藤村士郎が征く
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第3話 直江大和、撃沈!自宅の自室で生来のカルマを叫ぶ坊主
この世の中は理不尽で出来ていると誰かが言っていたが、俺自身は家族にも友人にも環境にも経済的に恵まれていた。
だが恵まれれば恵まれる程、人というものは際限なく我儘になるものだ。
そして、それは俺も例外では無い。
これだけ恵まれているがこの年にもなれば恋人というものが嫌でも欲しくなるのが健全な思春期真っ盛りの男子高校生というものだ。
別にガクトほど餓えている訳じゃ無いが、彼女のいる潤いある学生生活というものに憧れが少なからずあるんだ。
え?なら京の告白を受ければいいじゃないかって?だが今の時点ではそれは無いと言えるだろう。
別に京が嫌いと言う訳じゃ無い。日々熱烈な告白や寝こみを襲うのは如何かとも思うが、正直日を追うごとに京はますますエロくなっていると言えるので、そのまま堕ちてもいいんじゃないかとも思えてしまうほどだ。
だが、それは恋じゃない。俺は現時点では京の事を愛しているとは言えないからだ。
しかしながら、このままいけば遠からずの内に俺は京とゴールインする事に成るだろうとよく夢を見る。
だがやはりここは現実、夢のようにはならないものだ。
何せ俺は今日この川神学園でジャンヌ・オーリックと出会ったのだから・・・。
-Interlude-
「へー、という事は去年から日本に居るんだなぁ」
先程の邂逅から、共に帰宅しないかと義姉さんが“彼女”をナンパして俺達は今下駄箱前に居た。
本当に短い間に彼女の事について少し分かった事が、語尾が誰に対してもデスマス口調ではあるが意外と気さくで話し易いという印象だ。
「はい、ですが留学生と言う訳では無いんですよ。その証拠に・・・えっと、これですね」
彼女がカバンから取り出したのは自身が日本国籍を持つという証のチケットだった。
「確かに日本国籍ですね。という事はオーリックさ「ジャンヌでいいですよ」ジャンヌさんはこれから日本に永住するんですか?」
「永住では無いですね。ですが、これからは比較的にも日本に居る比率が多くなりますね」
何かしらの理由があっての事だろうが、俺はその事実に心の中でガッツポーズをした。
そんな時、校門前が何やら騒がしくなっていた。
「なにかしら?」
「また、百先輩への挑戦者なんじゃないかな?」
「ほぉー、ここ数日全く来ないから頭の中にボヤが差し掛かってたんだ。これは願っても無い・・・いや、あれは藤村組だな」
確かに義姉さんの言う通り、あれは藤村組の方々に黒いベンツだ。
俺達も川神院などで何度か面識の機会が有った。先代当主であり義姉さんの祖父である鉄心さんの旧友である《現世の閻魔》と若き日は恐れられた藤村雷画さんとも会った事が有る。
今では実子の方や、お孫さんたちの成長が何よりの楽しみとしている昼行燈なご老人然としているらしい。
長寿の秘訣は枯れない事、と言う言い訳をのたまう理由として女子のプールを嬉々として眺めるどこぞの総代とは違って。
話が逸れたが、その藤村組が一体何の用だと思いながら校門に近づく。
「あれ?吉岡さんじゃないですか。如何したんですか?」
「んん?おー、百代ちゃんか。いやねぇ、ちょっと人を待ってるんだが・・・って!?お嬢さん!」
吉岡さんと言う方が“彼女”に向かい話しかけてきた。だがお嬢さんと言うのは如何いう・・。
しかも“彼女”はハァと軽くため息をついた後―――。
「――――誰がお嬢さんですか、吉岡さん。私は藤村組の一員ではありませんよ」
「それはそうなんですが、そう言う訳にもいかんのですよ。上からの指示でして」
そう吉岡成る人物が告げるとまた軽く溜息を零す。
「藤村組のNo,5である吉岡さんにこんなことさせるという事は、御爺様からですか?」
「ご名答です、お嬢さん。「ワシにとってもそっちにとっても大切な玉体に何かあったら死んでも死に切れん」と言われて、我々も仕方なくこうして参った次第です」
「――――わかりました。今回は従いますが、次からは来なくて構いませんよ。帰り次第御爺様に連絡をして直訴しますので・・・という事で皆さん、前言を撤回する事に成ってしまいますがよろしいでしょうか?」
迎えの男性と話が付け終わったのか“彼女”は、俺達に謝罪してきた。
「よろしいというか、ジャンヌからしても不可抗力なんだろうぉ。なら気にするなよぉ!」
「ああ、自分たちとは明日からでもいいだろうからな!」
すかさずキャップとクリスが返答した。俺としては本心からすれば残念極まりないが、ここで駄々をこねても事態が解決する筈もないので表面上は素直に諦めた。
「では、お嬢さん。良ければ車内にお入りください」
「はい。では皆さん、明日お会いしましょう」
そう言って“彼女”は車内に入る。
「“若”もそろそろアメリカから帰ってきますのでどうかご辛抱ください」
吉岡と言う男性の言った“若”と言う言葉に、義姉さん以外が頭にクエスチョンが浮かび上がった。
その時に俺は見てしまった。義姉さんすらも見逃す程の一瞬ではあったものの、“若”と言う言葉を聞いた直後“彼女”はほんの一瞬ではあったがとても嬉しそうな顔をしたのだ。
俺は彼女のあの顔の真意を知っている。
人脈構成のために観察眼をそれなりに鍛えている俺は、彼女の顔と同じようにした女性たちを何度も見てきた。
それは待ちわびた好きな男に会える嬉しさから来るものだった。
故に“彼女”の顔の真意を知っているがために、俺は否が応にも悟ってしまった。
俺の初恋は十数分で終わってしまったのだと。
今の俺にできることは発信した車を未練がましく眺めるだけだった。
-Interlude-
俺は今、自室にていつも通り京と背中をくっつけ合い読書をしていた。
「ねぇ、大和」
「ぅん?」
「大和ってば彼女の事好きに成ったんでしょう?しかも告白する前に終わって…」
「――――うん」
やはり気づかれていたのかと大和は思う。
「こんな日ぐらい私の体を使って憂さ晴らししてくれてもいいんだよ?」
「好意は嬉しいけどお友達で」
「チッ、駄目か」
何と恐ろしい幼馴染か、俺が意気消沈している処に甘い言葉で誘惑して、とって喰おうとしてくるとは。
そんな風に大和が考えている時に京は別の事を考えていた。
(まさか“店長”の彼女が転入してくるとは思わなかったけど、ジャンヌを利用して大和と今日こそは既成事実を構築しようとしていたのに)
椎名京は基本的に実の父親や風間ファミリー意外と必要以上に会話をしないのだ。少なくとも直江大和が知る限りでは。
しかし、上記で示す以外にもごく少数成れど、必要以上に会話をする人がいたのだった。勿論、上記に挙げた人物たちはこの事を知らない。
そのうち一人がジャンヌである。風間ファミリーと共に会いに行ったときは、見惚れるように演技をしたのだ。
もう一人は“店長”と彼女自身が呼んでいる人物だ。かの人物は自身をこれ以上なく満足させてくれる辛さと旨さを同時に追求した料理を振るってくれるのだ。
因みに“店長”の店は現段階では隠れ名店で知る人はごく少数だ。なぜそれほど少ないかと言うと、店長として店を構える時間帯が現在は少ない為である。あと一年で、基本的には店に集中できるらしい。
三人目が上記に挙げた二人の知り合いで数少ない辛党同士だ。今この場ではあえて名前を伏せておく。
最後の一人は京を含めた二人の辛党同士であり、師匠とも呼べる人物だ。しかも、京を以ってしても届かない辛党である。しかも、三人目の父親でもあるのだ。
結局、京の策はまたしても失敗に終わったが、この時間も京にしてみれば至福の時間の一つらしく、そのまま黙って読書を再開したのだった。
因みに、今日の川神市やその周辺の幼稚園や保育園などでスキンヘッドの怪しい不審人物成る目撃情報が相次ぎ、その酷似した人物が美少女ゲーム店で幼女のみがヒロインのモノを買い漁り奇声を大声にし乍ら自室に引きこもって行った。
それから深夜に差し掛かる頃位にその部屋からある声が聞こえて来たそうだ。
その声とは――――。
「オォオオウゥウウルゥウウ、ハァアアアイリュゥウウ!ロリクォオオヌィアァアアアア!!!」
『『『オール、ハイル、ロリコニア!オール、ハイル、ロリコニア!オール、ハイル、ロリコニア!!』』』
と言う、意味不明な言葉が聞こえて来たそうだ。
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