IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第348話】
前書き
美春→シャル
未だにさっきの出来事が頭から離れず、もやもやしたまま母さんの居る部屋へとやって来た。
……今朝からキスばかりしてるのに、さっきのが一番の衝撃だった。
……やっぱり、妹とキスはダメだよなぁ……冷静に考えても。
充分自習室に入れそうな中身だし……。
軽く息を吐くと、ドアを二回ノックする。
……暫く待つが、一向に出てくる気配が感じられない。
もしかすると母さんが出ないようにって言ったのかもしれないな。
周囲に誰も居ないことを確認して、俺は――。
「美春? ヒルトだけど……」
ドア越しにそう言うと、中からパタパタと足音を響かせてドアが開くと――。
「もぅ! もっと早く様子を見に来てよね、ヒルト!?」
開口一番に怒られてしまったが、表情を窺うに本気で怒っているわけではなさそうだ。
「悪い、美冬と少し話をしててな。 どうだ、調子は?」
「うん。 ――というか、中に入らない? 一応まだ私、学園の生徒じゃ無いんだし見られたらまずいと思うの」
「……だな、なら中で話だな」
そう言って促されるまま室内へと足を運ぶと中は俺達学生の部屋よりも広く、設備も色々整っていた。
机の上には母さんが書いたであろうレポートの数々、俺達家族四人が写った写真立て、他にもIS関連書籍だけではなく機械に携わる系の本が無数に――しかも、本棚にもびっしりと収まっていた。
反対側の机には、IS学園の資料や歴史の本がある辺り、美春が勉強していたのだろう。
ベッド一基は綺麗に片付いているが、もう片方は買ってきた袋が乗せられていた――美冬たちが美春用に買ってきた何かだろう。
「美春、検査はどうだった?」
「んと、精密検査した結果だけど……人のそれと変わらないってお母さんが言ってたよ? だから一応人間だよ」
後ろに手を組んで嬉しそうに告げる美春。
「そっか。 ……良かったな、美春」
「……良かったのかな? まだそういう実感沸かないんだよ。 ……人間社会を目の当たりにする機会を得たのは嬉しいけど、ヒルトを守れなくなっちゃったから……」
しゅんっと沈む様な表情を浮かべる美春に、俺は――。
「俺なら大丈夫だ。 危ないときは逃げるしな?」
「……ふふっ、織斑一夏が訊いたら情けない奴って言われそうな台詞だね? ――でも、退くのも勇気だよ。 退かずに戦うのは判断能力が低い証拠」
ばっさりと切り捨てる様に言う美春に、その場にいないながらも一夏に対して哀れだと思ってしまった。
……てか、背を見せたら男じゃないとか拘り過ぎだろ……何だかんだで一夏って格好つけてるし。
本人はそう思ってない辺りがまた滑稽に見えてしまう。
「まああの人の話はどうでも良いかな? 白ちゃんは織斑一夏の事好きらしいけど私は好きじゃないし、てかヒルトの方が……好き……だもん」
最後の方の言葉は小さいながらも、俺に対して好きと言ってくれた美春の頭を優しく撫でた。
髪質が良く、艶々と輝くような黒髪が美しく思えた。
「そういや美春、お前はご飯とか食べれるのか?」
「え? うん、試しに食べてみたよ? 人間の味覚って贅沢だよね? コアの頃はエネルギー供給がそうだったから何を食べても美味しくて直ぐにシールドエネルギーが回復しちゃった♪」
満面の笑顔で言う美春――食べたらエネルギー回復って辺りはやはりコアなのだろうと改めて思った。
頬に触れると伝わる肌の感触は俺や美冬のそれとは何ら違いはなさそうなのだが――と。
「ぁ……ぅ……。 ぃ、ぃきなりどうしたの……?」
俺が頬に触れたのに驚いたのか、視線を泳がせ、困ったように眉根を寄せつつ頬が紅潮した美春。
「あ……急に悪い、美春」
「……ぅぅん。 ……ヒルトに触れられるのは好きだから……てへへ……」
触れた手を自分の手で重ねる美春。
本当に触られるのが好きなようだ……嫌なら払い除けるだろうし。
重ねた手のひらから美春の体温が伝わってくる。
……やはり人間にしか見えないよな、美春。
「ヒルト……ありがとね? 名前つけてくれて」
「ん? ……気にするなよ、最初に会ったときムラクモが可愛くないって言ってただろ?」
「うん。 ……でも、ヒルトにムラクモって呼ばれるのは嫌いじゃなかったよ? さ、最初は確かにヒルトの事良くは思ってなかったけど……今は別だからね?」
重ねた手を優しく包むように握る美春――段々と手の体温が上がるのが伝わってくる。
「……えへ。 ……そうだ、ヒルトの妹になるんだからやっぱり私もお兄ちゃんって呼んだ方がいい?」
「呼び方は前も言ったが好きに呼んで良いぞ?」
「……じゃあ、変わらずにヒルトって呼ぶね? でもたまにはマスターとか兄ちゃんって呼ぶかも?」
舌をペロッと出して笑う美春――正直可愛かった。
……とはいえ、やはり美冬とのキスの方が衝撃的だったためそちらのがイメージに残っていたりする。
「そういや制服は?」
「んと。 カスタム制服じゃない普通のでサイズが合う奴で寸法出したよ、お母さんが。 明日の朝一には届くから多分転入も明日からかも? 戸籍はもう少し掛かるって言ってた。 身分証明とか色々あるって」
「……成る程。 その辺りは母さんに任せれば問題ないだろうから心配はしないが……後はクラス分けぐらいか」
頬から手を離し、腕を組むと美春がすかさず口を開き――。
「クラス分けもヒルトと同じクラスだって」
「そうなのか? ……ますます一組の専用機比率が上がるな……。 てかクラスのパワーバランス悪すぎだろ」
「……何か意図があるんじゃないかな? ……近い将来、一年の専用機持ち全員一組に集結しそうな気がするな、私」
人差し指をたて、まるで予言するかの様に呟く美春。
心の中ではまさかとは思いつつも、案外あり得そうで怖い……。
ふと時計を見ると、結構いい時間だということに気づいた。
「さて、美春。 そろそろ俺は戻るよ」
「あ……そういえばそろそろヒルト寝る時間だよね? また明日から朝トレ再開するの?」
「あぁ、身体は休めたしな。 鍛えないと持久力つかないし」
「そうだね。 ……頑張ってね、ヒルト? ……あ、福音だけど一応行くことは出来るよ? ……ずっと眠ってるけどね」
「……確か凍結封印されてるもんな。 ……でも、様子はみたいし今度連れていってくれ」
「ぅ、ぅん……。 で、でも少し気持ちの整理をつけてからね?」
何故か急に顔を赤く染める美春、準備で何か恥ずかしい事でもあるのだろうか?
「わかった。 ……んじゃ美春、部屋割り決まったら教えろよな?」
「うん。 本当ならヒルトの部屋を希望したいけど……それはダメだって学園の資料に載ってたから出来るだけ近くになる様にお願いしてみる」
「ははっ、あまり我が儘言ったら山田先生が半泣きになるからな。 ……んじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい、ヒルト♪」
右手をひらひらと振ってその場で見送る美春。
応えるように手を振ると俺はそのまま足早に自室へと戻っていった――。
――1025室前――
「あ、ヒルト。 部屋に居なかったみたいだけど何処に行ってたの?」
「お? 悪いシャル、待たせたな。 ちょい美冬と転入生に会いに行っててな」
ドアに凭れる様にして待っていたのはシャルだった。
服装はもう就寝時間が近いからか他の女子の様にラフな姿が眩しい。
――と、そんなシャルの表情がみるみる内に不機嫌な表情へと変わっていく……。
「……へぇ、転入生に『も』会いに行ってたんだぁ……」
「……あ、そういえばまだシャルも皆も知らなかったんだった」
心の中で失敗したと思っても時既に遅く、シャルの不機嫌差はゲージがマックスに溜まろうとしていた。
「……何でヒルトがその【転入生】に会いに行ったのか。 僕……知りたいなぁ……」
虚ろな眼差しが俺を捉えると、抱えた俺の制服の上着を持ったまま詰め寄ってくる。
「……そうだな、うっかり口を滑らせたし……本当なら明日説明する筈だったが今説明するよ。 えと――――」
何故俺が転入生に会いに行ったのかをシャルへと説明する。
最初こそ不機嫌で虚ろな眼差しだったものの、その転入生が母さんの養子になり、俺の義理の妹になること、それと改めて専用機の事等を話すと理解したのか――。
「そ、そぅだったんだ……あぅ……ヒルト、ごめんね……? 疑ったりして……」
申し訳なさそうに謝るシャル――一体何を疑ったのかが気になるが……追求が怖いのでしないでおく、触らぬ神に祟りなしだ。
「いや、いいんだ。 俺こそ黙ってて悪かったな?」
「ううん、事が事だもん。 黙ってて普通だよ? ……ぼ、僕こそヤキモチ妬いちゃって……」
顔を俯くシャルだが、耳まで赤くなっていて非常に可愛く見える。
「大丈夫だから気にするなよ? ……それよりも制服ありがとうな? 洗濯してくれたんだろ?」
「え? ぅ、ぅん。 一応ね♪ えへ♪」
そう言って制服を手渡すシャル――仄かにシャルの着けている香水の香りが鼻孔を擽った。
「じゃあそろそろシャルは戻らないとな? いつまでも部屋の前に居たら怒られるぞ?」
「そ、そうだね。 ……ヒルト、キスして?」
「……なんですと」
周囲を見回すとこの時間誰も居ないから良かったものの、訊かれていたらあっという間に噂が駆け巡るからな。
「……駄目……かな? 少しだけでいいんだけど……」
上目遣いで見上げるシャル――何だか全員に言えるが、キスの要求が多くなってきてる気が……。
……不意に美冬とのキスを思い出し、顔に熱を帯びるのを感じる。
……シャルとキスしてさっきのを忘れる――という理由でするのは悪い気がするが……既に瞼を閉じてキスを受け入れる体勢になっていたシャルの唇にそっと口付けを落とした。
「ん……えへへ……ヒルト、ありがとう。 お、おやすみなさいっ」
脱兎の如くその場を後にしたシャル――一応再度周囲と曲がり角等を念入りに調べ、誰も居なかった事を確認すると俺は部屋へと入っていった。
……一日キスしてばかりだった気がするな、振替休日。
昨日はあんな事件があったのに俺も呑気なのかもしれない……。
ベッドに入ると、身体を伸ばしてそのまま俺は眠りについた。
後書き
何だかんだでシャルの登場率が高かった
さて、次はまた原作に戻りますん
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