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雲は遠くて

作者:いっぺい
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11章 ミュージック・ファン・クラブ (5)

11章 ミュージック・ファン・クラブ (5) 

「あ、それなら、こういうことなんです。
美樹ちゃんには、もともと、好きな彼氏がいました。
若手ピアニストとして、世間でも注目されている、
松下陽斗(まつしたはると)さんなんですけどね。
いまはその人と、うまく、いっているんです。
詩織ちゃんは、つい最近ですが、
川口さんと、うまく、いっているところなんです。
そこのところが、うまい具合に、
三角関係にもならずに、ぎりぎりでセーフ(安全)だったんです。
というわけで、美樹ちゃんと詩織ちゃんは、
川口信也(かわぐちしんや)をめぐって、
トラブルにはならなかったわけです。
人生って、運命のいたずらで、紙一重(かみひとえ)の差で、
うまくいったり、うまくいかなかったりで、おもしろかったり、
(おそ)ろしかったりですよね。
まあ、彼女たち、運命の女神にも見守られて、
いまは、とても仲がいいって、ところでしょうか。きっと」

岡昇(おかのぼる)は、そういって、
美樹ちゃんたちのことなら、おれに、まかしといてといいたげに、
得意げに、にほほえんだ。

岡の話し方が、(たく)みというか、おもしろいので、みんなはわらった。

「さあ、みなさん、そろそろ、4時です。
前期定例ライブとサザン祭りの、
練習を、楽しみましょう!」

腕時計を見て、立ち上がった、MFCの幹事長の
矢野拓海(やのたくみ)が、みんなにそういった。

「はーい」と、女子部員たちの、かわいい声があがった。
「よっしゃ」とか、男子部員の、ふとい声もあがった。

ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の部員、全員ではないが、
男子28人、女子30人、あわせて58人は、
愛用のギターなどの楽器を、それぞれに持って、
この西棟(にしとう)の、B1F(地下1階)へむかった。

B1Fには、音楽公演用練習室、音楽用練習室、
いくつもの音楽用練習ブース、ピアノが10台、
それに、ドラムもあった。シャワー室も完備してある。

「岡くん、さっき、わたしたちのこと、
話していたでしょ。森隼人(もりはやと)くんたちと!」

B1F(地下1階)へむかう途中(とちゅう)
そういって、岡昇に、清原美樹(きよはらみき)と、
大沢詩織(おおさわしおり)のふたりが、話しかけてきた。

「ああ、さっきね。(かん)がいいな。おふたりさん」

一瞬(いっしゅん)、ドキっとして、岡は、ふたりを見て、わらった。

「美樹ちゃんと詩織ちゃんが、姉妹のように、
仲がいいから、みんなで,やきもち焼いていたんだ」

「うそよ、岡くん。わたしたちって、変わってるよな、
くらいのこと、いっていたんじゃないの」と美樹。

「そうよね。まあ、いいけど。美樹ちゃんと、
わたしが、仲がいいのは、音楽とか芸術とかアートとかを、
なによりも、愛して、大切に思っているからなのよね!」
と詩織。

「俗な世間的なのことは、すべて超越するようにして。
わたしたちは、芸術的に、生きたいのよ。それも健康的にね。
そうそう、その必然性として、わたしたち、仲がいいんだよね」
と美樹。

「なーんだ、そういう必然性だったならば、おれも、
美樹ちゃん、詩織ちゃんと、仲よくできるね!」と岡がいう。

「いいわよ、岡ちゃんなら、仲よくしてあげるわ」と美樹。

「いいわよ、岡くん」と詩織。

岡と美樹と詩織は、目を合わせて、愉快(ゆかい)そうに、ほほえんで、
3人は、(かた)い、握手をかわしあった。

≪つづく≫  
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