雲は遠くて
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38章 信也と美結、いっしょに暮らし始める (2)
38章 信也と美結、いっしょに暮らし始める (2)
「詩織ちゃんは性格も容姿も可愛いから、みんなから慕われる
のよ。わたしなんかより、芸能界でも、よっぽど、アイドルにふさわしい気がするわ。
わたしは、ただ派手好きで、新しいもの好きで、流行が好きなだけって感じだけど、
詩織ちゃんは現実をよく見ていて、リアリスト(Realistic)なんだわ。そういうところ、
わたしも見習いたいもの」
「詩織ちゃんは、あれで、けっこう、空想家なんだよ。まあ、現実的で、空想的で、
そんな両方があるから、作詞や作曲なんていうことができるんだけどね。
おれなんかも、そんなところは似ているな。あっはは」
「そうか、お兄ちゃんと詩織ちゃんって、そんなところが似た者同士なのね」
「そうそう、何か、共感することがなければ、仲良くなんかなれないって」
「そうよね、共感よね。わたしと詩織ちゃんも、失敗を失敗と思わないところが、
似ているのよ」
「あああ、そうか、そうだよね。そんな性格はふたりともそっくりだよ。あはは」
そういって信也がわらうと、美結も、人間界に降りてきたばかりの
可愛い天使のような笑顔でわらった。
「ところで、美結は、こうやって東京に来ちゃったけど、特に付き合っている
彼氏とかは、だいじょうぶだったのかな?」
「それが、お兄ちゃん聞いてくれる。わたしって、彼氏がいない歴が、
ずーと続いているのよ」
「なんでまた、美結ほどの、美人が」
「美人過ぎるのよ!」
「ああ、なるほど。そういうのって、よくあるよな。この前にネットで見た、
あるデータによると、男って、7割がかわいい女性がいいんだってさ、
あとの3割が美人の女性を好むんだって。かわいいほうが
癒されるんだってさ」
「どーせ、わたしなんか、かわいくないですよ━━」
「ごめん、ごめん。美結は、美人だけど、かわいいよ。そうそう、
あれだ、ほら、さっき話に出たじゃん。共感っていうやつ。
詩織ちゃんと美結だって、失敗を失敗と思わないってことで、
共感し合ったっていってたじゃない。男女もね、突き詰めれば、
その共感が大事なんだよ!価値観の共感とかさ、精神的な
共感とかさ、あとは、肉体的な共感もあるけどね」
「そうなんだ。やっぱり、共感かもね。肉体的な共感って、
エッチなことでしょう。いいな、お兄ちゃんと詩織ちゃん、
エッチなことでも共感し合っているのよね。ごちそうさま!」
「あっはっは。まあ、さあ、この世の中、共感というか、
コミュニケーションというか、それが大切だし、快感だしね。
まあ、さあ、近頃の男は、消極的というか、ちょっと幼稚なのが
多いんだよきっと。同年代だと、精神年齢は男が断然に下だしね。
まあね、この東京には、美結にふさわしい立派な男がいっぱいいる
はずさ。おれも、美結のためには、なんでもしてあげるから」
「ありがとう、お兄ちゃん。わたしって、背も高いでしょう。それで、
損をしているところもあるんだと思うの」
「美結の背の高さは全然高くないさ。モデルや女優の
仕事やるのには最適だしね。でも美結の身になって考えれば、
平均身長とかは、女性が159センチ、男が171センチくらいで、
どちらも、171の美結より低いんだから、困るときも出てくる
のかなぁ。おれなんか、175で、ちょうどいいって思ってるけど。
でもさぁ、そんなこと、ちっちゃなことじゃん。身長が低くって、
悩んでいる子もいっぱいいるんから。美結は、プロポ-ションは
(体の均整)抜群なんだし。神さまからの贈り物って感じの女性
なんだからさ。いつもの明るくて陽気な美結でいればいいのさ」
「ありがとう。お兄ちゃんのお話で、わたし元気になれたわ!」
美結は、ちょっと目を潤ませたような、やさしい表情で
微笑んで、信也を見つめた。
信也も微笑んだ。そんな二人が、ひのきのローリビング
テーブル(座卓)で向かい合う姿には、兄と妹というよりは、
恋人同士のような、とても仲がよい親密さが漂っている。
「お兄ちゃん、きょうは午後から渋谷のクリエーションの事務所へ行ってくるわ。
わたしのファースト写真集の打ち合わせをするんだって。でも芸能界に入ったばかりで、
ちょっと早すぎないかしら?」
「早すぎるってことはないさ。善は急げ、よいことは機会を逃さず急いでせよって
いうじゃない。美結の写真集かぁ。きっと売れるぞ!もちろんおれも買うけどね」
「やだぁ。お兄ちゃんってば、恥ずかしいわ!わたしの写真を見られるなんて」
……竜太郎さんには、エロ過ぎる写真集だけは、絶対にダメだからといって
あるから、その点は、だいじょうぶ、安心していいだろう、。しかし、芸能活動を
始めたばかりで、もうファースト写真集とは!竜太郎さんもよっぽど、美結に
期待してるし、力を入れたいんだな……
「ははは。まあ、美結、がんばろう。竜太郎さんに任せておけば、
安心していいからね。おれも、きょうは一日、家で、歌作りをするんだ。
夢を追いかけて、楽しくやっていこうね、美結。人生って、一瞬一瞬の
積み重ねだから。いつも毎日というか、今という時が大切な気がするんだよ」
「うん。そうだね、お兄ちゃん」
信也と美結は、恋人同士のように、見つめ合って、微笑んだ。
≪つづく≫ --- 38章 おわり
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