雲は遠くて
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6章 信也のマンション (その3)
「しんちゃんの部屋って、広いんじゃない、
2DKなんでしょう。このダイニングじゃあ、
リビングにも使えて、リビングつきの、2LDKって感じもする」
と真央が、初めて見る信也の部屋に、目を輝かせて、いう。
「そうだね、49平方メートルはあるから、無理すれば、
2LDKにもできるのかな。50平方メートルくらいから、
2LDKってあるらしいから」と信也は、なぜか照れるように、
頭を指でかきながら、真央に答える。
美樹は、そんな信也のシャイなしぐさが好きでもあった。
「しんちゃん、ひとりでは広すぎるよ。早く、誰かと住まないと・・・」
と美樹は、真面目な顔をして、
わざと年上の姉貴のような感じで、信也を見る。
「そのうち、ルームシェア、してもいいしね。
職はない、住まいはないっていう若者も、
東京に多いようだし」と、信也は真剣な表情で、
目下、そう考えている最中というふうにいう。
「やだぁ、しんちゃん、変な人と、ルームメイトなんて
しないようにね、って、
わたし、もう、そんな心配してる・・・」といって、
美樹は真央と目を合わせて、わらう。
「美樹は、すぐ、心配するんだから。シェアハウスって、
この下北にも、結構あるらしいし。
部屋が4畳半くらいから6畳くらいで、
家賃が3万から5万くらいらしいわ。
自分だけで、部屋借りる場合と比べれば、
ちょっと、貯金とかもできるかもよね。
不便かも知れないから、その人の考えかたよね」
と真央は、ひとりごとのように、長々と話した。
ふたつの6.5畳の洋間の、南向きの、
青緑がかったグレーのカーテンからは、
秋のおだやかな陽の光が差し込んでいる。
東側の6.5畳の洋間には、こたつテーブルや、
ノートパソコンが置いてあり、
ベッドがあり、40型のテレビもある。
西側の6.5畳の洋間には、
フェンダーのテレキャスターというエレキギターと、
ギブソンのアコースティック・ギターの2本が、
ギタースタンドに立てかけてあって、
小型のアンプとかもある。
「このバンド知ってる。ミッシェルよね。わたしも好き。
へえー、しんちゃんは、ミッシェルが好きなんだぁ」と、
真央が、壁に貼りつけてある、
ミッシェル・ガン・エレファント(THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)
のピンナップの写真を眺めた。
ギターの置いてある部屋には、ビートルズやザ・クラッシュや
ミッシェル・ガン・エレファントのピンナップが、張ってあった。
「そのピンナップは、おれが10歳のときに、買った、
ロック雑誌の付録だったんだ。
ミッシェルでギターやっていた、アベ・フトシが好きでさ。
いまでも、おれのギターの師匠さ。
10歳のガキだったおれは、ませたガキで、
アベさんのようなカッティングのできる
ギターリストになりたいと思ったものさ・・・」
ピンナップの写真の中で、1番左のソファに座る
アベ・フトシを、信也は、まぶしそうに、
いまも、憧れを込めて、見つめる。
「アベさん、かっこいいもんね。なのに、死んじゃって、かなしいわ」と美樹。
「うん、とても、かなしい」と真央。
「今夜は、美樹ちゃんも、真央ちゃんも、時間空いてるかな。
おれ、ふたりに、成人のお祝いをしてあげたいんだ。
美樹ちゃんは、この10月に、誕生日迎えたばかりだし、
真央ちゃんは12月だったよね、誕生日」
「うそ、しんちゃん、うれしいわ。時間なら、だいじょうぶよ」と美樹は、
歓んだ。
「しんちゃんって、すっごく、話のわかる兄貴って感じ。わたしもだいじょうぶよ。
今夜は楽しみましょう!」と真央は、信也の手を思わず、
握って、抱きついた。
美樹も信也に抱きついた。
「そうか、そうか、よし、今夜は、街のどこかの店に行って、
みんなで、楽しく、お祝いしよう。
この際だから、おれの就職祝いも、一緒ってことで。
おれの次の誕生日は、来年の2月だけど、
それも、一緒に、祝ってもいいや。
美女、ふたりと、楽しめるなんて、おれも、最高!」
そんな話で、盛りあがった、三人は、にぎやかに、わらった。
≪つづく≫
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