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王道を走れば:幻想にて

作者:Duegion
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第6章、その1:束の間の癒し ※エロ注意

 
前書き
 本話前半部にエロ描写が御座います。

 プレイ一覧:乱交、正常位、膣内出し、口淫、後背位
       騎乗位、接吻 

 
 夜の帳が下りて、黄金に照る満月が天に昇っている。薄い雲が静かに、川面の木の葉のように流れている。光を受けていた雲が漆黒の背景に飲まれていく様は心を惹き付けるようであり、どことなく物思いに耽ってしまいそうな感じである。大地を生きる人々は天に手も届かず、ましてや空を飛ぶ事も適わない。その空を飛ぶ雲でさえ光を受けねば、唯の崩れた落葉も同じである。風のままに吹かれて儚く消えていき、嘗て入道雲や積乱雲であった頃の栄華は雨露となり、落ちていくだけなのだ。結局人間であろうとエルフであろうとも、空に手が届いたとて同じ立場に置かれるのではないか。光の届く世界であらねば、ただの朽ちた存在と看做されるのではないか。
 そんな物憂げな哲学は、享楽が支配する世界では通用しないのである。現世利益こそ享楽が求むる最大の幸福であり、最大の押し付けであるのだから。その舞台はクウィス領にある。領主の館がある大農村の一角にある、大き目の宿屋であった。大きめというからには理由がある。この宿屋は領主の客人のみが宿泊できる場所であり、一般の地元民とは大して縁が無い場所である。提供し得る最高の寝具に、最高の食事、そして最高の女性。美女の多いクウィス領土では特に三番目こそが客人らの愉しみとする所であり、今宵そこに宿泊する者達は同様の接待を受けているのであった。社交的で、そして淫靡な歓待を。
 客人らの名前はミシェル、パック、ジョゼである。王都より派遣されてきた彼らは任務の一つ、北嶺監察官への命令書の搬送を終えて、騎士ジョゼの口利きの下、最高の法悦を得んと此処に留まっているのだ。

「ああっ、いいいっ、いぐっ、だめいくっ!!」
「まだだっ、まだいくんじゃなよっ!!」
「無理ですっ、もう駄目っ、駄目駄目駄目ぇぇっ!!」

 ぱんぱんと、肉質のある音が一室に轟く。寝台が揺れて嬌声が轟く。天上に吊るされるランタンが小さく震えて、光が揺れた。寝台で交わる二人の男女と、横で横たわるもう一人の女がそれによって照らされ、影の形を大きく変じさせていた。ルビーのような赤き髪をした女はその妖艶な体躯を大いに震わせ、陰唇を貫く巨根から齎される強烈な絶頂を耐えようとする。騎士であるジョゼは己と同じ色の髪をした女を見下ろし、にたりと嗜虐的な笑みを零して汗を垂らす。そして組み伏せた女の手首をがっしりと押さえつけると、更に激しく男根の抽送を激しくさせた。

「ほらぁっ、出るぞ、出るぞ!!全て受け止めろよぉっ!!!」
「いぐいぐいぐっ!ああああああ、ああああああ!!」

 艶美な震えと共に女は上体を逸らそうとして涙を零し、ジョゼは先までの激動とは一転して静かに抽送を止めると、腰元を痙攣させるように震わせる。汗と体温が重なり合うかのような錯覚に陥り、女は自分の身体の内に流れ込む蹂躙の奔騰を感じる。避妊用の薬草を事前に飲んでいるとしても、思わずうろたえてしまうほどの欲望の量であり、子宮が精液を貯めるただの池になってしまうかと思うくらいだ。これで二度目の射精というのだから、ジョゼの持久力と欲求は底無しと言えよう。何とも女殺しの一物である。亀頭の先から毀れる精子が波打って子宮を蹂躙するのを、女は思考の片隅で感じ取った。
 ジョゼは一分近く続いた身体の鳴動を漸く止めると、見せびらかすように太く滾る陰茎を引き抜いた。情事の液を連れるように亀頭が突起を弾き、濃厚な白い液体が開かれた陰唇からどくどくと逆流する。普段であれば女は、寝台に落ちるものを勿体無いと言って口に運び、或いは胸元に摺りこむくらいの余裕はあるのだが、前述の通りジョゼの攻撃は苛烈である。相手を絶頂と疲労の絶壁へ突き落とすための刺突は、彼の嗜虐心と野心の賜物。手練の美麗な娼婦二人掛かりであっても、たった一度の交わりで骨抜きにされてしまうのだ。
 ジョゼは女の長い赤髪を一房掴むと、その薫りを愉しむ。心惑わすような香水に加え、隠し切れぬ淫靡な香りが鼻をつんと刺激するのが、彼の微笑みを誘った。

「・・・おい、まだ起きているだろ?」
「はぁ・・・はぁ・・・は、はい・・・」
「実をいうとよ、まだまだ俺は物足りないんだよ・・・。おら、お前も起き上がったらどうなんだ?体力が回復してんのは分かっているんだよ」
「・・・嘘でしょ?まだ硬いとか・・・」

 寝台に横たわっていたもう一人の美女がジョゼの肉槍を見て、驚嘆の念を口に出す。短い茶髪と豊満な体躯の持ち主である女性は、交わりの初めと何ら姿形を変えぬ勃起した一物を見詰め、俄かに己の花園に意識を注いだ。黒さを帯びた女唇からは情熱の跡が止め処なく流れており、汗と愛液と交じり合って少しずつ熱を冷ましつつあった。

「何やっているんだよ。さっさと舐めて綺麗にしろ」
「ねぇ、早くしましょう?」
「あなた、身体は大丈夫なの?」
「これくらいでくたばるようなら、私達はここには居ないわよ。さぁ、殿方を喜ばせましょう」

 赤髪の娼婦はそういって、仰向けになったジョゼの股座に顔を埋めて奉仕の水音を奏で始めた。何とも健気な姿であるか。茶髪の娼婦はそう思いながら、己の顎から額ほどもある巨根に対する奉仕を始める。膨れた精嚢や一物を二つの舌先が舐めていき、男に支配の愉悦を覚えさせた。時折二人の舌が絡み合って精液を奪い合おうとするのもまた一興なる光景であり、ジョゼの肉槍には再び熱が篭り始めた。

(ねぇ、何時頃終わるのかな?)
(明朝まででしょ?諦めましょう)
(はぁ・・・お金が沢山もらえなきゃやってられないわね。それにしても。。。)
((よくこんなのが私に入っていたわね・・・))
 
 視線だけでやり取りしながら、娼婦は眼前の光景を支配する一物を見やる。逞しき騎士が誇る、野心の槍を。見事に割れた彼の腹筋を撫でながら赤髪の美女は、実に恭しき様を装って奉仕する。手馴れた動作であり、男の心を燻るには同姓の目から見ても、非常に卓越した艶美さである。だがジョゼからすれば機械的に自分を絶頂へ導こうとする姿にも見て、再び嗜虐の道楽を愉しもうとする欲が湧き上がってきた。

「おい、お前」
「ふぁい?」
「気に入らないな、その顔。もっと歪めて見せろよ、こんな風にっ!」

 ジョゼはそういって腰を一気に打ちつけ、女の喉の奥に亀頭を到達させた。目を白黒させた女を甚振るように、ジョゼは女の髪を乱暴に掴み、力強く上下させた。瞳に怯えを見せながらも娼婦は口唇による愛撫を試みようとするも、躊躇の見せぬジョゼの粗暴さに主導権を握られる一方である。
 同僚が絶句してその淫靡な狼藉を見詰めるも、愛撫を止めれば次は自分であると気付き、これまで以上に奉仕の熱を加速させた。男の厚い胸板と乳首を舐めては弾き、そして己の陰唇を男の足先に摺り合わせて愛撫をせがむ。ジョゼもそれに応えて指先を動かし、女に悦楽の刺激を与える。また、空いた手で女の肉感的な美を思うさま愉しんでいく。

「んんんっ!んっぐっ・・・っっぅぁ!!ンン''!!」
「じゅるっ・・・ちゅくっ!あむ・・・ちゅる!!」

 官能的に責められる二人は一方は嬲られ、一方は自分から嬲られに行こうとするものであった。ジョゼはそれを微笑みで眺めつつ、騎士として成り上がってきたここまでの自分に優越心を覚える。唯の兵卒、しかも補給部隊という彼にとっては不名誉な役職であった頃から、彼は娼婦漁りを趣味として生きてきたのだ。当時の娼婦は、正直、生のミミズを巻いて摩った方が気持ちよくなれる程度の御粗末なものが大概であった。使い古しに貧乏人、障害持ち。碌な悦楽を得る事など無かった。それに比べて目の前の美女の何と艶やかで、陶酔のし易き豊満さである事か。野心を燻り始めた当時に夢見た完成された美がそこにある。

「ほら、もっと乱れてくれよ。こんなんじゃ勃たなくなっちまう」
「んんっ!!んぐっ・・・じゅるるっ、じゅる!!!」

 誇りを傷つけられたように感じた娼婦は互いに目を合わせ、醒めた目でやり取りすると手法を一気に変えた。男の陰部を慰める女は、態と音を立てるように亀頭を吸い込む。浅く三度、深く一度。積み重ねてきた女の経験から打ち出される、最良の責め方である。噎せ返る様な感じが寧ろ心地良く感じて、女は己の淫らな義務感のままに男を責める。
 もう一方の茶髪の美女は、舌を這わせる場所を乳首から首筋へと運ばせた。そして、男の頚動脈から耳の傍までの部分を舐めていく。首の部分は露骨に、だが耳に近付けるに連れて舌を離していき、最後は吐息だけを優しく吹きかける。これこそが彼女が最も得意とする口唇の性技であり、幾多もの男達に舌の悦楽を刻んだ技であった。かくいうジョゼも同様であり、勢いを増した二人によって急速に高みへと到達しつつあった。

「くそ・・・やれば出来るじゃないかっ・・・!ああっ、くそ、出るっ!!」
「ふふ・・・いいわよ・・・出しなさいっ!」

 茶色の髪を肌に貼り付けながら娼婦はジョゼの唇を奪って舌を絡めた。歯茎を洗うかのように唾液を送り、上蓋を擽ってやる。赤髪の美女が熾烈に陰茎を吸い込み、尿道から液体を描き出そうとする。ジョゼは騎士にあるまじき情けない呻き声を漏らしながら身体を震わせて、三度目の絶頂へとおいやられた。娼婦の咥内に精子の塊が何度も打ち付けられるも、先の二度と勢いは大差が無かった。女は咥内のそれを喉を巧みに蠢かせて少しずつ胃の中へと送り、射精に耐える。
 ジョゼの長きに渡る射精を受け止めきると、女は口の中に溜め込んだ大量のそれを同僚に流そうと、艶やかな接吻を落とす。ジョゼの目の前で精子を送り込み、舌によってそれを押し込んでいく。陶酔した表情をして二人はジョゼの精子を全て飲み込み切ると、俄かに誇らしげな顔をして彼を見詰めた。

「御満足、いただけたかしら?」
「・・・ああ。流石は領内一の美女だよ・・・。でも、骨抜きになるには、あと七回は必要だな」

 屹立したそれそ摩りながらジョゼは自慢げに言ってのける。彼は茶髪の娼婦をむんずと掴み、寝台に四つん這いにさせる。そして有無を言わせぬようにその股開きの中心へと陰茎を合わせて、一気にそれを突っ込んだ。肉の間を割って入る生々しい音が響いて女は呻きかけ、何とか言葉を返す。

「っっ・・・ちょ、ちょっと・・・七回ってなによ?」
「言ったはずだ。二人に後三回ずつ膣内に出して、お前に一回飲ませる。それで終わりだ、単純だろ」
「こ、この精液魔人っ・・・!あんた、身体に血じゃなくて精子が流れているんじゃ、ああああああっ!?!?」
「余計な言葉を、言うなよっ!!」

 抽送を再開して女を鳴かせ始める。引き締まった筋肉の上を火照った汗が伝って落ちていき、乱れる女の肌を伝うそれと混じる。愛液が弾けて二人の肢体の間を濡らし、ジョゼは女の臀部を平手で叩く。ぱちんという軽やかな音がと女の悲鳴が心を燻り、ジョゼは更に情事の熱を増していく。陰部から駆け抜ける雷撃のような性の刺激に、娼婦は生まれてこの方幾度と覚えなかった、最高潮の絶頂へ上り詰めていくのを感じた。
 こうしてジョゼと娼婦らの夜は更けていく。乱れた騎乗位、情熱的な対面座位。情操を何とも思わぬ暗き情念のままにジョゼは精液を出し続け、娼婦の子宮にまで亀頭を捩じ込んだ。朝日が昇る頃には、精子と汗の中で沈溺した二人の女の裸体が見つかるだろうが、ジョゼの関心が向く所ではなかった。ただ野心の充足の一つとして、女を蹂躙する事が彼の楽しみであるからだ。


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「ねぇ、あなたもどう?あんな風にやってみないの?私はやってもいいんだけど」
「・・・俺はいいよ。ああいうのは好きなやつにやらせておけばいい」
「そう?でも、もう一人の御友人はどうかしらね」
「ああ、あいつは俺よりピュアだよ。だからあの子を選んだんだ。あの少女みたいな、可愛い子だよ」
「あの子ね、実は最近入ったばかりなのよ。私としても、最初の内は優しくしてあげたかったし・・・そうね、あとでパックさんには御礼をしようかしら。個人的に」
「そうかい、だったら頼むよ」

 隣室から激しく聞こえる愛の嵐を他所に、ミシェルは己に乗っかる裸体の肌を撫でる。きめ細かさと張りのある肌は男の望むべきものを全て実現しており、胸部や腰、金色の髪に青い瞳、そして唇や項に至るまで全てが完成された美であった。己が敬愛して止まぬ王女と同じ特徴を持つとあって、ミシェルの興奮は高まりを知らぬものであり、旅すがら我慢してきた一物は見事に屹立して、女のクレパスを撫でていた。突起した女芯もまた卑猥であり、既に亀頭からは先走りが毀れていた。無論この程度の悦楽で暴発するほどミシェルは場数を踏んでいない。王都の娼婦もまた彼女と同様、美の方向性は多様で且つそれぞれが完成された淫らさを含有していたからだ。 
 唇を啄ばんでくる名も知らぬ娼婦に応え、その腰と肩甲骨を撫でながら、ミシェルは素直な感想を零す。

「随分慣れた様子だな、あいつは」
「ここの所かなり頻繁に来ているのよ、あの騎士さん。羽振りがよくて助かるんだけど、ただちょっと乱暴なのが偶に瑕なのよね」
「へぇ、見た目は随分と優しそうなのに」
「あらあら、話していて判らなかったの?あの人、凄く出世欲が強いのよ。その上世界を征服するのが夢だなんて冗談を聞かされるの。変わっているわよね?」
「ああ、そうだな。大言壮語が御得意の変り者だ」

 ミシェルはたおやかな花を愛でるように、優しく女の顔を撫でる。王都の色町では見られぬ綺麗な顔立ちであるからか、ついついと手付きが真剣なものとなってしまう。女もそれを感じ取って、微かな笑みを浮かべて応えた。

「・・・その分、あなたは好きよ。優しくて、凄く愛情が伝わってくる・・・。こういうの久しぶり」
「久しぶりか。ったく、ここの男共ってのはなってないな?綺麗な女性の愛で方っていうのを、何一つ分かっちゃいない」
「なら、教えて下さる?この昂ぶった身体で・・・、貴方の愛を感じさせて」

 言葉と共に、二人は自然と唇を重ね合わせた。隣室の嵐など気にも留めぬ、実に柔らかなキスである。忘我の気持ちで唇に意識を向けさせて、二人は互いを啄ばむ。時折毀れる唇が離れあう音が何とも饒舌に、二人の快感を伝えている事か。
 唇を離して女は相手を間近で見詰める。真摯な黒の瞳に、己の顔立ちが移りこむようだ。

「・・・ああ・・・凄く上手・・・。こういうのは慣れているの?」
「そんなんじゃないさ。ただ、君を傷つけたくないだけだ」
「・・・ふふ。大好き」

 二人の距離は再びゼロとなる。互いを求めるように手を這わる。肉肌の質感を愉しむように、筋肉の張りを感じるように。

「ちゅっ・・・あむ・・・ちゅぅ」

 娼婦は接吻を交わしながらそろそろと手を伸ばし、ミシェルの硬く滾った陰茎を握る。裏筋の辺りが強張っており、先走りが垂れたお陰か摩るのが俄かに難しい。しかし獣のように射精を求めるの相手ではないため、娼婦は出来るだけ一手一手に丹念さを求めて、局部を愛撫していく。
 前戯の際に女が浮かべるイメージとは、穏やかな風が波をさざめかせる風景であった。この静謐に満ちた環境こそが何時だって彼女の心に落ち着きを齎してくれる。いわば集中するための材料なのだ。とりわけ己の指先や口唇は、非常にデリケートな部分を刺激して快楽を齎す。慎重に越した事は無く、どこまでも丁寧に、余す所無く相手を愛する。それが故に女は領内の娼婦の中でも一番の人気を誇るのだ。

「・・・凄くいじらしい、っ、顔をしているね、君は」
「そうですか?」
「ああ。凄く繊細で、憂いのある顔でさ。とても好みだ」

 ミシェルとて、その魅力の魔の手からは逃れ得ない。安らぎを得つつも興奮で頬を赤く染めており、手付きも段々と卑猥さを感じさせるものに変じていた。女の背中を何度も摩り、臀部の引き締まった肉付きを揉みしだき、指の間で挟み込むように弄ぶ。

「ん・・・お尻が好きなの?」
「まぁ、な。ここも好きだけど、な」

 ミシェルの指先が臀部の谷間をすすと降りていく。皺寄せた窄みを撫でながらその爪先がしとどに濡れた唇へと辿り着く。娼婦は愛撫の手を止めて上体を起こすと、澄んだ瞳を浮かべて彼を見返した。 

「いいわよ。好きにして」

 俄かに汗ばんだ顔に笑みを浮かべながら、ミシェルは上体を起こして女と接吻を交わす。そして片手で己の陰部を握って、相手の花園の口へと亀頭を合わせた。滑々の丘と肌を何度か先走った汁で穢し、女が薄目を開いた瞬間、亀頭を中に滑り込ませる。

「はっ・・・ああっ・・・」

 艶やかな息を漏らして女がしがみ付いてくる。自然と挿入も容易いものとなっていき、勃起した男根は熱い肉壁の中を突き進んでいく。初めは閉ざされていたように感じたヒダであったが、亀頭の存在を確認するとまるでそう定まっているかのように開かれていき、四方より彼自身を締め付けていく。膣内を覆う充足感に女は恍惚の表情を浮かべた。演技であるなら到底浮かべられないような、至福の色で頬を染めて。

「あっ・・・はぁ・・・凄い気持ちいい・・・」
「俺もだ・・・蕩けそうだよ」
 
 二人の言葉に偽りは無かった。娼婦が感じるそれは、幾年もの経験を通じて一度足りとて衰えもしなかった肉体から感じる悦び。ミシェルが感じるのは、己の分身を溶解してしまうかのようなえもいわれぬ悦楽。互いに互いの足らぬ部分を埋め合う、淫猥で、純真な行為。獣欲に塗れぬ二人の心は静かに鳴動を始める。
 互いの背に手を回して腰をゆっくりと動かしあう。抽送に激しさを求めず、温もりを共有して思いを溶かす事を目的とする。ひしと抱き合う二人は首筋に唇を埋めて、息を混ぜあう。

「んっ・・・あっ!はぁ・・・そうよ、もう少し奥をっ・・・」

 その言葉と共に挿入が俄かに深くなり、女が求めていたその部分に亀頭の先端が擦れた。それが彼女にとっての悦びである。肉体的な通じ合いもまた愉悦であり、その刺激は断続的で且つ、激しきものであればあるほど高みに向かう。本能も理性も否定しない悦楽であり、今陰部を迸るそれがそうである。厚い胸板に胸の頂が潰されて擦れ、豊かな二つの丘が潰されるのもそれであった。
 だが思いを通じ合わせた行為はその幾倍もの恍惚感を与えてくれる。肉体の剣と鞘、情事という一場面でのみ交わるそれは乱暴さに身を任せば徒に傷を負うかもしれぬし、何より愛情が独りよがりなのだ。身体でのみ愛を感じるのは人間としてあるまじき性。だが心を通わせた情事であればより大きな充足感を感じられる。肉体的な繋がりに加え、唯の情事では埋まらなかった筈の孤独や、寂しさ、それらが全て虚無の彼方へ消えていくような気がするのだ。これこそがクウィス領最高の娼婦がどこまでも追求し、己を求める客らに与える、至高の法悦であった。

「ねっ、凄いでしょう?私がなんでっ・・・んあああっ・・・一番なのかっ、分かったぁ?」
「ああっ・・・こんなの、病み付きになりそうだっ」
「いいのっ、いっぱいしてっ!あ、ああああっ・・・凄い、熱くて硬いぃぃ・・・」

 ミシェルは熱に浮かされたように腰の動きを早くしていく。余裕ぶっていた態度が嘘のように消えている。己の半身を覆う膣壁や、体躯に寄り掛かる相手の温もりを感じて、今まで感じた事が無いような高揚感に囚われているのだ。淫靡で、そして魔性の娼婦の心に。深き海にも似た抱擁感が心地よく、自分の総てを曝け出してしまいたいという欲求に駆られた。腰の躍動と高まる射精感はその証明である。
 だが自分はあくまでも、相手に優しさを与えるべきなのだ。ミシェルはそう己に言い聞かせて、過剰な腰付きを理性を総動員して控えさえる共に、相手への愛撫を怠る事は無かった。娼婦が繋がりを求めるのであればそれに応えるまでである。肌の摺り合わせに合わせてミシェルは己を身動ぎさせ、人が人であるべき官能を求める。その情交を一場面ずつで区切ってみれば、美しさを追求した絵画にも見えぬ事は無い。時代が時代ゆえ、発禁画として指定されるであろうが。

「んんんっ!ああ、いい・・・凄くいい・・・!!」

 精神の高揚が肉体の昂ぶりへと繋がり、娼婦は身体の芯から火照ってくるのを感じた。炙ってくるような小さなものではなく、延焼するような激しき絶頂の炎だ。女の慶びが唇の間から息として漏れて相手に吹きかかり、ミシェルも同様に息を漏らして真っ直ぐな瞳を向けてきた。隣室の情事も相当に喧しきものであるが、二人の視線を逸らすだけの注意力など持たない。ぎしぎしと、寝台が静かに揺れる音が二人の代わりに心臓の早鐘を伝えてくれる。二人の髪が交じり合って宙に踊る。ただ肉体を貪り合うよりも多くの汗が噴き出てきてしまう。
 娼婦は俄かにえびぞりとなって己の胸部をぴんと張る。ミシェルはそれを両手で自由に揉んで、しかし追い詰められたように、哀願するように娼婦を見上げた。女は慈愛の笑みを嬌声の間から零す。

「今日はっ、ああっ・・・避妊薬を飲んでるからっ・・・全部膣内で、んんっ・・・いいわよっ!」
「わかったっ・・・ああ、出そうだっ・・・!!」

 ミシェルは腰の躍動をこの時に限り、激しくさせた。女の口唇から溢れた喘ぎが一段と高いものとなり、記憶にその存在を刻み付けてくれる。この情事を終えても絶対に忘れないであろう、一人の娼婦が零す魂の絶叫であった。ミシェルは感極まるといった具合に表情を歪め、大きく唸ると共に動きを静止させた。途端に堰き止めていたそれが一気に破裂し、その頭から液体が噴出するのを感じる。
 幾度の震え、その一つ一つにミシェルの思いが篭められている。欲望、高揚、充足、そして安堵。女もまた同様の悦楽を得ながら身体を震わし、静かに男の欲望を甘受した。誰かがどこぞで行う愛欲とは比較にならぬ、満ち満ちた気分になれる行為である。

「・・・はぁ・・・はぁ・・・あなた、よかったわ」
「俺もだ・・・今まで抱いてきた女が束に成っても、君には適わないな」
「ふふ。その台詞、いつも皆に言ってきたのかしらね?」

 娼婦は静かに腰を持ち上げて男性自身を引き抜いた。精子の放出で満足を得たか、萎え気味のそれが局部から引き抜かれて白い糸を垂らす。十秒ほど送れて白い粘着質な塊が毀れてくる。
 二人は熱帯びた身体を揃って横に倒しながら、睦み合うように身体をくっつけた。

「本当、丁寧でいじらしい責め方・・・女誑しの腰つきね」
「気に入っていただけたようで何よりだ」
「・・・ねぇ、できるなら明日以降も私を指名してくれる?あいつと寝るなんて、身体が疲れるだけだもの」

 雷鳴のような情事の声に、ミシェルはつい呆れ、そして怒りを覚える。この清らかな女性の心を甚振るとは、なんといけ好かぬ男である事か。

「あいつも嫌われたもんだ。まぁ、あんなやり方じゃ当然か」
「ええ、あいつのお兄さんとは正反対よ」
「・・・兄、か。ああ、そういや此処で孤児院を開いていたんだっけ。あいつの話に出てきたな」
「ええ。私は彼のお兄さんとは寝た事は無いんだけどね、でも何度か話した事があるわ。町の市場とか、図書館とかで」
「へぇ。どんな人だった?」
「凄く真摯な人よ。あんなのとは比べようも無いくらいにね。その上、あの人には魔術大学に御友人が居て、一緒に魔術の研究をするくらい頭がいいの。一度会って驚いてみなさい」
「なるほどね。君の言葉に偽りがある訳無い。機会があれば会ってみよう。・・・だが今夜はこのままだ、いいね?」
「ええ。少しこのままでいさせて。凄く心地いいから」
「ああ、俺に身を委ねておけ」

 瞳を閉じて女はミシェルの胸に顔を埋める。情交の時と比べてとても静穏な様であり、一介の娼婦とは思えぬほど輝かしさを感じる微笑であった。ミシェルもまた小さく笑んで、静かに瞳を閉じる。
 女の臀部から汗が垂れて、肌を伝ってシーツに染み込んだ。荒みつつある時勢の中に感じる、一滴の清涼な水であった。



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 きらきらとした太陽の煌きが穏やかな清流に反射し、さながら鏡のように空の青さ、そして枝に繁る葉の鮮やかさを映し出していた。その透明感ゆえか、川底の石や水を泳ぐ小魚まで見えている。森の内を流れる小川の底は浅いが、自然が命を育むに非常に適した場所でもあった。水のせせらぎが川面を挟む森の中へ、風鈴のように清らかに流れ込んでいる。
 そんな中、川面へ一本の釣り糸を垂らす狩人がいた。垂れ眉を神経質そうに顰め、その動静を見極めている。不意に、釣り糸の先にある餌に、小魚かぱくりと食いついた。

「っ!来たか」

 竿越しに手応えを感じてその男、ユミルは一気に竿を引き上げる。水飛沫が巻き上がる中を小魚は飛来し、構えられたユミルの手の中にすぽりと納まった。突如として身体を包み込む外気に魚は苦しみ、手の内で一気に暴れる。

「良し、そのままだ・・・そのまま・・・」

 ユミルは慣れた手付きで魚の口元から針を外すと、水を張った木桶の中に魚を落とす。桶の中には既に十匹程度の魚が詰め込まれていた。漸く安堵の息が吐けたのか、新しき魚は悠々と桶の中を泳ごうとしたり、仲間と肌を触れ合ったりしていた。

「・・・うむ。小振りながら、いい肉付きだ。焼けば旨かろうな」
「御主人っ、御主人!私も釣れましたよ!おっきいです!」
「ほう、そうか。見せてみろ」

 相方がユミルの眼前に釣ってきた物を突き付け、ユミルは固まる。そもそもそれは生きてすら無い。ただの白く太い骨であった。

「・・・パウリナ。あのな、それは魚とはいわん、骨だ。しかも人っぽい骨。捨てろ」
「もったいないから捨てませーん」

 『ぺしっ』と、小気味良く白い骨がユミルの頬を叩いた。パウリナが嬉々とした表情をしながらステップを刻むように数歩離れ、再び近付いて反対の頬を叩く。非常に優しい一手であり、余計にイラつくものであった。

「私の初釣り祝ってよー」
『ペシッ』
「さぁさぁ御主人カモンカモン」
『ペシッ』
「恥ずかしがらずに言っちゃってー」
『ペシッ』
「ふんのぉあぁあっぁっ!!」

 裂帛の手刀が骨を捕え、それを半ばから叩き折った。吹き飛んだ破片が『ああああっ!』という悲鳴を背に、陽光を浴びてきらきらとしながら、森の絨毯や川岸へと軟着陸する。
 パウリナは手に残った欠片を握り締めながら抗議する。

「も、もうっ!御主人の馬鹿!幾らなんでも酷いですよ!」
「あのな。俺達が釣ろうとしているのは生きた魚だ。それで焼き魚を食べたいと言い始めたのはお前ではないか」
「で、でもですよ!でもだからといって釣ったものをいきなり折るなんて!御主人って本当に、馬鹿!」
「お前、アレを食べたかったのか?あの得体の知れない白い骨を」
「・・・記念にピアスでも作ろうかなって」
「やめろ、馬鹿。お前にはもっと華美なものが似合う。真珠とか、宝石とか。あんな粗末なものを付けるなど俺は認めん」
「そ、そうですか?そっかぁ・・・華美なものかぁ」

 途端に機嫌をよくしてにへらと顔を緩める相方に頸を振りながら、ユミルは木桶と竿を持って踵を返す。パウリナも己の木桶をもって彼の後を追った。二人の桶を合わせてざっと十数匹といったところか。これならば人数分は足りるであろう。

「ケイタク、今戻ったぞ」
「戻ってきましたー」
「あ、お帰りなさいですー。わあーっ」

 小川から二、三十歩ほど歩いた場所で、腑抜けた声と共に慧卓は宙を回転する。蓑虫のように縄で身体を巻かれ太い木の枝に吊るされており、それをエルフの子供達が好き勝手に回している。やる方も愉しげであり、やられる方も満更ではない表情をしているのが奇妙な光景であった。

「こいつはそんなに愉しいか?回してるだけなのに」
「うん!なんか面白いっ」「ねー。変な声出すしねー」
「・・・との事だが」
「別にいいんじゃないですかぁー。愉しんでもらえるならそれはそれでぇー、文化交流ですしぃーおすしぃー」
「・・・こんな展開になるなんて思ってもみなかった」
「ま、まぁ仕方ないですよ。なにせケイタクさんですから」

 木に寄り掛かりながら、キーラは歯噛みするように言ってのけて、リコは苦笑を浮かべて慰めた。賢人キ=ジェの村にて帰還した慧卓を待ち受けていたのは、心配を募らせたキーラの説教であった。もっと早く帰ってくれといわれてもどうしようもなかったのだと言い訳をし、慧卓はついうっかりと剣戟の一悶着を口から滑らす。その事実を聞いてキーラは激怒し、更にはアリッサまでもがそれに加担し、こうして慧卓を吊るしているというわけである。
 初めの十分は苦痛でしかなかったが、しかし直ぐに慣れて寧ろ貴重な体験だと思って逆に状況を愉しみ始めたのは、偏に慧卓の性質によるものであった。御仕置きと称した行為が効果をなさぬ事にキーラは溜息を吐き、パウリナは助言を囁いた。

「キーラちゃん。お仕置きはね、もっと繊細な部分を責めなくちゃ効果無しだよ?だから今度はね、色落とし的なちょっとふしだらな感じの奴で責めれば・・・」
「せ、責めるってパウリナさん!?」
「そ、そんなの出来ないですっ!なんというか・・・恥ずかし過ぎて・・・」
「そんなのやってるうちに慣れちゃうよ?それに興味もあるでしょケイタクさんの弱った表情とかさ。きっとそれを見たら、高揚感のような気持ちいい感情みたいなものが湧いてくるんだろうなぁ。病みつきになるかもね?」
「おいパウリナ。お前純粋無垢な少年少女相手に何を吹き込んでいる?」
「いやですねぇ、御主人。無垢だからちょちょいと唆したくなっちゃうんですよ。でも許してくれるよね、キーラちゃん?」
「はい。悪気が無いのは分かっていますし、応援してくれてるっていうのも分かりますから」

 何ともいえぬ顔付きとなってユミルは顔を掌で覆い隠す。ちらりと横に目を向ければ、同じような顔つきをしたエルフが立っている。イル=フードから派遣された監視役の衛兵であった。

「お前も苦労するな。こんな奴を監視せねばならんとは」
「・・・同情しないでいただきたい」

 何とかしろよ、といわんばかりに鋭い視線を送られるも恋する少女をどうにかするなど、ユミルが解決できる問題ではなかった。
 何とか一端の落ち着きを見せた彼ら一同は、慧卓と監視役が視線を送る中で本来の作業を始める。川で釣った魚の調理であった。遠路から戻ってきた慧卓らに許された一時の休憩であり、地元の者達との交流の場である。生憎好奇心から来る子供達のみの参加であるが、それでも身内のみでやるよりかは遥かに賑やかであった。御目付け役が居るという事はイル=フードらは暗黙の内に承認しているという事であり、慧卓らは何の気兼ねなく調理をする事と相成った。
 先生はユミルとなり、魚の捌き方を一通り皆に教えている。普段は狩りや勉学、或いは農耕地での手伝いを主としている子供らは魚に余り慣れていないのであろう、真剣にそれを聞いてゆっくりとそれを捌いていく。魚の串焼きを幾つか作り、そして慧卓の所望もあってか魚の開きも作る予定である。彼のためと奮起するキーラであったが、その包丁捌きは見ていて背筋が冷えるものであった。柄をぐっと握り締めて刃を腹に突き刺し、勢いのままに滑らそうとする。くいっと包丁が抜けて、血に濡れた刃が魚を押さえる掌を掠めた。

「ちょ、ちょっとキーラさん手付きぃっ!」
「は、はい?」
「包丁の持ち方危ないですって!!ちょ、ごめん皆、俺降りるから降ろして!」
『えええー』
「えええーじゃないから降ろしてって!!」

 未だに慧卓で遊んでいた少年らは不満げな顔をしていたが、仕様が無いと互いを見遣り、木の根の近くに打ち込まれていた杭をずぼりと外す。それが重石代わりとなっていたのか、慧卓は重力のままに地面に着地する。子供らは悪戦苦闘しながら慧卓の縄を外し、そして外れた瞬間慧卓は疾走してキーラに近寄り、包丁を取り上げた。

「あのね、キーラさん。包丁はこうっ、こう持つの!」
「え、えっと・・・?」
「だからさぁっ・・・」

 彼女に包丁を無理やり持たせ、背後から手を回してその手付きを固定する。間近に感じる彼の存在にキーラはどぎまぎとしつつ、その指示に従順となる。

「こうっ!じゃないと指切れちゃうでしょ?」
「は、はいっ」
「じゃぁ次は魚の捌き方ね。もう鱗の方は取れているから、次は内臓の処理ね。先ずはお腹の方に切れ目を入れてだ・・・」

 背中越しから来る指示の通り、キーラはなるべく慎重に、時間をかけるように魚を捌いていく。俄かに身動ぎする度に慧卓の息が頸元や頭に掛かり、細かな息遣いや些かな色気を感じてしまう。意外とがっしりとした慧卓の体躯を身近に感じるというのはキーラにとって当に望外の喜びであり、非常に大切な出来事であった。

(や、役得って素晴らしい・・・!この温かみ、大切にしよう・・・)

 キーラは真剣な声を装って返事をしつつ、慧卓には見えぬよう口元を蕩けさせた。横目でそれを見遣ったユミルはもう何もいわず、ただ己の指導へと神経を集中し始めていった。 
 
「・・・なんだろう、凄くむかつく感じがする」
「アリッサ様。手が止まっておられますよ・・・全く、貴方も素直になったら宜しいのに」
「何か言ったか?」
「いえいえ何も。唯の独り言です」
「・・・随分はっきり聞こえる感じがしたが、まぁよかろう」

 女の勘が働いたのかアリッサは不愉快げに眉を顰めつつも、再び書棚の整理に精を出す。リタは一つにやりとしながらも、彼女と同じように家屋の掃除を再開する。
 それから大体三、四十分程経った頃合だろうか。その時になって漸く、全員分の調理が完了した。香ばしき魚が焼ける匂い、黒く焦がされ膨れた肌、熱が良く通った証である開きの白身と浮き上がった骨。確りと魚全身に火が通っており、どこを食べても美味しく頂けそうなほどである。『おおっ』という子供らの声を受けてか、臨時の調理師であるユミルは若干誇らしげであった。

「はい、じゃぁ皆」
『いただきます』

 慧卓仕込の食前の言葉と共に、参加者は紅葉の絨毯に座りながら焼き魚を頬張っていく。慧卓が手製の箸で食べているのは矢張り魚の開きであった。北の冷たい清流で育った小魚は身が引き締まっており、その小ささと反比例して肉厚である。臭みの無い、ほくほくとして旨味のある味わいである。

「はぁ・・・偶にはこういうのも悪くないね」
「そうですね。貴族の身分のままでは絶対に味わえない、貴重な体験です。大切にしたいですね」

 キーラは気品のある食べ方で串焼きを頬張っていた。子供らやパウリナやリコも、同様に魚をがつがつと食べているようだ。食べ盛りとあってかリコの食べ方はその容貌と反して豪快であり、見ていて清清しきものであった。
 ユミルは慧卓と同様器用に箸を扱いながら、開きの方を味わっている。気に召したらしく何度も頷きながら食している一方で、会話の方は至極真面目である。

「ケイタク、一つ聞きたいのだが」
「なんれふ?」
「イル=フードやニ=ベリとはどこまでいっている?」
「・・・まぁ、上層部とは表面上仲良しですよ?ただ下がねぇ・・・」
「奴らの部下か?・・・相変わらず嫌われているようだな?」
「ま、まぁそうですね。あの人達に会いに行く度に、道すがら罵倒されるくらいですから・・・」
「おいおい・・・お前は補佐役なのだぞ?もう少し威張ってもいいんじゃないか?」
「罵倒するのは子供とか、同い年くらいの連中ですから特に気になりはしないんです。ここの子達は例外で、仲良くしてくれるんです。ほら、例の案内役の男の子いたでしょ?あの子が口利きしてくれたたんです。ただね、大人達の腐って腐臭を出す豚足を見るような視線は本当に・・・辛いです・・・」
「ケイタクさん、元気出して。ほら、これ食べて下さい」
「あ、ありがとう、リコっ。・・・お前、将来モテるぞ」
「そんな簡単にモテたら人生苦労しないわ」

 リコから魚の串焼きを一口貰って慧卓は微笑む。食事の席であるため口調はとても穏やかであるが、ユミルに合わせて会話の中身は至極全うなものであった。

「へ、へゆうわへで、ごくっ。お偉方とはこれからも仲良し方針ですね。でも何となく肌がビリビリとしてきたってアリッサさんが言ってきましたから、警戒に越した事はありません」
「俺もそう思っていたところだ。この森、村に行っていた時に比べて幾分か緊張しているように思える。・・・おいリコ、最近何かあったのか?」
「・・・いや、僕は特に何も知りませんけど」
「そうか・・・。キーラ、知ってるか?」
「もぐもぐ・・・ごく。最近ですか?うーん・・・あるにはあるんですけど、眉唾な上にちょっと機密扱いかもしれませんから・・・」
「・・・との事だが」
「分かりました。キーラ、後でアリッサさんを交えて三人だけで話そう。いいね?」
「はい」

 慧卓らが知らぬ所でキーラも独自に調査をしているようであった。彼女なりに思うところがっての調査であろうし、聡明な彼女の事だ、不明瞭な情報を下に調査をしたりはしないだろう。慧卓は期待を彼女に寄せつつ、ユミルに告げた。

「ユミルさん。一応ですけど、リコに弓を教えてもらってもいいですか?自衛の手段を確保していかないと、この先、どうにも安心できなさそうです」
「分かった。・・・お前も知ってると思うが、パウリナにも剣を教えているんだが」
「ええ。進展はどうです?」
「・・・まぁ、半年程度であれば、なんとか一般の兵卒レベルまで鍛えられそうだ。それくらいで充分だろう?」
「あの人の本分は機動力ですからね。得意分野とは違う部分まで過剰な期待を押し付けちゃ、却って負担になっちゃいます」
「ああ、正論だ。だがお前の場合は別だな」
「・・・はい、精進します」

 慧卓は素直に頷き、己の職務が望むべき本来の役割を全うせんと、嫌々に決意する。苦手なものを得意とするのは慧卓とて、嫌いな努力の一つである。小魚の開きも時々皮を合わせて頬張るのだが、矢張り塩を塗していないためかパンチが弱く、舌がどうしても寂しく思える。

「・・・塩があればなぁ」
「諦めろ。塩の領分はドワーフと帝国だ」
「・・・はぁ。世知辛い」

 エルフ領なら絶対に手に入らないであろう資源を恋しく思いながらも、慧卓はぱくぱくと開きを咀嚼していく。束の間の休息を静かに堪能しつつ、慧卓は俄かに膨れた腹を伸ばすように地面に横たわり、ぼんやりと空を見上げる。温かな木漏れ日はどことなく眠気を覚えた頭になんと優しき事か。
 しかしここで寝ては誰が子供らの面倒を見るのか。何度か軽く頬を叩いて意識を起こし、慧卓は細い目で彼らを穏やかに見やった。何とも生き生きとした姿であり、束縛から解放されたかのような晴れやかな笑みを浮かべていた。


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「・・・ふーん。そんな事があったなんてな」
「どう、確認取れる?」
「まぁ、後で会う予定があるからな。その時にさり気なく聞いてみるよ」

 川釣りの片付けを終えて、慧卓はキーラから、彼女が今気になっている事というものを聞き出していた。成程、確かに最近は森に住まうエルフらの姿がめっきり減ってしまっている。それも全て大人の男である。子供らや女性らは家事や仕事で森を空ける事もあったが、大体数日程度で帰ってきたという。しかしキーラが子供らから聞く所によると、大人達は数週間分の用意をして旅立ったという。キーラが奇妙に思うのも仕方が無かった。

「にしても、あのイル=フードがねぇ。本当にあの人が出兵を下したんだったら、あの人、実は結構やばい立場にあるんじゃないかな」
「そう、なの?」
「うん。この時期に態々魔獣を狩りに行く意味がない。いつどこで暴動が起こると分からない情勢なのに、軍属でもない男が家庭を、しかもたかが獣狩りのために数週間も放ったからしにするなんて馬鹿げてる。それに今は丁度作物の収穫期だ。男手が必要とされるのにそれを減らしてまで行かせるなんて、余程の事情じゃなきゃ出来ないね。それはあの人だって分かっている筈。でもあの人はそれを実行した。実行せざるを得なかった。
 俺の私見だけどさ、あれは自分から望んでやっているとは思えないんだよ。民草の反感を買う軍事行為なんて、内政的には何の利益にもならない。・・・イル=フードは誰かに命令されているのか、それとも依頼されているか。どちらにしても、あいつの裏には何かいるな」
「大した推測だ。それこそ邪推ではないか?」
『!』

 家の入り口からアリッサが厳しい顔を出してきた。自分の家、借りたものではあるが、を掃除し終わったのであろう。

「アリッサさん。お帰りなさい」
「ああ。今度は私も川釣りに混ぜてくれよ?少し寂しい思いをしたからな」
「・・・だったら最初から乗ってくればいいのに」
「そうですよ。『疲れを癒すがいい』だなんて言っちゃて。貴女だって同じ立場なんだから、一緒に愉しめばいいのに」
「何か言ったか?」
「素直じゃないって言っているんです、アリッサさんは。昔みたいに女の子らしい口調に戻ってくれればいいのに。そっちの方が俺、好きですよ」
「う、煩い!・・・あんなのは見せられん・・・も、もう一度見たいというなら、二人の時が、いい」
「そ、そうですか・・・じゃぁ、今度、いつか」

 俄かに鼻に突くような甘い声であり、慧卓はたじろぎつつ返事を返す。気まずげに二人は互いを見ようとするも、視線が噛み合うのを機に再び目を逸らす。よく見れば両者の頬がどことなく気恥ずかしげな薄い赤に色付いているではないか。
 どことなくそわそわとしてアリッサは所在無さそうに己の指先を弄るのであるが、その仕草を見て、キーラは一抹の予感めいた不安を抱く。恋を煩う少女特有の鋭敏な感覚は、目の前の女性のその態度が、己のそれと同じであると告げている。俄かに不機嫌となった彼女は態とらしく咳をした。

「・・・ン''ンッ!!」
『!!!』
「あ、ああ・・・イル=フードであったな、うん。私とて確かに疑わしく思ったぞ?だがケイタク殿、貴方は先日魔獣の群れと邂逅したのであったな?」
「は、はい」
「その時、同伴していた少年がその事を告げて、これを受けて討伐部隊を召集して派遣したと考えれば、自然であろう?」
「・・・だったらニ=ベリ殿の私兵を借りれば良いのに」
「面子に関わるだろう、それは。政治上敵対する相手の手を借りるなど」
「それでも態々派遣したりします?キーラが聞いた子供らの話によれば、派遣されたのはただの農民や狩人だって聞いてるんですけど。本物の兵士すら使わないってのは、流石に疑わし過ぎますね」
「・・・」
「まっ、とりあえず行って来ますね。何と無く怪しい感じがするし」
「気をつけて下さいね、ケイタクさん」
「ああ、行って来るよ」

 慧卓はそう言って、擦違い様にアリッサをじっと見詰めながら家から出て行く。アリッサはその視線に気付き、去っていく彼の背中に見入っていた。慧卓が居なくなるのを機に、キーラが確信めいた表情で問う。

「アリッサさん、一つ聞きますけど」
「なんだ」
「ケイタクさんの事、どう思うんです?」
「・・・質問の意味が分かりかねる」
「では、はっきり言います。あの人の事、異性として意識しているんでしょう?」
「っ!?!?」

 アリッサは瞠目して見返す。胸に燻っていた思いが一気に色付くのを感じて、羞恥にも似た奇妙な思いが心を焦がす。言われた事の意味を直ぐに理解できた。慧卓の事を少なからぬ思いで好いているという事だ。

「き、キーラ殿は随分と思い切った事を仰せになるな・・・」
「・・・王女様と同じ眼をしてましたから」
「コーデリア様と?」
「・・・・・・純粋な目でしたよ、凄く」

 不機嫌なままにキーラも家を出て行った。残されたアリッサは赤く色付いた頬を抑えながら、藁椅子に座り込んで俯く。胸の鼓動はどくどくとして勢いは弱まらず、耳の裏にまでその音が響いているように感じた。

(・・・私はケイタク殿が好き、なのか?)

 『好き』。内心でその言葉を反芻すると、不思議と彼女の心が火照ってしまう。名も知らぬ蟠りの実態が見えたようで、すとんと胸に収まってしまうのだ。ほぉっと零す溜息は深い。一体どうしてしまったというのだろうか。この胸の煩いを恋と呼称し、慧卓に淡い想いを抱いているというのならば、何が切欠となったのだろうか。納得し得る明白な理由が思い当たらず、キーラは懊悩を抱えて目を閉じる。悩める彼女に声を掛ける者は、ここには居なかった。
 一方で家を出て行った慧卓は、再び川辺へと赴き、そこでイル=フードと話し込んでいた。昼下がりの穏やかな川岸を歩く。

「またこうして話し合える機会が出来て嬉しく思うぞ、ケイタク殿」
「私もです、イル殿。しかもこうやって川辺を歩きながらとはね」
「お気に召さなかったか?」
「いえいえ。先程此方に川釣りに来たばかりでしたので、少し可笑しく思えて参りまして」
「そうか」

 小さく笑んでから、イル=フードは話す。

「キ=ジェの使いから聞いたのだが、もう既に私を含めて四人の賢人と会ったらしいな。中々に手が早い事だ」
「いえいえ、これでも遅いと思っておりますよ。キ=ジェ様やシィ=ジェス様の場合は近場ゆえに簡単に行けましたが、他の方々は全て東方に、しかも軍事的に緊張している地域に御住まいです。とて気軽に行けるような場所では御座いません」
「なるほど」
「私共と致しましては、他の賢人の方々を訪問させていただきたいと思っております。既にその準備は整っておりまして、二日後にはまた出立する予定であります。此度は、騎士アリッサと一緒に」
「ふむ、そうか。ならば気をつけて行かれるがいい。人間の同胞を失うのは辛いからな」
「はい、そのつもりです。イル殿の想いを無駄にせぬよう、努めて参ります。・・・そういえば先日、キ=ジェ様と御逢いした時にですね、私、魔獣の子供と逢ったのですよ」
「・・・子供、とな?」

 興味深げに視線を遣ってくる。慧卓は世間話をするように、実にのんびりとした口調で返した。

「ええ。水車小屋の近くでね。兵士達の話を聞くに、それはラプトルという魔獣であると先日分かった次第です。青い肌に鋭い黄金の眼差し、そして鋭い爪と牙。私の腰ほどの大きさしかない子供でしたが、とても勇敢な獣でありました。
 つかぬ事を御伺いしますが、あのラプトルという種は本来は群れで行動する種族なのでしょうか?私が子供と逢った時は、どうもあの子は一人でしたので、つい気掛かりとなっているのです」
「その問いに対する答えは、イエスだ。確かにラプトルは群れで生活する獣だ。本来は帝国領北方の山岳地帯に生息するのだが、この時期は獲物を求めて此方に流れてくる群れもある。貴殿が逢った子供というのは、その群れに属するものなのだろう」
「ええ。幸いにも子供を群れに返す事が出来て、我々もその爪の餌食となる事態から免れる事が出来ました。とても幸運で、貴重な体験であったと思います。・・・恥ずかしながら私、この『セラム』に参りましてから一度も、魔獣と逢った事がありませんでしたので」
「・・・『セラム』か。なんと王国人らしい考え方よ」
「・・・イル殿?」

 エルフの統率者としては不釣合いな、軽蔑的な微笑を浮かべている。慧卓が零した言葉に、口舌の輩としての些細な自負心が刺激されたのだろうか。話はやけに饒舌であった。 

「貴殿は恐らく知らぬと思うがな、『セラム』なる言葉は我等エルフの歴史には通用せんのだよ。我等が命を落ち着ける世界に勝手に名前を着けるなど、おこがましいと考えるのでな」
「そうなのですか・・・」
「我等はただ自然と生きて、自然を受け入れ、そして命を燃やす。それを積み重ねて、次代の者達へ自然を返していくのだ。この自然は子孫からの借り物ゆえ、無下に扱う事は出来んからな」
「・・・その御考え、とても感銘を受けました。エルフの方々はとても真摯に自然を見詰めていらっしゃるのですね」
「その通りだ。王国とは違うのだよ。貴殿の国は東方の山々に、鉱山を乱造させていると聞く。どうだ、無事に帰還した後に執政長官殿に言ってはくれんか。『自然破壊など理性の暴挙に過ぎん。頭を挿げ掛けてもう一度考えてみろ』とな」
「ははは・・・」

 不敬罪につき斬首確実の冗談に慧卓は微苦笑を漏らすより何もできない。話を続けるために何とか話題を逸らす。

「しかし魔獣が来るとは、同情致します。何せ今は緊張の時勢。東は武器を突き付けあい、北と南では畑での収穫、西では魔獣の襲来。全てが全て、とても重要であります。いやぁ、イル殿はとても多忙でいらっしゃる。全ての問題に対して遍く手を回さねばならないとは。為政者の鑑です」
「はは、私は梟の頸を持っているのだ。どの方角にも頸を向けられる。身体をここに落ち着けたままな」
「なるほど。その上兵の数にも恵まれておりますな。四方の事情全てを解決せんと、森の者達を動員されていらっしゃるのだから」
「うむ、そうだとも。支持者が多いのだ、私には」
「ええ。きっと特別な支持者なのでしょう、その方々は。もしかしたら将来は別の要望も持ち込んでくるでしょうな。『今度はうんたらかんたらをしてくれ、早くしろ』とね。ハハハ」

 からからとした笑いをして、老人の顔をちらと見遣りながら言ってのける。イル=フードは一瞬目の下をぴくりとさせて、俄かに遅れてから言葉を返した。

「うむ、そうに違いない。だがそれらを解決するのが我等為政者の務めでもあり、義務でもある。人の上に立つ者は配下や支持者達の問題を変わって解決せねばならんのだ。それが平穏の構築ともなり、ゆくゆくは我等の支持にも繋がる」
「なるほど・・・若輩ですので、覚えておいた方が良さそうですな。とても勉強になります」
「覚えておくがいい。自らを律する勇気を持つという事を。そして下の者達を統率するという手段は幾多もあるが、一番手っ取り早く、それでいて離反されやすいのは金銭だ。未来の為政者なのだから、それは覚えておくがいい」
「・・・ええ。とても生々しい御話ですが、覚えておくに越した事はなさそうですね。でも私は出来れば金銭は使いたくありません。自分の実力の無さを思い知るようで」
「・・・そう、だな。そういう見方もある。・・・年を取れば現実も見えるのだが、貴殿にはまだその考えは不要かもしれん。色々と経験を積むといい。何れは地に確りと立つ、大樹となるかもしれんからな」

 先までの生気を感じる声色が俄かに潜る。そのにこりともしない表情に慧卓は何か感じるものを抱きつつも、その場では特に追求する事はせず、会話を続けていった。エルフの長との会談は二時間程度ではあったが、彼にとって有意義な時間であった。
 帰り道、東に傾く木陰を踏みつけながら慧卓は考えを巡らす。考えているのは、冗談を言った時に浮かべたイル=フードの顔、そして彼の反応であった。

(どうにも怪しいな。短絡的に考えるのはアレだけど、あの時、一瞬返事が遅れたのは奇妙に感じた。・・・でも答えに窮しただけってのも考えられるし、分からないなぁ・・・。老人の相手ってのは難しいや)

 奇しくもその感想は彼が支える騎士と同様のものであった。若人同士、その手の話題を持ち出せば二人の仲はより進展する事になろう。共感する話題ほどやりやすいものはないのだから。
 帰り道、慧卓にとって矢張りといってはなんだか、エルフの若人や子供らの視線を受ける事と相成った。但しそれは川釣りに同伴してくれた心優しき者達のものは皆無であり、ローカル一色の敵対的な侮蔑であった。

「王国人っ、汚らわしいハゲタカめ!」
「糞尿の寝台で永眠しろっ、穀潰し!」
(うっひょー。こいつら顔に似合わず暴言汚すぎ。どんな生活しているんだよ)

 顔に似合わぬ強烈な罵声を内心で愉しみつつ、慧卓は悠々自適といった具合に家々の間にある獣道を歩く。その端然とした格好が更に彼らを怒らせるのであるが、慧卓はそれを一切気にせずに歩いていった。図太き神経は早くも、今晩の食事について期待を膨らませていたのだ。

 
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