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男女美醜の反転した世界にて

作者:黒色将軍
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アフターストーリー
  アフター1 男のあの日

 
前書き
ベコベア神のお告げを受けて……。

そして、スペシャルサンクス某板の497氏 

 
 この世界にやってきてから早一週間。
 思えば、それはもう、激動の一週間だったように思う。ある日を境に唐突に、男女美醜の反転した世界に飛ばされて、好みど真ん中ドストライク三振ホームラン級の美少女が彼女になってくれて、あまつさえ童貞まで喪失してしまった。
 まさに、人生の確変。底辺ボッチにして超絶ブサメン系男子でしかなかったこの僕が、この世界では正反対の――まさに、あべこべの扱いを受けて、もてはやされている。

 親友と呼べる存在が居て、困ったことがあれば助けてくれる。色々と僕の常識が通用しないこの世界において、時に助言をしてくれて、時には窘めてくれる、彼の――荒井くんの存在は、何物にも代えがたい存在だ。

 美人で可愛くて、最愛にして最高の恋人が居る。
 彼女――翔子とは、まだ付き合い始めたばかりなのだけれど、既に僕のすべては彼女に骨抜きにされてしまっているわけで、残りの人生と全身全霊を賭けて、今の関係を守っていきたいと思える。

 翔子のためだったら、死んでもいい。死の間際に、彼女が傍に居てくれたのであれば、きっと何も恐れることなく、安らかに逝けるに違いない。 
 ――だから僕は、朦朧とする意識と満足に動かない身体に、必死に力を込めながら、ベッドの脇に投げ出されていた携帯電話を掴んだ。

 

「う、うぅうぅ……」

 霞む視界の焦点をなんとか合わせながら、携帯を操作して、電話帳を開く。
 震える指先でたどたどしくボタンを押して、翔子の電話番号を見つけ出し、そして通話ボタンをプッシュした。

「……ううぅ……、だるい……つらい……、気持ち悪い……」 

 コール音が耳元で鳴る。

『もしもし拓郎?』

 ぴったりワンコール後、愛おしい声が、鼓膜を揺さぶった。
 ただそれだけで、襲い来る絶望的な苦しみが、和らいだような気がした。

「……しょう、こ?」
『え……、た、拓郎? どうしたの、なにかあったの……?』

 僕のかすれた声を聴いて、通話口越しの翔子の声に、緊張が走った。

「……、僕はもう、だめかもしれない……」
『だ、だめ? ねぇ、本当にどうしたの? 一体なにが……』
「今朝、目が覚めたら急に……、っ!? う、ぐううぅぅ……!!」
『た、拓郎? い、今の声、なに? どうしちゃったっていうのよ!?』

 ――また、“波”が来た。
 僕は自分の身体を抱きしめるようにして蹲りながら、呻き声を溢してしまう。
 全身を襲う悪寒。頭の中で戦争でも起きているのではないかというほどの激しい頭痛。
 そして……口にするのすら憚られる、不可解で恐ろしい現象が、僕の身体に一部に起こっていた。
 ――僕は悟った。きっと、僕はもう死んでしまうに違いない。理由も原因もわからない。悲劇はいつだって突然に訪れるものだ。
 僕は覚悟を決めた。せめて、せめて最後くらいは、愛しい彼女を近くに感じながら死にたい。その一心で、僕は薄れゆく意識の中、口を動かして翔子に言葉を伝える。

「翔子……僕、僕……」
『今、家に居るの? そうなのね? す、すぐに行くからね? ちょっとだけ待っててね!』
「翔子に会えて、幸せでした……、――……ガク」
『拓郎? ちょっと、冗談やめてよ、拓郎! たくろぉおお!』


 ◇


「拓郎! 大丈夫!?」
「――はっ!?」

 バタンと、力強く開かれた扉。その盛大な音と、翔子の悲痛な叫び声に、停止していた僕の意識が覚醒した。
 ――本当にすぐに来てくれた。ちらり時計を見れば、翔子に電話をかけてから数分と経っていない。きっと、僕と一緒に登校するために、わざわざ家の近くで待っていてくれたに違いない。

「しょ、翔子ぉ……」
「た、拓郎? ど、どうしちゃったのよぅ? か、顔、真っ青だよ……」

 翔子は飛び込むようにしてベッドの脇に座り込んだかと思うと、僕の背中に手を添えて、ゆっくりと抱き起してくれた。
 僕の顔のすぐ近くで、翔子の呼吸に合わせてゆっくりと上下している、ふた房の果物が、頬を掠めているのがちょっとだけ幸せ。
 力の入らない身体が恨めしい。本調子だったなら、そのやわらかな二つの幸福の中に、顔を特攻させているところだというのに。

「なんだか、すっごく、頭が痛くて……それに、下半身が寒くて、痛くて……」
「びょ、病気なの? そんな……」
「それに……」
「それに?」
「し、下が……」
「下?」
「そ、その、なんというか、……止まらなくて……」
「止まらない、って……、……!!」

 翔子は視線を横へ――、僕の下半身へと動かして、絶句した。
 僕が今着用している白黒でチェックのパジャマは、上下ワンセットになっている代物で、当然のことながら上と下で色が違うなんて言うことはない。
 ――にもかかわらず、僕のパジャマは下だけが、上着と比べて明らかに色が濃くなってしまっている。
 パッと見は、まるで寝小便でもしてしまったかのような様相だ。だが、現実はそれ以上に壮絶だった。

「こ、この臭い……、こ、これは……、――ぺろ」

 翔子はわざわざ僕の下半身に人差し指を這わせて、ペロリと舐めた

「――これは、精液!?」 
「なんで今、わざわざ味見したの?」

 今朝方から、僕の下半身からは堰が外れてしまったかのように、精液が次々と溢れ出して止まらなかったからだ。

「うぅ……恥ずかしいよ……」
「た、拓郎……これ……」

 おびただしい量の精液とカウパー線液が、パジャマのズボンを変色させてしまっていたのだ。
 これが、僕を今朝方から僕の身に突然降りかかった異変の、その全貌だった。頭の中で第三次世界大戦でも始まっているかのような頭痛。腰と下半身で餅つきでもしているかのような衝撃と激痛。
 極めつけに、水道の蛇口を少し捻ったまま放ったらかしにしたかのような様相で溢れ出してくる男汁……、即ち精液。
 それらが混ざり合って、不規則な“波”と共に、僕の身に襲い掛かってきていたのだ。その“波”が来るたびに、僅かに捻られていただけの蛇口が、急激に開かれるようにして精液が噴出する者だから、もうなんかもう、恐ろしいったらありゃしない。

 ――これはもう、不治の病に違いない。
 経験したことのないような頭痛と腰痛。あと、睾丸が重くて痛い。漏れ出してくる精液の量は明らかに僕の貯蔵量をオーバーしてるし。

「うぅ……、翔子、……助けて……」
「そ、その、えっと……」

 悲観しきった僕とは対照的に、翔子は顔を赤くしながら、なんだか困った顔をしていた。

「お、お薬は、もう飲んだの……?」
「く、薬? そんなのあるの?」
「いや、多分あると思うわよ? 切らしてたりしなければだけど……」
「もしかして、翔子にはこれがなにかわかるの!?」
「わかるっていうか、私でも知ってるというか……。その……」
「お、教えて!」

 視線を右往左往させながら、翔子は適切な台詞を探すようにして、たどたどしく述べる。

「その、男の子の、アノ日ってやつで……、えっと、単刀直入に言えば……」
「い、いえば?」
「――……、生理じゃない?」


 ◇



「そうか……、これが生理なのか」

 数十分後。パジャマから着替えた僕は、リビングで翔子とテーブルを挟みながら、お茶を啜っていた。

「んもう、死にそうな声で電話かけてくるんだから、何事かと思っちゃったじゃないの」
「ごめん……。」

 あれから、なんでか引き出しの中に入っていた生理痛用の薬を飲んでしばらくすると、先ほどまで僕を襲っていた苦痛が、綺麗さっぱり回復した。
 まだ本調子というわけではないけれど、それでも、先ほどまでの苦しみから比べれば天と地の差だ。
 ――何事かと思ったら、何でもない……とは、流石に言い難いけれど、なんのことはない、僕の身に起きていた一連の出来事は、つまりこの世界の男なら、誰もが経験することになる生理現象であり、つまりただの“生理”だった。
 男が生理って……。この世界にやってきてから一週間。いまだに、僕の常識とのギャップには驚かされる。

「何事もなくてよかったわよ、ホント」
「面目もございません……」

 本当に、面目なかった。穴があったら入りたい。
 恋人の目の前で精液を垂れ流しにしてしまって、その上で介抱までされてしまうとは。これなんて羞恥プレイ?
 今は、なぜかベッドの下にストックされていた生理用のオムツを履いて、事なきを得ているのだけれど。しかしながら、その中身では依然として、チョロチョロとお漏らししているような気分になってしまって、物凄く落ち着かない。

「女の私にはよくわかんないんだけどさ、その、そんなに辛いのね。月ものって」
「いや、まあ、うん……」

 僕も今日まで知らなかったよ。
 『生理』なんて生理現象、男には無縁の存在だったからね。

「……翔子はさ、男の生理について、どれくらい知ってる? 翔子の知ってること、教えてほしいな」
「女の私にそれを聞くの?」

 この際なので、翔子にご教授願うことにする。 
 僕の常識とこの世界の常識を擦り合わせるためだ。

「いや、なんていうか、翔子って保健体育の成績良さそうじゃんか。男の僕より詳しかったりしても、不思議じゃないかなって」
「それ絶対褒めてないわよね? まあ、実際、保健体育のテストで満点以外を取ったことはない程度の成績だけれど」
「流石翔子」

 こうして、僕は翔子に、この世界の、“生理”について、教えてもらった。
 実はムッツリスケベであった僕は、元の世界では保健体育はとても得意な教科だった。そしてその知識は、この世界においても十分に応用が利くものであった。
 ――生理とは。
 曰く、『月のモノ』、『下り物』、『月経』、『月事』などという呼び名があり、健康的な男ならば、誰もが毎月経験する現象である。十歳から十五歳くらいまでの間にほとんどの男性が『初潮』を迎えて、精子の製造が睾丸内部で始まるのだという。
 その症状には個人差があるものの、概ね、激しい頭痛と腰痛に、睾丸から下腹部にかけての鈍痛、これらがまとめて『生理痛』と呼ばれている。――ここまでは、僕の知っている『生理』そのものだ。一部おかしかったけれど。ただの男女差で説明がつく。
 ここからが未知のエリア。
 曰く、人によって個人差はあるけれど、生理中は長時間に渡って精液が垂れ流しになってしまったり、溜まった精液が一度に凄まじい量で固まって噴出されたりしてしまうのだという。
 ――僕の場合は、その両方。
 常に微量を垂れ流しにしつつ、波に乗って一定量の液を射精してしまう。これが所謂、『重い症状』というヤツであるらしい。  今は薬を飲んで大分落ち着いてはいるけれど、未だに残っている気だるさと、精液垂れ流し状態が、これから二~三日は継続するというのだから、どうにも、辟易としてしまう。

「流血はしないんだね」
「……下から血が出るなんて、それこそ不治の病だと思うわよ」
「そうなんだね」

 そういうものらしい。血は苦手なので、それは嬉しい情報だった。白黒チェックのパジャマが、赤黒く染まるなんてスプラッタは勘弁してほしいところだ。

「……普通、男の子って、女が生理なんて言葉を口にするだけで烈火の如く怒るものだと思ってたんだけど」
「多分、僕以外の男にとっては、その通りだと思うよ」

 常識的に考えて。
 元の世界では、月のモノというのは非常にデリケートな問題で、とても繊細な扱いがされていた。
 女性の前でそれを口にすれば、たったそれだけでも、セクシャルハラスメント認定を受けてもおかしくないくらいだったはずだ。
 その男女が反転してしまっているのなら、翔子がやってくれたように、生理についての知識を男の前でつらつらと語るなんて、完全にアウトだろう。

「……拓郎ってホントに不思議」
「そうかもね」

 僕としては、まさか自分が生理なんて摩訶不思議な症状に悩まされることになるなんて、未だに実感がないわけで。
 むしろ、女の子である翔子に、"生理"について詳しく説明をさせてしまって、なんだか申し訳なくて、後ろめたい気分。僕の方が翔子に対していやらしいことをさせているみたいな感じだ。
 まだまだ、この世界の常識には慣れることができない。その内、こんなギャップにも適応できる日が来るのだろうか……。
 ――と。まあ、それは置いておいて。

「そういえばさ。さっき教えてくれた保健体育的な講義の中で、言及されていなかった部分があるのだけど」
「……はて? なんのことでしょ」

 ――それは、朝から今まで。死にそうになるほどの苦痛と同時に、僕を悩ませていたもう一つの要素だ。
 薬を飲んだ今、苦痛と不快感に関しては軽減されたのだけれど、“それ”だけは未だに僕の身体を蝕んでいたのだ。

「生理中って、すんごいムラムラするんだよね」
「――」

 恥も外見も身も蓋もないことを、言ってのけてしまった。
 しかし、言わずにはいられなかった。基本的に内気で、我ながら恥ずかしがり屋でシャイボ―イな僕だけれど、この果てしなくムラムラとした気分は、如何ともしがたいものだった
 生理用オムツの中では、ギンギンに滾って昂ったおち○ぽ様が、テーブル越しの翔子に対してこれ以上ないくらいに欲情してしまったいたのだ。


「ベッドは……、今はシーツを洗濯しちゃってるから、さすがにアレだけど、そこにソファならある」
「……や、ちょ、ちょっと、拓郎……?」
「今日は普通に学校があるけれど、今から登校しても、遅刻は間違いないよね」
「そ、そんな……でも」
「翔子さえよければ、もう学校サボって一日中セックスしない? ……っていうか、イヤって言ってもする。今日は逃がさん」
「い、いやいや、駄目よ拓郎。わ、私たち、学生で、それに、拓郎も体調悪いんだから……、私が我慢しなきゃ……。で、で、でも、ぶっちゃけ 私もむせ返るようなの匂いに精臭に性的な意味でくらくらしてたっていうか、さっきのパジャマのズボンの匂いを嗅いで軽くイッちゃったっていうか」

 語るに落ちるとはこのことか。もはやわざとやっているとしか思えないような堂々とした物言い。
 視線を明後日の方向に逸らしながらも、その期待と欲情に満ちて、真っ赤に染まってしまっている表情。今の僕の理性を打ち砕くのは十分すぎる威力だった。

 ――この後、滅茶苦茶セックスした。

 
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