Fate/EXTRA〜もう一人のアーサー王〜
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そこにあった出会い……そして
前書き
今回は主人公とサーヴァントとのご対面です。
うまくキャラを掴めているかどうかは微妙なところですが、自分としてはよく書けた方だと思います。
誰だこの人。いきなり声が聞こえてきたと思ったら突然現れたぞ。朦朧とする意識の中、騎士はブンッと剣を横に振り、そしてその矛先を俺に向ける。
「さっさと答えろ。お前はオレのマスターなのかそうじゃないのか」
いやいや、瀕死の相手にいきなり剣突きつけてマスターかどうか聞かれても……。それにマスターってなんだ?バーにいるアレか?
等と軽く冗談を混ぜて思考していた時、それがまるで伝わったかのようにチッと鎧越しから舌打ちする音が聞こえてきた。
「二度は言わんぞ。お前はオレのマスターか?」
「あ……う」
よく分からんがとにかくそこにいる騎士の呼びかけに答えようと声を出すが、さっき全力で声を出したせいでうまく声が出せない。仕方ないので、ここは頷く事で肯定を示す。
「大丈夫か、このマスターは……」
はぁ…と溜め息を吐きながら剣を俺から引く騎士。その時、俺に気を取られている騎士の懐に片腕を失ったドールが忍び寄ってきた。
「う……あっ!」
「ん、なんだ?」
俺は騎士にすぐ側に敵がいることを訴えようとするが、騎士はそれに気がついてない。そして、ドールは騎士に向かって攻撃を放つ。まずい…このままではあの騎士の人がやられる!
バキィィィン!!
ドールの繰り出された攻撃は騎士に通ることはなく、そのまま体ごと砕け散った。パラパラと破片が舞い散る中で人形がいたところには騎士の大剣が振られていた。
騎士は体を動かす事なく片腕だけで大剣を振り回し、忍び寄る人形を散らしたのだ。
「こんなもの、焦る必要もない。まさかマスターはオレがこの程度の攻撃で倒れるとでも?」
やや不機嫌な声色で騎士は言う。実力はあるがよっぽどプライドが高いらしい。今の言葉が良い証拠だ。間違っても全くもってそうです、ハイ…なんて事も言えないだろうし。
「……」
沈黙が流れる。どうしたらこの空気が変わる…。あぁ…何か案はないのか…。と言うか…意識が…朦朧として…。
少年の意識が落ちると、一人ポツンと残された騎士は溜め息を吐いた。この少年は脆い。動きも鈍いし、何より無茶をする。先ほどの戦闘を見ていた騎士の感想は正にそれだった。
もしかしたら、この聖杯戦争を生き残る事はできないかもしれない。騎士は彼を見てなんとなくそう思った。
「クソッ……」
吐き捨てるように言うと、倒れている少年を抱き起こし、背中に乗せる騎士。なぜ自分はこんな事をしなくてはならないのか?と自分に疑問を持つ。しかし、それが自分はこの男のサーヴァントだからと言うことで渋々納得させている。
出口へ向かう途中、騎士の顔の近くに投げ出された少年の左手の甲が赤く光りを放った。それは紋章のような形で深く刻まれ、これから何が起こる事を予兆しているような重みを感じさせる。
騎士はその光景を少々複雑な気持ちで見届けると、出口へと向かって行った。
目が覚めた時、俺は見知らぬベッドの上にいた。独特な薬品の匂いや周りに白いカーテンが敷かれ、結果からみるとここは保健室だと思われる。しかし、なぜ俺はここにいるのだろうか?気を失う前は確か大広間みたいな場所にいたのだが…。
「目が覚めたか?マスター」
声が聞こえたと思ったら、隣のベッドの端の方に女の子が座っていた。一つに纏めあげられた金髪の髪に、整った顔立ち。真っ赤なキャミソールや短パンを着た女の子がこちらをジーと見つめている。大胆な服装に目を丸くするが問題はそれではない。
「誰?」
「……ッ!?」
一瞬、女の子は衝撃を受けたような表情を浮かべるとすぐにその可愛らしい顔は怒りの表情へと変わっていった。
「貴様、オレを愚弄するか…。もしそうならマスターと言えど容赦はしないぞ!」
「ご、ごめん!そんなつもりは……!」
この時、俺の中である違和感が生まれた。この女の子の喋り方や態度、誰かに似ている。つい最近会ったような…。少しの間フリーズする俺だったが、脳内に浮かんだビジョンがこの女の子が一体誰なのかを教えてくれた。しかし、それは同時に驚愕の真実だった。
「え!?君女だったの!?」
そう。この女の子こそがあの鎧を着た騎士だったのだ。見た目からして気づかないが喋り方といい性格といい、全て一致する。その時だった。俺の言葉が、彼女の地雷を踏み抜いたらしい。女の子の機嫌は急降下し、俺を鋭い目で見てこう言った。
「おい…もし次にオレを女と呼んだら、ただでは済まんぞ」
背筋がゾッとした。彼女の目からは俺を殺意の対象として見ていた。迂闊にあのワードは使ってはいけないなと心に念を押す。
数秒、永遠とも思えるような気まずい時間が流れた。相手の方は黙ったままだし、明らかに機嫌悪そうだしで声をかけづらい。ああ、どうしよう…。誰か、誰か助けてくれ…この重苦しい空気を……誰か救ってくれ……。
切実な願いに反応したのか、それは突然現れた。カシャンとカーテンを開け、一人の女の子が入ってきた。
「あ、お目覚めになられたのですね!良かったぁ…!」
足元まである薄紫色の長髪の女の子がこちらを見ると、安心したような表情を浮かべる。制服の上に白衣を着ている様子からここの保健委員か何かだと思うが、一体これはどういう状況なんだ?
「お加減はどうですか?」
「良いんだけど……ここどこ?」
「「………」」
すると、鳩が豆鉄砲でも食らったかのような顔をする二人。少しの沈黙から最初に口を開いたのは保健委員の子だった。
「あのぉ……何も覚えていないんですか?」
「いや、覚えてないと言うより知らない…んだよね」
周りの信じられないという空気に押され、途中言葉が途切れそうになるが何とか言い切った。すると、保健委員の子は少し考える素振りを見せる。
「予選から本選に入る際に何らかのアクシデントが発生し、記憶が戻ってないのかもしれません。ならこの聖杯戦争の事を一から説明した方が良いですよね」
「いや、いい桜。マスターはオレから説明しておく」
「良いんですかセイバーさん」
「別に構わん。それにマスターとはゆっくり話したかったからなァ」
セイバーと呼ばれる女の子はそう言うとチラッと視線をこちらに向けた。その一瞬の視線が俺からしたら何か嫌な予感がしてならなかった。
「ではお願いします。あ、あとこれをどうぞ」
そう言って桜は俺に何かを手渡した。
「これは?」
「連絡事項等があったら伝える為の携帯端末機です。本選出場者全員に配布してる物で運営側からの指示がそれに伝わる仕組みになってます」
運営?指示?と頭の中で混乱しながら桜から端末機を受け取る。では、私はこれで失礼しますと言うと桜はカーテンを閉め出て行った。残された俺とセイバー。
「さて、マスター。早速本題からだ」
二人っきりになるなり、セイバーは早速口を開いた。まだ彼女に不機嫌な感じは残ってはいるがさっきほどではない。頑張ってみるか…!と意気込みながら俺は勢い良く返事をする。
「おう!」
セイバーから一通り話は聞かせてもらった。要点を押さえるとまずこうだ。今俺がいる世界はSE.RA.PH(セラフ)と呼ばれる仮想世界らしい。この仮想世界では聖杯戦争と呼ばれる魔術師同士の殺し合いをし、最後まで生き残った者にはなんでも願いが叶うと言われる聖杯の所有権が認められるとの事だ。
そして魔術師同士の戦いではサーヴァントと呼ばれる使い魔がおり、それを主に使い、殺し合いをする。そこで重要視されるのがサーヴァントのクラスだ。サーヴァントの中にもクラスがあるらしく、セイバー、アーチャー、ランサー、キャスター、ライダー、バーサーカー、アサシン、合計七つのクラスに別けられている。
特にセイバーはどのクラスのサーヴァントよりも優秀らしく、戦闘面ではこちらの方が有利らしい。
それと令呪と呼ばれる物の話だ。マスターは契約の証として手の甲に令呪と呼ばれる痣が刻まれるらしい。令呪は二回まで使う事ができ、それはマスターがサーヴァントに命じる時に発動することができるそうだ。命令していく度に令呪は一つずつ消えていき、その代わりに自分の意思とは関係なくサーヴァントはその命令を必ず従うという仕組みになっている。
「どうだ、これで大体の事は理解したか?」
腕を組み、足を組み、セイバーはふてくされた様子で話し終えると俺に確認を求めてくる。大体の事は理解したが、セイバーのあからさまな態度にやり辛く感じるのは俺だけなのか。
「理解したけど、一つ訊いて良いか?」
「なんだ?」
俺は素直に訊いて良いのかと一瞬思ったが、訊かずにはいられなかった。人間の好奇心とは恐ろしいものだ。
「セイバーの真名を教えてくれ」
真名とはサーヴァントの本当の名前だ。サーヴァントの名前でどの物語に登場する英霊かを確認することで今後どのような戦術を立てていくかを考える事ができる。しかしセイバーは、
「断る」
「はやっ!?」
セイバーは息を吸うが如く俺の質問を拒否した。質問した側として少しショックだったがあっちにも色々訳があるはずだ。例えば、ここですぐに真名をバラすと相手に捕まった時、情報を引き出されかねないかもしれないからとか。
「簡単な話、マスターは阿呆だからな。うっかり口を滑らせそうで危ない」
さすがにこれにはカチンときたがここは我慢した。あまりここで言い争っても今後に響くだけだ。今はどう生き残るか模索しなくちゃいけない。
「分かった。真名は訊かないよ」
では、オレからの質問だとセイバーが口を開いた。
「お前、なぜ聖杯戦争に参加した」
「……」
言って大丈夫なのか?元々聖杯戦争に参加するつもりはなかった、何かの手違いでここに来たのだと…。信じるのか?アイツは…。俺が黙っているのを見て、何かを察したのか、セイバーははぁ…と重い溜め息を吐いた。
「答えたくないなら良い」
セイバーはそう言うとベッドから立ち上がり、カーテンをカシャンと勢いよく開けた。そして、視線を俺の方に向けると呆れたような表情でこう言った。
「早く来い、もう体の方は大丈夫なはずだろ?」
「…おう」
そう言うと、セイバーは歩を進め始めた。なぜサーヴァントに引っ張られるのかは疑問だが今はアイツに着いて行くしかない。俺はベッドから下りると、急いで靴を履きセイバーの元へと向かった。
保健室を出た先には廊下が横にずっと続いていた。この学校の構造は予選とは変わらないようだ。廊下には色々な人が立っていたり歩いたりと賑わいを見せ、前俺が予選にいた時とは大違いだった。すると、前に立っていたセイバーが俺の方へと振り返る。
「オレはここで霊体化する。マスターは言峰神父と接触して、オレ達の部屋を確認してくれ」
「セイバーは?」
「安心しろ。オレはマスターの側についている」
そう言うと、セイバーはスッとその場から消えた。いや、消えたと言うよりは見えなくなったと言えば正しいだろう。確かにそこにセイバーの気配を感じる。
しかし、言峰神父と呼ばれる人物は誰なのだろうか。セイバーにちゃんと訊いとけば良かったな。
「まぁ、手当たり次第訊いてけば良いか…」
とりあえずそこに立っている人に訊いてみる事にした。
「え?言峰神父?ああ、あの人なら一階の階段近くにいるよ」
ありがとう、と俺は礼を言うと階段近くに行ってみる。案の定、そこには周りとは明らかに異質な服装をする男がいた。異質なのは服装だけではなく、その人からでるオーラだ。まるで隙あらば取って食ってしまいそうな感じで佇んでいる。
俺はあの人に声をかけなくてはならないのか…。少し落ち込むが行かないことには始まらない。自分を叱咤し、何とか言峰神父に声をかける。
「あの、白羽 優って言うんですけど部屋は空いてますか?」
すると、言峰神父はジロッとこちらを見ると、怪しい笑みを浮かべた。その笑顔はどうも何かを企んでそうなもののように思えた。
「白羽 優……ほう、そうか。イレギュラーでこの聖杯戦争に参加したマスターか……ククッ、これは面白い」
何が面白いのかさっぱりだが……と俺は内心呟く。
「2ーBだ。この階段を上がったすぐ横にある」
なんとか教えてもらい、俺は神父に礼を言うと階段を登り、部屋に着く。ここまで来たは良いのだが、教室で暮らす事には不安を感じていた。なんせ、風呂やベッド、生活に至るまで全部が完備されている訳でもない。本当に大丈夫なのか…とそう思いながら教室に入る。
部屋を見た時、案外悪くなかった。風呂はちゃんと完備されてるし、ベッドもある程度の大きさのが一つあった。まぁ、不安は多少なりとも解消された。しかし新たな問題が浮上する。
この部屋を男と女が共用するには若干狭い気がした。無論俺は男なので女と共同生活するのは嬉しかったりするが、逆に相手の方はどうだ。嬉しい訳がない。よっぽど愛し合ってるなら喜ぶかもしれないが仲が悪かったらそれはもう最悪にしかならない。
俺とセイバーも例えるなら後者の方に近い。まだセイバーと自己紹介すら行っていないし、貶されるし、怒られるしでロクな事がない。今後の為にも早めに仲良くしておいた方が良いよな。
「セイバー」
「何か用か?」
俺が声をかけた瞬間、すぐにセイバーは現れた。ああ見えて、結構主人には忠実らしい。
「自己紹介してなかったからしようかなって思ってさ」
「そんなものしなくて良い。さっき言峰に名前を名乗っていただろ?それを聞いていたから名乗る必要はない」
セイバーはどうでもいいと言わんばかりの表情を見せると、机に収納されていた椅子を取り出し、座った。これじゃあいけない。セイバーとコミュニケーションをとれなくちゃお互いの信用も獲得できない。それは色々とまずい。
「いや、やっぱ自己紹介するよ。ほら、仲良くした方が良い事ってあるじゃん?だから「好きにしろ」」
言葉の途中でセイバーは遮った。その後は黙ったまま。うっとおしそうな表情をして腕を組み、目を閉じた。ここで引いたら負けだ。俺としてもこんな事は言いたくはないが、この女……めんどくさい。一刻も早く仲良くならなくちゃいけないが、とにかく俺の第一目標は。
ーーーセイバーを攻略する。
「初めまして、白羽 優です。よろしく!」
一方その頃、事態は密かに動き出していた。
一階の廊下にて。
ガキン、カン、カンと金属音が廊下内にて鳴り響いていた。その金属音は回を重ねるごとに音は増していき、やがては衝撃となって周りに影響を与えだす。壁を砕き、床を抉っていく。
サーヴァント同士の戦闘。武器をぶつけているだけでどれだけの被害を与えるかはこの状況を見れば分かる。辺りの床には小型のクレーターが空き、物事の悲惨さが伺える。
一旦距離を取る両者。そこには戦闘に対する純粋な喜びを表すセイバーとランサー。
「やるな、ランサー」
片手に剣を構え、セイバーは言う。
「お前もなセイバーよ」
対するランサーもふんと鼻を鳴らし、返事をする。
なぜこのような戦闘に陥ったのかを説明すると、歩いていたマスターが急に謎のサーヴァントによる奇襲を受けたのだ。側にいたサーヴァントも応戦。そして今に至るのだ。
そして、お互い笑みを浮かべると再び両者共にぶつかり合う。かに思えた。
「そこまでだ」
「「!?」」
その時、ランサーとセイバーがぶつかり合う直前、重みを含んだ言葉がその場の空気を変えた。二人は動きを止め、声を出したと思われる者を見た。そこには、言峰神父が目を細めサーヴァント達を見ていた。
「校舎内での戦闘は禁止されているハズだ。これ以上続けると言うならばペナルティを出しざる負えない」
「はっ、そんなルール等守る通りはなかろう!」
が、この言葉をランサーは聞かなかった。ランサーは再び槍を構えるとセイバーに襲いかかる。また繰り広げられる戦闘。
それを見た神父は、そうかと呟く。するとその言葉を皮切りに神父から妙な雰囲気が流れ出した。相手がルールを守らないとなれば実力行使を行うしかない。然るべき制裁だ。神父は両腕に力を込める。相手を確実に行動不能にする為に…。
その時だった。
「お困りですか?言峰神父」
神父の後ろから声が聞こえた。神父は後ろを向かず、フッと笑みを深めた。
「レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ…か。何の用かね。私は今から彼らに然るべき制裁を加えるところなのだが?」
レオで構いませんよ言峰神父、と言うレオ。続けて口を開く。
「いえ、特に用はありませんが、これは一体どういう騒ぎなのですか?」
「敵のサーヴァントがマスターを攻撃したのだ。側にいた被害者のサーヴァントが応戦し、この事態にまで発展したのだ」
なるほど、と呟きながらレオは少し考える素振りを見せる。言峰はある程度言い終えると戦闘の準備を行う。その時だ。
「僕が彼らを止めますよ」
「なに?」
つい振り返る神父。そこには余裕とも思えるような笑みを浮かべるレオとその後ろに立つサーヴァントがいた。神父はその英霊を見るなり、表情を変えた。笑みが零れる。まるで愉悦に浸っているかのようでもあった。
「確かにそのサーヴァントならこの事態を収めるのに訳はない。だが、代わりに君のサーヴァントはこの校内にいる全マスターに知られる事になる。それでも良いのか?」
「えぇ、大丈夫です。僕と彼女は負けません。ね、そうでしょう?」
レオは後ろに立つサーヴァントに笑いかける。
「アーサー」
後書き
今回は少し長めでしたが大丈夫でしたでしょうか?
次はいつも通りで行こうかと思ってます。
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