永遠の空~失色の君~
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EPISODE32 紅蓮
明けの空に、三つの軌跡が交錯する。天高く昇り交わり、そして衝突して離れる。激しく繰り広げられる空戦に代表候補生達はただその光景を見上げた。
「ライさん・・・・」
セシリアの声が落ちる。その名が示す少年は共に空を駆ける少年と福音という名を持つ銀の機体と対峙していた。剣を振るい、翼を羽ばたかせ、銃を撃つ。一進一退の攻防の中、ライは決定的瞬間を待つしかないでいることに歯がゆい思いをしながら舌打ちを一つする。エネルギーがもうない。このままではいずれ押し負けて最悪の場合――――
(いや、そんなことは考えない!)
自分たちにできるのはただ一つ。戦って、勝つこと。それだけだ。それだけしか、許されない。
福音が飛翔する。それを見たライが一夏の後ろに隠れ、白式の左腕に備わった雪羅を展開。広がるのはバリアー破壊に特化したフィールド系の盾、零落白夜のシールドだ。それにより福音の広域攻撃を無効化し攻撃終了時の硬直状態の一瞬をついてライがクラブTを駆りMVSを振るう。翼を一対切り落とし、ヴァリスを撃つ。福音が躱す。回転して回避した勢いのままクラブTを蹴り飛ばす。空中で姿勢を整え、再び睨みあう蒼、白、そして銀。エネルギー残量も残りわずか。ハイパーセンサに警告の文字が現れるのをC.C.が裏拳で割る。
[どうせお前たちはやるのだろ?ならばこの警告は邪魔だな。前が見えんのではもともこうもない]
それもそうだと苦笑しながらライは思考する。どうすれば勝てる?どうすればこの状況をひっくり返せる?
答えは――――でない。どうやっても、“普通に戦っていては勝てない”。勝利する一手で決め手となりうるのは、この左目に秘められた“呪い”だけ。だがそれも条件がある。
「・・・・万死急須、か?」
『まさか。まだ諦めないさ』
強気に返す。根拠のない自信など信じない主義ではあるが、彼と一緒だとそれも実現できる気がしてくる。
出来ると確信できる。
出来ると思わせてくれる。
ただそれだけで、剣を握る手から力が抜けることはない。折れることのない確かな意志が、ライを奮い立たせる。
一夏という存在が、ライに力を与える。だからこそ、彼は迷わないし疑わない。
一つに光が、福音を狙撃する。遥か下、海面からの狙撃をするのはセシリア・オルコット。青の機体を身に纏い携える銃からはビーム発射直後の硝煙が上がっている。さらに放たれるは見えない砲撃。自分たちと相手との間を別つように割り込む赤銅色の機体を纏う少女が得意気に笑った。
「なに二人して盛り上がってんのよ。アタシ等も混ぜなさい!」
凰鈴音、彼女の明るさが暗闇を払う。
「行くよモニカ!」
「はい。コンビネーションアサルト、クロスシフトA。参ります!」
カーキイエローとレモンイエローの機体が躍る。銀の鐘を発射前に全砲門を開き、撃ち尽くす。ミサイル、弾丸、その全てが爆発の連続で絶え間なくさく裂する。だが、それでも銀の鎧を停止させることは敵わない。
だから。
「その程度、止められなくては“ドイツの冷氷”の名が廃るというもの!」
翳した右手から広く広がるフィールド。学年トップクラスの実力はダメージを負っても尚衰えることを知らない。
そして――――
「一夏、ライ!」
紅の機体が二人の手を取る。つないだ手から伝わる温度が、機体の活力となり湧き上がってくる。
[エネルギーフル充電・・・・これはあの狂兎も粋なものを作ったものだ]
“絢爛舞踏”。白式と対を成す紅椿の単一能力は僚機にエネルギーを充電させることにある。それにより白式とランスロット・クラブTは尽きかけていたエネルギーを回復。これにより、クラブの最後の武装が解放された。
徐々に追い詰められていく僚機たち。それらを見上げ、二人は互いに頷く。
「勝ってこい、二人とも」
箒の言葉を背に白と蒼は飛び立つ。ボロボロになりながらも仲間たちが作ってくれたこの刹那、無駄にはしないと入れ替わりでクラブTが回転蹴りを繰り出し福音を蹴り飛ばす。さらに追い打ちとばかりに白式が刀を振るい、もう一対の翼を切り落とす。錐もみしながら落下していく福音だが、その最中も再生能力は止まらない。エネルギーの際限なく使われる再生能力は脅威だが、それもパイロット保護を最優先事項と定めるISならば、それも限りがある。翼自体は修復できても武装オプションまでは回復できないようだ。
だから、チャンスはここしかない。
「…決めるぜ」
『ああ。行こう』
同時に飛翔する。
[ロック解除。シールド反転、輻射波動機構、スタンバイ。いいかライ。エネルギーが回復したとはいえ調整が不十分だ。一回きりの限定解除だ。キッチリ決めろ!]
『わかっている。一夏、タイミングを合わせる!』
「おう!」
反転したシールドに備わった爪がクラブの手を覆うと掌にエネルギーが収束していく。白式は左手を、クラブTは右手を突き出す。その姿が、一瞬C.C.の記憶にある紅い機体と重なったのを感じて口角をあげる。
(何が未練はないだ。未練ありまくりではないか・・・・)
二機の腕が福音を捉える。エネルギーをガリガリと削りながら落下していく最中福音は二人の首に手を伸ばす。それは殺したそうにも、縋るようにも見えた。
だからライは、その手を握る。大丈夫だと、言い聞かせるように。
そして、死闘は終焉を迎えた。
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