IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第284話(シュヴァルツェア・レーゲン編)】
前書き
シュヴァルツェア・レーゲン編です
――第三アリーナピット内――
「準備完了した。 ヒルト、AICに関する機密情報、及びドイツの機密情報等の閲覧制限をかけたぞ。 ……嫁に隠し事をするのは忍びないが、許せ」
「まあ仕方ないさ。 シュヴァルツェア・レーゲンは欧州連合のイグニッション・プラン用の機体だろ? 一生徒が簡単に見てもいい代物じゃないって事さ、これがな」
そうラウラに言うと、申し訳なさそうな表情のまま降りてくるラウラ。
「……ヒルト。 AICの使用と瞬時加速の使用を禁止させられたが、今のお前なら織斑等ただの有象無象の一つに過ぎない。 自信を持て、いいな?」
さっきまでは申し訳なさそうな表情をしていたのに、既にいつものラウラの表情へと戻っていた。
まあ、こっちの方がラウラらしいからいいんだが。
「了解した。 ……んじゃ、一夏と模擬戦してきますかね」
そう言ってシュヴァルツェア・レーゲンに足を掛けた所で右肘をツンツンと触られた。
もちろん、相手はラウラなのだが――。
「どうした?」
振り向くと、何故か顔を真っ赤にしたラウラが指をもじもじと弄んでいて――。
「そ、その……だな。 ……さ、さっきみたいな不意討ち……心臓に悪いから……その……。 ……じ、事前に言ってほしい……」
「ん? ……不意討ち?」
不意討ちとは何だと思っていると、おもむろにラウラは前髪を掻き分けて――。
「さ、さっき私のおでこにキスしただろ。 ……むぅ、もう忘れたのか? 嫁失格だ、馬鹿者……」
おでこを見せたラウラは、直ぐ様前髪をセットし直し、むくれた様に顔を逸らした。
成る程、さっきのあれがラウラにとっては不意討ちだったって事か。
「……ならラウラだって俺にキスしただろ? それも舌を絡めるディープな奴。 ……あ、あれの方が不意討ちだ、俺には」
言いながらあの時のキスの事が鮮明に甦り、全身の体温が一気に急上昇するのを感じる。
「む……。 あ、あの時は……その……ゴニョゴニョ」
ラウラも思い出したのか、俯きながら更に指を激しく弄び始めた。
「……まあ、もうしたことは取り消せないからな。 ……それに、その後ももう一回キスしてるし、今更か……」
「う、ぅむ。 …………」
またも沈黙するラウラ。
……キスの話題はここまでにしないと、何かまた俺がしたくなってくる。
「まあともかく、不意討ちしなきゃ良いんだな?」
「う? ……た、たまになら不意討ちも……あ、ありだ……。 い、言わせるな……バカ……」
またも真っ赤になった表情のまま上目で睨むラウラだが、上目遣いにしか見えなく思わず頭をなでなでする。
「むぅ……。 ……だが、ヒルトのなでなでする手は好きだぞ?」
「ん? ……手、だけか?」
少し意地悪っぽく言ってみると、慌てたラウラは――。
「も、勿論手だけじゃなく、わ、わわ、私はお前が一番だ……ッ! ……い、言わせるな馬鹿者ッ!!」
恥ずかしさからか、脱兎の如くピットから出ていくラウラ。
後ろ髪に惹かれるも、そろそろ向かわないといけない為シュヴァルツェア・レーゲンに乗り込む。
ちょっとガチガチに装甲が俺の身体を圧迫する様にも感じるが、動きには支障なさそうだ。
軽く屈伸等をしていると語りかけてくる声が聞こえてくる。
『……レーゲンだ』
唐突な単語に、疑問符を浮かべていると語りかけてくる感じがムラクモに似ていた為俺は――。
『レーゲン……。 シュヴァルツェア・レーゲンのコアか』
『その通りだ。 ……私自身、君に興味が沸き、こうして語りかけた。 ……迷惑なら語りかけない』
『……迷惑何て言ってないだろ? 勿論、思ってもないさ、これがな』
『……成る程。 ならばこれからは時折コア・ネットワーク経由でムラクモを概して君に会うことにしよう。 君は、私の婿も同然だからな。 ……今回は力を貸せないが、仮に君がまた私に乗ることがあればその時は力を貸すことにしよう。 ……では、私は見守っているよ。 君と織斑一夏との戦いを……』
言いたい事を言ったレーゲンからの声が聞こえなくなる。
……何気無く婿扱いされてたな。
ラウラは俺を嫁と言ってコアのレーゲンは婿……。
「……深く考えても仕方ないか。 ……てか、シュヴァルツェア・レーゲンって結構機動性低いんだな……。 それでラウラの卓越した技術で彼処まで高機動で動けるとは……恐れ入るよ、全く」
ピット内に響く独り言は虚しく消え、俺は模擬戦を始めるためにピット口へと向かった……。
――第三アリーナ中央――
カタパルトから射出され、各スラスターの稼働域や加速具合を確かめながらアリーナ中央へと飛翔していく。
勿論、待っていたのは――。
「待ってたぜ、ヒルト。 ……シュヴァルツェア・レーゲン、ラウラの機体か……!」
目尻を吊り上げ、気合いを入れ直す為に両頬を手で叩く一夏。
直ぐ様雪片を呼び出すと、真横に振り抜き空気を切り裂く。
「少し待たせて悪かったな。 ……てか、その気合いを楯無さんとする特訓までとっとけよ」
「……別にいいだろ。 俺はあの人に教わらなきゃいけないほど弱くはねぇ。 ……俺は、織斑千冬の弟だからなッ!!」
……何のステータスになるんだ、それ?
政治家の息子だから良い政治家になれる訳じゃない。
だからそんな肩書きに意味など無いのだが。
そんな考えを他所に、シグナルが点灯する。
観客席に入ってきた女子がハイパーセンサーで捉える――篠ノ之だ。
何処から走ってきたのかは知らないが、息を切らせてる辺りかなりの距離を走ってきた様に見える。
二つ目のシグナルが点灯――それと共に、一夏の雪片の刀身に淡い光が覆われていく。
初っぱなから零落白夜を使うようだ。
何気に、左手を閉じたり開いたりをしている――あれは、前にも見た気がする……。
そして、三つ目のシグナルが点灯すると――。
「零落白夜ーッ!!」
叫びがアリーナ一帯に木霊し、雄々しく光る光刃を纏った雪片を構えて間合いを詰め、接近戦をしかけてきた。
プラズマ手刀で迎撃とも思ったが、やればプラズマ粒子は四散してそのまま直撃、死亡というフラグしか立たないと判断した為、振るった雪片の軌跡を見極めることにした。
雪片を上段に構えたのを見極め、縦に振るう前に横に身を逸らす。
案の定、俺の動きに対応出来ずに空を斬る雪片――その隙をつき、顔面に真っ直ぐと左拳のストレートパンチを叩き込んだ。
「ぐあっ……!? てめぇ……ッ!」
衝撃で軽く脳を揺らされた一夏は、ふらふらと頭を振る。
その隙を狙い、ワイヤーブレード二基展開――射出し、一夏の脚部装甲へと絡み付かせた。
「模擬戦なんだ。 一撃でフラフラする一夏の怠慢なだけさ、これがなぁッ!!」
「ウワァァァアアアッ!?」
ワイヤーブレードを使ったジャイアントスイングよろしく。
ぐるんぐるんと振り回し、ワイヤーブレードを解除すると勢いのついた一夏は、アリーナのシールドバリアーに叩き付けられた。
センサー・リンクさせ、肩の大型カノンを起動――。
ロックオンマーカーが一夏を捉え、二重ロックオンすると共に大型カノンが轟音を立て、火を噴く。
「が……はっ! ……クソッ、直撃かよッ!!」
もろに直撃を浴び、更にアリーナのシールドバリアーに叩き付けられた結果、白式のウィング・スラスターから白煙が立ち込めていた。
あれなら簡単に瞬時加速を使えないだろう。
使えば、下手するとウィング・スラスター自体が大破する可能性もあるからだ。
雪片から光刃は消え、左手を翳す一夏。
左腕の雪羅が可変し、荷電粒子砲【月穿】へと変わっていた。
「動くなよ! 狙いが外れるからなッ!」
「バカか、撃つって分かってて止まってるバカはいないって!」
一夏の言葉を他所に、左右に機体を揺らし、狙いを定めづらくさせて接近していく。
「……ッ! 当たれぇぇぇッ!!」
我慢できず、最大出力まで溜めた月穿を放つ一夏。
クイック・ブーストで大きく左に避けると、俺が居た地点の右側を突き抜けていく高エネルギー粒子――避けなくても、当たらなかったようだ。
展開していたワイヤーブレードを再度一夏への攻撃に使う。
刃が空気を切り裂き、突き進むのを見た一夏は――。
「……ッ! 叩き斬る! でやぁぁああッ!!」
雪片を振るう一夏だが、俺も簡単にワイヤーブレードを潰させる訳にはいかず、ひらりと避けつつ、隙あらば片方のブレードでシールドエネルギーを削っていった。
「クソッ、チョロチョロと……ッ! 当たれよッ! このッ!」
空を斬る雪片の音だけが虚しく響き、縦に振るった隙をついてワイヤーブレード二基で両腕を拘束。
「……ッ! 離せよ……ッ!」
「離してほしいのか? ……せっかくだ、引き寄せてやるよッ!!」
ワイヤーブレードを巻き上げると、その力のなすがままに引き寄せられる一夏。
無理にここでウィング・スラスターを起動すれば大破して爆発に巻き込まれるだろう――だが、見る限り頭に血が上ってる為、そこまで頭が回ってないようだった。
プラズマ粒子を収束させ、ブレードへと形成するとワイヤーブレードで引き寄せられた一夏の胴へと一閃――。
「クッ……このままじゃ……何も出来ずにやられる……! ……うぉぉおッ!」
「何!?」
体勢を切り替え、腕部を蹴りあげる一夏。
弾かれた俺の腕は、プラズマ粒子を四散させていた。
「このまま押し切るッ!」
そう言って連続で蹴り技を決める一夏だが、ダメージは微々たるものでシールドエネルギー残量はあまり変わらなかった。
「……そう好き勝手やられると思うなよ、一夏!」
残ったワイヤーブレード二基を射出し、両腕両足を拘束。
もがく一夏を無情にも地面へと何度も叩き付ける。
振り子の要領で何度も叩き付けられた一夏は、苦悶の表情と共に苦痛に満ちた声をあげる。
「ぐはっ! ち、ちくしょう……何も出来ないなんて……!」
「ならここで降参して終わりにするか? それともまだ続けるか?」
叩き付けるのを止め、ワイヤーブレードで張り付け状態にすると肩の大型カノンの狙いをつける。
この距離で直撃を浴びれば、一夏のシールドエネルギーは確実にゼロになるだろう。
「……降参は……しねぇッ!」
「……そうか。 なら悪いが一夏、模擬戦はここまでだ!」
そんな俺の言葉と共に放たれた大型カノン、大きな轟音がアリーナに轟き、白式に直撃させるとシールドエネルギーがゼロになり、ブザーが鳴り響く。
拘束したワイヤーブレードを解除すると、そのまま一夏は膝から崩れ落ちるように突っ伏し、負けた自分に苛立ちを隠せなかったのか地面を何度も叩いていた。
「……もっと素直になれよ、一夏。 ……あの人に教われば、少なくとも多少はましになるさ、これがな」
「…………」
返事の無い一夏をその場に残し、俺は早々にピットへと戻っていった……。
後書き
三回戦ってる訳ではなく、ヒルトの選択によって機体が違うだけですので
次はブルー・ティアーズ編
誤字修正
みんなよく見てますな
おらは気づかなかっただ
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