卍(まんじ)
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卍(まんじ)
卍
「ウッホ、ウホウホ、ウッホッホーッ!! あ、いけね、でっけえ声出しちゃった……」
ゴリラのような笑い声をあげながら、ゴリラのような顔の真選組局長・近藤勲は、例によって片思いの相手の志村妙のストーカー行為を開始していた。
いつものように妙の家(恒道館道場)の縁の下に身をひそめながら、近藤は今回初めて持ってきたものをにっこりと眺める。
アロマオイルぐらいの大きさの、茶色い瓶。容器に貼られた白い紙には、赤い大きなキスマークがつけられている。
吉原で使われる『愛染香』をさらに強くした、超強力媚薬だ。
これを妙の飲み物に仕込み、自分もその媚薬を飲む(しょっちゅう彼女に『ムラムラする』彼には必要ないと思うが)。
薬の影響で彼女の欲求不満がたまったところに自分が現れ、妙の欲求を満たし、自分も彼女をものにする。
「今日こそ、いや、今にも俺はお妙さんをものにできるのだ!!
作戦は完璧だ!!
俺って天才!? あ、いけね、またでっけえ声出しちゃった……」
そう言いながら、さささっとゴキブリのように縁の下を駆け抜け、畳をどけて客間に顔を出した。
客間にはだれもおらず、四角いヒノキで出来た机の上に、丸いお盆が置かれ、中央にはスルメイカの入った青白い皿、それを挟むように、志村家愛用の濃い青色の湯呑が2つ置かれている。
片一方はお妙さんの分、もう一方は、未来の弟になる新八君の分だろう。
媚薬を湯呑に入れようとした時、近藤は、ふと悪い想像をしてしまう。
もし、お妙さんと一緒に、新八君がこの薬を飲んでしまったら……。
そうなった時に起こるであろう恐るべき光景がありありと近藤の頭の中で浮かんだが、頭を振って払いのけ、湯呑の中のお茶に1滴ずつ(強力すぎて1回1滴しか使えない)、惚れ薬を垂らしていく。
瓶から出た紫の液体は、湯呑の中の濃い緑色の中に溶け込んで広がり、薬を入れたとはだれも判別できなくなった。
「よっしゃ!」
片方を今すぐ自分が飲むのもやぶさかではないが、それでは怪しまれてしまうと思い直し、近藤が再び縁の下に潜り込もうとすると、
「貴様! 一体ここで何をしている!?」
女の高い声だが、男のようにりりしい声。
近藤はびくっとなり、冷や汗をかきながら、ゆっくり後ろを振り返った。機械のように。
そこには、お妙さんの女友達の柳生九兵衛が、額に血管を浮かべて腕組みをして立っていた。背中までかかる長い黒髪を後頭部で止め、つぶれた左目には黒い眼帯。紺色の着物と袴に大小をさし、白い外套を着た、いつもの姿である。
「あ……」
ちらりと横を見ると、ストーカーの対象である妙が立っていた。服装は、普段の桃色を中心に青い帯、髪は茶髪を後頭部で束ね、首のあたりまで垂らしたきれいな姿だが、つぶらな目には明らかな殺意と怒りが見て取れた。
「…………」
近藤の冷や汗が、ナイアガラの滝のようにだらだらと流れた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ここから先のことは、近藤のこの悲鳴から容易に察知できるであろう。
すなわち彼は、九兵衛と妙にいつものように半殺しにされ、恒道館道場の門前にミイラのような包帯ぐるぐる巻きの状態で放り出された。
一応近藤は警察の長官なのであるが、発見した部下たちは、驚も恐も悲しみも見せることなく、「またやったかい」と言わんばかりの無表情で、近藤を連れて帰るのである。
ストーカーを追い払った九兵衛と妙は、ほっと一息。
再び客間で、おつまみのスルメイカとお茶を楽しみ始めた。近藤がいなくなった8畳の客間は、呑気なぐらいに静かである。
「ほんと、休日なのに見苦しいところを見せて、ごめんなさいね」
苦笑いを浮かべながら、湯呑を持つ妙。
「こちらこそ、急に遊びに来てしまってごめん。おまけに新八君も留守かあ……」
「なあに、新ちゃんはいつものことよ。お通ちゃんのコンサートに行っているわ」
九兵衛はほっと安堵の息をして、湯呑のお茶を飲み始める。
新八は『寺門通』というアイドルのファンで、彼女のコンサートの日はしょっちゅう親衛隊として出かけるのである。
懸命にお通ちゃんの応援をする新八の想像をして、九兵衛は微笑ましい気持ちになった。心なしか、今飲んでいるお茶もコクがあるように感じられる。
自分の向かいにいるお妙も、湯呑に口をつけて、お茶の味を楽しんでいるようだった。
中に、近藤が入れた媚薬が入っているとは、2人とも気づいていない。
お茶は番茶だが、地味な苦みの中にもコクと雅があり、お茶の味をじっくり味わえるように熱くしたこともあって、スルメの味とともに十分に楽しむことができた。
「ほんと、おいしいお茶をありがとね、お妙ちゃん」
九兵衛は妙に、ねぎらいの言葉をかけた。
「いやいや、実は番茶なんだけどね。こういうものしか用意できなくてごめんなさい」妙は苦笑いしながら、「本当はもっと九ちゃんにはいいお茶をご馳走したいんだけど、いかんせん最近相場が上がっていてね」
「いやいや、番茶とは思えないほどの味だよ」九兵衛はちょっと話を変えて、「そういえば、小説の中で『「番茶」は英語で「savage tea(サヴェジ・ティー)」だ』と言った英語教師がいたなあ」
「いたいた! 『吾輩は猫である』でしょ!」妙は手をたたいて笑いながら、「正しくは『coarse tea(コース・ティー)』なんだけどねえ。夏目漱石ってそういう言葉遊びが上手いのよね」
「『ずうずうしいぜ、おい』を『Do you see the boy(ドゥー・ユー・シー・ザ・ボーイ)』とひっかけて洒落たこともあったっけ。漱石は英語教師だけど、そのあたりのボキャブラリーにはびっくりだよ」
「そうそう、私の家には漱石の『道草』があるのよね。私の部屋にあるんだけど、見てみる?」
「そういえば、夏目漱石の小説って読むの久しぶりだな。読んでみる」
2人とも立ち上がって、妙の部屋に向かおうとした。
その時だ。
急に九兵衛の中から、溶けそうな熱が湧きあがり、彼女の足をよろめかせた。
薬が作用を示してきたのだ。
「あ、あれ……ど、どうしたんだ、僕……」
とりあえず手近な壁に右手をついてバランスを保とうとしたところ、彼女は自分の胸を思いっきり触りたい欲求に取りつかれる。胸の先端も思いっきり固くなり、敏感になっているようであった。
触りたい……。でも、お妙ちゃんの目の前で、そんな事……。
「九ちゃん……? あれ……私も……」
声がしたので、ちらりと妙の方を見る。
妙も急に頬が赤々と染まり、目が据わり、呼吸がかすかに荒くなっている。足元もふらついている。
僕も妙ちゃんも、病気になってしまったのか?
風邪?
……いや、これがそれとはちょっと考えにくい。風邪は体の芯から熱が出て、それに頭痛、のどの痛みや痰が出るものじゃなかろうか。この熱は……自分の一番恥ずかしいところから出ている。
熱さで服を着ていることも、もどかしくなり始めている。
ハアハアと息が荒くなる。
妙は右手で左胸のあたりを、左手で股間のあたりを着物越しにまさぐっている。両手がぶるぶる震えている。
「た……えちゃん……?」
女友達の思わぬ行動に、九兵衛は思わず呆気にとられるが、やがて自分も妙も、同じ状況になっていることに気付いた。
「あああ……九ちゃん、九ちゃん、私を助けて! 私を強く摑まえて、変になっちゃう前に!」
急に妙は駆け寄り、九兵衛の胸に頭を預ける形で抱きついた。
「妙ちゃん……」
胸の中にいる妙を意識した結果、九兵衛には別の欲求が生まれているのに気づく。
彼女を求める欲望だ。
おそらく彼女も、自分を……。
とはいえ、客間は外廊下に面した戸があり、ここではまずい。開けられたら通行人皆に見られる。
「妙ちゃん……と、とりあえずあちらに行こうか」
九兵衛は自分より背の高い妙(九兵衛は身長157㎝、妙は168㎝)を抱きかかえるように、両者ふらふらした足取りで、廊下を挟んだ向かい側の手近な部屋に入る。
6畳半ぐらいの、勉強机と書物棚だけ置かれた質素な部屋。
そして九兵衛は、熱い下半身と、ぐるぐる回る頭を必死で抑えながら、部屋の窓という窓、扉という扉を閉め、手近にあるものでつっかい棒までした。
これなら、外から見えないし、外からも入れない。
「九ちゃん、ここ……」
妙の囁く声ではっと我に返ると、この部屋は壁のいたるところに、お通ちゃんのポスターやシールが貼られてある。
新八の部屋だ。
しまった!
九兵衛がそう思うと、
「ただいまぁー」
玄関から、地味な間の抜けた、しかし喜びに満ちた声が聞こえる。新八が帰ってきたのだ。
「あれ、この履物……もしかして九兵衛さんもいるんですか? ちょうどよかった。お通ちゃんの新曲があるんですよー。2人とも聞いてみますか?」
にこやかで明るい新八の声だが、九兵衛も妙もそれどころではない。
自分たちの一番恥ずかしい部分から、熱があふれ出し、ジュクジュクに溶け、もどかしさが2人の頭を狂わせていた。
「なんなんですかぁ」新八の声が急に不機嫌になる。「せめて『お帰り』の一言ぐらい言ったっていいじゃないですか。どこにいるんですか?」
「ご、ごめん。新ちゃん、お帰り。私達今、新ちゃんの部屋にいるんだけど……」
囁くように言う妙。下半身に力が入らないらしく、膝が震えている。彼女もまた、自分の中の『女としての衝動性』をこらえているようだった。
「あれ? 何で2人して僕の部屋にいるんですか?」
「ご、ごめん、新八君……僕も……妙ちゃんも……ちょっと訳があるんだ……」
ハアハアと喘ぎながら、なまめかしい声を部屋の中から上げる。
「ごめん、新ちゃん……私も、その……」
妙も自分の中に急激に湧きあがる衝動に耐えながら、息を荒げて扉越しに新八に声をかけた。
「あ、あれ……」新八は2人の様子が、いつもと違うことに気が付く。「どうしたんですか、 九兵衛さん、姉上?……もしかして、病気?」
「違う、病気じゃない。おそらく……」
九兵衛は首を振って否定した。
そうしている間にも、体の疼きは膨れ上がり、服を着ていることがどんどんもどかしくなっていく。
自分の中の『本能』が目覚めていく。
「でも頼む、新八君。しばらくの間、僕と妙ちゃんは部屋から出られない。それをこらえてくれないか?」
「え、『病気じゃない』のに『出られない』って、2人ともどうしたんですか!?」
さらに怪しんだのか、新八は廊下から部屋に入ろうとする。
が、あらかじめ九兵衛が敷居につっかい棒を入れたため、ガタリと音がするだけで、戸は開かない。
「あ、あれ、開かない!?」
「頼む……僕も妙ちゃんも、これからどんなことをするか分からない……だから、これからの僕達の声はなるべく聞かないでほしい」
「え? どんなことをするかわからないって……」
「お願い、新ちゃん」妙も自分の中に容赦なく湧きあがってくる欲望を抑えつつ、戸に左手を当てて体を支えながら、喘いで言った。「後生だから聞かないでいて。とりあえず、客間ででも時間つぶしてて……」
「えっ!? ちょっと!? 姉上!? 九兵衛さん!!?」
新八は必死に自分の部屋を開けようと引き戸に力を入れるが、相変わらず、開かない。
「わ、私、もうだめ……立ってられない……」
妙は自分より小柄な九兵衛の胸元に体を預けていく。九兵衛の耳元で、ハアハアという吐息と、
「着物が、もどかしい……脱ぎたい……」
というささやき声が聞こえる。
最早我慢できなかった。男として長年育てられたこともあった。
「妙ちゃんっ!!」
九兵衛は妙の両肩をぎゅっとつかむと、荒々しく畳の上に押し倒した。
そのまま、思わず妙の唇に、チュッとキスをしてしまう。
再び。
女同士で。
「「!」」
その後、思わず我に返って、妙と間合いを離す九兵衛。
「ご、ごめん!」
思わず目をそむけ、きつく目をつむった。
きっとこれで僕は、あのゴリラのストーカーのように半殺しにされる。
それは自業自得なので構わなかったのだが、それ以上に妙ちゃんに嫌われ、これまでの関係を続けられなくなることが彼女には耐えられなかった。
なるほど、畳の上で仰向けになった妙は、予期しなかった出来事に、一瞬体を固くしたが……。
「大丈夫。怒ってないわ」
にっこりと微笑み、九兵衛の両頬をつかむと、頭をあげてお返しのように唇にキスをした。
続いて、自分の胸元に九兵衛の頭を抱きしめる。
どくん。どくん。どくん。どくん。どくん。
お互いの胸の高鳴りが、お互いに感じ取れた。
妙からのキスと薬の影響で、九兵衛は再び我慢できなくなっていた。気が付くと目に涙がにじんでいた。
九兵衛を抱きしめていた腕が緩んだので、思わず彼女は顔をあげると、妙もまた、潤んだ目でほほ笑んでいた。
「た、妙ちゃんっ……!」
甘えるような声を上げると、妙のうなじに両腕を回して、九兵衛は再びキスをする。
それも、先ほどのような短いキスではなく、相手の唇を吸い、舌を絡め、感触を味わう形だ。
相手の妙も舌を出し、九兵衛の唇と舌をなめまわしていく。
それが激しいのか、2人の口から、少し涎が垂れ始めた。
お互いの唇は、柔らかく、甘い。
1時間にも2時間にも思える長いキスが終わると、九兵衛と妙は顔だけを離し、何も言わないまま、お互いを見つめあった。
潤んだ瞳で、先に口を開いてきたのは、妙だった。
「私、誰よりも怖かった……。
いつか好きな人と、こんなことするの……。
新ちゃんよりも怖かった。
日本中の、いや、宇宙中の誰よりも怖かった……」
「妙ちゃん……」
「でも……同じ女同士の貴方となら、
ううん……私を守ってくれると言ってくれた貴方となら、
貴方の左目になると言った私を受け入れてくれた貴方となら、いいかなと思って。
ううん、本当にそう思うよ」
お妙はそう言うと、九兵衛の均整の取れた体に回した腕で、外套越しに背中を撫でまわしながら、
「ねえ、九ちゃんのありのままの姿を見せてくれる……?」
一瞬九兵衛、言葉の意味が分からず戸惑ったが、すぐに意味を理解し、
「あ、ありのままって……妙ちゃん……!」
羞恥心で一瞬戸惑い、頬を染めたものの、九兵衛自身も、薬の影響で自分の内側から湧き上がってくる体の疼きを抑えられなくなっていた。衣服を着ていることのもどかしさが、どんどん大きくなってくる。
近藤風に言うなら『ムラムラがどんどん膨れ上がっている』状態だ。
「じゃ、じゃあ……」九兵衛は言った。「僕にも、妙ちゃんの全部を見せて」
「うん、喜んで」
躊躇い一つない妙の言葉に、九兵衛は再び理性が押しつぶされそうになるが、最後の理性を振り絞って周りを見回す。
新八の部屋。6畳半の和室。
扉と窓はすべて閉ざし、つっかい棒までつけられてある。
でも、あと1つ足りない。この部屋にあるのか。
ぐるぐる回る頭の中で、九兵衛は必死に探した。
机、本、部屋のいたるところに貼られた寺門通のポスター。違う違う、どこだ?
あった。
押入れが。
この中になら、布団が少なくとも一式入っているだろう。
九兵衛は立ち上がって、白い外套をもどかしげに脱ぎ始めながら、心の内で安堵する。
ちらりと振り向くと、すでに妙は、腰の帯を全てほどいていた。
新八は閉ざされた部屋の入り口の前で、姉と女友達が何をしているか、戸に耳をくっつけて懸命に聞こうとしていた。
人間、聞くなと言われると、余計聞きたくなるものらしい。
すると、何やら重いものが畳にぶつかるドサッという音と、布が地面に落ちるシュルルル、パサッという音が何回か聞こえる。
新八の頭の中に、白い布団が敷かれるイメージと、妙と九兵衛がそれぞれ着ている衣服をすべて脱いで裸になっていくイメージが交互に思い浮かぶ。
紅潮して冷汗をかきながら、機械のように頭をゆっくり動かし、次に何が起こるかを懸命に聞こうとした。
6畳半で窓際に机が置かれる質素、しかしいたるところに寺門通のポスターが貼られている新八の部屋。
窓や入り口となる引き戸には、開かないようにすべてつっかい棒が。
真ん中に分厚い布団が置かれ、周りに2人が脱ぎ捨てた桃色の着物、青い帯、白い外套、青い着物と袴がたたまれずに散乱している。
柳生九兵衛と志村妙は、分厚く白い掛け布団の中で、双方一糸まとわぬ白い体を互いに抱き寄せ、温めてあっていた。
お互いの相手の体、心のことが頭のすべてを支配し、だらしなく脱ぎ散らかした服のことは全く考えていない。
「妙ちゃん……。寒くない?」
「ううん……。九ちゃんが暖かいし、暑いくらい」
妙は九兵衛の背中、肩、二の腕と手の位置を動かし、衣服という『障壁』のなくなった相手の肌の感触を楽しんでいる。
九兵衛も妙の首から背中にかけて、ゆっくりと手で愛撫を繰り返していた。
「すべすべして気持ちいい」
「僕も」
普段は2人とも束ねている長い髪が下ろされ、妙は茶髪が肩の鎖骨のあたりまで、九兵衛は黒髪が腰のあたりまで届いている。
「ねえ、九ちゃんのありのままの左目みたいな。眼帯外しちゃっていい?」
えっ?
彼女を守るために犠牲にした左目。その目が今どうなっているのか。
ややもすれば醜くなっているであろう左目を、彼女に見られたくなかった。
「その……」とためらう九兵衛を気にもかけず、妙は九兵衛の黒い眼帯を外し、白い枕元に置く。
露になった九兵衛の左目は、瞼が閉ざされたまま、それを覆うように大きな傷がつけられてある。
「すごい……」
思わず声を漏らす妙に対し、九兵衛は顔から火が出る思いで、
「こ、こんな醜い姿、妙ちゃんに晒したくなかったよ」
「ううん、全然醜くないよ。あの時私を守ってくれて、ありがとう……。って、九ちゃん……!」
ありがとうと言われて、さらに九兵衛の羞恥心が高まり、思わず目を伏せながら頭を妙の胸元にうずめてしまっていた。
九兵衛が見てみると、妙の2つの控えめなふくらみがある。坂田銀時と長谷川泰三が『ロバート・絶壁ス』と呼んだように、妙の体形はスレンダーだ。
慌てて妙が手で隠そうとする前に、九兵衛は最も敏感な部分、薄桃色の突起を口にくわえていた。
それとともに、今まで大人になっても満たされなかった『ある欲求』による衝動が、九兵衛の頭の中全体を支配する。
「んんっ……」
妙がきつく目をつむり、彼女の頭は思いっきり前に傾く。
九兵衛は肉食獣のようにぐいぐいと妙の胸に顔を押し付け、素早い動きで桃色の先端を舌先で転がし、断続的に吸うような音を立てた。もう一方の胸を、あいた右手で手早く揉み解していく。
ぽわぽわ。ちゅうっ、ちゅばっ、ぴちゅっ……。
「あ……ん……ふぁ……あ……」妙はくすぐったそうに頭を振り、片手で白い敷布団のシーツをつかみながら、「や、やだ……九ちゃんったら、赤ちゃんみたい」
涙がにじみ、据わった目で、自分の胸に頭をうずめる九兵衛を見つめた。
「じゃあ、妙ちゃんが母上だね」九兵衛は顔をあげて、「よかった。僕が生まれるのと引き換えに僕の母上は亡くなったんだ。妙ちゃんが僕の母代わりになってくれたら、とっても嬉しい」
そうだった。
妙は九兵衛の悲劇的な人生を思い出した。
九兵衛の母は、彼女が生まれたのと引き換えるようにして死亡し、父が後妻を迎えることで、九兵衛の居場所がなくなってしまうのを恐れて、父は彼女を男として育て上げたのだった。
そのことで九兵衛は常人以上に逞しくなったが、同時に母の思い出が全くなく、また、赤子には必要な『あの欲望』が満たされることなく大人になってしまったことを、妙は容易に察知できた。
妙が2歳の時、彼女の母も新八を産んだすぐ直後に亡くなったから、九兵衛の気持ちがよく分かる。
「九ちゃん……」彼女は九兵衛にやさしく声をかけた。「今は、ううん、これからは、私のことを母だと思っていいのよ」
とたんに、九兵衛のつぶらな瞳が潤み、
「妙ちゃんっ!」
猛禽類のように妙の胸の敏感な部分にむしゃぶりつき、先ほどとは比べ物にならないくらい激しく、舌でなめまわし、吸い、揉み解していった。
妙の胸の先端が固くなり、より熱く、より敏感になる。
「あっ……激しすぎるっ……んんっ……んっ……!!」
九兵衛にされるがままに妙はなっていたが、彼女の右手の指は、声が出ないように彼女の口にくわえられ、左腕は九兵衛のうなじに巻き付き、彼女の黒い頭を力一杯つかんでいた。
額に汗をにじませながら、妙は快感にぞくぞくと体を震わせ、頭を思いっきり回し、蠢かせた。
しばらく妙の胸の感触を味わった九兵衛は、いったん行為をやめると、頭をあげて再び彼女の顔を見つめた。
妙はハアハアと呼吸を荒げながらも、九兵衛の体の一部を凝視しているのが分かる。
胸。
「ひっ……!」
思わず九兵衛は、胸を両手で隠した。
九兵衛の胸は、彼女の小柄な体格にしては妙に大きく、形も鳩胸、きれいなお椀型で整っている。妙のスレンダーな体形とは大違いだ。
妙は坂田銀時が九兵衛を『ポール美乳マン』と呼んだのが分かる気がした。
「あっ……九ちゃんのも、触りたいなって思って……」
「えっ……は、恥ずかしいけど……妙ちゃんだから……妙ちゃんだけだから……」九兵衛は胸を隠している両腕の力を緩め、
「好きにして……いいよ……」
ささやくような声とともに、胸を隠していた両手を完全にどけて、腰の方に下ろし、目を閉じた。
妙は九兵衛とは対照的に、ゆったりとした動きで頭を沈め、九兵衛の胸の一番敏感な部分に、静かに口を入れて、舌の感触に集中するかのように目を閉じる。
もちろん歯は立てないようにしたが、口腔内で、硬くなった桃色の突起を、ゆっくりだが器用に舌の上で転がしていった。もう一つの九兵衛の胸は、妙の細い指で、九兵衛が痛みを感じないように器用に揉み解されていく。
ちゅばっ、ちゅっ、ちゅうううっ。もにゅ、もにゅもにゅ……
「はあっ……あっ……妙ちゃん……上手いよ……」
思わずのけぞる九兵衛の頭。両腕は妙の背中に絡みつく。
妙は顔をあげて、露になった彼女の首筋に、唇を這わしていく。続いて耳朶、耳の裏。興奮のあまり過剰に分泌された口の中の粘液は、九兵衛の皮膚にナメクジが這ったような跡を残していく。
両手は相変わらず九兵衛の胸をさする。九兵衛の胸もまた、刺激に敏感になっている。
「ああ、妙ちゃん、妙ちゃん……」
されるがままになっていた九兵衛だが、なぜか突然、妙は愛撫行為をやめてしまう。
「え……あ……」
中途半端にされたことが、かえって体のほてりを高め、もどかしさを増長させた。
「妙ちゃん……やめないでほしかったのに……」
妙はそれには直接答えず、藪から棒に言った。
「私の顔、またいで」
「そんな、妙ちゃんの顔をまたぐなんて……」九兵衛は即座に反応したが、やがて言葉の意味を知り、「ちょ、ちょっと! 恥ずかしいよ!! いや、汚いよ!!」
「汚くなんかない。九ちゃんが気持ちよくなってくれれば、それでいいのよ」
にっこりした妙の表情。
「で、でも……」
「私からの、どうしてものお願い」
妙のねだるような声。
「分かった……」
九兵衛は妙の頭をまたぎ、彼女の首のあたりに腰を落とす。
妙の目の前に、九兵衛の一番の恥部がありありと見えていた。
「九ちゃん……ここ……」妙は九兵衛の敏感な部分を右人差し指でつつきながら、「ピンク色で可愛い。それに、こんなに硬くなってるなんて。おまけにすっごくヌルヌルだよ。気持ちよかったの?」
矢継ぎ早に言われて九兵衛は耳元まで真っ赤になり、両手で顔を隠してしまった。
「や、やめてよ! 妙ちゃん!! 恥ずかしくて死んでしまいそうだ……!!」
「恥ずかしくない。私のものよ」
ちゅっ。ぺろっ。
妙は九兵衛の一番恥ずかしい部分を、やわらかい舌でなめまわす。
「あ……っ……やっ……ん……そこっ……汚っ……」
九兵衛は頭をのけぞらせながら、顔を隠していた両手で必死に妙の頭をつかみ、嬌声をあげる。腰までかかる黒髪が振り乱れる。
「汚くなんかない。私のものよ。それに、気持ちいいんでしょ」
「あ……っ……いわ……ないでっ……」
妙は左腕を九兵衛の腰に回すことで、彼女の体をしっかりと固定し、あいた右手で彼女の均整の取れた脚を、膝、太腿、臀部を往復するような感じで愛撫していく。
やわらかく、肌もすべすべで、手触りの心地も良い。
「あ……んんっ……やあっ……そこ……舌が……中に……」
秘所からくる柔らかで粘り気のある刺激と、敏感な脚からくるそわそわした感触に、九兵衛は快感を覚え、涙を振りまきながら、妙の茶色い頭を両手でぎゅっと握りしめる。
しばらくして、いったん愛撫を中断すると、妙は、
「私も、気持ちよくしてくれる?」
と言ってきた。
九兵衛は自分が何をすべきか理解すると、後ろを向いて体を伏せて布団の中に潜り込み、妙の股にある、一番敏感な秘所を覗き込んだ。
薄桃色の球状の突起から、自分と同じく、粘性の強い透明な液体が流れ出ている。
女性が感じると、流れ出るという愛液……。
大丈夫、汚くなんかない。
そう思って九兵衛は、妙と同じように彼女の腰に左腕を回すと、秘所に舌を絡ませていく。
右手は妙の脛、膝、太腿、臀部を素早く往復していく。
「んんっ……!」
未知の快感に妙の体は一瞬こわばるが、すぐに力を緩めて、より感触を味わうようにゆったりと九兵衛の敏感な部分を舌でなめていき、先ほどよりもゆっくりと彼女の脚に右手を蠢かして、寒天のように柔らかい感触を楽しんだ。
この格好、ウロボロス(互いのしっぽを食い合う2匹の蛇で出来た輪)みたいで、初めて知った時から九兵衛は好きではなかったのだが、思い人の優し気な行為からくる快感、そして自分も、好きな人を喜ばせたいという思いから、九兵衛もだんだんと夢中で妙の桃色の突起にむしゃぶりつく。
突起が硬くなっているのは、相手が快感を感じている証拠だ。
「んっ……くっ……!」
が、歳の功か、妙のほうが技術がうまいようだ。
だんだん感じる刺激が激しくなる。
意識が、飛ぶ。
このままでは自分が、妙よりも先に限界に来てしまう。そう悟った九兵衛は、
「妙ちゃん、待って! いったん手をどけて!!」
真剣な声に、思わず妙は九兵衛の腰に巻き付けていた左腕を外す。
九兵衛は妙の秘所にむしゃぶりつくのをやめ、向きを変えて布団から顔を出し、再び瞳を彼女と合わせた。
「妙ちゃん……」九兵衛は妙に覆いかぶさるように上になり、言った。「僕、妙ちゃんと一緒に気持ちよくなりたい……」
「うん、いいよ、九ちゃん」
九兵衛は、妙の白い左脚を浮かせ、下に自分の細い右太腿を滑り込ます。互いの股間の一番敏感な秘所を接触させると、ニチュリという音、及びお互い痛みとくすぐったさの中間のような感覚を感じ取った。
九兵衛は一瞬、『卍』という字を頭に思い浮かべた。
本来の男女の体位とは違う気もするが、足を絡めあい、快感を共有しようという今の状態はまさに『卍』だと思った。
妙の両掌に自分の両掌をそれぞれ重ね合わせ、お互いの手の平を握りしめるように両指を絡ませる。
男として育てられた自分がリードしなければ。そう思って九兵衛が、その状態で腰を前に動かすと、クチュリという音とともに、2人の体に先ほどの感触が走る。
先ほどと同じ、痛みとくすぐったさの中間ぐらいのものだが、それは苦痛ではなく、快感と呼べるものであった。
お妙の顔が、その感覚に歪む。媚薬の影響で感度がさらに増している。
もっと、味わいたい。もっと、もっと、もっと。
お妙の顔と薬の作用によって、九兵衛の理性が再び吹き飛び、ゆっくりながら、何度も前後に腰を動かし、お互いにくっつけている敏感な部分を刺激する。
「あっ……あんっ……九ちゃんっ……九ちゃん……」
鼻にかかった甘えるような声とともにお妙も、一緒にぎこちなく腰を動かし始めた。
九兵衛の顔も、強烈な快感によって目が据わり、ハアハアと声を荒げる状態になった。
「はあっ……ん……妙ちゃ……妙ちゃん……うんっ……あ……っ」
自分の声も他人に聞かせられないものになっていることを自覚しつつも、九兵衛はどんどん腰の動きを速くしていく。
それとともに、接触している部分からどんどん愛液が湧きあがり、音を立てながら混ざり合っていく。
にっちゅ、にっちゅ、くちゅっ、くちゅっ。
「はあ……はあ……妙ちゃ……妙ちゃ……んっ……っ……あっ……!!」
「あっ……うんっ……んんっ……九ちゃん……キス……して……」
答えも聞かず妙は頭だけ上げ、九兵衛の唇を吸った。
「うんっ……んんん……」
「はぁ……んっ……」
2人とも目に涙をにじませながら、互いの口を吸いあい、続いて舌を絡ませ、お互いの唇の舌触りを味わった。
ちゅうっ、ぴちゅっ、はふ、はふ……
甘く、やわらかい。
2人の唇が離れ、白い糸を引く。
九兵衛と妙の腰は、時間がたつにつれ共に動きが速く、激しくなっていく。同時に敏感な秘所がその接触を感じ取り、快感をどんどん大きなものにしていく。
「あっ……あっ……ひあっ……九ちゃん……九ちゃん……んっ……いいっ!……良すぎる……!!」
「妙ちゃん……妙ちゃん……あっ……うんっっ……僕も……きもち……いっ……すごくっ……」
お互いの快感が高まると同時に、クチュクチュという音がさらに大きくなり、2人の声がどんどん細く、高くなっていく。
なぜか、お互い限界を察することができた。九兵衛はそこまであと少しということを悟り、さらに激しく腰を動かした。
2人の息がさらに荒くなり、重ね合わせた両掌がつぶれそうなほど、指に力が入る。
「きゅ……きゅうちゃ……んんっ……あっ……わ……私……もう……ダメ……っ……!」
「うん……僕も……い……いきそ……う……!」
「おね……がいっ……一緒に……私と……一緒に……んっ……うんっっ……好きいっ……九ちゃん……好きいっ……!!」
「うん……わかってる……僕も……妙ちゃんが……好きっ……あっ……あっ……いくうっ……!!」
その時が達するまで、あっという間だった。
「「あっ……あっ……あああああああああああああああああああああああああああああっ!!」」
ぷしゃあああああああああああああああああっ!!
部屋中に2人の絶叫が響き、同時に、何かが噴き出る音が2人の耳に届いた。
「はあ……はあ……はあ……」
オルガスムの後、2人とも全身の力が抜け、九兵衛は妙の右肩の上にうつぶせに倒れこむ。妙は仰向けになったまま、頭を九兵衛の側に向けた。
しばらく2人とも、肩で息をしていた。
その時になってお互いようやく気付いたが、2人とも全身、特に額が汗でぐっしょり濡れている。
「ごめん……妙ちゃん、後悔してない?」
「ううん、ありがとう」
疲れが取れないまま、妙はぎこちない笑みを浮かべた。幸いあれだけ激しい動きをしても、一糸まとわない体が2人とも布団から出ていない。
おそらく他の誰にも、体を見られていないだろう。
「ねえ、妙ちゃん」九兵衛は再び、甘えるような声を妙に聞かす。「また、抱きしめてくれないかな? 母上のように」
九兵衛の頭が、妙の胸にしなだれかかる。
「九ちゃん……」
妙の中の母性が急に高まり、彼女は九兵衛を、胸のあたりで抱きしめた。
九兵衛の中で飢えていた母の愛情が、自分の中で沸き上がり、安心の感情に覆われていった。彼女は思わず、瞳を閉じる。
それを見て、妙は思わず、微笑む。
やがて2人は、湧き上がってきた睡魔に、その身を任せた。
「あ……あ……あ……」
尻もちをつきながら、部屋の入り口の扉にもたれかかり、新八は薄暗い虚空をにらんでいた。
「あ……姉上……九兵衛……さん……」
聡明な新八は、部屋から漏れ出てきた2人の吐息、喘ぎ、叫びから、2人が中で何をしていたのか、何が起こっていたのかを全て悟る。
顔は頬から耳まで真っ赤になり、額には冷や汗が流れ、体の一部ははち切れそうなほど反応してしまっていた。
「オイオイ、ダメガネ、こんなところで何ビビっているアルヨ?」
「お前ん家不用心だな。鍵空いてたから勝手に入っちまったぜ」
新八が我に返り、声のする前方を見ると、すぐそこに万事屋の仲間、神楽と坂田銀時が立っていた。神楽は赤毛にお団子頭に赤いチャイナ服、銀時は銀髪天パに死魚のような目に着流し姿、2人ともいつもの姿だ。
「この部屋、お前の部屋だろ?どうして入んねえんだ?」
口を開く銀時。
ひいいいっ!! と新八は真っ赤な顔で吃音をあげながら、襖を通せんぼして、
「だ、だ、駄目です!! こここ、この部屋の中には姉上と九兵衛さんがいて、許可が下りるまで僕も入れないことになっているんです!!」
「おいおい、何故なんだ?」
「そ、そ、それは……僕にも言えません」
「もしかして2人してお召し替えか? なら俺とお前、男2人で覗きとしゃれこもうぜ。『鬼も18、番茶も出花』ってな」
「駄目ですっ! 着替えどころかもっとすごいことしてるんですから!!」
新八を無視して銀時は扉を開けようとするが、何かに妨害されて扉は開かない。
「あり?なんで空かない?」
「駄目ですよ!! この戸には裏につっかい棒まで立てられているようですし」
「ならワタシの怪力があるネ!!」
「駄目ですってばあああああああああああああ!!」
新八が止めるのも聞かず、神楽は扉に右正拳をぶつけた。
宇宙人神楽の『夜兎の怪力』により、一撃で戸はつぶれ、前に倒れる。
3人が部屋を見た瞬間――
「あああああ! うわああああああああああああああああ!! うわあああああああああああああああああああああああああ!!!」
神楽の絶叫が家全体に響いた。
部屋の真ん中で、それぞれ髪を下した柳生九兵衛と志村妙が、周りに服を脱ぎ散らかし、布団の中、双方裸形で抱き合いながら、深い眠りについていた。
終わり
あとがき
ストーリー・キーワードはそのまま『銀魂で18禁百合小説』。
銀魂ファンには腐女子が多く、男性同性愛妄想小説も18禁物も多いと聞きましたが、その逆、つまり銀魂の百合小説は少なく、まして18禁物は皆無に等しいです。
そこで裏をかいて、挑戦の気持ちで描いてみようと思いました。(まあ僕自身姫男子だしな)
……はずだったのですが後で調べたら先客が多くてしょんぼり。それでも描きかけたものは描き遂げる(それも良作に限りなく近づける)つもりで描きました。
銀魂でプリキュアのパロディをやっていましたが、『どの銀魂キャラでプリキュアをやってほしいですか?』と気まぐれにツイッターでアンケートを取ったところ、
『柳生九兵衛×志村妙』
のペアが多かったので、カップルはこの2人に決定。
(最初はオリジナルプリキュアの設定年齢を考えて、神楽×そよ姫のペアが多いと思ってたんだけど。まあお登勢×キャサリンのペアが多かったらそれはそれで面白かったかも)
しかし何の前触れもなく、口づけやら性行為やらに走るのはあまりにも不自然だと思ったので、そこまでのプロセスをどうしても描く必要があると思い、近藤の登場に至ったのです。
近藤が媚薬を使って妙をものにしようというのは、
「士道主義の彼らしくないのではないか」
と最初思いとどまりましたが、
「しょっちゅう下半身露出、かつ連続してストーカー行為しているあたり、士道もへったくれもない」
と思い直し、当初の筋書きで決定。
後は大体当初の構想通りになりました。
近藤が騒動の発端を作り、九兵衛と妙が事を済ませ、新八がその一部始終を声と音だけで察するという筋書き。
(原作にある愛染香と違う点は、吸った人物が異性に誰彼構わず惚れてしまうという設定なのに対し、こちらは飲んだ人間の『下半身の欲望』を強烈に増大させるという違いをつけたつもりです。
正直空知英秋なら後者の道を選ぶかと思ったけど、少年漫画の制約上できなかったか)
僕にとって今回一番の難関はやはり、女同士での性行為、および性的快感反応をどう描くか。
渡辺淳一の『失楽園』『化身』、谷崎潤一郎の『卍』などを読んでどんなものか必死に考えたつもりです。
幸い百合同人漫画も近くにあったので、それも参考になりました。
『S○X』『おっ○い』『お○んこ』『陰○』等、露骨すぎる言葉は描いているこっちの気も萎えてしまうので(特に『陰○』は苦手なのよ。ちなみに『オルガスム』はX JAPANに同名の曲があるので許可)、なるべく控えるようにして、それでも行動が読んでいる人の頭に浮かんでくるように描いたつもりです。
『……』が多すぎるのは反省すべき点だけど。
(その点プロ作家は伊達ではなく、渡辺淳一は露骨な描写を避けつつ、男女の愛撫シーンを丹念に描いています)
69ポーズは僕自身も、地の文にあったようにウロボロスっぽくて苦手なのですが、やはり必要かなと思って出しました。
困ったのは、原作でもTV版でも、九兵衛と妙の髪を下した姿のデザインがないということ。
様々なコマとアニメの色から、妙は茶髪で肩までかかるセミロングヘアー、九兵衛は腰までかかる黒髪サラサラ超ロングヘアーと想像してみました。
九ちゃんとお妙さんが髪を下し、お互い全裸で抱き合って寝ているのを見て、坂田銀時がどんな反応をしたかは、皆さんの想像にお任せします。
(ゴリラやロフトバカもその場に居合わせるという設定にしたかったなあ)
小説のタイトル『卍』は先ほど述べた、谷崎潤一郎の同名の小説から拝借。
谷崎の方も女性同性愛がキーとなっており、片割れの夫との関わり、最後は3人で心中を図るという筋書きが、非常に屈折した愛という点でこの小説と共通しています。
この小説のテーマソングに勝手に選んだMISIA『冬のエトランジェ』は元々、谷村志穂原作の映画『海猫』の主題歌。
この小説は全体的にはナンセンスで、元ネタの銀魂もシュールでギャグだらけな作品なんですけど、九兵衛とお妙が媚薬を飲んでから互いを求め、性的絶頂に達するまでの『時空間』が『禁断の愛』をテーマにした海猫に似ていると思ったのでチョイスしました。(メロディが心の琴線に触れたということもありましたが)
この作品も18禁百合というマニアックな題材を考えると『戯作』ですね。
構想は短時間で出来たけど、実際の執筆は時間がかかることこの上なかったですが。
対象も『銀魂』を読んでいる人向けだけに描いています。
(というか需要があるのか?
それ以前俺の『戯作』って、前作が『流血描写あり』、今作が『性描写中心』って一体……。)
でも、最後まで読んでいただいてありがとうございます。最後まで読んでいなくても、このページを開いてくれてありがとうございます。
P.S.『「番茶」は英語で「savage tea」だ』というネタの解説。
『savage』は『野蛮な』という意味で、『savage tea』とは、『蛮茶』を『番茶』にこじつけた代物と思われます。
正しくは本編でもあったように『coarse tea』。
『coarse』は『粗末な』という意味ですが、番茶は『規格外、低級品のお茶』をさすので、この言葉を使うことが多いようです。
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