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蓋世不抜のアカンサス

作者:千帆
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序章
  慣れっこだろ

 武偵高の男子寮。強襲科(アサルト)の生徒に与えられた一室で信じられないほどの大声が響いた。既に日はどっぷりと暮れ、東京の薄暗い夜空にはまばらな星明かりが浮かんでいる。

一般高校(パンコー)への潜入捜査!?」

 そして大声をあげた張本人である強襲科(アサルト)のBランク武偵である篠崎(しのざき)龍太郎(りゅうたろう)が、瞳を輝かせて食いついた。だいたい予想がついていた薫は、とりあえずちょうど真向かいにある篠崎の脛を蹴った。

「っるせぇ」

「っつぅ……」

 痛みに内心悶えながら、薫に睨みつけられた篠崎はすごすごと浮いた腰を椅子の上におろす。だがそれでもキラキラと任務(クエスト)の用紙を見つめる瞳にありありと映し出されている下心を見つけた薫は、あからさまに溜息をついた。

 すぐ隣にあるシステムキッチンからは、かちゃかちゃと食器がすれる音が聞こえてくる。水の流れる音は、この男ばかりのむさ苦しい空間の中で唯一、清涼剤の役割を果たしていた。それを聞きながら薫が篠崎に釘をさして置こうと口を開く。しかし言葉が発される前に、少し怪訝そうに眉を寄せた篠崎が声をあげた。

「いや、でもカオちゃんちょっと待て」

「カオちゃんってのやめろ。頭蓋撃ち抜くぞ」

 ふざけたあだなにすかさず篠崎を睨みつけた薫は、机の上でメンテナンス中だった得物を3秒とかからず組みたててコッキングをしてみせる。その様子を見た不知火は、苦笑いをこぼして宥めるように言った。

「それを薫くんが言うと、冗談に聞こえないな」

「冗談じゃねーもん」

 そしてトリガーに指をかけたままのデザート・イーグル.357MAGを篠崎に向けてちらつかせる。それを見た篠崎は、さぁっと顔を青くした。

「ちょ、んなもん当たったら頭蓋撃ち抜かれるどころか頭部丸々吹っ飛ぶから!」

「おう」

「ちょ、カオちゃんストーップ!」

 篠崎に向けて銃口を定めた薫が、にやにやと意地悪く笑う。慌てて椅子ごと半回転をしてそのまま篠崎は背もたれをバリケードのようにするが、防弾でないそれはマグナム弾の前では紙も同然だろう。だが本人達としては、すこし冗談の混ざったちょっとしたおふざけのつもりなので、それをあまり気にしている様子はない。

「……クエスト」

 その時三人頭上にから聞こえたバスの声に、全員が視線を向ける。篠崎もいつの間にやら警戒態勢を解き、普通に椅子に腰掛けていた。そこにいるのは篠崎と同じくもう一人のルームメイトの周防(すおう)(たつき)だった。
 短めの髪に、どこまでも深い黒の髪。顔立ちも肌の色も日本人のそれだが、唯一190cmを超えるその巨駆だけは日本人離れと言わざるを得ない青年。それにあまり変わらない表情に、切れ長のともすれば睨みつけているとも取られかねないその双眸も相まって、初対面の人には必ずと言っていいほどビビられることがコンプレックスだったりする彼は、争いを好まない、温和な性格だったりする。さらには動物が大好きで、度々学校の敷地内で野良猫と戯れているところを目撃され、理子からはギャップ萌えの帝王と称されるほど、外見と性格の差異が激しい奴である。

 ことりと硬い音をたててそれぞれの前に置かれた湯呑みには、湯気をたてる温かい緑茶。武偵憲章4条はどうしたと言ってしまいそうになるほどの世話焼きであることは周防を除く三人の共通認識である。

 とりあえず貰えるもんは貰っとこうと礼を言って茶を啜る。ほぅ、と一息をつくと薫はばっとクエストの紙を持ち上げた。

「そうだ!クエストだ!そこのプリンのせいで危うく脱線しかけたじゃねぇか」

「ちょ、カオちゃん!今気にしてんだからそこ触れんなよ!」

 ずびしっとご丁寧に指さし付きで言われた篠崎が、抗議の声をあげる。

 そう。なんとこの篠崎龍太郎はこの武偵高に来た動悸をあろうことか「モテたいから」という一言で片付け、さらには髪を金髪に染めているのだ。本人としては少しでもカッコ良くなりたいと思っていたそうだが、残念ながら170に届かない身長で、さらに少しばかり顔立ちが幼い篠崎は«ちょっと背伸びした中学生»程度の認識しかされていなかったりする。しかも家庭事情をあまり話したがらない篠崎は、詳しい部分は謎だが少なくとも純日本人の顔立ちはしておらず、自毛がもともと薄めの茶髪なのだ。だから当然、しばらく染め直すことができなければあたどんどん髪は伸びていくわけで、今となっては立派なプリン頭となってしまっていたのだ。

「だいったいモテたいからって染めたは良いが金欠で染髪料買えねーって余計だめだろ」

「うっ……いやそこは見ないふりをするのが優しさだろ!」

「まあいい、そこでた!篠崎今金欠だろ?」

「……だからそうだっつってんの」

「キレんな。俺も金欠だ」

 短気な性格が出たのか、若干機嫌悪そうに茶を啜った篠崎に、薫はデザート・イーグルのマガジンを放った。
 突然のことではあったものの、流石の反射神経で難なく受け取った篠崎が、その全く重みを感じないマガジンにちらりと目をやる。

「弾買えてねーの?」

「ん。マグナムちょー高ぇ」

「ははっ!マグナムなんてBランクの俺には無縁だな」

 軽く笑って肩をすくめると、篠崎は薫に空のマガジンを投げ返す。そして薫と、会話を傍観していた不知火にクエストを受ける旨を返して用紙に名前を書き込んだ。三つの空欄が埋まったそれを机に置くと、シャワーを浴びると言って席を立った。

 その篠崎の背中を見送る不知火は、少々不満げだ。

「よく言うよ。龍はテスト中だろうが見境無しに女の子をすぐナンパする癖さえ治せば、すぐAになれるのに……あともう少し丁寧に装備扱うのもだけど」

「ん?なんで不知火が不満気?」

「この間の模擬戦闘でちょっとね」

 両手を上げて首を振る不知火に、驚きの声を漏らす薫。何も言わないが、横で会話を聞いていた周防も目を丸くしていた。

「え、負けたの?お前が?」

「いいや、ドローだよ」

 まあ、危ないところだったんだけど、と肩をすくめて苦笑いをこぼした不知火の、空になった湯呑みにそっと周防が急須からおかわりを注ぐ。

「そういえば周防くんはどうする?クエスト」

「……疑問がある」

「それは、ランクの指定が高いことについてか?」

「それだけじゃない」

「……報酬」

 びしりと指をさした薫に、周防が頷く。それは周防だけでなく全員が思っていたことではあった。

「一人二百万に、Bランク以上の指定」

一般高校(パンコー)への潜入捜査にしては高すぎる?」

「……何もないとは思えない」

「なるほどなぁ……」

 相変わらず変わらない表情で首を振った周防に、薫が頷いた。ぐびりと残っていた温い緑茶を流し込むと、指でピストルをつくる。にやりと口角を持ち上げてみせたその瞳には、絶対的な自信に後押しされた強い光が宿っている。

「だけどな周防。俺たちは強襲科だぜ?」

──荒事は、慣れっこだろ?

 そう言って指先を跳ね上げた薫に、周防はその返答を待っていたかのように名前を書いたクエストの用紙を手渡した。四人の名前が書かれたその紙は、心なしか始めより重くなっているような気もする。

「……そう思うなら、9ミリは補充しておけ」

「わーってるよ」

 周防の痛い指摘に、すこしいじけたように頬杖をついた薫。子供のようだと、二人は笑った。 
 

 
後書き
いきなりオリキャラ2名の投入。

強襲科 Bランク 篠崎(しのざき)龍太郎(りゅうたろう)

武偵高に入学した理由を「カッコ良く女の子を助けられたらモテそうだから」と公言する猛者。愛称は龍。あまり自分の話をしたがらないので、その真偽は謎。彼のことを知る人物たちからは彼の家族に関することは聞かないのが暗黙の了解。プリン頭になりつつも染髪料が買えないのは、よく装備を壊して金欠だから。ちなみに装備科(アムド)からは問題児認定されていたりする。

装備はベレッタM93Rと小型のハンティングナイフ。撃つ、切る、殴るなんでもこなすバランスタイプ。戦闘スタイルが似ていることから不知火にはよくつっかかる。

強襲科 Aランク 周防(すおう)(たつき)

190超の日本人離れした身長を持つ強面。外見に反して動物好きというギャップの持ち主。キンジからは不知火と共に数すくない常識人の評価を受けている。掃除が苦手な薫によく世話を焼いている張本人。

装備はFN57 タクティカル。基本的にCQCなど超近接戦が得意。化け物じみた脚力の持ち主で、蹴り技に限って言えば強襲科1と言われる。真偽は定かではないが、綱無しで格技場の壁を走ったという伝説を囁かれていたりする。


最初から原作キャラほぼ出てこなくて申し訳ないです……。はじめはなんていうか、日常感を出したくて!!(ていう言い訳)

しばらくオリキャラの絡み続きます。ここでオリキャラの性格とか、掴んでくれればと……!(ていうry)

ちなみに不知火を含めたこの四人。ルームメイトなんですけど、この四人のセットを私は勝手にS4って呼んでます。……あ、どうでもいいですか。そうですか。 
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