IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第281話】
未だに意識が戻らない一夏に、デコピンをし続けてると――。
「う……?」
反応が有り、デコピンを止めて様子を窺いながら――。
「やっと起きたか。 ちょっとは骨身にしみたか?」
「ひ……ると……?」
まだはっきりしてないのか、言葉も眼差しもどこか虚ろげな一夏。
「……んで、次はどうするんだよ? ISで勝負か?」
俺がそう一夏に言うと、少しは意識が覚醒したのかさっきよりははっきりとした口調で――。
「……っ……。 ……負けたのは、生身での戦いだからな……。 まだISが――」
「あら? どうやらお目覚めの様ね、織斑君?」
「……!?」
着替えを終えた楯無さんが更衣室から出てくると、勢いよく身体を起こす一夏。
「うふふ。 そろそろお姉さんの指導、受けたくなったんじゃない? ……せっかくのチャンスよ、キミも少しはましになりたくないのかな?」
「……まだ、貴女にISで負けた訳じゃありませんので。 ……確かに、俺は専用機を持った皆に負け越してるが、昨日はセシリアに勝ったんだ……。 確実に強くなって――」
そんな一夏の言葉を遮るように、畳道場のドアが開かれる。
誰かと思ったら開けた人物は――。
「ヒルト、ここに居たか……。 ……全く、嫁失格だぞ」
「あ……、わ、悪い。 連絡するのを忘れてた……」
畳道場のドアを開けたのはラウラだった。
色んな場所を探したのか、少し息が乱れていて、いつもストレートに伸ばしてる髪も何処か乱れてる気がした。
そんなラウラは、一夏と楯無さんの二人も居ることに気がついて、視線を移すも、直ぐ様俺の元へとやって来る。
「……連絡がなかった事は許す。 だが……ここで何をしていた? それも、織斑もここに居るし、その女は今回の騒動の発端人になった女だぞ」
怪訝そうな表情で楯無さんを見つめるラウラ。
だが、楯無さんはそんなラウラに柔らかな笑みを溢す――。
「うふふ。 さっきまで、お姉さんと【寝技】の特訓を行ってたのよ?」
「ね……わざ……?」
寝技と聞いて虚ろな眼差しになるラウラだが、明らかに意味を履き違えてるのがわかる。
「……楯無さん、嘘はダメですよ。 ……ラウラ、何を想像してるかは知らないがお前の思ってる様な事は何もしてないぞ? ……てか、楯無さんと一夏の試合を見てただけだよ」
「む……? ……そ、そぅか……。 ……一瞬、呼吸の仕方を忘れたではないか、馬鹿者……」
そう言ってジト目で見てくるラウラに、俺は頭をかくしか出来なかった。
てか、呼吸を忘れるほどのショックな内容という事は、やはり【寝技】をえっちな方の寝技だと思ったのだろう。
……楯無さんが、まず俺相手にそんな気持ちを抱くとは思えないが。
「うふふ。 今朝自己紹介したけど、私が生徒会長の更識楯無よ。 よろしくね、ラウラちゃん」
そう言って握手を求めるように手を差し出す楯無さんだが、ラウラは――。
「…………むぅ」
差し出された手を見てるだけで握らず――。
「……ラウラ、ちゃんと握手しな。 それが礼儀ってやつだ」
俺の言葉に、あまり納得はしてない様に見えるが頷くと――。
「……わかっ……た。 ……ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
そう短く挨拶をするラウラは、楯無さんの手を握って握手に応じた。
それを見た楯無さんは、満足そうに頷きつつ――。
「うん。 ラウラちゃん、よろしくね♪」
「……か、勘違いするな。 よ、嫁が礼儀だと言うから応じたまでだ。 ……そ、それに……今回の騒動の発端人という事は、私は忘れないからな」
若干顔を赤くするラウラは、やはりこういう事に慣れてないように見える。
「うふふ。 それについてはこれからアリーナに向かうから、道中でラウラちゃんに説明させてもらうわ。 ……織斑君、早く着替えて来なさい。 時間は限られてるのだから」
「……あぁ。 次はISで決着を着けてやる……」
そう言って一夏は更衣室へと消えていく。
生身での敗北は認めたと判断しても良いだろうが、やはり最後はISでということだろう。
だが、楯無さんが相手になる訳にもいかないって言ってた以上、多分誰かが代役を努めるのだろう。
……誰かはわからないが、とりあえずアリーナに着けば解ることだな、これが。
「……ヒルト、どういう事だ? 一体何が起きてる?」
事態がわからないラウラは、頭に疑問符を浮かべながら聞いてきた。
「んと。 まあ離せば長くなるんだが、短く言えば俺と一夏のコーチに楯無さんがなってくれるって言ってくれたんだけど、一夏は反抗期からか楯無さんに負けたら従うって事で今はこういう事態に」
「……成る程。 ……ん? ……ヒルトのコーチ……?」
腕を組み、此方を見上げるラウラの表情は怒ってるのが丸わかりだった。
「……怒るなって、確かにラウラや皆に言わずに決めたことは悪いが。 ……実際、俺は四月に彼女から一度教わってるんだよ」
「うふふ。 お姉さんが教えたのは基礎中の基礎だけどね。 ……でも、ヒルト君の役にたったはずよ♪」
左手は腰に当て、右手の人差し指を立てて言うその姿はやはり年上のお姉さんの様に見える。
実際、年上なのだが一歳上よりもお姉さんな感じがする――。
「……まあ、ラウラの教えが悪いからコーチを変えるって訳じゃないぞ? 上級生の一年間の成果ってやつをまじまじと見せつけられなきゃ、わからないからな」
そう言うと、少し頷き小声で話しかけてくるラウラ。
「……成る程。 ……確かに、ヒルトの言うことに一理あるな。 ……だがヒルト、あまりその人と仲良くならないでほしい。 ……これ以上、ライバルが増えると……」
「ん? ……ははっ、先輩が俺を好きになるって? ……それこそあり得ないさ。 だから心配するな、仮にライバル増えてもラウラはラウラだろ? 自分を貫けばいいさ、これがな」
「……そう、だな。 ……うむ。 た、たまには私とデートしろ、いいな?」
赤面するラウラに、笑顔で応えながら頷くと満足したように笑顔を浮かべた。
「……着替え、終わりましたよ」
「あら? 流石に男の子は着替えるのが早いわね。 ……じゃあ、向かいましょうか――第三アリーナへ」
扇子を開き、口元を隠すように笑みを浮かべた先輩は靴を履くためにドアへと向かう。
「……次は負けねぇ。 ……最強だからって、負けるわけにはいかねぇ……」
静かに呟く一夏も、靴を履くためドアに向かう……。
「ラウラ、行こうぜ? 訓練はまた今度にして、色々見学するのも悪くないだろ?」
「……うむ。 嫁と一緒なら私は構わない。 ……ヒルト、次からはちゃんと連絡を――」
「あぁ。 探させて悪かったな、これはお詫びだ。 誰にも言うなよ?」
そう言ってラウラの前髪をかき分け、軽くおでこに口付けを落とすとボシュッという音と共に赤く染まるラウラ――。
「な、なな、なぁっ!?」
「ほら、行こうぜ?」
狼狽するラウラに、笑顔で言うとふらふらした足取りで靴を履きに移動した。
ドアで頭をぶつけたのはご愛敬といった所だろう……。
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