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WHITE ALBUM 2 another story ~もう一つのWHITE ALBUM~

作者:冬馬 凪
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とめどなく降り続ける雪
  とめどなく振り続ける雪[前]

 
前書き
⚠︎訂正しました!
誰が椎名 心と付き合えるか→誰が椎名 恋愛と付き合えるか 

 
12月24日

バイト帰りの俺は駅に向かって歩いていた。
冬のせいか、はたまたすれ違う恋人たちを見て孤独の自分と比べてしまうせいか、いつもより肌寒かった。
首に巻いてたマフラーで口元を隠して、正面から吹き抜ける風をしのぎ、ただひたすら早く家に帰ることばかり考えていた。

交差点の信号機が点滅しだし、やがて赤へと変わった。俺は歩いていた足を止め、なんとなく後ろを見た。
すると街道の街路樹が、いつもはただ釈然とせず並び立つだけだが、この日のために、派手に装飾され、街から送られてくる光を道沿いの店のガラスが反射し、その光は、駅前を賑わせているように感じた。

だがなんとなくその光は心地よかった。
バイト帰りの日常を送っている人にすら、日常からかけ離れている感覚を錯覚させる、そんな魔法にかけられた気分になれたからだ。

はっきり言うと俺は停滞した日常が嫌だ。
友人と遊び、バイトに行って、ただ将来の夢や目標など漠然としたものは存在せず、一般的な大学生活を送っているだけだから。
別に友人と遊ぶのは楽しいし、バイトをしてお金を稼ぐことで生きている実感はあるだが、生きがいとなれるものはない。

だから俺が常に願うことは、”夢中になれる何か”。

別にそれが将来的に職業などにつながるものでなくてもいい。
ただ何も変わらないモノクロな日常に色を当てたい。
それだけなのだ。

やがて耳に機械的な小鳥の声が聞こえた。

俺は再び歩き出した。





交差点を渡るなり改札口に向かおうとしたが、正面には大勢のカップルがいて、あの中を通り抜ける勇気も気力もなく、回り込むように改札へ向かうことにした。

中央からずれて、右に進路を変えると、人通りは割と少なくなり歩きやすかった。
だが流石聖夜というべきか、多少離れているといっても人の声がよく聞こえる、というかはっきり言ってうるさい。

早く帰りたい、家の炬燵で温まりたい、・・・みかん食べたい。

そんな思いが俺の足取り早くする。

すると、目の前にポケットティッシュと赤い手袋をした手が飛び出してきた。

「ティッシュどうぞ・・・。」

俺は声を掛けられて、右を向くとそこには、サンタのコスプレをした綺麗な黒髪をした少女だった。

その少女と目が合うと、彼女は睨らんできたのだった。
悪いことをしたのかと思い俺は目をそらした。

「どうも」

俺はよくある返しをしてその場から逃げるようにして立ち去った。


・・・にしてもあのミディアムロングの黒髪、澄んだ黒い瞳、すらっとしたボーイッシュな顔立ちどっか見覚えがあるかも?




俺は受け取ったティシュをコートのポケットにしまい、再び改札口に向かった。

すると、端っこの方で一人の少女がアコースティックギターを持っている姿を見た。

路上ライブかな?なんて予想をしていた。

俺は彼女の横を通り過ぎた。

「頑張れよ。俺はもう弾かないけどな。」
ぼそっと、独り言を呟いた。誰かに言うためではなく、自分にしっかりと言い聞かせるために。


〈すれ違う毎日は、増えてゆくけれど〉

あまりにも美しい歌声が聞こえ、俺は立ち止まり、振り返った。

・・・時間はあるし、少しぐらい聞くだけならいいよな??

路上ライブの少女のもとに近寄った。

彼女の歌声を聞き一瞬立ち止まる聴衆もいた、しかし、どうしても周りの声に阻害され、周囲にはあまり聞こえていなかったかもしれない。
だが俺は彼女の歌声だけを聞き続けていた。
周りの音など耳に入ってこない、純粋に一つの声だけを耳に入れた。

〈白い雪が街に、優しく積もるように。アルバムの空白を全部、埋めてしまおう〉


気がつけば既に彼女は一曲目を歌い終わっていた。
俺は今まで誰かの歌声を聴いてこんなに感動に近い感情を抱いたことがあっただろうか。

いや、歌声(・・)では初めてだ。

俺は無意識のうちに拍手をしていた。
ただ、他に拍手の音が鳴らないので、周りを見渡してみると、周りにいた先ほどの聴衆は姿を消していた。



「最後まで聴いてくださってありがとうございます」

少女の声はどこか寂しさが残っていた。

「短い時間でしたが次が最後の曲になります!今日初めて路上ライブをやらせて頂いて、それなのに最後まで聴いてくださる方がいて、本当に嬉しいです!」

俺はただ一心に彼女の言葉を聞き続けた。

「私はREIと言います。今後も路上ライブやらせていただきますのでよろしくお願いします!
では、聴いてください。」

俺は息を呑んだ。彼女の次に歌う曲は何だろうかそんな期待ともう終わってしまう喪失感が心に残る。

もっと、聴いていたかった。
素直にそんな風に思えた。

「届かない恋」

鳴り始めたアコースティックギター、先ほどは気付かなかったが彼女はギターも普通に上手い。ピッキングの音も綺麗で心地よい。

〈孤独な振りをしてるの、なぜだろう気になっていた〉

アコースティックでやっているせいか、よく聞くテンポよりも遅く、いつもとは違った印象を受けた。

こんなに、悲しい曲だっけ・・・。
まるで、心臓が握るつぶされるように痛い。
さらに、その奥に感じられる切なさが自分を締め付ける。

サビに入る前に彼女は一呼吸置いた。
その時ちょうど車のライトに照らされて、ぼやけて見えなかった少女はこげ茶色のロングストレートの髪で雪の結晶のヘアピンをつけ、言葉に出せないぐらいの美少女だった。
その少女の姿はまるで大きなライブでスポットを当てられている歌手のようだった。

〈届かない恋をしていても、映し出す日がくるかな〉

サビが始まると再び彼女の声を聞き入った。


曲が終わると同時に夢を見ていたかのような俺は現実に引き戻される。
だが、ただ現実に引き戻されたというわけではなく、確かな感触があった。

・・・やっぱりこれなんだ。俺を突き動かすのは音楽なんだ。
こんなに冷め切った俺を豊かにしてくれるのは一生かかって探してもこれだけなのかもしれない。
たった2曲で、今までの音楽を縛ってきた自分を(ほど)くように彼女の音楽は衝撃的だった。


「最後まで聞いてくださってありがとうございました」

二回目のその言葉もやはり悲しさが残っていた。
周りをもう一度見渡してみると先ほどと状況は変わっていなかった。

それも仕方のないことだろう、初めてのライブましてや今日はクリスマスつまり恋人や家族はたまた友人と過ごす日なのだ。
そんな日に一刻も早く帰ろうとするのは当たり前で、こうして最後まで聞いてられるような孤独な人間は用事なしでは外にでないだろう。

彼女は撤退するらしく急いで片づけを始めた。

俺は彼女に勇気を出して話しかけた。
またあの歌声が聞きたいと。

「・・・惚れました」

彼女は驚きあたふたしている。

「あ、あの、お気持ちは嬉しいんですが私あなたのこと知らないですし・・・そういうのは・・・」

彼女は何か勘違いをしているようだったのでもう一度言い直した。

「あなたの声に惚れました。次のライブはいつ行うのですか??」

ついでに本題も添えておいた。

彼女は頬を真っ赤にして、マフラーで顔を少し隠した。

「・・・1月の2週目の土曜日のこの時間です。」

少し聞き取りづらかったがなんとなく聞こえた。
彼女には少し恥をかかせてしまったと思いつつ、そんな顔も可愛いなと思ってしまった。
時間も時間なので俺はこの場を立ち去ることにした。

「また来ますね」

「はい!!お待ちしています!!」

彼女は笑顔で答えてくれた。
彼女にとってはこれほどない嬉しい言葉だった。

「あ・・雪が降ってきた・・・」

その雪は街を白く包み込み、一段と寒さを感じさせると同時に、恋人たちに送られたような幻想的なホワイトクリスマスを演出した。

「WHITE ALBUMの季節だ」

「ですね」

彼女は笑顔で微笑んだ。
よくある表現かもしれないが、その笑顔はまるで天使みたいだった。

では。と最後に一言交わし俺は改札口へと歩き出した。






一人のサンタコスをした少女が私のもとに駆け寄ってきた。

「雪降って寒くなってきたけど大丈夫?恋愛(れいあ)??」

「私は大丈夫!それよりそんな恰好してる(こころ)のほうが寒いでしょ??」

私は心の首にマフラーを掛けた。

「ありがと、恋愛。それよりもさっきナンパされてなかった??大丈夫??」

「ううん、ナンパじゃないよ。私の初めての観客で第一号のファンの人・・・かな??」

私はその事が嬉しくて、ちょっと照れくさかった。

「そうならいいけど。早く帰ろ」

「そうだね!早く帰ろっか」

私たちは駅の改札口に向かった。

「なんで恋愛の歌は上手いのにみんな聞かないんだろ?」

「歌が上手いなんて~!心に褒められるとすごい嬉しい//」

普段、心は褒めてくれないのであまりの嬉しさに私は抱きついた。

「や、やめろ〜!!」

「えへへ、離さないんだから」

「にしても、なんでみんな聞かないんだろ?」

「たぶん今日は恋人と過ごしたいんじゃないかな?しかもここは名新屋(なにや)駅だよ??しかも今日はクリスマス!聖夜だよ!?」

「じゃあなんで名新屋で、なんでクリスマスにやるのさ!」

「えっと・・・」

問い詰められて困ったが、もちろんちゃんとした理由があったので心に話した。

「だって、路上ライブといえば名新屋駅でしょ!」

「じゃあなんで今日なの??さっき自分で人集まらないってわかってたんでしょ??」

「その初めての・・ファーストライブだし・・今日駅前でバイトするっていってたから心がいてくれた方がちょっとは気持ちが楽になるかなーと思って」

心は軽くため息をついた。

「まあ、いいけどさ。久しぶりに恋愛の歌聞けたし・・・ね」

「あ!!そうだ思い出した!!大学ちゃんと行ってる!?」

私は少し前に心のお母さんに大学がサボり気味になってることを相談されたのだった。そしてもう一つ。

「あと、おばさん心配してたよ!いつまで経っても彼氏紹介してくれてないって!!」

「か、彼氏なんていないし・・・」

「そっかぁ・・まだ苦手なのか・・」

心は昔に男の子からいじめられている私を幾度となく助けてくれたのだが、ある時私をいじめていた男の子たちが心に仕返しを企てた。
本人たちはそこまでは仕返しつもりはなかったのだけど、結果的に心に傷をつけてしまったのだ。
その日を境に彼女はある程度は良くなったものの軽い男性恐怖症になってしまった。そのことは私も負い目を感じている。

「まぁ、父さんと優はぜんぜん大丈夫だけど」

「相変わらずの家族愛の深さだね」

「まあね」

心はくすりと笑っていた。
そして今度は心から攻めてきた。

「で??恋愛は彼氏できたの??違う大学だから噂も聞かないし」

「今はいないよ??」

「でも男たちは寄ってくるでしょ??」

「なんでそんな言い方するのー!!」

私はちょっとだけ怒った。

「だって高校だってモテてたじゃん」

私は周りに聞こえないように小声でボソッと言った。

「自分ではあまりいいたくないけど確かにそうだし。今もそうだけど・・・」

「やっぱりね」

「心の意地悪!!」

心はまた笑っていた。

「でもなんで前の彼氏と別れたわけ??まあ前って言っても高校の時のだけど」

「彼から告白されたけど、私は本気で好きになれなかったの。だって彼は付き合う前までは性格良さそうににして、付き合いだしたら最悪だったし。単純に私と付き合っていたというステータスが欲しかっただけだったみたい!顔はかっこよかったけど」

「恋愛ってときどき凄いこと言うよね」

私は感情的になってつい言ってしまった今の発言を振り返って後悔する。
私は恥ずかしくなって、顔を下に向ける。

「まあ、事実だからさ。ね??」

当時の男子の間では誰が椎名 恋愛と付き合えるか?みたいなある意味ゲームみたいなことをしていたと噂で聞いた。

「私って自意識過剰かな・・??ぶりっ子みたいに思われてたら嫌だなぁ・・」

「それは大丈夫。実際、異性の前になると恋愛が緊張するのはクラスの女子全員知ってたから」

「バレてたの!?でもでも私が甘えるのは心だけだからね〜!」

再び私は心に抱きついた。

「こらー!こんなところでやめろー」

人前でちょっとばかし遊び過ぎたと思いすぐにやめた。

すると、心は思い出したように焦って私に言った。

「私、一回代理店に寄るからちょっとここで待ってて!」

「うん!わかったー」

心は急いで交差点を渡っていく姿がだんだんと小さくなっていった。

今日あったライブを思い返す。
初めてのライブ。
歌手REIとしての一歩。
初めてのファン・・・??

何もかもが新鮮で当たり前だった日とは正反対だった日だった。
ライブが始まる前の緊張が懐かしくも恋しくさえ思う。
もっとたくさんのお客さんに来てもらいたかった。
もっと熱く、楽しく。あの人のライブみたいに。
たまたま友人のライブを見に行った時に聞いたあの人の。
歌手SETUNAさんみたいになりたい・・。

ここから始まるんだ、私の物語が・・・

止むことを知らない雪はさらに深く深く降り積もっていく。




2月10日

朝一番に俺はいつも通り飲食店のバイト先のシャンゼリアに向かった。
俺は裏口からいつも通り入るなりそこには見たことのある人物がいた。
もちろんここではない場所で。

ここシャンゼリアの女店長の川端(かわばた) 秋華(あきか)は入っきた俺を確認すると新人教育をするように指示した。

「よろしくね~深夜くん~♪」

俺はどう話せばいいか分からなかった。
そうやって1分ぐらい口を開くことなくただ立つくす俺に嫌気がさしたのか彼女自身が口を開いた。

「どうも、新人バイトの菜畑(なばたけ) (こころ)です。よろしくお願いします。先輩(・・)。」

この状況で少しだけわかることがある。
とりあえず俺とバイト先が被ったことを嫌に思っていること。
そしてもう一つ、そのせいで同じ年齢、同じ学年であるが嫌味っぽくバイト(・・・)の先輩などと使ってくること。
要約すると、彼女にとってよほど最悪だったらしい。

こうして俺たち3人の物語の歯車が回り始めた。


とめどなく降り続ける雪[前]  (終)




























 
 

 
後書き
みなさんこんにちわ!冬馬凪です!!

今回は一話ということで3人の出逢いのお話とでしたが如何でしたでしょうか??
もともと一話で収めようと思ったのですがそれだと1万字を超える!!と思い分けましたw
なので終わり方がイマイチ、パッとしなかったかもしれません。

それはさておき(以下ネタバレあり)


一話[前]では登場しませんでした原作3人ですが、これからは出て来る機会があると思います。期待を良い意味で裏切れるよう頑張りたいです!!
恋愛に影響を与えた歌手SETUNAとは誰なのか?(すっとぼけ)
これからの活躍にこうご期待。




同じ時間軸だからこそできるようなことを挑戦していけたらと思っています!
これから3人がどう進んでいくのか、次回もご覧になっていただけたら嬉しい限りです!

最後までご覧になっていただいてありがとうございました。よろしければ感想、批評、誤字脱字報告などよろしくお願いします>_<

冬馬 凪
 
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