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SM的スポーツジム

作者:天沢
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#1誘い

 後輩に誘われてやって来たスポーツジムの更衣室で、貸出し用のウェアに袖を通す。品田祐次(しなだ ゆうじ)は、どこか緊張が滲んだ顔をしていた。
 幾つか理由はあったが、最も大きいものは初めて訪れたジムに対するものではなく、ここへと誘ってきた後輩に対してだった。
 艶やかな黒髪に、愛くるしい大きな瞳。小さいながらに筋の通った鼻、薄い唇。
 可憐な美少女然とした容姿の後輩に、祐次は以前から好意を寄せていた。

(……ううん。レンタルだから仕方ないとは言え、あまり見栄えは良くないな)

 更衣室出口にある姿見に映る自分を見て、祐次は眉をしかめた。
 後輩に良く見られたいらしく、彼はしばらく悩んでいた。
 やがて諦めがついたのか、学園指定のジャージをこの場で着るよりはマシだと言い聞かせて更衣室を後にした。
 後輩とは休憩スペースで落ち合う予定になっていた。
 落ち着きなく周囲を見渡しながら、祐次はそこへ向かっていった。
 
(学生っぽい人はあまりいないな。……当たり前か。運動したい奴は部活にでも参加してるもんな)
 
 かつては祐次と後輩も部活に励んでいたが、今の学園へ進学してからは帰宅部だった。進学してからも同じことを続けられれば良かったが、この学園には彼らが夢中になっていたものはなかった。



「先輩、遅かったですね。何かありました?」

 休憩スペースで待っていた後輩、塩屋文音(しおや ふみね)は祐次の姿を見つけると小走りで彼の下へ向かった。

「……いや、大丈夫。ちょっと迷って」

 そう首を横に振った彼の顔は紅潮していた。
 祐次の視線は、文音の顔と身体を行ったり来たりを繰り返す。
 ピンク色のタンクトップが女性らいし体つきの輪郭を描き、細い脚には足首までの黒いレギンスが張り付いている。

「……先輩?」

 視線に気付いたのか、文音が怪訝な顔で首を傾げた。

「あっ、あ、ああ、ど、どうした?」

 あからさま動揺した祐次が凄い速さで目を泳がせる。
 彼の取り乱し様を眺めて、文音がクスッと笑みを零した。

「ふ、文音……?」

 祐次は動悸を激しくしながら、恐々と彼女の目を見た。
 見蕩れていたことがバレたら嫌われてしまうのではないか。そんな不安に苛まれていた。
 文音は三日月の様に目を細めて笑うと、何でもないですと首を振った。
 ほっと胸を撫で下ろす祐次に向かって、文音が声を掛ける。

「せっかく来たんですから、いっぱい動きましょうよ」

 明るい声を上げて、彼女が運動器具の並ぶスペースを指す。
 タンクトップから伸ばされる白い腕と僅かに見えた腋に、祐次は生唾を飲んだ。
 彼は劣情を抱きつつも、それを悟られないように元気な声音で言った。

「そうだな。体育だけじゃ鈍っているだろうし、たまには思いっ切り汗を掻くことにしよう」

「ふふっ、張り切りすぎて倒れたりしないでくださいね」

 前を行く文音の揺れる黒髪からシャンプーの香りが舞う。
 生地の薄いスポーツウェアで勃起してはバレてしまうと、祐次は何とか邪な感情を押さえ込むように努めた。



 一時間弱の運動を終えて、文音は一息吐こうと提案した。
 祐次はそれに同意した。自動販売機で二人分の飲み物を買って、休憩スペースで待つ彼女の下へ戻った。

(……汗を掻いた女の子って、なんかエロいよな)

 薄着のスポーツウェアを纏っているのに加えて、しっとりと汗を滲ませている文音に対して扇情的なものを感じてしまう。祐次は緩んだ表情を何とか引き締めて彼女に飲み物を手渡した。

「ありがとうございます、先輩」

 笑みを浮かべて頷いた文音の顔には健康的な色気が漂っている。
 祐次は股間がムズムズと疼いてしまうのを感じて、慌てて椅子に掛けた。
 これなら勃起してしまっても、テーブルの影になって見えないはずだ。

「先輩、どうしました? 何だか落ち着きがないようですけど」

 ビクッと肩を震わせた祐次は何か誤魔化そうと周囲を見渡した。目に付いたのは二階へ続く階段だった。

「あ、あのさ……に、二階はどうなっているんだ?」

 祐次が苦し紛れにそう訊ねると、文音は深い笑みを浮かべた。
 それはどこか妖艶で、淫らなものを感じさせる表情だった。
 視界が霞んでしまうぐらいの興奮を覚え、祐次は鼓動を高鳴らせるばかりだ。
 文音は、ふいに笑みを緩めて口を開いた。

「カップル専用になってるんですよ。……行ってみます?」

「……!」

 カップル専用のフロアがあることにも驚いたが、そこへ文音が誘っていることの方が重大だった。
 その誘いを、彼女が自分に好意を寄せていると見るのは都合が良過ぎるが、嫌われてはいないのだろう。カップルとして扱われても構わないと言うことだ。

「い、良いのか……?」

「はい。実は先輩を誘ったのも、二階があるからなんですよ?」

 黒く艶やかな髪を揺らして、そう笑った文音に祐次はドキッと胸を高鳴らせるのだった。 
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