魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epos31-E砕け得ぬ闇の使徒~Friends~
前書き
更新が遅れて申し訳ないです。次話のネタ探しで書籍を漁っていたら、気が付けばこんな時間になってました。
†††Sideイリス†††
あのテスタメントが“闇の書”の残滓として蘇った。その報告を受けたPT事件に関わったわたしやなのは達はすぐに彼女の捜索に入った。他の残滓は、はやてとリインフォースの活躍――最後のマテリアル(王のマテリアルっていう名前で、はやてのそっくりさん)を撃破してくれたおかげで全基消滅したから度外視できる。あとは、何故か消えないテスタメントを・・・
(うわぁ、なんか嫌だなぁ、あの子を消すっていうの・・・)
捜索の最中、ずっと胸の内に渦巻く思い。テスタメントの最期を見て知っているからこそのやり辛さ。たぶんなのは達も同じ思いをしてるはず。戦いたくない、倒したくない、だけど戦って倒さないといけないっていうジレンマ。
「・・・っ、見つけた・・・!」
そんな中、わたしはついに見つけてしまった、テスタメントを。河川敷で、草むらを漆黒の十字架――“第四聖典”で薙ぎながら「無いなぁ~」途方に暮れてるあの子を。わたしはゴクリと息を呑む。まずはエイミィに「テスタメントを発見。ポイントは――」今わたし達の居る場所を報告する。あとは、なのは達が来るのを待つだけ。堤防の上からテスタメントの姿を見守ること数分。
「あー、やっぱりない。ねぇ、・・・もしかして、あなたたち管理局が先に手に入れたの? ジュエルシード」
「っ!!」
テスタメントがスッとわたしに振り返ってそう訊いてきた。テスタメントの意識年代はジュエルシードを回収してる最中みたいで、ああしてジュエルシードを探してるんだ。事件が終わった今も、そして・・・死んでしまった今も。そう思うと鼻の奥がツンっとなる。
「うん、ジュエルシードは回収し終えたよ」
「この私が察知できないほどの早さで回収するなんて。どんな裏ワザを使った?」
テスタメントが“第四聖典”を指だけを使ってクルクル回しながら歩み寄って来たから、「もう全部が終わったんだよ、テスタメント」って遠回しにジュエルシード争奪戦に決着がついたことを伝える。
「そう。じゃあ力づくで、ジュエルシードを奪わせてもらおうか。騎士イリス・・・!」
戦意を漲らせるテスタメントに、「まぁとりあえずちょっとだけ待って」って落ち着くように言う。するとテスタメントは「仲間を呼ぶつもり? それまでに奪う・・・!」自身の周囲に火球を6基と展開した。
「ちょっ、マジで待って。戦う気なんて一切ないから! ただ、あなたと話がしたいだけ!」
「話?・・・・なんの?」
「えっと、ほ、ほら。あなたって、なのは達に友達になろうって誘われてたじゃない?」
なのは達が来るまでの時間稼ぎとしての会話、そのネタを必死に探って思いついたのがソレ。友達っていうキーワード。なのはもアリサもすずかも、テスタメントと友達になりたいっていう話をしていたのを思い出した。
「なんで疑問系? ま、まぁ・・・フェイト・テスタロッサと一緒になろうって誘われたけど、私は断ったはず。だから話をするつもりは端からない。というわけで、さぁジュエルシードを賭けていざ勝負」
「ちょ、ちょちょちょ! 待って、待って、待って!」
あれ、テスタメントってこんなにバトル好きだったっけ?
「「シャルちゃん!」」「「シャル!」」
どうやってやり過ごそうかと思案していたところで、待ちに待った声が聞こえてきた。空を見上げると、なのはとフェイト、アリサを抱っこしたすずか、そしてアルフがこっちに向かって降下して来ていた。
「高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずか・・・、それにフェイト・テスタロッサとアルフ!? どこにも居ないと思ったら、どうして管理局組に・・・!?」
テスタメントが驚きの声を上げる。どうやらフェイトやアルフと同盟を組み終えた時点の意識みたいだ。テスタメントが「まさかこんなに早く裏切りに遭うなんて予想外だよ」って警戒心を露わにして身構えた。
「「テスタメントちゃん・・・!」」
「「テスタメント・・・!」」
なのは達が河川敷に降り立って、涙声でテスタメントの名前を呼びながら彼女の側に群がった。なのは達の泣き顔に歪む表情に「え、なに、なに?」って困惑するテスタメント。さらに「おーい!」クロノに背負ってもらってるアリシアも合流。
「アリシア・テスタロッサ!? 何故あなたが生きて・・・!?」
いよいよ混乱の極みに達したって風なテスタメント。そんなテスタメントの手を握るなのはが「テスタメントちゃんに、大事なお話があるの」って話を切り出した。わたし達はテスタメントに、今がどういう状況なのかを伝える。まずは “闇の書”っていうロストロギアを巡る“闇の書”事件についてから話した。
「闇の書事件、ね~。ジュエルシード争奪戦の最中にそんなことが・・・。だからってフェイト・テスタロッサとアルフがそっちに協力するのはおかしくない?」
テスタメントがフェイトとアルフをジロっと横目で睨み付けた。そんな視線から顔を逸らす2人の代わりにわたしが「さっき言ったでしょ。ジュエルシード争奪戦はもう終わったって」ってそう伝える。
「あー、そうだったっけ。で? この私の魔力探査能力を以ってしても気付かないようにジュエルシードを回収した術、後学の為に教えてもらってもいい?」
「テスタメントちゃん。テスタメントちゃんも実際に経験したんだよ。事件の顛末を」
「ええ。ジュエルシードの回収を、あんたは最後まで果たした」
「テスタメントちゃんが回収したのは全部で24個。私たちが7個。計31個、だよ」
なのは、アリサ、すずか、とテスタメントに伝えてく。そこまで聴いたテスタメントは思うところがあるのか少し沈黙して、そして「・・・確か、ジュエルシードを巡って来た季節は、春、だったよね・・・」ここ河川敷に吹いた冷たい風に靡く後ろ髪を押さえながらそう言った後、何かに納得したのか頷いた。
「今、何月?」
「・・・・12月31日。あと数時間で年が明ける」
クロノがそう答えたら、「半年も経過している、か・・・」テスタメントはふむふむとまた思案を始めた後、「私が何者か、あなた達は知ってるよね・・・?」問いというより確認をしてきた。自力で自分の正体に違和感を覚えたテスタメント。やっぱりこの子はすごい。魔導師としての腕もそうだけど、頭の回転も速い。
「・・・それは、いま起きている事件に関係しているの・・・」
なのはがそう話を切り出すけど、そこまで言ったまま黙る。アリサもすずかもフェイトもアルフも、わたしやクロノも言い難そうにしている中、「ごめん。わたしの所為で、テスタメントは死んだんだよ」アリシアはいきなり核心を話した。
「私が、死んでいる・・・?」
目を点にして訊き返したテスタメントに、「うん。実は――」アリシアが語り出す。ジュエルシード争奪戦の結末を。31個のジュエルシードを回収し終えた事で舞台は海鳴の街からフェイト達を操っていた黒幕、プレシアの居城――時の庭園へ変わったこと。そして、そこでお互いのジュエルシードを賭けてフェイトとアルフを裏切ったテスタメントと、わたしたち管理局組+フェイトとアルフの決戦が起こったこと。
「――私がフェイトとアルフを敵に回した・・・」
「テスタメント、君は言った。ジュエルシード同盟は、回収し終えるまでのもので、仲間になった憶えはない、って」
「それに、元よりフェイトからもジュエルシードを奪う予定だったってね。ま、あたし達の協力プレーであんたを倒すことは出来たわけだけどさ」
フェイトとアルフがそう話すと、「どうやら事実らしいね。私の計画通りに事が進んだようだし」テスタメントは大きく溜息を吐いた後、「というか、私、負けたのかぁ・・・」自分の敗北にショックを受けてた。というか自分が死んだことよりも戦いで敗北したことの方にショックを受けるって。
「あー、まぁ、いいや。話の続き、お願い」
「・・・私たちとテスタメントの戦いの後、時の庭園が虚数空間に墜落し始めたことで起こった庭園崩壊。その際に、母さんとアリシアの入った生体ポッドが崩落に巻き込まれて虚数空間に落ちたの。私は母さんとアリシアを助け出すためにそれを追った・・・」
「その時に、わたしはママから命を貰った・・・と思う。ママの死んじゃった時とわたしの体が蘇生した時が一緒だったから」
プレシアの死とアリシアの蘇生。その因果関係は未だに不明だけど、確かにプレシアの命がアリシアに移ったと考えてもおかしくない。テスタメントは「プレシアの起こした奇跡、か」そう言いつつプレシアの頭をポンポンッと優しく叩いた。
「そしてテスタメントちゃんは、金の鎖を使ってフェイトちゃん達を助けたの」
「でも・・・私たちを助けたことで、テスタメントは逃げ遅れて崩落に巻き込まれたの」
「ごめんなさい。テスタメントが死んだ原因は、テスタロッサ家にあるんだ」
「ごめんなさい・・・」
フェイトとアリシアが頭を下げて涙声で謝った。テスタメントはその謝罪を無言で受け止めて、少しの沈黙。その間ずっとフェイトとアリシアは頭を下げっ放しだった。そんな中、「頼むよ。2人を許してあげてくれ・・・!」アルフが土下座する。
「・・・・私が崩落に巻き込まれた時、私、なにか言ってた?」
「うん。・・・テスタメントちゃんの死を背負わなくてもいい」
「こうなったのはあたし達の所為じゃないし、誰の所為でもない、って」
「だから苦しまないでいい、って・・・言ってたよ」
なのは、アリサ、すずかが涙を袖で拭いながら答える。するとテスタメントは「そっか。私は、私の死を受け入れて死んだんだ。じゃあ、大丈夫。頭を上げて、2人とも」フェイトとアリシアの肩に手を置いて頭を上げさせる。ボロボロと涙を流す2人の頬に流れる涙を、テスタメントが人差し指で拭い取った。
「その時に君から、君がジュエルシードを集めていた理由を聴いた。君は何らかの罪を犯したことで体に異変が起き、それをどうにかするために膨大な魔力が必要になり、そして・・・ジュエルシードを求めた」
「そこまで喋ったのか、オリジナルの私は。・・・ええ、その通り。でもま、本物はもう死んだんだから、気にすることはないっか」
「テスタメント。こんな時に申し訳ないが、聞かせてほしい。テスタメントという組織は実在するのかどうかを」
「・・・・テスタメント。0thから10thまでの11人が居て、それぞれ個別の色を持ち、十字架を武装している。私は4th、色は黒、十字架はケルト。依頼を受け、それを遂行する集団。メンバーは代替わりがあるから、私の4thの席は今頃別の誰かが座ってるかもね」
「メンバーの居場所は? これまでどんな依頼を、罪を犯してきた・・・?」
「さあ? 管理・管理外世界関係なく渡っているから、メンバーの居所は知らない。依頼は色々だよ。奪ったり壊したり殺したり、授けたり作ったり助けたり、なんでも・・・。ちなみにこれまでの、そしてこれからのメンバー全員に戸籍などは無いから、家族も何も無いから、私たちの正体を知る術はない。それはメンバー内でも同じ」
クロノが「11人か、君のような実力者が他にも」そう言って考え込んだその時、「みんなー!」はやての声が空から聞こえてきた。リインフォースにお姫様抱っこされたはやて、ルシル、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、八神家勢揃いがようやく合流。はやて達と目で労い合っていると、「彼女たちが、件の闇の書の・・・?」テスタメントにそう訊かれた私たちは頷き返した。
「あの、さっきは助けてくれたありがとう。夜天の魔導書の最後の主、八神はやてです」
はやての自己紹介を皮切りにルシル達も名乗ってく。最後に「テスタメントよ。よろしく」テスタメントが微笑んだ。
「テスタメント。ジュエルシード争奪戦が終わって半年後の現在。闇の書事件は八神家。そして、なのはたち民間協力者やわたしたち管理局の協力で終わりを迎えた」
「ジュエルシード争奪戦も闇の書事件も終わった。じゃあ、私は一体なに? アリシア・テスタロッサは、いま起きている事件に関係しているって言っていたけど」
テスタメントの問いに答えるのは、リインフォースから降ろしてもらって地面に座るはやて。はやては「ごめんやけど、わたしは足が良うなくてな。座らせてもらうな」一言断りを入れると、テスタメントは「どうぞ」って頷いて、視線を合せて話しやすくためかはやての前に座った。
「おおきに。・・・いま起きてる事件。それはわたしが説明するな。数日前、夜天の書を狂わせてた闇の書の闇――ナハトヴァールと防衛プログラムを、わたしらは協力して砕いた。それで終わりになるはずやった。そやけど、まだ終わってへんかった。闇が復活しようとしてるんよ」
「復活、か。それが今、この街で起きている事件に絡んでくる・・・?」
「そうや。闇の書が蒐集したリンカーコアの持ち主やその人の記憶を思念体としてこの海鳴の街に再現して解き放った。わたしらはそれを討伐して、復活を阻止してた。そんでついさっき、テスタメントちゃんがトドメを刺してくれたわたしのそっくりさんが消えたことで、闇の復活に必要な思念体――残滓が全部消えた。・・・テスタメントちゃん以外が、や」
「なるほど。つまり私は、闇の書に蒐集されたあなた達の誰かの思い出から再現された残滓――偽者と言うわけか。ようやく合点がいったよ」
目を伏せたテスタメントは「じゃあ、私も消えないとね」そう言って立ち上がって、私たちに背を向けた。みんなが、わたしもあの子の名前「テスタメント!」「テスタメントちゃん!」呼ぶ。
「さっきから頭の中で語りかけてくる。闇の書を復活させろ、と。あー、最悪だぁ。自分の意思が塗り潰されていく。確かにこんなゲスな闇を復活させるのはまずい・・・!」
“第四聖典”を首にあてがったテスタメント。自害する気だってすぐに判ったけど、わたし達の手で倒すような真似は正直避けたい。だから・・・止めない。クロノも同じなようで、黙ってテスタメントの後ろ姿を見守っている。そんな中、「ダメ!」なのは達がテスタメントを押さえに掛かった。
†††Sideイリス⇒ルシリオン†††
エイミィからテスタメントと名乗っていた頃の俺が残滓として出現したと聞いて、俺は焦った。テスタメント時の俺の防護服は“界律の守護神テスタメント”の聖衣のレプリカだからだ。問題は、その格好の俺をはやてに見られているということだ。
ジュエルシードの2つ目を回収する際、はやてが同行を願い出てきたあの日。セレネ・スクライアとエオス・スクライアと初邂逅して戦ったあの日だ。もし聖衣を纏ったテスタメントがはやてと出会えば、その時点で俺がテスタメントだとバレる。だがそれは杞憂だった。やはり俺、と言うべきか。それとも偶然か。テスタメントは聖衣ではなくブラウスにスカートというラフな格好だった。
『最初、私が死んだと聞いたとき僅かに焦ったが・・・本物のルシルを見て安堵したぞ』
『当たり前だ。エグリゴリ全機を救うまで、俺が死ぬわけがないだろう』
なのは達から事情を聴いているテスタメントと念話で話し合う。
『ふっ。違いない。・・・驚いたと言えば、アリシアやリインフォースが生きていることだ。彼女たちから話を聴けば、どれもこれも奇跡と言ってもおかしくない事象。未来の、本物の私よ。何か知っているか?』
『いいや。俺も先の次元世界とは違う歴史に驚いているところだ。ただ、悪くはない変化だろ?』
『そうだな。あ、そうだ。グランフェリアはどうした?』
『もちろん・・・救ったよ』
『それが聴けただけで十分だ』
安心したと声色で判る。そうして俺の過去、テスタメントは“闇の書”の闇からの侵食という理由で自害の道を選んだ。シャルやクロノ、シグナムたち騎士はテスタメントの自害を尊重するようだ。テスタメントと知己であるシャルとクロノは、その手で倒したくないという願望から。シグナム達は、そう深い関係ではないから手を出せないと思っているのだろう。
「ダメだよ、こんなの・・・!」
「あんた、自害とか何を考えてるわけ!?」
「やめて、テスタメントちゃん!」
そこで止めるのが、テスタメントと友達になりたいと言っていたなのは達だ。3人は“第四聖典”を持つ右手にがっしりしがみ付いて、テスタメントの自害を阻止しようと躍起になっている。
「私が闇に呑まれて自我を失くした時、あなた達・・・私を殺せる?」
「「「っ!!」」」
「本物の私の事故死にすらそこまで悲しんでくれている、優しいあなた達。そんなあなた達が、友人を守るために、この街を守るために、この私、4th・テスタメントを倒せるわけ!?」
倒せるわけがない。今のなのは達はまだ幼く、優しすぎる。テスタメントの話を聴いて無意識か力を緩めたその一瞬の隙に、「だから、これが一番の方法なんだ!」テスタメントはなのは達の腕を力づく手振り解き、尚且つ3人を大きく弾き飛ばした。
「テスタメントちゃん・・・!」
「そんな悲しい顔をしないで、八神はやて。あなたもまた気にすることはないよ。私があなた達を脅かす害悪にはなりたくな――っ!?」
テスタメントの様子が変わる。背中から発せられるのは禍々しい魔力。左手で頭を押さえ、“第四聖典”を杖にふら付く体を支えている。そんなテスタメントの様子になのは達が「テスタメントちゃん・・・?」「テスタメント・・・?」奴の名前を呼ぶ。その呼びかけに応じるように振り返ったテスタメントの目は、殺意とそれを抑え込もうという意思に揺らいでいた。
「・・・っ、あーもう・・・! 早くしないから、私の・・意識が・・・薄らいで・・・」
――煉弾――
テスタメントの周囲に展開される火炎球20基。真っ先に動くのはリインフォースを始めとした騎士たちで、はやてを庇うように陣取る。そんな中で狼狽えるのはなのは達。テスタメントは必死に自意識を保とうとしているが、「お願い・・・、あなた達を傷つける前に、私を・・・討って」とうとう自害できないところまで追いつめられたのか、自分を倒すよう願い出た。
「テスタメントちゃん!」
「早く! 高町なのは!」
叫んだなのは、そしてフェイト達の元へと発射される火炎弾。偽者とは言えテスタメントは俺だ。その俺の攻撃をなのはたち友人に届かすわけにはいかない。
――護り給え、汝の万盾――
小さい円盾を複数重ね合せて創り出す対魔力に優れた障壁を展開して、火炎弾全発を防ぎきる。俺は「みんなは下がっていろ。俺が、倒す」そう言ってなのは達とテスタメントの間に立つ。
「ルシル君・・・!?」
「ルシル、あんた・・・!?」
“エヴェストルム”を起動して穂先を本格的に苦しみだしたテスタメントへと向ける。そしていざ戦闘開始というところで「待って」シャルが俺の肩に手を置いて止めてきた。振り返って「なんだ?」と訊く。
「わたしがテスタメントを倒す。ホントは自害で済めば傷つくことはないって思ったけど、戦う必要が生まれた以上、被疑者テスタメントを打ち倒すのはPT事件を担当した管理局員としての務め」
シャルが“キルシュブリューテ”のカートリッジをロード。俺を押しのけてテスタメントと対峙する。
「なのは、アリサ、すずか、フェイト、アリシア、アルフ。みんなは見ないでいいよ。テスタメントの死を、もう一度見るのは嫌でしょ?」
「シャルちゃん・・・でも・・・!」
「あんただって嫌なんでしょ!?」
すずかとアリサが反論する。なのはは声には出さずにふるふると首を横に振るだけ。フェイトとアリシアは顔を青褪めさせて沈黙。テスタメントの死にトラウマを抱いているなのは達だ。“闇の書”復活を阻止するためとは言え、もう二度とテスタメントの死を見たくはあるまい。それを踏まえて俺が、本人である俺が相手をしようとしていたのに。
「イリス。僕が相手にしても良いんだぞ?」
「ううん。わたしに戦わせてほしい。テスタメントが願った。止めてほしいって。なら、止めようじゃない。残滓とは言え、闇に呑み込まれそうとは言え、テスタメントは・・・友達だもん。向こうはそう思ってないだろうけど。だから、倒してほしいって願ったなら叶える。背負うよ。あの子の・・・死を!」
――閃駆――
シャルが先制。脂汗を流すテスタメントは「ありがとう・・・」シャルに礼を言い、横薙ぎに振るわれる“キルシュブリューテ”の一閃を受け入れようとした。が、ガクッと膝を折ってしゃがむ事でその一閃を躱した。いや、あれは躱したというよりは力が抜けて膝が折れた感じだな。それでも奴は懸命に足に力を入れて即座に立ち上り、“第四聖典”による打突を繰り出した。
――アクセルシューター――
「シャルちゃんだけには背負わせないよ・・・!」
シャルの顎に向かっていく“第四聖典”を撃ち落すのはなのはの射撃魔法。大きく右腕を弾かれたテスタメントはその勢いのまま反転して、炎を纏わせた“第四聖典”による薙ぎ払いを繰り出した。シャルは一足飛びで後退して回避。
テスタメントは追撃としてシャルに向かって跳躍。振り上げていた“第四聖典”を振り降ろそうとした時、「バーニングスラッシュッ!」アリサが燃え上がる“フレイムアイズ”で迎撃した。
「っく・・・、悪いわね、テスタメント・・・!」
「ふふ、それで、いいんだよ・・・!」
アリサとテスタメントが宙で勢いよく衝突、互いに後方へと同時に弾き飛ばされた。地面へ降り立つのはほぼ同時。すずかが「アイシクルアイヴィ!」氷の茨でテスタメントの全身を拘束した。そして、「バルディッシュ・・・!」フェイトがハーケンフォームにした“バルディッシュ”をテスタメントに向かって突き出した。
「はぁはぁはぁ・・・、早く、して・・・フェイト・テスタ・・・ロッサ・・・。もう、意識が・・・」
すずかのバインドが融解していく。テスタメントとしての俺は炎熱系を主とした魔導師として振る舞っていた。相性的にはテスタメントの方が有利だ。フェイトは震える“バルディッシュ”を振りかぶり・・・そのまま硬直する。やはりダメか。
「もう・・・ダメ・・・!」
ついにすずかのバインドを粉砕したテスタメントが、“第四聖典”に炎を纏わせフェイトに向かって振り降ろした。普段のフェイトなら“バルディッシュ”で受けるなり回避なり出来た。しかし感情の揺らぎが強過ぎた所為か行動に移るのが遅すぎた。避けきれない。
なのは達が、そして俺もフェイトを助けるべく動く。そんな俺たちの誰よりも早く動き、「っ!?」フェイトを助けたのは・・・「アリシア・・・!?」だった。アリシアは振り下ろされた“第四聖典”の軌道上に居るフェイトを突き飛ばした。その代わり自分が直撃を受ける軌道上に残ることになってしまった。
「ラウンドシールド!」「パンツァーシルト!」
アリシアと“第四聖典”との間になのはとシャルのシールドが張られ、テスタメントの一撃を完璧に防いだ。フェイトは突き飛ばされたことで体勢を崩していたが立て直し、すぐさまアリシアを抱きしめその場から離脱した。
「無理しないで、アリシア!」
「だ、だって・・・フェイトが危なかったから・・・」
フェイトとアリシアは一時離脱。その間にも暴走寸前のテスタメントとなのは達が戦いを繰り広げる。なのはのシューターを火炎弾で迎撃し、アリサの火炎斬撃を火炎打撃で相殺し、すずかのバインドを体に纏った炎で焼滅し、シャルの“キルシュブリューテ”と打ち合う。
しかしテスタメントが徐々に押され始めていく。“闇の書”の闇に意識を乗っ取られまいと踏ん張り、その中でPT事件よりさらに強くなったなのは達を複数相手しているんだ。押されるのは当然だろう。そしてついに・・・
「テスタメント・・・!」
――ハーケンセイバー――
復帰したフェイトの放った魔力刃がテスタメントの“第四聖典”を弾き飛ばし、次いでシャルの繰り出した右切り上げによる「光牙月閃刃!」魔力付加斬撃がテスタメントに直撃。テスタメントは吹っ飛ばされ川に突っ込んで沈んだ。
(姿がステアで、中身が俺だと思うと・・・、なんかボコボコにされていて物悲しくなってきた・・・)
川に沈んだテスタメントを見詰めている中、川が大爆発を起こし、川水が一瞬に蒸発した。水煙の奥、テスタメントから放たれて来るのは今まで以上にどす黒い、禍々しい狂気に満ちた魔力。これは「ナハトヴァール・アウグスタの・・・!」俺たちは一斉に身構える。
「自己の願望成就。その道程は他者の蹴落とし也。落とされし者等が築くは無残無念の敗衄の山。其の頂きに立つは望みを成し得た勝利の王。王は叶えし願いの頂で大いに笑う」
水煙の奥よりテスタメントの声――詠唱が聞こえてきた。これは任意の空間を爆破させる魔術、「火天之王・・・!」だ。俺はすぐさまこの場に居る全員の体をピッチリと包むように対魔法においては絶対の防御力を有する(その反面、魔力消費が大きいが)「パンツァーガイスト・ver.テレズマ」を発動して、至近の空間を爆破されても問題ないようにする。
まずい。このままではいつか俺の魔術すら使いかねない。それでは俺とテスタメントが同一人物だと気付かれてしまう。それだけは防がなければ。ならどうする。決まっている。この俺が直接、奴を倒せばいい。たったそれだけだ。
「火天之王!!」
人数分の爆発が起きる。真っ赤な炎と黒煙が視界を潰す。今なら誰の目にも留まらずテスタメントを討つことが出来るはずだ。黒煙が晴れる前に、魔力炉の稼働率を上げ、魔力に神秘を付加。威力が一段、二段と下がる魔法ではなく魔術を発動する。これなら魔法の存在であるテスタメントを一撃で倒せる。
両拳に魔力を付加し、テスタメントの魔力を感じ取った居場所へと突進。黒煙の中を突っ切り、テスタメントと対峙したんだが・・・「お前は・・・」奴の様を見て、両拳に纏わせていた魔力を霧散させる。
「・・・私が・・・偽者・・・とは言え、誰・・かの・・・意思に、乗っ取られるなど・・・ごめんだ・・・」
テスタメントは“第四聖典”で自分の腹を貫いて自傷していた。あそこまでダメージを負えば、これまで相手してきた残滓と同様に消滅するだろう。蹲っていたテスタメントが顔を上げ、「あとは・・任せる・・・。未来の・・・本物の私・・・」そう言って微笑んだ。
「「テスタメントちゃん・・・!?」」
「ちょっ、あんた、何やってんのよ!?」
黒煙が晴れ、テスタメントの様子を視認したことでなのはとすずかが顔を青くし、アリサは叱責。
「「テスタメント・・・!?」」
フェイトとアリシアもまた顔を青くして呆けていた。体から力が抜けたのかへたり込みそうになったのをアルフが抱き止めた。はやてはリインフォースの手で目を隠されていて見えていない。シグナム達は真っ直ぐテスタメントと側に居る俺を見詰めていた。シャルは悲しげにテスタメントを見、クロノはちょっと判らないな。
「はは・・・、やっぱり、自分で・・・決着を、つけるよ・・・」
テスタメントが薄ら笑う。“第四聖典”の消滅と同時、消滅の前兆であるノイズが全身に奔り出した。それを見たなのは達が「テスタメントちゃん!」「テスタメント!」奴の側へ駆け寄って行く。フェイトとアリシアもなのは達に続いて駆け寄る。
「テスタメントちゃん、ど、どうしよう・・・!」
「すずか、治癒魔法よ!」
「え、あ、うん!」
なのは達は少々混乱しているようだ。テスタメントは残滓だ。人間じゃない、ただの思念体。だがテスタメントへの思いが強すぎて頭からすっ飛んでいる。そのことを伝えるべく「なぁ」と歩み寄ろうとしたら、「馬鹿ね・・・」テスタメントが泣き崩れているなのは達に微笑んだ。
「・・・これで・・・いい・・・」
「・・・っ、テスタメント! お礼をずっと言いたかったんだ! 私を、アリシアを、母さんを、虚数空間から助け出してくれてありがとう!」
「わ、わたしも、ありがとう! テスタメントが助けてくれたから、わたしは妹――フェイトと一緒に過ごすことが出来たんだよ・・・!」
フェイトが突然テスタメントに礼を言った。遅れてアリシア、そして「あたしからも礼を言わせてくれよ、テスタメント」アルフも、テスタメントに感謝をした。奴は「・・どういたし・・・まして。それじゃあ・・・約束してもらおっか。・・・私の分まで生きて・・・」そう言って両手の小指を立てる。フェイトとアリシアは「うんっ!」涙を拭うことなく指切りに応じた。
「テスタメント。あたし達、あんたと友達になりたいって最後まで思ってた」
「うん。今でもそう思ってる」
「私たちね、テスタメントちゃんと友達になりたいんだ」
アリサ、すずか、なのはがそう続けた後、彼女たちはシャルを見た。シャルは「わたしも友達になりたい。テスタメントとは色々あったけど、根は良い子だって思うから」とテスタメントに向かって歩み寄って行く。
「はぁはぁはぁ・・・ふぅ・・・。はは。なんで、だろうね。生への執着を失った途端に、素直に友達になりたいって思えるようになった。・・・こんな私にでも・・友達になってくれる子が居るって、嬉しい・・ね」
これまでに見せなかったテスタメントの満面の笑顔。あやすようになのは達の頭を撫でるテスタメントを見守っていると、「八神はやて、そしてその家族に、謝罪を」奴は俺たち八神家に頭を下げた。はやてや涙もろいシャマルは、出会って間もないというのにテスタメントの消滅を悲しんでくれている。
「このような形で出会い、別れることを・・・」
「ううん。・・・わたしも、テスタメントちゃんと友達になりたいんやけど、ええかな・・・?」
「もちろんだとも・・・。・・・過去の記憶の再現な私だけど・・・、それでも友達に看取られて逝く・・・。うん・・・悪くない・・・。じゃあね、フェイト、アルフ、アリシア、なのは、アリサ、すずか、騎士イリス、クロノ・・。あ、そうそう。・・・セレネとエオス、ユーノに、よろしく言っておいて。私――テスタメント・ステアは、心置きなく、満足して逝ったって」
ステア、と名乗りやがった偽者の俺。ギラッとテスタメントを睨むが、奴は悪びれる様子もなくウィンク。ちくしょう、男がそんな真似をするんじゃない。名前の通りステアらしい仕草をしやがって。
「「「ステア、ちゃん・・・?」」」「「ステア・・・?」」
「それがあんたの本当の名前なの・・・?」
テスタメントがニコッと笑うと、なのは達が「うん。必ず」と誓った。テスタメントは俺たちに向かって手を振り、そして笑顔で消滅していった。なのは達はそれぞれ涙を拭い、鼻を啜り、先ほどまでテスタメントが立っていた場所をいつまででも見詰めていた。
その後、ハラオウン邸・捜査本部に居るエイミィから、事件終結の宣言がなされた。
後書き
ブーナ・ディミニャーツァ。ブナ・ズィウア。ブーナ・セアラ。
というわけで、「THE BATTLE OF ACES」編はこれにて終了です。前々回のあとがきでお伝えした通り「THE GEARS OF DESTINY」編は、数話の間を空けてからスタートする予定です。
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