僕と康太の恋愛事情
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僕と家出と心変わり その2
前書き
ふぅ……。ようやく書き終わった。
じゃ、さっそくその2をお届けします!
その後はお互い会話をすることもなく、淡々と歩を進めた。
「………ここ」
「へぇ~。結構立派なマンションだね」
「(コクリ)………仕送りが多いから」
康太の両親は共働きで、かなり名の通った企業の社員だ。僕の両親も海外の企業で働いているので、仕送りは割と多い。このマンションにまだ部屋が空いているのなら、両親に事情を説明して、ここで一人暮らしをするのも良さそうだ。
「康太。このマンション……えっと『柊木』に部屋空いてない?」
「………二階に一部屋空いてる」
「そうなんだ」
これは良い情報を入手できた。柊木は木造の二階建てマンションで、雰囲気も良く過ごしやすそうだ。この辺りの住宅街は治安も良いし、高校生の一人暮らしでも安心だろう。
「………明久。こっち」
康太は一、二歩先行して歩いて、自分の部屋へ僕を案内してくれる。気配りができるというか、親切というか。口数が少なくて、一見無愛想に思われがちだけど、康太は本当に優しい。
「あ。康太は一階なんだね」
「(コクリ)………上がって」
扉の鍵を開錠すると、扉のノブを掴んでホールドしてくれる康太。エスコートされているような気分になりながら、僕は玄関で靴を脱いだ。康太の後ろを付いて廊下を歩く。
「………ここがリビング-キッチン」
「すごっ……! 広っ!」
康太が案内してくれたリビングルームは12畳くらいの広さがあった。TV、ソファセット、テーブル。右側にシステムキッチン、左側にバスルームのプレートが下がっている。前方には康太の部屋へ繋がる扉が……といった感じ。
「………荷物はカーペットの上に置くと良い」
「ありがと。康太」
「………ずっと重そうにしてたから……」
素直にお礼を言われて照れてしまったのか、頬を赤らめて俯く康太。納涼ミス(?)浴衣コンテストの時にも思ったけど、康太のこういう仕草、僕は好きだなぁ……。
「………明久……恥ずかしい」
あまりにじっと見つめ過ぎてしまったらしく、康太にそう言われてしまった。もっと見つめて反応を楽しみたいのだけど、それは康太があまりに不憫だ。
「ご、ごめん」
「………別に良いけど」
ぴくっとその言葉に反応する僕。本当だろうか……? 即座に確認へ入る。
「(ごくり)い、良いんですか?」
「………やっぱり駄目」
だよね。この反応、変態だもんね。
今日の僕はちょっとおかしい気がする。ひょっとして疲れてるんだろうか。康太のことをこんなに意識してしまうなんて……。僕にソッチの気はないはずなのに……。
僕がずっと黙り込んでいたことを不審に思ったのか、康太が僕の肩をトントンと叩く。
「………明久」
「ん? どうしたの、康太?」
「………携帯電話鳴ってる」
pipipipipi! pipipipipi!
康太に指摘されてようやく気が付く。少し深く考え過ぎだった。あんなのすぐに答えが出るわけでもないのに……。
相手は――母さんか。音声着信を確認して、僕は携帯電話を耳へ当てた。
『もしもし? 明久? 貴方、玲と何かあったの?』
女性としては少し低い、落ち着いたトーン。年齢に迷彩がかかっているような、そんな印象。この声色は僕の母親のものだ。
「うん。あったよ、色々と」
母さんに隠し事は通用しないので、素直に白状しておく。母さんは職業柄、人と対面で話す機会が多い。僕の底の浅い嘘なんて一瞬で看破されてしまうだろう。
『何があったのか、教えて頂戴』
「分かったよ。全部話す」
僕は今日起こった口論の顛末を全て母さんに話した。僕が語っている間、母さんは一度も口を挟まず最後まで聞いてくれた。僕が全て話し終えると、母さんは一つ溜め息を溢し呟いた。
『抑止力があると思って玲を送ったのだけど……どうやら逆効果だったようね』
「姉さんのおかげで食生活は改善されたし、得意科目だって出来たけどね」
『そうね。まあ、玲の件は措いておくとして……。明久の意見は分かったわ』
ちゃんと姉さんと僕の意見二つを汲み取ってくれるようだ。この辺り、母さんは公平な目線で今回の出来事を見つめているのが伝わってくる。
『明久。柊木の二階に一室空いている、と言っていたわね』
「うん」
『速めに不動産会社とコンタクトを執りなさい』
「それって……」
『ええ。貴方の一人暮らしを認めてあげるわ。成績も少しは向上したようだし、頃合いね』
「やった♪」
思わずガッツポーズ。
夏休み前に一学期の成績を両親に送ったんだけど、やっぱり効果があったみたいだ。日本史と世界史の成績がCクラス中堅レベルまで上がっていたことを、評価してもらえたのだろう。
『手続きが一通り終わるまで、貴方は康太君の家の居候よ。努めて失礼のないように。今度、父さんとお礼に伺うわ。康太君に言付けておいて』
「うん。了解」
通話を終えて、携帯電話をズボンのポケットにしまう。僕が母さんと長電話をしている間、康太はキッチンを忙しなく駆け回っていた。料理が出来上がると、テーブルの上に二つの丼物を並べる。冷えたお茶やお箸が既に用意されていた。手際がいいなぁ。
「………今日は冷やし中華。早く食べよう」
「そうだね。温くなっちゃうと勿体ないし」
康太の対面に座って箸を取った。具材は千切りのキュウリ、薄焼き玉子、チャーシュー、もやし、トマト、紅生姜を少々。香りや彩りが良く、食欲が勢いを増す。すごく美味しそうだ。
いただきますを言うのももどかしく、せっせと箸を動かす。コシのある中華麺にあっさりとしたスープが良く絡む。美味い!
「康太。美味しいよ」
「………ありがとう」
自分の作った料理を褒められて、満更でもなさそうな顔をする康太。ズルズルと麺を啜る音が二つ、リビングルームに響く。
「………明久。電話の内容、どうだった?」
康太が『大丈夫だった?』と僕を見つめてくる。僕はお茶を一口含むと、康太を安心させるために落ち着いた口調で説明した。
「えっとね。実は―――」
後書き
僕と家出と心変わり。書き終えてみると結構なボリュームでした。
次はいよいよ明久と康太の同居生活ですね。どんな展開になるんだろ……?
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