lineage もうひとつの物語
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冒険者
戦いの後
「綺麗・・・」
窓の外に降り続く雪は戦闘の痕跡を消しいつも通りの風景へと戻していく。
ケレニスの仕業であったのであろうデーモンの封印への抵抗は減り、アイスクイーンの協力が無くとも大丈夫だという報告はあがっていたが、この地に住む人々の生活を戻さないとならない。
他にも考えることは有り余るほど有り殆ど眠れなかった。
ナターシャは先程まで悩まされた現状を忘れるくらい目を奪われていた。
それは仮初めの平和にしか過ぎず直ぐに終わりを告げた。
コンコン
ノックの音に現実へと引き戻されたナターシャはドアへ向かって入るようにと声をかける。
「失礼します」
とキャスタが姿を表しメンバーが揃ったことを伝える。
「タラス様がお見えになりました。御支度をお願いします」
キャスタにタラスの来訪を聞いたナターシャはレジスタンスのリーダーが集まる場所に向け歩みを進める。
キャスタがナターシャを護るように歩み部屋の扉を開けるとリーダー達とタラスが立ち上がり挨拶を済ます。
挨拶もそこそこにナターシャは本題を切り出す。
「国の支援はどうなりました?」
象牙の塔の村は建物自体の被害はほとんどなかったものの未だに徘徊しているゾンビ兵達から村を守るため村壁の強化が必要なのである。
「この件に関しては一切支援無しという返答でした。アデンの担当行政官も上申してくれましたが。まぁ、動いていた人物がラウヘルの片腕でしたので当然と言えば当然でしょうな。」
初めから期待していなかったナターシャは頷くと続きを促した。
タラスがそれだけで済ませてるとは思えないのだ。
「しかし各地の商人から資金や資材の援助を受けることができました。詳細はこちらに」
と、タラスは紙を差し出しナターシャへ読むように促す。
そこには通常では考えられないような額のお金と、土木に詳しい訳ではないが素人目に見ても村を2周囲えるのではないかと思われるような資材の数が書かれていた。
これを見れば象牙の塔という場所が商人にとっても重要であるのがわかるだろう。
商店で販売している魔法のスクロールや便箋、杖等様々な魔法商品の殆どが象牙の塔で加工されたり造られたりしている。
現在その供給が止まっており一刻も早く納品してほしい商人達が援助を申し出たのだ。
「有難い申し出です。お礼を申し上げたいのですがまだ私が出る訳には参りません。代わってお礼をお願いします」
タラスの報告が終わり次は各地のリーダーからの報告が始まる。
グオルグからはシルバーナイトタウンの動向が報告された。
ブラックナイトの動きが活発になり何やら企んでいるようだということでゲラドを中心に調査中とのことだ。
続いてダンガスの報告が始まった。
「各地での伝説級モンスターの出現が報告されておりますがその全てに於いてケレニスの姿が報告されております。今回のフェニックスやイフリートの召喚からして間違いなくケレニスの仕業と思われます」
以前より独自に調査を続けていたダンガスの報告は驚きよりもやはりという思いの方が強かった。
「各地の被害状況はどうなっていますか?国の動きは?」
「オーレン以外大きな被害は出ておりませんが遭遇した冒険者の死傷者がでているようです。デスナイトに於いては殿下のほうがお詳しいでしょう。国としては何かするわけでもなく傍観しているのみです。兵士に接触し探ってみましたが当然の如く何も指示はでていないようでした。継続して兵を紛れ込ませ情報を集める次第です」
少しの沈黙の後ナターシャから言葉がでた。
「まだ確定的な情報はありませんが恐らく私達の動きを牽制する目的でしょう。街を襲わせるのに強力なモンスターほど効果的な存在はありませんから。今回のように街が襲われたら動かない訳には参りません」
そこに居る全員に向け決意を新たにナターシャは話を続ける。
「アデンに生きる人々の安全を確保するためモンスターを討伐し、その後にラウヘルを討ちます。例えモンスターを放置しアデンを攻めたとしても街が壊滅するまでは追い込まれないとは思います。しかし犠牲者は少なからず出ます。人々に犠牲を強いるとラウヘルと何ら変わらなく私はそれを是とはしません。」
そして一人一人を見渡し
「改めてお願いします。無理難題を押し付けるかもしれませんが私に力を貸してください」
その場に居た全員は立ち上がりナターシャへ向けた礼を以て返答とした。
そして休憩を挟み再開された会議室に見慣れない少女がタラスと共に鎮座していた。
ナターシャはそれに気付いたが各リーダーも一人か二人秘書のような者を伴っているため然程気にすることはなかった。
「アイスクイーンさまはどうなされたのでしょう。ご無事なのでしょうか」
「魔族の血が表にでたアイスクイーンは自らを封印してしまったようです。詳しくは私よりこのヴィマラさんに話してもらいましょう」
初めて聞く名に困惑気味なナターシャはヴィマラと呼ばれた少女を見た。
年のころは自分よりもずいぶんと下のように見える。
恐らく10歳ちょっとくらい。
「初めましてヴィマラさん。私はナタリシアといいます」
「私はヴィマラといいます。アイスクイーン様のお世話をさせて頂いておりました」
自己紹介を簡単に済ませ事の次第を語りだす。
アイスクイーンは自らを封印し人間界へ被害が及ばないようにしたこと。
主は完全な遮断を考えていたが自分達メイドが一方通行の術式で封じ込めたこと。
こちら側からは干渉が可能なので是非とも力を貸してもらいたいとのこと。
そして自分は主が救えるならどんな労力も厭わないと。
「お話くださってありがとうございます。そのような事態になっていると知りませんでした。その件についてはこちらからも是非協力させていただきたいと考えています」
アイスクイーンが居なかったら今頃オーレン地方は焦土と化していたであろう。
何せこの地はエルモア王国との国境があり古くから小競り合いの絶えない地なのだ。
元々は人間の争い事に興味がなく、良く云えば中立であったアイスクイーンがここ半世紀はアデンの、オーレンの民の味方として動いたことから侵略行為はなくなっていた。
そういった経緯もあり彼女の尽力があっての今のオーレン地方ということになる。
助けたいと思うのはこの場に居た全員の共通の思いだった。
その後の話し合いでタラスが陣頭指揮をとり調査を開始することが決まった。
ヴィマラにもその調査の協力を仰ぎ二人を中心に任せることになった。
「あちらに残った他のメイドさん達との連絡はできませんか?」
マヌエラの質問は尤もだ。
あちら側の状況がわかれば進展があるかもしれない。
しかし、
「昨日より連絡がつきません。恐らくですがアイスクイーン様の魔族の魔力に当てられ自我が失われた可能性が高いです」
悲しそうなヴィマラの頭に手を乗せたタラスは言い聞かせるよう言葉にした。
「お主だけでもいてくれてこちらとしても助かった。必ず氷の女王を助け出してみせよう」
ヴィマラを励ますように聞かせるタラスを見たキャスタは「孫に甘いお爺さん」と一人呟いていた。
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