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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第547話】

 
前書き
ここから九巻かな 

 
 風邪の症状は治まりつつあるも、未だに楯無の入院生活は長引いていた。


「……ふぅ」


 窓から空を眺める楯無――青空が広がるも、長引く入院生活に飽き飽きしていて、けん玉する気すら起きず、ヒルトから渡された手芸セットも手付かず。

 ふと窓ガラスに映る自身の顔が視界に入り、乱れた髪をセットした。

 時計の秒針が刻まれる音が妙に大きく聞こえ、内心ヒルトが来るのを心待ちしていた。


「そ、そろそろ来るかしら……――って……私も心奪われたものね」


 何度も脳裏にフラッシュバックされるヒルトの顔と、交わした唇の感触に胸が高鳴る。


「……早く来ないと、お姉さん寂しくて泣いちゃうわよ、ヒルト君……」


 そんな呟きが病室に虚しく響いたその瞬間、スライドドアが開かれた。

 突然の事に驚き、目を見開く楯無だったが現れた相手は今名前を口にしたヒルトだった。


「すいません楯無さん、遅れました」

「べ、別に毎日来なくても良いのよ?」


 口ではそう言いつつ、毎日面会に来てくれる事が嬉しかった――彼の顔を見られる――今だけは独占出来るという事実が嬉しかった。


「まあまあ、入院生活長引いてると暇でしょ? そういえば手芸してますか?」

「え? ……あ、あはは……」


 渇いた笑い声だけが響き、困ったような表情を見せたヒルト。


「まあ苦手って言ってましたからね。 ――あ、そうそう、今日はこんなことがあって――」


 そう切り出し、ヒルトは今日あった出来事を面白おかしく楯無に聞かせた。

 それを聞いて笑顔を溢す楯無――そんな二人の様子を眺める複数の影。


「……最近付き合いが悪いと思ったら――あのバカ……!」


 真っ先に呟いたのは鈴音だった、あまり構ってくれなくてこっそり後をつけ、病室に入ったのを確認して急いで窓から覗くと楽しそうに談笑してる二人にヤキモチを妬いていた。


「……ヒルトさん、凄く楽しそうに喋ってますわね」


 セシリアも寂しそうな眼差しで二人を眺めていた、口付けも交わし、愛の営みも交わしたとはいえやはり構ってもらえないとセシリア自身寂しさで押し潰されそうになっていた。


「………………」


 シャルもなんだかんだでヒルトの後をつけ、窓から皆と共に見ていた。

 心中穏やかではないものの、やはりヒルトに抱かれたという事実が安定剤になってるのか、表情自体は変わらなかった。

 今日辺り、ヒルトともう一度――そう思うシャル、一方のラウラも表情は余裕そのものだが、彼女は未だに彼と【最後まで】していない。


「……ふむ」


 表情に表さないものの、流石にそろそろ行動を起こさなければと思う――とはいえ、【夫婦の営み】は痛いものだと黒ウサギ隊の隊員に訊いてるため、戸惑いも感じていた。

 ぐるぐると悩むラウラ――一方、未来や美冬、美春の三人はこの場に居ない。

 その理由も先日第六アリーナが復旧したということもあって新たに入学したエレン・エメラルドと交流も兼ねて模擬戦を行っていた。

 篠ノ之箒も今この場には居ない、未熟な自身の精神鍛練の為に、剣道場で静座していた。

 最後に更識簪――彼女は皆と一緒に様子を見ているものの、どうしたものかと悩んでいた。

 以前の無礼な振舞いや言動を謝っていないからだ、全く謝っていないわけではないのだが、ちゃんと謝ってるわけではなく、機会があれば二人きりの時に――と思うものの、姉がヒルトと仲良くしているのを見てるとモヤモヤと胸が締め付けられそうになっていた。

 異を決し、簪は窓を開けて――「お邪魔、します」――と、そのまま楽しく談笑していた二人の合間に入った。

 驚きの表情を見せる一同――特に内向的な簪がそんな大胆な行動をするとは思わず、目を見開く楯無。


「ぅぉっ!? か、簪、ここ、三階――」


 ヒルトが驚きながらそう告げるも、その身に纏うISを見て納得した――というか、それと同時に鈴音、セシリア、シャル、ラウラの姿も見つけ、思わず頭を抱えそうになる。


「か、簪ちゃん!? な、な、何してるのかしらっ? お、お姉ちゃんは感心しないわよ、い、いきなり三階の窓を開けて入るなんてっ」


 そう告げる楯無の言葉、悪いこととは分かっているものの、聞かずにはいられなかった――二人の関係を。


「……二人は、付き合ってる?」

「付き合ってる……って?」


 ヒルトが聞き返すと、唇を真一文字に結び、一拍置いてから口を開いた。


「男女、交際……」


 言葉を口にするのは重たかった、だけど聞かずにはいられなかった簪。

 その言葉に、互いに顔を合わせたヒルトと楯無――徐々に頬を赤らめていく楯無とは違い、ヒルトの表情を読み取る事は出来なかった一同。


「ん、付き合ってるって訳じゃないが――というか、楯無さんまだ入院長引いてるから見舞いに来たってだけさ、これがな」


 その言葉に安堵の表情を浮かべた簪とは対象に、楯無は僅かに頬を膨らませていた――複雑な乙女心、肘鉄でもくらわせようかと思うものの私の為に見舞いに来てくれたのも事実、どうでもいい【存在】だったらそもそもここまで気にかけないもの――そう思えば少しは心が軽くなった。


「そ、そう……。  ……よかった」


 そう呟く簪に続き、病室に入ってくる四人、ISを解除すると鈴音は――。


「い、一応信じてあげるけど……だ、だからって勘違いしないでよねっ! あ、アタシは別にヤキモチ妬いたり何かしないんだからっ!!」


 目尻を吊り上げ、仁王立ちのまま顔を覗き込む鈴音に続き、セシリアは胸に手を当て――。


「安心しましたわ。 ……とはいえ、あまり不安にさせないでくださいましね」

「はは……善処します」


 そう答えるヒルトに、僅かにジト目で見つつ、次に愛し合う時はもっと甘えようと思うセシリア。


「ぼ、僕は何も心配とかしてないよ? ヒルトとの絆、深いものだって信じてるから」


 いつもの笑顔で答えるも、言葉の重味が違っていた。

 シャル自身も、次に互いの予定が合えばいっぱい愛してもらおうと内心思うのだった。


「ふむ……」

「……ラウラ?」


 いつもと違うラウラを気にかけるヒルト、それに気づいたラウラは僅かに頬を赤く染め――。


「い、いや……すまないヒルト」


 そう告げ、トントンと自身の耳を触るラウラ――ラウラなりのチャネル通信の合図だった。


『ヒルト、今晩そっちに行く。 ……良いだろうか?』

『あ……わ、わかった、構わないぞ』

『う、うむ』


 それだけを告げ、通信を切るラウラ――楯無は改めて認識する、ヒルト君を好きな女子がいっぱい居る事実に――妹である簪も、明らかに恋してる女子の眼差しでヒルトを見ていた。

 ライバルは多い――しかも自分は彼より一つ年上という事実――年上の女性をどう思っているのかが知りたかった。

 だが今はその事を置いておき、前みたいにヒルト達のやり取りを見て小さく笑みを浮かべる楯無だった。 
 

 
後書き
多分年内最後の更新かも 
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