空虚で無気力な青年が異世界で新生活~改訂中~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第8話 討伐
俺は影で馬を創り出すと、北西に向かって馬を走らせる。
どのくらいの距離なのかは知らんが、俺の馬は速いから大丈夫だろう。
普通の馬では有り得ない速度だからな。
それに、あまり遅くなって夜になるのもマズイだろう。
夜行性のモンスターもいるはずだ。
〔夜目〕の魔法があるとはいえ、夜はあちらさんの方が得意だろうからな。
リムンヘルドを出て20分ほど立っただろうか。
重大な問題が発生した。
迷った。
北西方向には進んでるんだが、行けども林ばっかだ。
上から見るか。
俺は馬を消すと、一番高い木に登っていく。
高い身体能力のお陰で楽だ。
さて、湖はどこかなと。
…おっ、発見。
北北西に200mってところか。
もうちょっとだったな。
って、ん?
何か動くものが。
だが、さすがに見えん。〔視覚強化〕を使えば、あら不思議。
双眼鏡を使っているような視力に。おー、よく見えるな。
どうやら戦ってるみたいだな。
戦ってるのは、俺の標的である水蜥蜴人6匹のようだな。
何故か持っているショートソード。
何故か持っているラウンドシールド。
まあ、冒険者からパクッたんだろう。
そして相手をしているのは、冒険者みたいだな。
多勢に無勢で不利だな。
戦っているのは、男3人か。
…じゃあいいや。
少しでも水蜥蜴人の数を減らしてもらいましょうか。
冒険者が死んだら、使えそうな物は頂くとしよう。
これこそまさに、再利用。
使えるものは使わなきゃな。
おっ、1人やられた。
仲間に気を取られて、また1人。
アホだねぇ。
そんな余裕ないだろうに。
おっ、最後の1人もやられた。
やれやれ、使えない。
1匹も倒してねぇじゃん。
やっぱり、そう簡単にはいかないもんだな。
行きましょうかね。
俺は風魔法を使い身体を風で覆うと、ふわりと身体が浮かび上がった。
俺は一瞬で水蜥蜴に接近しながら、右手の掌に魔力を凝縮させていく。
徐々に右手に凝縮させた魔力が形を成し、炎の槍を形成していく。
俺は意味の分からない言語を喋る水蜥蜴人の後ろに着地すると、近くに居た水蜥蜴人に向かって投げつけた。
「【フレイムランス】」
水蜥蜴人には当たった。
当たったんだが、【フレイムランス】が突き刺さったのは腹だ。
頭を狙ったんだがな。
やはり、初心者が頭を狙うのは無謀すぎたか。
勉強になった。
「グゲルバァー!!!」
腹に刺さったとはいえ、俺が投げつけたのは炎の槍だ。
炎が内部から水蜥蜴人を焼き尽くしているのだろう。
奇々怪々な奇声を発しながら、水蜥蜴人は転げ回る。
奴は、傍の湖へと飛び込んだ。
頭を使ったな。生きてるかな?
もしかしたら生きてるかとも思ったが、湖面には焼け爛れた水蜥蜴人が浮かび上がって来た。
何とかセーフ。
「グギャルバー!!」
「ギェルアケー!!」
…何を言っているか、まったく分からん。
さすがに気付いた残りの水蜥蜴人が、俺を見ながら何か言っている。
これはすでに言語ではないな。
ただの奇声だろう。だが、さすがは同族。今の奇声で意思疎通したらしい。
残っていた5匹は互いに頷き合うと、俺を囲むように動き出した。
多少の知恵はあるのか。もっと単細胞だと思ってたよ。
って、ヤベェ。
この距離じゃナイフはダメだ。
水蜥蜴人は一斉攻撃を仕掛けようとしているのか、ジリジリと俺との距離を詰め始めている。
刀は練習してないのに。
つうか、素人の独学には無理があるか。
誰か、剣の師が必要だな。
帰ったら、クラインに相談してみるか。
「ギェルバー!!」
1匹の奇声を合図に、水蜥蜴人が一斉に斬りかかって来た。
俺はその場で地を蹴りジャンプすると、俺の前に居た水蜥蜴人の頭を蹴り後ろへと跳ぶ。
俺は身体を捻り水蜥蜴人へと身体を向けると、ナイフを投擲する。
だが、ナイフは呆気なく水蜥蜴人の鱗に弾かれた。
…そのパターンは想定外だ。
俺は着地すると同時に空間魔法で収納していた日本刀を取り出す。
…間違えた。これは的だった。
こっちか!
アホなことをしている間に、目の前には水蜥蜴人がいてショートソードを振りかぶっていた。
俺は横に跳んで避けるが、数は向こうが上。
すぐに別の水蜥蜴人の追撃が来る。
俺はとっさに風魔法を使い、迫っていた水蜥蜴人たちを吹き飛ばす。
やれやれ、チートとはいえキツイねぇ。
まぁ、しょうがないわな。元々は一般人だったんだから。
いくら知識があるとはいえ、身体が追い付いてこない。
これはやっぱり、真面目に訓練していかないと死ぬな。
それは帰ってから考えるとして、今は目の前のトカゲだな。
「ギジェルバァー!!」
「ガジェー!!」
まーた訳の分からん奇声を。
しかも若干、耳が痛いな。
こいつらの奇声のせいだろうか。
さっさと片付けよう。陽も沈んで来たしな。
俺は立ち上がると、掌を上に向けると集中する。
思い浮かべるのは、火と風。
火の竜巻だ。
魔法は俺の念じた姿を、正確に表現してくれている。
やはり魔法というのは、想像するというのが大事みたいだな。
俺の掌には火を纏った風が渦を巻き、徐々に大きくなっていく。
「炎蛇の竜巻」
俺の生み出した蛇の形をした炎と竜巻によって、残った5匹の水蜥蜴人は火と風の攻撃にさらされる。
風によって身体を切り裂かれ、火によって身体を焼かれていく。
周囲には、何とも言えない臭いが立ち込める。
「フゲルガァー!!」
1匹が喝を入れるように大声を上げると、火の竜巻から飛び出してきた。
ラウンドシールドを突き出した状態で、ズンズンと言った音を出して突っ込んでくる。
これは予想外だ。
思った以上に頑丈だな。
それとも、こいつが特別なのか。
盾を前面に出してるから、まずは突進を避ける。
俺は横にあった木に向かって走ると、木を駆け登り枝を蹴って水蜥蜴人の後ろに跳ぶ。
着地した瞬間、ようやくおさまった火の竜巻から出てきた水蜥蜴人がショートソードを振り下ろす。
しぶとい奴だ!
水蜥蜴人の身体は切り裂かれ焼け爛れているせいで、動きが鈍い。
俺は持っていた日本刀を振る。
「グギャァアアア!!」
俺の振るった刀は水蜥蜴人の左脚を斬りおとした。
水蜥蜴人の発する断末魔に顔を顰めながらも、立ち上がり最後の止めのために刀を振るった。
刀は水蜥蜴人の頭を刎ね飛ばした。
その間に、さっきの水蜥蜴人が再び俺に迫っていた。
俺は膝から崩れ落ちていく水蜥蜴人を、突進してくる奴に蹴り飛ばす。
だが、奴は仲間をも吹き飛ばして突っ込んでくる。
見境が無くなって来たな。俺しか見えてないのか。
俺は刀に付いた血を、自分の影に滴らせる。
「【影操】。形状、Wolf2!」
俺の言葉に従い、俺の影から巨大な影の狼が飛び出す。
だが、飛び出したのは2匹。
「ウオォーン!!」
「グルルルル……!」
突然現れた新たな敵に、水蜥蜴人も足を止め臨戦態勢に入る。
「行け!」
「アォーン!!」
「ウォーン!!」
俺の言葉と同時に、狼たちが水蜥蜴人へと飛びかかる。
右側に居た狼が飛びかかると、水蜥蜴人は盾で牙を防いだ。
もう1匹は背後から飛びかかるが、ショートソードによって斬られる。
だが、元は影の狼に剣が効くはずも無く、狼はすぐに戻るとショートソードを握る腕に噛み付いた。
「ギャルバァー!!」
腕に噛み付かれたことで隙が生まれ、もう1匹の狼が首に噛み付いた。
先程も言ったが、生み出した狼は一般的なものより二回りは大きい。
そのため、簡単に振り払うことも出来ず、徐々に身体から力が抜けていくのが分かる。
「グルァアアアア!!」
腕に噛み付いていた狼は口を放すと、咆哮を上げると頭に噛み付いた。
鋭く尖った犬歯が水蜥蜴人の頭に鋭く喰い込む。
この一撃が決定打となり、水蜥蜴人は絶命した。
ようやく終わったか。
やれやれ、自分の実力不足を痛感した一戦だな。
「そいつらは喰っていいぞ」
俺はつぶらな瞳――そう感じる――で見てくる狼たちにそう言うと、死んだ冒険者たちに歩いていく。
さすがに、あいつらの食事風景を見たくは無い。
現に、後ろからはグロイ音が聞こえるからな。
それは置いといて、俺は奴らの所持品を探ろう。
まずは一番最初に死んだ奴から。
…武器はどうするかな。
いらないか。
売るなら、自分でもっと良いの作ればいいか。
武器はいらね。
となると、やっぱりめぼしいのは金か。
持ってねぇかな~。
…こいつは持ってねぇ。
次だ。2番目に死んだ奴。
そういや、狼たちが何か大きくなってるような気がするんだが。
何でかな。
おっ、発見。銀貨が12枚か。
俺、この国の通貨制度知らないな。
これもクラインに聞かなきゃいけないな。
さて、最後の奴だ。
おっと、こいつは持ってるな。
こいつが財布役だったのか?
金貨3枚、銀貨23枚、銅貨13枚か。多いのか少ないのか分からん。
まぁ、俺が貰って使うとしますか。
外道?外道で結構。
この件については、迷惑掛けてないしな。
俺は基本的には、自分中心だ。
自分中心と言っても限度はあるし、身内にはそんなことも無いがな。
嫌いな奴には、態度が分かり易いとかあるが。
さて、回収作業は終わった。
狼たちも終わったみたいだな。
狼たちを影に戻して、さっさと帰ろうかと思った時だった。
「何があったんですか」
後ろから、声がしたのは。
ページ上へ戻る