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雲は遠くて

作者:いっぺい
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8章 美樹の恋 (その7) 

陽斗(はると)は、美樹と手をつないで、歩きながら、話をつづける。

神道(しんとう)って、とてもスケールが大きいんだよね。

自然の中の生命の(いとな)自体(じたい)
そのものに、神が宿(やど)るっていうのが、
神道の考え方で、思想なんだって。

なんでも、取りこんでしまえるので、仏教やキリスト教の
神さまだって、(おそ)(おお)い、
外国の神さまってことで、受け入れちゃうからね。

神道には、具体的な中身とういうか、教義がないから、
ほかの宗教と、(あらそ)うなんてことも起きないんだよね。

宗教戦争で、人類は滅びるかもしれないんだから、
神道の思想って、人類を救済できるかもしれない、
いつまでも、奇跡的で、革新的な、思想のような気がするよ・・・」

「なるほど、そうよね。(はる)ちゃん、すごい、勉強家だわ」

「神道には、八百万(やおろず)の神とかいって、
すげえ(かず)の神さまがいることは、
美樹ちゃんも知ってるよね。

八百万の神って、『(せん)千尋(ちひろ)の神隠し』
に出てくる神さまと同じだよね。

あれって、千尋(ちひろ)たち家族が、神たちの世界に、
迷い込んったっていうストーリーかなあ。

(せん)と仲良くなる、少年のハクなんて、川の神さまだったもんね」

「カオナシも、神さまだったのかな?」

「カオナシって、(おろ)かな人間の欲望の化身(けしん)
って気がするけど」

「そうね、すぐに、(きん)とか出して
いやらしいとこなんか、人間とそっくりだわ」

美樹がそういって、ふたりは声を出してわらった。

「神社って、鳥居(とりい)とか、しめ(なわ)とか、
玉垣(たまがき)とかいわれる石垣(いしがき)とかって、
なんのためにあるのかって、美樹ちゃん知っているかな。

神社は、鳥居(とりい)や、しめ縄とかの、
聖なる領域と俗なる領域をわける、結界(けっかい)で、
守られているんだってさ。

神さまは、世俗の(けが)れから、隔絶(かくぜつ)して、
いつまでも、清浄(せいじょう)な状態に
(たも)っておくことが大切なんだろうね。

そんな神さまたちは、人間の対極にあって、
どこまでも、清浄(せいじょう)な存在だからね。

清浄が、大切とされるのが、神道(しんとう)なんだよね。
おれって、単純に、清浄を重視するという考え方が、
共感するし、大好きだよね」

「わたしも、(はる)ちゃんと同じに、共感するわ。
でも、そんな神聖な、清浄な境内(けいだい)で、
さっきみたいなキスなんてして、いいのかしら」

「あ、それって、だいじょうぶだよ」

陽斗(はると)は、そういって、美樹と目を合わせてわらった。

神道(しんとう)では、新しい命を生み出す、
男女の交合(こうごう)は、自然なことだし、すべての根源として、
はっきりと肯定(こうてい)しているんだよ。

交合なんていうと、堅苦しいけど、
セックスやキスとかの男女の営みは、大昔から、
五穀豊穣(ごこくほうじょう)や、進歩や発展を生み出す、
清浄な行為(こうい)で、 すばらしいものと、
ほめたたえているんだから。

仏教の真言密教(しんごんみっきょう)の教えの、
理趣教(りしゅきょう)というのが、
神道の考え方に、とても似ていて、おもしろいんだ。

そもそも、人間というものは、生まれつき、
(よご)れた存在ではないとして、
理趣経は、人間の営みは、
本来は、清浄なものであるといっているんだ。

理趣経では、セックスや性欲は、清浄であるとか、
男女のセックスのよろこびは、清浄であるとか、
自分も他人も、大自然も、
一体化して、本来はひとつであるとか、いってるんだ。

神道と理趣経って、セックスについて、
まったく同じ感じで、賛美しているよね」

「そうなんだ。わたしたちって、清浄なことを、
しているってことね。自然な行為だもんね。
じゃあ、もっと、いっぱいキスしてもいいのよね」

ふたりは、わらった。

≪つづく≫  
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