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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第278話】

――生徒会室前――


 楯無さんに案内され、生徒会室の前までやって来た俺と一夏の二人。

 ドアを開けようと手を伸ばすが、中から聞こえてくる声に何処か聞き覚えがあった……。


「……いつまでぼんやりしてるの」


 優しい声色で、まるで姉がだらしない妹に声をかけてるように聞こえてくる。


「眠……夜……遅……」


 もう一人の声は、何だか最近聞いた気がしなくもない。

 ……声質からすると、のほほんさんに近い気がした。


「しゃんとしなさい」

「了解…………」


 そんな中のやり取りを聞いてると、楯無さんが――。


「ヒルト君、どうしたの?」


 自然と覗き込むように顔を近付けてくる楯無さんに、俺は――。


「……何だか、一組生徒の一人が居るような?」

「ああ、そうね。 ヒルト君の言う通り、キミ達の良く知る子が居るからね」

「え? 俺やヒルトが知る子……? 誰だ……?」


 そんな一夏の呟きは虚しく吸い込まれていき、楯無さんは遠慮なくドアを開けた。

 学園全体で言えるが、基本的に開き戸は軋みの一つも立てない所を見ると、しょっちゅうメンテナンスしてるか、かなり上質な物を使ってるか、または両方か……。


「ただいま。 ほら、ヒルト君も織斑君も、遠慮せずに入りなさい」


 そう促され、生徒会室へと入るとまず出迎えたのが――。


「お帰りなさい、会長。 そして、ようこそ有坂緋琉人君、織斑一夏君」


 リボンの色で三年生だとわかった。

 眼鏡に三つ編みが似合う女性で、近所の優しいお姉さんの様に見える。

 そして、その後ろに居たのは――。


「わー……。 ひーくんだ~……おりむーもいる~……。 ひーくん~……昨日はおつかれ~……」


 眠たげな表情ののほほんさんがそこに居た。

 一夏は意外そうな顔をしてるが、居るからには居るとしか思わず、手を振ったのほほんさんに応える様に手を振り返す。


「ふふっ、二人は仲が良いのかしら? お姉さん、妬けちゃうわね♪ ヒルト君も織斑君も、そこにかけなさいな。 お茶は直ぐに出すわ」

「は、はぁ……」

「すみません楯無さん。 ありがとうございます」

「うふふ♪ まあお姉さんは座ってるだけなんだけどね。 虚ちゃん、任せるわね」


 ……三年生に丸投げする楯無さんに、何でお礼を言ったのか少し悩んでしまった。

 いや、楯無さんが誘わなければお茶は飲めないのだからやはり感謝するのが人として当たり前か。

 そんな事を考えていると、のほほんさんは眠気MAXなのか、机に突っ伏す様に――。


「お客様の前よ。 しっかりなさい」

「無理……。 眠……帰宅……いい……?」


 喋るのですら億劫なのか、単語が飛び、部屋に帰っても良いかと訊いてるようだ。

 ……だが――。


「ダメよ」


 そんな無情な言葉に、小さく唸り声をあげると共に少しだけ顔を上げた。

 今の表現は、たれパンダもとい、たれのほほんさんといった所か。


「昨日は遅かったのか、のほほんさん?」


 俺の問い掛けに、反応したのかゆっくりと口を開く。


「うん……。 深夜……壁紙……収拾……連日……」


 各々の単語を言っていくのほほんさんに、一夏は――。


「う、うん?」


 ――といった感じで、意味を理解してないように思えた。

 断片的だが、連日深夜までお気に入りの壁紙をデータ保存して収拾していたという所だろう。

 どんな壁紙かは解らないが、のほほんさんだと動物とかだろうか?


「あら、あだ名で呼ぶなんて、やっぱり仲いいのね二人は」


 そう言いながら、優雅に腕組みをして座席にかける楯無さん。


「まあ其なりにはね。 のほほんさんとは時折話したりしてますから」

「うん~。 お互いあだ名呼びだかららぶらぶ~……てひひ~」


 にへらっと笑うのほほんさんに、俺は――。


「いや、のほほんさん? ラブラブーって言ってもさ、デートすらしてないのにラブラブは無いんじゃ……」

「ええ~!?」


 俺の言葉に反応し、眠気も飛んだのか大声を上げて起き上がった。


「ひどい、ずっと私をあだ名で呼ぶから……てっきり好きなんだと思ってた~……」


 顔を手で覆うのほほんさんを見た一夏は――。


「ヒルト、お前女の子を泣かせるなよ。 最低だな……」


 ……何だろう、このモヤモヤした気持ち――お前が言うなって声が聞こえてくる気がする。


「あ、えと……ごめんなさい。 のほほんさん……」


 頭を下げ、謝る俺の前にティーカップを持ってきた三年生女子が口を挟んだ。


「本音、嘘をつくのも嘘泣きもやめなさい」

「へ? 嘘……?」


 頭を下げてた俺は、上げると共に視界に映ったのはのほほんさんは、舌を出して可愛い笑顔を見せていた。


「てひひ、バレちゃった。 わかったよー、お姉ちゃん~。 ひーくんごめんね~……」


 流石に悪いと思ったのか、ぺこりと頭を下げるのほほんさんに――。


「い、いや、別に構わないんだ。 泣いてないなら……ホッとしたよ」


 安堵のため息をつくと、一夏はのほほんさんの言葉が気になったのか――。


「お姉ちゃん?」


 そう言って、一夏の前にティーカップを置く三年生女子に聞くと――。


「ええ。 そういえばまだ自己紹介してませんでしたね。 私は布仏虚(のほとけうつほ)。 妹の本音共々、改めてよろしくお願いします」


 折り目正しく、頭を下げる彼女に対して俺も――。


「此方こそよろしくお願いします。 もう知ってると思いますが、自分は有坂緋琉人――一組クラス代表をさせていただいてます」

「わ~。 ひーくんの丁寧な挨拶はレアだ~。 ぱしゃぱしゃ」


 余程珍しかったのか、自分の携帯で写メを撮り始めるのほほんさんに、布仏先輩は――。


「こら、有坂君を勝手に撮ったらダメでしょ?」

「はーい~……。 ……でも、ひーくんメモリーに保存保存~」


 ……俺の写メ撮ってどうするんだろうか?

 ……と、保存を終えたのほほんさんが笑顔で口を開いた。


「むかーしから、更識家のお手伝いさんなんだよー。 うちは、代々~」


 代々って事は、かなり昔からそういった関係なのだろう。

 ……まあ「むかーしから」って言ってたから当たり前か。

 笑顔を見せるのほほんさんを見てると、一夏は――。


「えっ? ていうか、姉妹で生徒会に?」


 ……まさか今更そこに気づくとは、挨拶してここに居るって事は大体そうだろうし、何より布仏先輩は今朝、壇上で楯無さんの事を呼んでたのに――。

 そんな一夏の言葉に、苦笑しながら楯無さんは――。


「そうよ。 さっきもキミ達に言ったけど……生徒会長は最強でないといけない。 でも、他のメンバーは定員数になるまで好きに入れていいの、 だから、私は幼なじみの二人を入れたのよ。 ……本当は、もう一人入れたい子が居るけどね」


 少し寂しそうな笑顔を見せた楯無さんに、引っ掛かりを感じるのだが次の瞬間にはいつもの笑顔へと戻っていた。

 のほほんさんも、少し表情の陰りを見せたが、同じようにいつもののほほんとした表情に戻る。


「お嬢様にお仕えするのが私どもの仕事ですので」


 そう言い、まずは客である一夏から順にティーカップにお茶を注いでいく布仏先輩。

 手際の良さに、いつも彼女がお茶入れをしてるようだ――いい秘書になれると思う。


「あん、お嬢様はやめてよ虚ちゃん♪」

「失礼しました。 ついいつものクセで」


 互いに微笑を溢しながらやるこのやり取りに、やっぱり幼なじみだなぁっと思う。

 俺も未来とは、たまにこんな感じでふざけたりするから。

 それはそうと、更識家は名家なのだろうか?

 俺はあまりそういう事に詳しくなく、どちらかと言えば少し疎い方なので解らないのだが――。


「有坂君、どうぞ」

「ありがとうございます、布仏先輩」


 柔らかな笑顔でお茶を注ぐ布仏先輩にお礼を言うと、一礼してから楯無さんのティーカップに注ぎ始めた。


「本音ちゃん、冷蔵庫からケーキを出してきて」

「はーい。 目が覚めた私は凄い仕事出来る子~」


 満面の笑顔でそう言うと、遅い速度で冷蔵庫へ向かうのほほんさん。

 一夏をちらりと見ると、今ののほほんさんの言葉を疑ってるのが目に見えるぐらい表情から読める。

 ――そういや、人をバカにするときもこいつって表情に出るから六月の時に鈴音やセシリア、美冬から総スカン食らってたよな。

 ……内心どう思うのは勝手だが、表情に出すのはどうかと思う。

 そうこうしてる間に、のほほんさんは冷蔵庫からケーキを持ってきた。


「ひーくんー、ここはねー。 ここのケーキはねー。 ちょおちょおちょおちょお~……おいしいんだよー」


 どれだけ美味しいのかを身体いっぱい使って表現するのほほんさん。

 箱からケーキを取り出し、フォークを使って食べだした。

 ……普通、まずは皆に配ってから食べないのか?


「やめなさい、本音。 布仏家の常識が疑われるわ」


 流石に姉として見てられなかったのか、口調は優しいものの何処か威圧感を感じさせる言葉に聞こえる。


「だいじょうぶ、だいじょうぶっ。 うまうま♪」


 ペロペロとケーキのフィルムについたクリームを舐めるのほほんさん。

 口元についた生クリームが妙にエロく見えるのは、俺が欲求不満だからかもしれない。


「…………」


 布仏先輩は、笑顔だがその後ろには修羅を立たせている様な佇まいで、行儀の悪い妹の頭をグーで叩いた。


「うええっ……。 いたぃよぉ……お姉ちゃん……」


 半場涙目ののほほんさんは、姉である布仏先輩を見上げるが、そこに居たのは握り拳を作った修羅が居た。


「本音、まだ叩かれたい? ……そう、仕方ないわね」


 柔らかな笑みを浮かべ、拳を掲げる姉に、妹は――。


「まだ何も言ってない~。 言ってないよ~」


 流石に二度もげんこつを受けては堪らないのか、ブンブンと頭を振るのほほんさん。

 そんな二人を見た楯無さんは苦笑しながら――。


「はいはい、姉妹仲がいいのはわかったから。 お客様の前よ?」


 軽い叱責をする楯無さん、勿論怒ってる訳ではなく、俺達二人が居るのだから自重するようにということだろう。


「失礼しました」

「し、失礼、しましたぁ……」


 二人して頭を下げるが、のほほんさんはまだ痛いのか頭を擦っていた。

 そして、改めて生徒会メンバーの三人は俺や一夏に向き合う。


「一応、二人には最初から説明するわね。 ……まず、織斑君が部活動に入らないことで色々と苦情が寄せられているの。 ヒルト君に関してはそんな苦情は無いのだけど、やっぱり織斑君を入部させたならヒルト君も入部させないといけないって事になっちゃって……」

「……何となくわかりますよ。 ……まあ、各部活動が労働力として一夏のついでに俺もって所だろうと思いますし」

「ん? 何でヒルトだけ労働力何だ?」


 ……俺の立場、ここまで理解してないとはこいつって絶対人の事考えないよな。

 仮にシャルの詐称でも、何だか問題を投げっぱなしにしそうな気がする。

 ……いちいち苛ついても仕方がないので、俺は黙ったまま楯無さんの言葉に聞き入る。


「それでね、変な言い方だけど交換条件として、これから学園祭の間まで、私が二人を特別に鍛えてあげようかと思ってね。 ISの操縦に関しても、生身や精神的な面でもね」


 ……交換条件ってのは解らないが、更にステップアップする為には断る理由は無いだろう。

 ……だが一夏は――。


「遠慮します」


 みすみす成長するチャンスを潰す一夏に、呆れを通り越してある意味尊敬に値すると思った――悪い意味で。


「まあそう言わずに。 ヒルト君はどうかしら?」

「俺は断る理由は無いですよ。 慎んで承ります――だと、言葉がおかしいかな、ハハッ」

「ふふっ、そんな事ないわよヒルト君♪」


 互いに微笑を溢す俺と楯無さん――と。


「あ、織斑君、お茶飲んでみて。 美味しいから」

「……いただきます」


 ……もうちょい言葉に棘がなかったら良いのだが。

 ティーカップに口をつけ、ゆっくりと一口紅茶を飲むと――。


「……成樹の紅茶にも負けない味だ……」


 そう小さく呟くが、楯無さんには聞こえていたようで――。


「ふふっ、成樹って……ヒルト君の友達?」

「え? えぇ、俺の親友ですね。 ここに入ってからあまり会えないけど、友情だけは永遠にかわらないですよ、俺と成樹は」


 そう言うと、楯無さんは優しく頷き――。


「ふふっ、変わらない友情はいつまでも大切にね? あ、二人とも、ケーキも食べてね」


 そう言うものの、のほほんさんのキラキラとした眼差しが視界に映る。

 一夏は気にせず食べているが――。


「……のほほんさん、良かったら食べる?」

「え!? いいの~!? ……で、でも……」


 姉が気になるのか、ちらりと見るのほほんさん。


「布仏先輩、 のほほんさんにあげても良いですか?」


 そう俺が言うと、のほほんさんを見る布仏先輩。

 妹のキラキラとした眼差しに負けたのか――。


「……仕方ないですね。 本音、ちゃんとお礼を言いなさい?」

「わぁー! お姉ちゃん~、ありがとう~。 ひーくん~、今度でーとに付き合ってあげるね~。 ありがとう~」


 差し出したケーキを受け取ると、美味しそうに食べ始めるのほほんさん。

 そんな姿にほっこりしつつ、再度紅茶を飲むと楯無さんは――。


「ふふっ、織斑君。 私の指導、受ける気は?」

「いや、だからそれはいいですって。 ……大体、どうして俺やヒルトに指導してくれるんですか?」


 これに関しては単純明快だ。

 俺も一夏も【弱い】……美冬たちは、俺は弱くないとは言うが、俺自身そうは思わない。

 まだ精神的な面でも弱いし、IS操縦に関してもまだまだ未熟な面が見える。

 ……と、楯無さんは率直に言葉を口にした。


「それは簡単。 ……キミが弱いからだよ。 それも、ヒルト君よりも……ね」


 不敵な笑みを浮かべる楯無さん。

 だが……何で俺も弱いと言わなかったのだろうか?

 この間の模擬戦だって、手も足も出なかったのに……。

 そう思っていると、握りこぶしに力を込めた一夏は立ち上がり――。


「俺は……弱いつもりはありません」


 ムッとした表情の一夏は、楯無さんを睨み付ける。

 弱いと面と向かって言われたからだろうか――。


「ううん、残念だけど……キミは弱い。 それも無茶苦茶弱い。 ヒルト君と比べても解るぐらいの差にね。 ……勿論、ヒルト君も技術的に未熟な部分もあるわよ? ――でも、キミはそれに輪をかけるぐらいに弱いの。 だから少しでもマシになるように私が鍛えてあげようというお話」


 こう正面から言われた一夏は、流石に怒りを堪えきれなかったのか――。


「……ッ! じゃあ勝負してやろうじゃねぇか! 男がそこまで言われて、黙ってられねぇッ!! それも、殆ど初対面の先輩に何でそこまで言われなきゃならないんだ!!」


 机を叩き、怒りを隠さない一夏を他所に、のほほんさんはケーキを食べ、布仏先輩は紅茶を一口飲み、楯無さんはニヤリと笑っていた。


「じゃあ行きましょうか。 まずは生身での勝負……からね? ヒルト君、キミも着いてきて」

「……了解です」


 そう短く返事をすると共に、ほぼ同時に俺と楯無さんは立ち上がる。

 ……まあ一夏にはいい薬になるだろう。

 そう思い、俺達三人は生徒会室を後にした――。 
 

 
後書き
次回は裏奥義が出ます 
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