雪雨の中で
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第四章
第四章
「お昼だったわね。そういえば」
「伊藤さんはもう御飯食べたの?」
「まだよ」
憮然とした顔で言葉を返す優子だった。
「今そのこと思い出したのよ」
「お昼食べるの忘れる位怒るなんて」
そんな優子に対していささか呆れてしまった隆博だった。
「ちょっと怒り過ぎじゃないの?」
「ほっといてよ。とにかくお昼よね」
「これから食堂に行くんだけれど」
「わかったわ。行くわよ」
半分命令だった。
「いいわね」
「言われなくても行くけれど」
それはもう決めている隆博だった。元からそのつもりで今向かっているからだ。
「それはね」
「行くわよ」
こうして二人は食堂で話すのだった。二人は食堂の席で向かい合いながら話をしている。優子はラーメンに炒飯、隆博はたぬきそばに天丼という組み合わせである。
「ラーメンに炒飯なんだ」
「この組み合わせが最高でしょ」
「まあね」
この組み合わせについては反対しない隆博だった。
「いいと思うよ」
「あんたもいい組み合わせじゃない」
優子もまた隆博の食べている組み合わせを見て話すのだった。
「お蕎麦と丼って。王道じゃない」
「まあね」
自分の食べ物についても頷く隆博だった。頷きながらその蕎麦をすする。腰があり風味もしっかりとしている。中々美味い蕎麦である。
「いつもこうして御飯と何かを食べてるんだ」
「つまりおかずってわけね」
「うん」
また優子の言葉に頷く。
「そういうこと。このお蕎麦はおかずなんだ」
「私も同じよ。ラーメンはおかずよ」
それは優子も同じだった。
「何かね。それってね」
「それって?」
「あいつも同じなのよ」
ここで口を尖らせた優子だった。
「あいつもね」
「あいつ?ああ」
隆博は今の言葉からすぐにわかった。
「山口のことだね」
「あいつもね。絶対に御飯があったらおかず頼むのよね」
「麺類とかお魚とかだよね」
「コロッケが好きね」
それが好きだというのである。
「私は白身魚のフライが一番好きだけれど」
「中身は違うけれど外見は殆ど変わらないんじゃないの?それって」
「全然違うわよ」
またその八重歯を牙の様にして言う優子だった、
「コロッケとフライじゃ」
「じゃあコロッケ嫌いなの?」
「嫌いとは一言も言ってないわ」
それは否定するのだった。
「むしろ大好きよ」
「そうなの」
「水泳だって好きなのよ」
何故かここで水泳の話をするのだった。
「けれどね。冬に水泳ってある?」
「あるんじゃないかな」
「ないわよ。全くあいつはそれが全然わかってないのよ」
かりかりとした顔でラーメンのもやしを噛みながら言うのだった。
「全然ね。わかってないわ」
「わかってないって」
「そうよ。あいつのそういうところがわからないのよ」
「それじゃあ何か別のしたら?」
隆博はその優子に対して提案したのだった。
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