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戦国異伝

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第百七十四話 背水の陣その三

 柴田はあらためてだ、諸将に言った。
「ではよいな」
「はい、それでは」
「今より」
「加賀に向かう」
 そしてだ手取川の北にというのだ。
「そこで戦じゃ、よいな」
「畏まりました、では」
「参りましょうぞ」
 諸将も応えた、そしてだった。
 織田家の主だった将帥達は柴田の下五万の兵を率いて北ノ庄城を発った、そして石田と大谷はその彼等を見送った。
 その中でだ、石田は厳しい顔で大谷に言った。
「ではな」
「うむ、今すぐにじゃな」
「飯を加賀に送るか」
「武具もじゃな」
「上杉謙信は確かに強い」
 このことは石田も知っていた、それも恐ろしいまでに。
「まず勝てぬ、しかしな」
「負けぬ戦は出来るな」
「権六殿達ならな」
 彼等ならというのだ。
「それも出来る」
「だからじゃな」
「負けぬ為には飯と槍じゃ」
 つまりだ、兵糧と武具だというのだ。
「この二つが充分にあれば心は折れぬ」
「だからじゃな」
「そうじゃ、ではな」
「すぐにこの二つを送るぞ」
 石田は大谷に確かな声で語った。
「よいな」
「うむ、ではな」
 こう話してだ、そしてだった。
 石田と大谷はすぐに兵糧と武具の手配をはじめた、五万の兵が充分に食い戦えるだけのものをだ。そこには陣を守る為の様々なものもあった。
 二人が城で手配をする中でだ、信長はというと。
 自ら十万の兵を率いて柴田達の後を追う様にして加賀に向かっていた、彼は今近江から越前に入った、そこで柴田達の出陣を聞いた。
 するとだ、彼はすぐに全軍にこう命じたのだった。
「急ぐぞ」
「これまで以上にですか」
「加賀に」
「そうじゃ、そしてじゃ」
 そのうえでだというのだ。
「権六達のところに向かうぞ」
「では殿」
 その話を聞いてだ、森が言ってきた。
「手取川をですな」
「そうじゃ、渡る」
 そうするというのだ。
「早いうちにな」
「そうされますか」
「権六達なら上杉謙信が相手でもな」
「まだ、ですか」
「一日なら持ち堪えられる」
「しかしそれ以上は」
「無理じゃ」
 例えだ、柴田達でもだというのだ。
「だからじゃ」
「急ぎますか」
「すぐに権六達と合流してじゃ」
 そうしてだというのだ。
「あ奴等に応えるぞ」
「見殺しにせずにですな」
「あ奴等は川を渡り川の北、つまり加賀の全土を織田家に確かに組み入れさせるつもりじゃ」
「そうですな、ただ川を渡るだけではありませぬな」
「戦をするだけなら川の南に陣を張ればよい」
 そこでだ、敵を迎え撃てばいいというのだ。信長もこの戦の常道はわかっているのだ。それでだというのである。
「そしてな」
「今は」
「そうじゃ、軍を急がせてじゃ」
 そのうえでだというのである。
「我等も早いうちに川を渡るぞ」
「わかりました」
 森も応えた、そしてだった。
 信長は十万の大軍を急がせた、その速さはこれまでより遥かに速かった。それはまさに風の如きであった。 
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