IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第284話(甲龍編)】
前書き
甲龍編です
――第三アリーナピット内――
「……お待たせ。 一応衝撃砲とか機密に関わる情報のロック、後はパーソナライズとフィッティングは切ってあるわよ」
「あぁ。 手間かけて悪いな、鈴音」
甲龍から降りた鈴音にお礼を言うと――。
「べ、別に良いわよ。 ロックって言っても、そんなに手間じゃないんだし。 ……それよりも大丈夫なの? 少なくとも、フィッティングもパーソナライズも切ってあるんだから甲龍の性能、大方八割ぐらいしか出せないんだけど――」
「……まあ成るように成るだろ? 刹那的な考えだが、油断さえしなきゃ、甲龍には衝撃砲もある。 ……まあ、瞬時加速は禁止されたけどな」
これは楯無さんからの条件で、一夏には伝えないらしい。
衝撃砲を禁止にしなかったのは、一夏の霞衣が発動すれば衝撃砲も無効化されるからだろう。
……それでも牽制に使えるし、悪くはないはずだ。
「……ま、まあ? アタシの甲龍使うんだから、負けたら許さないけどね?」
「……おぉぅ。 負けたら何かめちゃくちゃ奢らされそうだしな」
「……ふふん。 負けたらあんたの財布、破産させるぐらい奢ってもらうから、覚悟しなさいよ!」
キラリと光る八重歯を見せて笑う鈴音。
結構本気で破産させそうな気がするのは気のせいでは無いようだ。
「……てかさ、俺が勝ってもいいのか?」
「ん? ……良いに決まってんじゃん。 アタシに遠慮なんかしなくて良いわよ? ……一夏には、今度酢豚の事言うつもりだし」
……酢豚?
……ヤバい、記憶力はそこそこいい筈なのに、思い出せないどころか中華料理食べたくなってくる。
特に炒飯や餃子――と。
「そ、そういえばアンタさ。 ち、中華料理で何が好きなの?」
「ん?」
後ろに手を組み、覗き込むように見上げる鈴音。
心を読まれたのかと思ったが、どうやらそういう訳ではなさそうだ。
「一応炒飯とか餃子だな。 肉まんも好きだし……ヤバい、腹減る……」
そう言ってお腹を擦ると、鈴音は楽しそうに笑い始めた。
「ぷっ……あははははっ♪ これから一夏と試合なのに、もうお腹が空いただなんて♪ わ、笑わせないでよっ、はははっ♪」
腹を抱えて笑う鈴音だが、お腹が空いたのは仕方ないのだ。
生理現象みたいなもんだし。
一頻り笑ったあと、目尻に浮かぶ涙を拭うと鈴音は――。
「ふふっ、仕方ないからアタシがもっと上達したらアンタの好きな料理、振る舞ってあげるわ。 毎日ね」
片目を閉じ、若干照れ笑いを浮かべる鈴音に俺は――。
「毎日中華? それは飽きそうだからまた別のも作ってくれよ」
「へ? ……し、仕方ないわね。 また肉じゃが作ってあげるから、それで我慢してよね?」
そう人差し指を立てて偉そうに胸を張るが、生憎と張るほど胸は無い。
……っても、とある誰かが貧乳はステータスだ、希少価値だって言ってたが。
まあ確かに、最近は胸が小さな女の子は少ない気がするがな、これが。
「さて、あんまり一夏を待たせても仕方ないし……行くかな」
そう言って勢いよく甲龍に乗り込み、背中を預けると各種装甲が自動的に纏われる。
……少々腕や足を締め付ける圧迫感を感じるものの、動きにはあまり支障はなさそうだ。
ぐるんっと腕を回し、稼働域を調べてから双天牙月を呼び出す。
「じ、じゃあアタシは観客席に戻るからね? ……アタシの事は気にしなくて良いから、勝ちなさいよ?」
「了解した。 ……んじゃ、また後でな」
そう言って拳を突き出すと、笑顔を見せながら突き出した拳を重ねる鈴音。
それが終わると、ツインテールを靡かせながら観客席に走っていった――。
それを見送るとほぼ同時に声が聞こえてくる――。
『アンタがヒルト? ふーん』
『……誰だ? ……てか、甲龍のコアか。 語りかけてくる感覚、ムラクモと同じだしな』
そう心の中で返答すると――。
『そうよ。 アタシの名はシェンロン。 ……言っとくけど、ボール七個持ってきても願いは叶えられないからね?』
『は?』
思わず出た言葉に、シェンロンと名乗ったコアは慌てて咳払いし――。
『ご、ごほんっ!! 何でも無いわよッ! ……一応、アンタの戦い方、見させてもらうからね? 下手な戦いしたら、追い出すからね!』
言いたいことを一通り言ったシェンロン。
言葉が聞こえなくなると、語りかけても応えなくなっていた。
「……よく分からんが、無様な戦いしなければいいんだな」
そう一人でごちり、俺はピット口へと足を進めていった――。
――第三アリーナ中央――
カタパルトから射出され、静かに待っていた一夏の元へと飛翔していく。
「……鈴の機体か。 なら気を付けるのは衝撃砲だな」
そんな静かな呟きも、ハイパーセンサーは拾い上げるので迂闊に独り言は呟けないな。
「……一夏、お前が素直に楯無さんの言葉を認めてくれればこんな面倒な事も――」
「……言われっぱなしじゃ、男として許せねぇんだよ。 俺は弱くない。 ……ヒルトに勝って、それをあの人に証明させるッ!」
雪片を両手で構える一夏。
それに応える様に、俺も双天牙月を構える。
シグナルが点灯すると、観客席に走る女子生徒が見える――篠ノ之だ。
アリーナのバリアーで遮られてる為、言葉は届かないが多分一夏の応援だろう。
……だからといって、それが一夏の力になるかは分からないが。
二つ目のシグナルが点灯――飲み物を買ってきたのか、他の女子生徒も続々と集まりつつある。
――大丈夫、例え甲龍が八割の力しか発揮出来なくても、普段通りにやれば問題ない。
静かに瞼を閉じる――視覚が無くなった事でより鮮明に聴覚が鋭敏になったのか、吹き抜ける風の音が聴こえてくる……。
シグナル三つ目が点灯――試合開始のブザーが鳴り響くや、いきなり互いの刃が触れ、鈍く耳障りな金属音が聴こえてきた。
初撃は互いに刃を交えたつばぜり合い――。
「幾ら甲龍がパワータイプって言ったって、俺の白式もパワーなら負けねぇッ!!」
「……力比べ? ……悪いが、それに付き合うつもりはないな、これがなッ!!」
双天牙月を握る力を抜くと、力押ししていた一夏の体勢が前のめりになるのを見て一夏の真下を取る。
「……っ!?」
白式の脚部装甲を掴むと、一夏の表情が変わった――そして。
「クッ……瞬時加速で振り切――」
「遅いッ!!」
掴んだ脚部装甲事地上へ降下――なすがまま、一夏も俺に引かれて地上へ。
加速する勢いそのまま、アリーナ地上に叩き付ける。
「がはっ……!? くっ……まだまだぁッ!!」
叩き付けられた衝撃で、苦悶の表情を浮かべる一夏だが、直ぐに体勢を整えると真っ直ぐと突きの構えで突撃をかけてきた。
それを見、両手を前面に出し、肩の衝撃砲の砲口がスライドして開く。
「……ッ!?」
俺の行動を悟ったのか、直ぐに左腕の霞衣を起動させ、零落白夜の盾を張る一夏だが――。
「……貰ったッ!!」
「なっ!? 衝撃砲撃たねぇのかッ!?」
間合いを詰め、振りかぶった双天牙月による強烈な横一閃――大きく空気を切り裂き、白式に直撃を浴びせると双天牙月の質量からか真横に吹き飛ぶ一夏。
張られていた零落白夜の盾、霞衣の起動を止めていたのを見逃さず、開いた砲口のままの衝撃砲最大火力による二連射を倒れていた一夏に撃ち込んだ。
最大火力はウェイトタイムが長く、使い所は難しいがああいう風に倒れ込んだ相手への追い討ちには最適だと思う。
それに、まだ一夏は空中での制御機動はオートに頼りきってる。
オートなら確かにそこに意識を割かなくていいが、それだとそこがいつか盲点にもなりうる。
粉塵が舞い散る中、立ち上がった一夏は直ぐに左腕の雪羅を月穿へと切り替え始める。
距離が開いたからこその遠距離射撃だろう――だが。
「間合いを詰めてくる……!? なら、こっちだ! 零落白夜ッ!!」
直ぐに接近戦だと判断した一夏は、右手に雪片を構え、左腕からは零落白夜の光刃が放つブレードモードに切り替えていた。
そうなると、わざわざそう【誘発】させたかいもあるもので、その場で上空へと跳躍――両手にある衝撃砲【崩拳】と肩の衝撃砲【龍咆】による速射性の高い見えない弾丸による雨が降り注ぐ――。
「くっ!? 接近戦しねぇのかよッ!? ハアァァアアアッ!!」
二刀流による零落白夜の空間への無差別斬り――それにより、多くの衝撃砲の弾丸はかき消されたが、それ以上に一夏のシールドエネルギーの消耗は大きかった。
見た目は派手な切り払いだが、【低威力の速射性の高い衝撃砲】に対しての対処としては一番最悪な形にしか見えない。
もちろん、観客へと魅せる技として見るのならば盛り上がること間違いないだろう。
だが、残念だが模擬戦の試合は人伝で訊いて来た人しかいないので意味がない。
話を戻すとして、明らかに全弾受けるよりも大きなエネルギー消費のある零落白夜二刀流での衝撃砲かき消しを選ぶ辺り、判断ミスが目立つ。
今の切り払いで大きく消耗した雪羅のブレードモードは、そのエネルギーを四散させ、雪片のみが光刃を輝かせていた。
「ハァッ、ハァッ……!」
「もう息が切れたのか? ……まだ、決着はついてないから休むなら勝敗を決めてからにしようぜ、一夏!」
突発的な加速で急降下する俺に、光刃輝く雪片で待ち構える一夏。
真っ直ぐ突き進むと判断したのか、前に構えるのを直ぐに俺は見て判断すると【三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)】で後ろを取る。
「なっ……!? クロス・グリッド――」
「隙ありってな、これがぁッ!!」
加速し、更に質量の乗った双天牙月による一撃はウィング・スラスターに深い切り傷をつけると同時に、がら空きとなった背部に強烈な一撃を叩き込む。
その衝撃に、前へ吹き飛ぶのと同時にウィング・スラスターが小さく爆発――その衝撃が決め手となり、試合終了のブザーと共に一夏は倒れ込む。
最後の最後に同乗者の身を守った白式は、そのエネルギーを使い果たしたのか粒子となって四散していった。
「……ッ! また……負けるなんてッ!」
拳を地面に叩き付ける一夏は、立ち上がると――。
「……何で使い慣れてない衝撃砲を使って勝てるんだよ……」
「……簡単だよ。 使い手の鈴音がいい手本になってるだけさ、これがな」
……時間に余裕がある時は、代表候補生の模擬戦の入った映像を見るときもある。
そこで色々見て動きなどを見てるが、そういったのが役にたったのかもしれない。
悔しそうに見つめる一夏を他所に、俺はピットへと戻っていった――。
後書き
次回はレーゲン編
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