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ひまわり

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第一章


第一章

                    ひまわり
 ひまわりの下で。ルチアは思った。
 何時かきっとまた二人一緒になれる、そういう日が来るのだと。
 こう思いはじめたのには理由がある。全てはあの時からはじまった。
「あのひまわりの下で」
 ルチアは幼馴染みのフランコにそう声をかけられた。
「大きくなったら結婚しないか?」
「結婚?」
「ああ、ひまわりの下でな」
 ルチアに顔を向けて言う。この時二人はまだ少年と少女だった。まだ結婚するにはまだ早い、そうした歳だったが彼は言ってきたのだった。
「結婚しよう。いいか?」
「断ることは許さないのでしょ?」
 フランコに顔を向けて問う。彼の強引な性格を見ての言葉である。
「どうせ」
「ああ」
 そして彼もそれを認める。最初からそのつもりだった。
「その時になったらな。いいな」
「ええ、わかったわ」
 ルチアもその言葉に頷いた。二人は今夏の終わりのひまわり達を見ていた。ひまわりは何処までも高く黄金色の花を咲かせていた。それはまるで無数の太陽がそこにあるようだった。
「その時になったらね」
「約束だぞ」
 彼はまた言った。
「その時になったらな」
「待ってるわよ」
 ルチアはそう告げる。
「その時を」
「もうすぐだ」
 フランコはひまわり達を見て言うのだった。
「もうすぐ結婚出来る歳になるからな」
「そうね。けれど大丈夫なの?」
 彼女は今度はこう尋ねてきた。
「何がだ?」
「もうすぐ。戦争がはじまるかも知れないわよ」
 この時ドイツでも二人がいるイタリアでも所謂全体主義国家が政権を握っていた。ヒトラーもムッソリーニも野心に燃えていた。ムッソリーニはローマ帝国の復活を目指して軍備を整えていた。行進までかつてのローマ帝国風にして意気をあげていたのだ。意気をあげていたのは彼だけだという問題はあったが。
「それでもいいの?」
「その時はまず戦争に行く」
 フランコは一言だけ告げた。
「それからだ。いいな」
「ええ、わかったわ」
 ルチアはその言葉にこくりと頷いた。
「じゃあ待っているから」
「何があっても生きて帰って来る」
 彼は強い言葉で言うのだった。
「戦争になって兵隊に行ってもな」
「何があってもなのね」
「そうだ」
 彼はまた強い声で言う。
「何があっても俺はこのひまわりの下に帰って来る。御前はずっとここで待っていろ」
「このひまわりの下で」
 ルチアはその言葉を聞いてまたひまわりを見た。黄金色の太陽に負けない程の強い輝きを放ち続けている。それを見ていると彼の言葉を信じたくなった。
「いいな」
「ここで待っていればいいのね」
 またフランコに問うた。
「それで」
「それだけだ。俺もここに来る」
 やはり言葉には迷いも何もない。そこには確かな自信さえあった。
「その時に結婚だ」
「絶対よ」
 ルチアは念を押すように言ってきた。
「そうでなければ私だって待たないから」
「俺は嘘はつかない」
 フランコは決して嘘はつかない。彼はプライドの高い男だったからだ。だからこそ信じることができた。そう、ルチアは彼を信じていたのだ。
「だから」
「待ってるわよ」
 程なくして戦争がはじまりフランコは戦場に向かった。自分から志願してだ。
「志願したのね」
「ああ」
 またひまわりの前にいた。もうひまわりの季節は終わり種まで落ちていた。花も枯れて寂しい姿をそこに見せているだけだった。
「行くなら自分から行きたい」
「勇敢って言うべきかしら」
「いや」
 しかし彼はその言葉には首を横に振った。違うというのだ。
 
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