永遠の空~失色の君~
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EPISODE29 臨海点突破!?
前書き
ここからは三人称になります
快晴の空を北東の方角に向けて伸びる海岸線沿いの道路を走るバスが三台。団体を乗せる際に掲げるプレートにはIS学園1年1組御一行と書かれている。ゆらゆらとバスに運ばれること数時間、誰かが「海だーッ!」と叫んだのと同時にみんな窓にかじりつく。キラキラと太陽の日差しを反射して輝くコバルトブルーの大きな海原は見渡せど際限なく眼下に広がっている。窓を開ければ潮の香りが鼻をくすぐること請け合いだがあいにくとそうすると最前列の黒の女性が雷を落とすのでそれをやろうとする者は誰もいない。
だが、きっちり騒ぐことだけは忘れないあたりみんな元気だ。
「スッゲー!ライ海だぜ海!」
「いつも見てるじゃないか」
「固いこと言うなよ。ホラ見ろよ、あんなに綺麗なんだぜ!?これを見ずしてテンション上がらないいってのはナンセンスってもんだ!」
隣に座る一夏がハイテンションで此方に絡んでくる。多少困惑するもののこのはしゃぎよう、雰囲気と臨海学校という特別な響きがそうさせるのだろう。古来より言葉には不思議な力がすると言われているように、今の彼の様子を見ればされがよくわかるだろう。ともあれ、自分もテンションは上がっている。だがそうならないのには理由があった。
時間は、出発より一時間前に遡る。
「第二形態移行、ですか?」
突如かかってきた電話の向こうにいる相手にそう訊きかえす。朝早いというのにハイテンションな音楽と騒音にも思える声は朝が強い弱いにかかわらず鼓膜と神経を攻撃する。
《そうなのだよ!定期的に送られてくるデータをみればそろそろな時期なのだ。だから明日束さんもそっちに参上仕るよ!また会えるねラー君!》
何故だろう、イヤな予感しかしない。そもそもどうしてこう前日に連絡ではなくよりにもよって出発前なんだろうか。恩人の理不尽かつフリーダムな振る舞いにため息をつきつつ了解と返すと、束は満足そうにまた騒ぐ。・・・・・さっきから気になっていたけどこの聴いたこともないBGMはなんだ?
《あ、そうそう。一つ注意・・・・というか警告かな。覚えておいてほしいことがあるんだ》
声のトーンが変わった。ただ事ではないと判断しこれから言われるであろうことを一字一句漏らすことなく聞き取るよう耳を研ぎ澄ませる。
《おやつはいくらまでかな?・・・・・冗談ですすみませんだから切らないでくださいお願いします》
「あまり時間がないんで手短にお願いします」
《めんごめんご。・・・・・ラー君、“声”に注意して。どんなことがあっても耳を貸してはダメ。いい?》
「声、ですか?」
《そう、声。コワーい魔女がラー君のこと狙ってるから、絶対に、せええええええッたいに、ね!》
そう念をおされ有無も言わせず電話を切られてしまった。あまりにも強引すぎる振る舞いにため息を一つつく。その後迎えに来た箒に束が来ると言うことを伝えると表情を一瞬強張らせたあとすぐに肩を落とした。なぜかはわからないがどうやら妹ながら姉の凶暴性はよく理解しているようだ。
そんな経緯があってからライは正直乗り気ではない。楽しみではあるが不安要素がいくつかある。まずは自分との関係だ。あの天才篠ノ之束との関係を問われれば騒ぎになりかねない。もう一つはあのハイテンション兎がタダでこのような姿を晒すマネをするわけがない。となればそれ相応の危険を冒してでもこちらに来るだけの理由があるということ。そしてあの箒の顔――――これらが意味するのはなんなのか。ライは未だ冷めやらぬ一夏の姿越しに流れゆく景色をぼんやりと眺めながら考える。
これは大変なことになりそうだ・・・・。そう呟いてからライは目を閉じた。
◇
しばらくして今回宿泊する旅館に到着し荷物をもって敷居を潜る。外観はかなり風情はあるが中を見れば最新式のセキュリティと施設の数々がお出迎え。しかしそれが主張するわけではなく文字通りそっと見守る感じに所せましとある。さすがは学園御用達の宿泊施設だ、これほどセキュリティのしっかりしている施設は学園を置いて軍隊くらいにしかお目にかかることはできないだろう。世界でも限られた数しか存在しないISだ、それを専門に扱い、尚且つ専用機を持っている生徒や機密保持等の理由もある、これくらいは当然かとライは部屋へと案内される。割り振りは男子が三人という奇数の為多少の揉めはあったが結局一夏が千冬と、ライが真耶と、そしてシャルロットがまだ男装している為護衛役のモニカと一緒という結果に落ち着いた。自分と一夏は女生徒対策、シャルロットは秘密がバレることを防ぐ為にモニカが一緒となる。怪訝そうな顔をするかと思った千冬だがこれをあっさりと承認したことに多分気づいているのではないかと思うがそれを言葉にしない辺り彼女の気遣いは痛み入る。
部屋は広く学園の寮並みとまではいかないがそれなりに広さはある。畳の作りで旅館という名が示す通り全てにおいて和の空気感が心地よい。障子と窓を開け放てばそこは白と青が織りなすコントラストが広がる海岸。所謂オーシャンビューというやつだ。
「景色も雰囲気もいいでしょう?」
自慢げに胸を張るのは真耶、実は織斑先生の部屋よりもいいんですよと彼女は人差し指を唇に当て悪戯げに笑む。その姿は非情にかわいらしい。そうですねと答えると隣に来て窓から入る潮風に当たる。ショートカットに切りそろえられた翡翠の髪がふわりと揺れ香しい香りが鼻を抜ける。指で髪をたくしあげる姿に大人の女性の色っぽさを感じてライは視線を逸らす。彼女に以外な一面が見れたことにちょっとした喜びを感じつつバッグから水着を取り出す。そろそろ一夏が来るかと直感したところでクラブがフレンドリーメールを受信したことを告げる。先に着替えて待っていると黙読し青いパンツとシャツを探り取る。
「先生も海に行くんですか?」
「よくぞ聞いてくれました!実は私達教員も一日目は自由行動が許されているんです。新調した水着をライ君に披露しちゃいます!」
なんとも楽しそうだ。普段の忙しさから考えるとたまにはストレス発散したいだろうと日頃の業務に対し心の中で感謝しつつ後でマッサージでも一夏に習おうと予定をたて水着、楽しみにしてますと部屋を出た。
「ライ君が、私の水着を楽しみにしている・・・・これはダイエットした成果を披露するときが来ましたね!」
一人浮かれる山田真耶だった。
◇
水着に着替えながらクラブのハイパーセンサを展開する。今後のスケジュールを確認しながら服を脱ぎ、水着を着る。空き室を利用し設けられた着替えスペースは女子も利用しているが今は皆仕度を済ませたようで海に出向いている。ふとシャルロットのことが気になったがモニカがいるなら心配ないかと目の前に表示されているモニタを指で触れてはスクロールして目を通す。彼女は頭もいいし機転もきく、おまけに要領もイイ。彼女がいれば安全だと思考を切り替えると、一つのワードが目にとまる。
*
報告:コアシステムに異常検知。稼働に問題なしと判断
コアに異常があるのに問題なしとはこれいかに。ライは訝しげに首をかしげてそれを見て束が言っていた言葉を思い出す。
――――第二形態移行するかもね
束が言っていたことはこのことなのか?思考するも脳内での回答が出ないことに息をついてスクロールする。とりあえず動かない、戦えないというわけではないので見送ることにしてハイパーセンサを閉じる。時計をみればそろそろ待ち合わせの時間だとシャツを着て更衣室を出た。
外の騒がしさにテンションをあげた。
◇
足元に広がるのは白い砂浜。青と白の境目で押しては返す波の狭間で麗しい少女達の黄色い声が響く。季節は夏、心を解放したかの彼女たちは個性豊かな水着に身を包み遊びまわっている。その光景に微笑ましさを感じつつ隣に並ぶ一夏とともに浜辺に降りる。柔らかい砂の感触がサンダルの中に入り若干の心地悪さを感じるも、その感触もまあ・・・・さほど悪くない。
「おお~!コレは・・・・!」
「黒髪の貴公子に幻の美形のダブル水着姿!健康的な肌の織斑君と白くてすべすべした蒼月君の肌・・・・神様、ありがとう!」
「今までこれほどの絶景を見たことがあるだろうか・・・・!」
「一夏、ライ。お待たせ」
遅れてきたのはシャツを着て黄色い海パンを吐いたシャルロットだ。その少しうしろにはモニカも黄色い水着に着替え控えている。
「シャル…」
「…ボクは大丈夫。モニカが色々とやってくれたから」
「おお、これは・・・・これは・・・・!」
「さらに金髪の癒し系美形ことシャルル君!これを写真に収めずしてなにを撮るか!」
しきりにシャッター音が響く。カメラは遠慮願いますとモニカが注意をすもそれをも圧する気迫でシャッターが切られる。しょうがないと諦めて大人しく取られていると鈴が一夏に飛び乗った、まるで猿のようだなと思っていると一夏がそれを言葉にして殴られたのを見て少し笑う。
「ライさん、“おまたせしましたわ”」
パラソルを持ってやっていたのはセシリア。ブルーの水着がなんとも彼女らしいが・・・・・お待たせしましたとはどういうことだろうか。
「セシリア。僕はきみとは約束したおぼえはないが?」
「あら、私にサンオイルを塗っていただく約束でしたのに・・・・まさかお忘れですの?」
言われてここ一週間のうちの彼女との会話をできる限り思い出すも、そんな会話は一切していない。此方が忘れているだけだろうかとも思ったがやっぱりしていない。それを言おうと口を開こうとしたが、セシリアの無言の重圧がのしかかり何も言えずはいと頷く。
やれやれ、このような小娘に臆するとは情けないな坊や。
うるさい。そう一括して仕方なくセシリアとのした覚えのない約束を守ることに。建てられたパラソルの下にシートを敷き、その上に紐を解いたセシリアがうつ伏せで寝る。その姿に心臓の鼓動が早くなるのを感じながら渡されたオイルを手にたらし、温めるようになじませてから背中に触れる。
「ああ・・・・上手ですわね、ライさん・・・・!」
「紛らわしい声を出さないでくれ。周囲の視線が痛い」
「申し訳ありません、ですがあまりにも気持ち良すぎてつい・・・・ンン!」
揉みほぐすように塗るのがいいと一夏からアドバイスを受けたから実践しているのだが、これはやらない方が良かったかもしれないと軽く後悔する。が、中途半端にやめると彼女に申し訳ない。仕方なくそのまま続けるとやはり甘ったるい、黄色い声がセシリアから漏れる。何故か一気に気温が上がったような気がするのは自分だけではないはずと心を無にしながらオイルを塗る。大方塗り終えたあと、セシリアから更なる要望が。
「あ、あの・・・・できればその、下の方も――――」
「はいはい、それ以上は同じ女のアタシが塗ってあげるわよ~。ソレ!」
「ひゃぁん!?鈴さん、邪魔を――――」
「せ、セシリア前!前!」
水着が落ちて、露わになる二つの大きな白い凸。まさか着やせするタイプしかもこの大きさとは女の子はとことん不思議だなと軽く感心していると何故か横にいた一夏が部分展開したブルーティアーズの右手により殴られて吹っ飛んだ。合掌。
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