分が彼女と彼女が所有する自家用機に乗っているのか。それは夏休み前の終業式の時である。
◇
「結果が出た!?」
ガタンと音を立てて思わず机を叩いて身を乗り出す。しまったとおもった時にはセシリアから注意の声がした。
「ライさん、声が大きいですっ、それにお顔が近いですぅ・・・・」
顔を真っ赤にして手で隠すような仕草をする彼女が少しかわいく見えた。普段はどちらかというと高飛車な部類に入るセシリアだがこんな風に自然な姿を見るのはいつでも新鮮な感じがするのは最近彼女とあまり喋れる機会がなかったせいか。
まあ仕方ないとそれを呑む。彼女も会社の社長に代表候補生としての仕事、それに自分の無茶な依頼にと色々無理を言ってしまっている。それにも関わらず此方のことを気遣ってくれているのだから良くできた娘だと内心の評価を高くする。元々気立てのいいセシリアだ、人一倍頑張り屋なところもあり影の努力も惜しまないその性格もよく知っている為いつ倒れるかと心配になる。
「無理はしてないか」とライ。「大丈夫ですわ」とセシリアがそれに笑顔で返す。
「ライさんは心配性ですわね」
「それは心配にもなるさ。だってセシリアは僕にとって――――」
「とって・・・・・?」
「・・・・大切な友達だから」
周囲から擬音で表したらズコーッ、という音で表せそうな見事なズッコゲを披露しているクラスメイト達の姿があった。最近はああいうのが流行っているのかと聞くと「ライさんてば、最近一夏さんに毒されてきましたわね」とため息をつかれたので首を傾げる。
「・・・・と、話が逸れましたわね。この件はこの場でお話しできるようなことではないので、できればライさんには私の祖国に来ていただきたいのですが・・・・」
「それは危険じゃないか?」
「それに関しては私の信頼できる護衛や施設、人材をそろえておりますのでライさんの身元と快適な旅は絶対的に保障いたしますわ」
セシリアがこうまで言い切ったということは信頼していいのだろう。ならば、自分に断る理由はないと首を縦に振ることで了承の意を示す。パスポート等は心配無用とのことで此方は私服などの必要最低限な荷物を用意し、二人の担任に許可を得る。他のメンバーには秘密にし、その日の明け方にセシリアと共に彼女の祖国イギリスへと旅立った。
◇
そして、現在。飛行機を降り、迎えに来ていたリムジンに乗り込む。流石は財閥のトップで名門貴族の出だ。何もかも現実離れしていて実感がわかないでいると正面に座っているセシリアが口を抑えてクスクスと笑いだした。
「申し訳ありません。ただ、ライさんの反応が新鮮過ぎてつい・・・・」
「いけませんよお嬢様。ライ様はこういうのは初めてですし、そのリアクションは当然のものですよ」
「それフォローになってないですよねチェルシーさん」
「あら、そうでしたか?それは大変申し訳ありませんでした」
この人、絶対サディスティックだとセシリアの専属メイドであり幼少のころからの友人でもあるチェルシーの印象を自分の中で固める。これで大方この人のことはあっていると思ってしまうあたりこの人には隠し事はあまりできなさそうだと同時に敵に回したくないタイプだと位置づける。
「さ、着きましたよ」
窓の外には広大な敷地の中に存在する銀と青に塗られた建物が存在していた。オルコットが所有するIS工場であり、研究機関でもある。ここでブルーティアーズが開発されたのだと、セシリアは言っていた。
リムジンを降りて今度は徒歩で施設内へと歩いていく。風景は一言で表すなら自然と調和した近代建造物。シンプルに何にもないような草原にポツンと存在するそれはとても不思議な感じだ。
[ほう、これはこれは大層な建物だな。女狐にしてはなかなかどうして――――]
《こらC.C.。そんなこと言わない》
[何を言う。こうやって虎視眈々とおまえのことを狙っている有象無象の中の一つだぞ?おまえは私のものだ。それを横取りしようとしている女など女狐で十分だ]
《いつ僕がおまえの物になったんだ。デタラメ言うな》
そういうとC.C.が心底不満な顔をして目の前に浮かぶ。
《もしかして、機内食で出されたピザが食べられなかったのが気にくわないのか?第一きみはプログラムだろう?》
[ただのプログラムではないぞ?味覚はお前と共有できるし、精神もリンクしている]
《なるほど、要はもっとピザをよこせと言いたいんだな?》
[さっすが私の下僕だ。呑み込みが早い]
自慢げに鼻高々に言うこのプログラムを今心底殴り飛ばしたいと思うが残念なことにそんなことはこちらからは出来ない。故に流すしかないと代わりにため息をつく。
《これから検査結果を聞くんだ。少し静かにしてくれよ?》
そう言うとますます不満そうに頬を膨らませ、べーッ、として消えた。まったく人騒がせな奴だと再びため息をつくと今度は心配そうにセシリアが此方を覗き込んできた。声が同じなだけに思わずツッコミをいれそうになったがそれを堪えて呑みこむ。
「少し疲れているだけかもしれないが問題ない。ありがとう」
「それならよいのですが・・・・また以前のことのようなことはナシにしてほしいですわ」
「その時は済まない。でも今日は本当に大丈夫だ」
「まあライさんがそうおっしゃるのであれば・・・・」
「優しいなセシリアは。いつも気遣ってくれてありがとう」
「ふぇ、いや、あの、その・・・・」
照れるセシリア。そこへ響く声が一つ。
「お惚気はそのくらいにしていただけると嬉しいのだけど?セシリアお嬢様」
振り向くと、金髪に青い典型的なイギリス人と言ってもいいほどの背の高い女性がタバコを口にくわえながら白衣を怠そうに着て立っていた。それにあたふたとした後咳払いを小さく一つした後前へ進んで紹介をしてくれる。
「紹介いたしますわ。こちらはブルーティアーズの設計と開発主任である――――」
「シェリン・クルフェイルよ。あなたがお嬢様の言ってた―――――」
言いかけて、「わーわー!」とセシリアの妨害が入る。顔を真っ赤に染め、必死に言わせまいと両手を上下に大きく振る。
「これは相当な入れ込みようねぇ・・・・まあいいわ。“私が興味があるのはあなたじゃなくてあなたの能力だから”」
シェリンと名乗ったこの女性の一言で、彼女がどれだけ此方のことを知っているのかを瞬時に理解する。おそらくはギアスのことも知っているとみていい。なら、C.C.が喋らないことも彼女ならきっと知ってるはず。自分の記憶を取り戻す大きな一歩になるかもしれないと期待を大きく膨らませる。
通されたのはブリーフィングルームとも言うべき場所。そこには自分とセシリアとシェリン以外はおらず厳重におとが漏れぬようロックなどをかける。「さて」とシェリンがさっそく説明に入ると部屋が暗くなりホロウィンドウが投影される。それを物差し棒でつつきながらさながら教師のように説明する。
「まず、あなたの血筋について。これははっきり言ってあなたは純粋な日本人ともいえるし、そうでないとも言える」
「・・・・と、言うと?」
血が混ざっている――――つまりはハーフである可能性がある。だがこの純粋な日本人というのがどうも引っかかる。だからわからない。
「詳しく説明するわね?あなたには普通の人には見られない大きな違いがあるの。筋組織、脳の電気信号伝達、つまりは情報処理速度が異常に速いのよ。それも、かなりの数値でね。これはもう普通の人間って域を超えているわ。おそらく初見でティアーズの変則攻撃を見切ったのもそれが原因ね。あとはあなたの戦闘データ。悪いけど参考に見させてもらったけどあなた本当に何者?」
「何者と言われても僕は何も言えないんですが・・・・」
「それもそうね。でも本当に目を見張るものばかりだわ。ティアーズの狙撃から回避までのごく僅かな動き、そして迎撃。とても素人が覚えたてでできるような動きではないし、もしかしたらあなたどこかの軍隊の研究機関に所属していた可能性が高いわね」
それは正解だと内心感心する。これだけの情報でそこまでわからうとはイギリスの研究機関はたいしてものだと思う。
「と、まあ可能性はそれくらいにして。いよいよ本格的な話に入るけど・・・・研究者としてこういうことはあまり言いたくはないのだけれどあなたの躰はありえないことだらけなのよ。まずは血筋。これはさっきも言った通り、純粋な日本人とは言い難いのはあなたの血、半分イギリスのものが入ってるのよ。それもかなり高貴な、ね。でもそれはとうの昔に途絶えてるはずの物なのよ。もう半分もどっかの貴族の可能性が高いわね。しかもこれもかなりの名家。謎だらけよね~、実に興味深いわ」
テンションが上がるシェリン。言われた事実と結果に驚愕とするセシリアとライ。何も言えない二人はただ互いを見つめた。
◇
「ハーフ・・・・でしたのね」
「ああ。僕自身、かなり驚いている」
貴族、しかもハーフ。それでいて名家。それが嬉しくてセシリアは自然と頬を綻ばせる。些か不謹慎かとも思うが、それでも嬉しいのは仕方ない。
想い人が、自分と同じ。そう考えるだけで、テンションも上がる。
「どうかしたのか?」
「なんでもありませんわ」
そう言う彼女はとても嬉しそうに笑った。
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