アラガミになった訳だが……どうしよう
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原作が始まった訳だが……どうしよう
33話
ある日、部屋で休んでいるとサカキから呼び出しをくらった。随分と久し振りのサカキからの任務だが、一体何の用だろう?
できれば楽な仕事である事を願いたいな。最近、カノンの訓練やらイザナミの絡みでかなり疲れているんだ。任務が減って休めると思っていたのだが、それ以外が割とシャレにならないレベルで疲れるのだ。
カノンは毎度毎度容赦のない戦術を新たに編み出して襲ってくる上に、機嫌取りの買い物やらで体力を削られる。その上で部屋に帰ったらイザナミに黒い腕で縛られて、骨から鈍い音が聞こえる程の抱擁が待っているのだ。
加えて、それが最近ほぼ毎日だ……いや、体の方は疲労が溜まってどうこうという事はないんだが、流石に精神的には割と疲れるんだよ。
俺はそんな風に心の中で愚痴を零しながら、サカキの部屋の前に入る。どうやら、ソーマも呼ばれていたらしく壁にもたれかかりながら、相変わらずの無愛想な態度で視線だけを俺に向ける。
「いや、急に呼び出してすまないね、マキナ君。どうしても君の力が必要でね」
「そんな前置きはいらん、仕事ならさっさと中身を伝えろ。こっちはこっちで疲れてるんだ、楽な仕事を頼むぞ?」
「安心してくれ、君の言う楽な仕事だよ。この場所まで私を連れて行ってくれないかな?」
そう言ってサカキは俺に一枚の紙を渡した。内容はとある廃寺の周辺で妙なアラガミの反応が見つかったという事を示すデータと、その反応が最も大きかった地点の場所を記したものだ。
確か……ああ、シオのいた場所がこの辺りだったな。成る程、話も半ばまで進んだという事か。
「それは結構だが、なんで俺まで行かなければならないんだ?ソーマだけでもいいんじゃないのか?」
原作であればソーマ一人を護衛に寺まで行った筈なんだがな……
「マキナ君には周囲のアラガミが来ないように警戒しておいて欲しいんだ。もしこの地域に大型、もしくは中型アラガミが侵入してしまうと、色々と面倒な事になるからね」
確かこの周辺のアラガミを狩り尽くして、シオが腹を空かせたのを見計らっていたんだったな。それで嫌いなシユウでも我慢する形で姿を現したんだが、そこにもしシユウ以外のアラガミがいたならばそっちに行ってしまうだろう。
誰だって嫌いな物よりも美味い物を食いたいと思うだろう。つまり、俺はそうならないように周囲のアラガミを寄せ付けるなってことか。
となるとソーマは小型アラガミからサカキを守る役目、要するに子守りのような仕事に近い訳だな。どちらも面倒だが、俺の場合は前者の方が俺向きだ。
「分かった、じゃあ俺は神機を取ってくるとしよう……」
「いやいや、今回はその必要はないよ。今回は記録には残らない任務だ、神機は使わなくていい」
「そりゃよかった」
好き放題出来るわけだ、それは実にいい事だな。
「なぁ、あんたもあの人と同じように戦うのか?」
今まで黙っていたソーマがそんな質問を俺に投げかけた。
「ん?同じようにってどういうことだ?」
「……握り潰したり、引き裂いたりだ」
……ああ、軽くトラウマになってんだな。そりゃ、ゴッドイーターとして教育されてきたとは言え、十にも満たない時にイザナミの戦いを見ていたというのならば、トラウマになるのは仕方ないか。
事実、俺もあいつの戦い方は少なからず引いてしまう事があるからな。あいつの戦いは相手をバラバラに切り刻むか、握り潰してミンチにするかのどちらかしかない。
俺も人の事は言えた物じゃないが、基本は急所やらを狙う分幾分マシか?確かに加減を間違えることはあるが、それ位は許して欲しい。
「うむ、あいつよりはマシな筈だ」
「……そうかい」
ソーマはそう言って少し安心したように息をついて、部屋を出て行った。
「私からすればイザナミ君も君もあまり差はないように思えるのだがね」
「喧しい」
「それにしても本当に狩り尽くしたんだな……アラガミが確かにこの辺りはいないな」
サカキ達と共に寺の入口で装甲車を降りて、周囲を見回してそんな感想を口にする。
「ああ、イザナミ君も協力してくれたからね」
……成る程ね、あいつがその気になればこうもなるか。あいつの殲滅能力は俺の比じゃないからな。
あいつならやろうと思えばあの黒い腕で、アナグラを一つ丸々潰すことも無理じゃないだろう。
「それでは私達は中に入るから、マキナ君はこの敷地内にアラガミが入り込まないように気をつけてくれたまえ」
「はいはい、たださっさと済ませてくれよ。俺は一体多数はそこまで得意じゃないんだ」
俺は久し振りに四肢を具足に変化させて、近くの背の高い木の上に跳んだ。
イザナミと違い、偏食場パルスを認識出来ない俺はこうして高所から周囲を見渡して、視認することでしか広い場所を守り切ることはできない。もっとも、そのお陰と言うべきか、視力に関してはイザナミを上回っている。
早速、二キロ程離れた場所で寺の壁をよじ登ろうとしているコンゴウを二体発見した。今回は狙撃なので肩を変化させた銃ではなく、腕の具足に着弾した時に体内で無数の針に変化して爆発する特殊弾を装填し、いつものブーストの要領で撃ち出す。
狙いを定めて……発射。
初弾は外れたが、コンゴウは警戒して周囲を見回しながらその場で止まった。これで命中精度は上がったし、初弾での弾道を元に軌道修正をすれば次は当たる。
再び狙いを定めて、コンゴウの眉間へ……発射。
今度は上手く当たったらしくコンゴウは上半身を失い、下半身だけが壁の下へ落ちていった。うーむ……これではイザナミの事も言えないな。
とはいえこれも仕事だ、下手に手加減して通す訳にはいかない。威力は先程の物で十分だったが、流石に二キロともなると中々風やら何やらで随分当てにくくなるな。
もう少し発射する時の爆発力を上げて、弾速を上げる事で多少強引に当てるとしよう。
幸い、徐々にだが風は止み始めている。これならば弾速を上げても問題ないだろう。風のある中で弾速を上げれば、ただ弾丸の逸れる距離が伸びるだけだからな。
それにしても狙撃はどうも俺には合わないな。
こう、チマチマと誤差を修正し、動きが止まるのを待ってから撃つというのは面倒だ。戦術として狙撃が有効だという事は知っているのだが、俺の性には合わない。
動く事がないので楽な仕事とは言えるのだが、ストレスが溜まるな。やはり俺は正面からの殴り合いが向いているのだろうな……この歳になってそれはどうかと思うのだが、性格上の問題なのだから仕方ない。
その後、コンゴウやヴァジュラを数体撃ち殺した頃、端末にサカキからの連絡が入った。
「マキナ君、こちらは終わったよ」
「分かった」
よし、終わった。さて、帰ったら……ああ、部屋にはイザナミがいるんだったな。
はぁ、せめて車の中では心安らかにいさせてくれ。
「おとーさん、元気かー?」
……いかん、目眩が。そういえばそうだった、シオはイザナミによってそんな事を教えられていたんだったな。
ん?でも、イザナミはシオの記憶は消したとか言っていたんだがな……あいつがミスしたのか?
うーむ、どちらにせよ面倒な事になっているのは確かか。
とにかく俺の心の平穏が破壊されていっているのは確かで、アナグラに戻ったら面倒極まりない事になるな。アリサ辺りが確実にいらん質問をしてくる、うん賭けてもいい。
ついでに俺がアラガミだってことも第一部隊にバレたが……もうどうでもいいか……はぁ。
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