藤村士郎が征く
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第12話 唸れ天神!!轟け武神!! 気怠い士郎は、溜息を吐く
6月6日
東西交流戦、第2夜。
本来であれば、次は2年と来るところだが、天神館の生徒たちの十人のトップを《西方十勇士》が全員、2年に来ており第2戦目は3年対3年となった。
しかし、今日の川神学園の生徒たちは楽勝ムードだ。
何故なら現・武神である川神百代がいるのだから。
されど、天神館には秘策と言うか、強力助っ人が用意されている事など知る由もないだろう。
-Interlude-
「美少女らしく、ワクワクして来たぞ♪スキップ♪スキップ♪」
川神百代は只戦えると言うだけで、上機嫌だった。相手が誰であろうと関係なく余裕を表している。
武神ゆえの傲慢、ここに極まれりだった。
そして相手は・・。
「敵はあの武神ぞ!倒した人間をラーメンにして食べてしまうと言う、逸話を持つ狂戦士だ!不退転の覚悟で臨め!」
百代はこんな美少女に向かって失礼な!と苛立ったが、それで楽しめる戦いが出来るなら、と思った。
「文字通り、一丸となって戦う!天・神・合・体!!」
最大人数200人の3年生全員が、上半身だけの巨大な人型に変わった。
「ほう、3年生全員が一つとなり巨大な生物の様に・・」
「凄いな天神館!それ妙技だぞ、練習大変だったろう?」
「武神相手に、これ位は当然のように出来なければな!それに、今回は館長が直々に連れてきた助っ人の方も来ておられる!例え武神とは言えど、容易に行くと思うなよ!!」
その合図とともに天神の横に、面に骸骨の仮面を付け、頭から赤いローブを被った人物が現れた。
気怠そうに。見た事のない、大型ブレードライフルを携えて。
しかし、川神学園生徒、1年生及び2年生は、ほぼ全員が余裕ムードだ。
「誰かしら?あの人」
「判らないけど、百先輩の前には誰であろうと大概は楽勝でしょう?」
「だな。大方、たまに来る挑戦者みたいなもんじゃねえか?」
そんなガクトとモロの感想の横で、大和は何とも言えない顔をしていた。
「如何した?大和。変な顔してよ」
「いや、普通に挑戦者なら名を売るために来るもんだろう?それなのに、顔を隠すのはおかしくないか?」
その大和の言葉に周りに居たファミリー連中は確かにと唸る。だが・・。
「だが、それが如何したんだ?と思うぞ。自分から見ても、あの人物はさほど強そうには見えん!」
そうか、と半分だけ納得する大和。
そこで、2-Sと言えば、九鬼英雄が反応していた。
「あ、あれは・・・」
「英雄?あれを知っているのですか?」
「うむ、我が友、冬馬よ。あれは九鬼財閥の姉上が担当している、軍需鉄鋼部門の新開発の試作機として作り上げたばかりの、可変型ブレードライフルなのだ。しかもまだ試作機故、一丁しか作成されていないはずだ!なのに、何故・・・?」
英雄が訝しんでいる横で、マルギッテが忍足あずみの反応を見ていた。
「女王蜂は、何か知ってるのではありませんか?何やら一瞬だけ反応していましたが」
「そうなのか?あずみよ」
英雄の言葉に申し訳なさそうにするあずみ。
「申し訳ありません、英雄様。ヒューム卿から当日まで黙っていろと言われていましたので」
「ヒュームが?という事はあれは本物か!?」
「はい、あれが開発されてから手頃なテスターを探していたようなのですが、天神館の館長殿があそこに居る《スイーパー》を助っ人の一人として誘うという情報を聞きつけた後に、かの人物にテスターとして依頼されたのです」
それを成程と英雄は、納得する。
「《スイーパー》ですか?あずみさんは、あの人物が誰かも知っていらっしゃるんですか?」
そこで冬馬が反応して、あずみに聞いて来る。
「詳しくは申し上げられません。九鬼の機密事項なので」
「英雄は知ってたのかよ」
「我が知る訳無かろう。でなければ、あのような反応はせぬ」
「英雄が知らぬ機密事項ですか?」
「あの人物を知り得ているのは帝様と、私を含めた九鬼従者部隊零番から序列4位までの、計6名だけです」
成程と納得する一同。
それにそれだけしか知らないという事はそれだけ重要事項なのだろう。
「ねぇ、トーマ。もうすぐ始まるみたいだよ?」
そこで一人我関せずと言わんばかりに、ずっと戦闘で睨みあいをしていた両者を見ていた小雪が葵冬馬に教える。
これからが第2戦の始まりだ。
-Interlude-
「戦うのはいいが、そっちの助っ人さん。如何やらやる気なさそうだぞ?」
百代の発言により天神もギャラリーも皆がスイーパーの方を向く。
にも拘らず、スイーパー(士郎)は深い溜息を吐く。
「ス、スイーパー殿!?貴方の事情はある程度館長から聞いてはいるが、引き受けたからには如何かやる気を出してもらいたい!」
「そうだな・・。仕方ないし、やるか」
そんな反応を見た百代は不服そうだった。
「やる気がないのなら、直に退場させてやる!!」
その言葉と共に突っ込む百代。
それに対してスイーパーは。
「そうだな・・。早めに終わらすか」
そのままゆらりと、得物を向けるが遅すぎた。
「遅い!!」
百代の只の蹴りがスイーパーに直撃する――――いや、空を切った。
「遅いのは君だ、武神殿」
「なっ!?」
確かに捉えたにもかかわらず、相手は百代の真後ろにおり、首筋には銃口が零距離で当たっていた。
ここで、暗黙のルールのおさらいではあるが五体不満足及び殺害の禁止により銃を使う場合はBB弾だし、刃物類は刃の部分を潰してあるレプリカを使う事に成っている。
故に零距離とは言えBB弾程度ならばかなり痛い程度で済む上、対するは武神だ。そんなもの痛くも痒くもないだろう。ただのBB弾であればだが・・。
そして、放つ。8連茶で。
「分しっ、がっ!??」
にも拘らず、武神は相当なダメージを喰らった。
理由として、士郎は弾一粒一粒に、気を込めているのだ。これならば反則でもないし武神相手でもそれ相応のダメージを与えることが出来るのだ。
そして、そのまま這いつくばるように倒れるが、瞬時に28回だけ使えると言う秘技、瞬間回復を使用し、ダメージを零にしてから立ち上がる。
「お前・・・!?」
「どうかしたのかな?武神殿。かかってこないのかな。なら、天神ともどもこちらから行くぞ。行け、天神」
その指示と共に、天神が唸り声を上げ乍ら、右手部分が百代を掴み上げようと迫る。
「オォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「そんなものに私が捕まるか!川神流・・・星殺し!!」
天神に向けて百代が、自分の気で作った極太砲撃を放つ。が・・。
士郎がそれを事前に察知しており、直に割って入り、十連茶の銃撃を放ち百代の技を消し飛ばした。
士郎はこの世界に来てから、気の概念を知りそれに対する鍛錬も人の何十倍も行った。
そして、魔術を使わない前提での士郎の一番の強みは、規格外なまでの視力の良さだ。
その規格外の視力を以ってして、気弾などの攻撃の弱所を見極めることが出来るようになったのだ。
それ故に、百代の気弾もかき消すなど容易なのだ。少なくとも現時点では。
「なぁあ!!?」
だがまだ終わりでは無い。銃撃をした後すぐにまた、十連茶の銃撃をしていたのが全て百代の体の殺到する。
「がはっ!!・・くっ!?」
銃弾は全て百代に命中した。というか、士郎の射撃は本人がわざと外そうとしない限り外した事が無い百発百中というより、ほぼ呪いの類なのだった。
そのまま瞬間回復をする直前に、天神の右手に掴まれて放り投げる様に投げ飛ばされる。
だが百代は空中で瞬間回復を行い、見事に着地する。
「如何した?百代殿。それでは、武神の名も泣こう」
そんな挑発的な士郎のセリフを黙って聞いていた百代。だが・・。
「・・・クク・・クハハハハハ!!アハハハハ!!!」
百代は嬉しそうに笑う。こんな処にこんな強者がいたのかと、世界は自分が感じていたよりも広かったのだと。ただただ、嬉しそうに笑う。
それを見た士郎は、少しだけ悲しそうになる。
「・・・・・・・・」
笑い終えた後、百代は遂に見つけたと言わんばかりに、鋭い眼光を放っていた。口元は笑みのまま。
「スイーパー・・っていったか!」
「無論、匿名であり渾名の様な物さ」
「フフ、・・・最初の気怠そうな態度とは大違いじゃないか!この狸め!!」
責めているようなセリフだが、声の節々に喜色が混じっており、まるで念願の玩具を手に入れた子供の様だ。
「気怠いと言うか面倒なと言う感情は、変わってはいないさ。私は武神殿と違い、戦闘狂では無いのでね」
「何!?それだけの実力を持ちえていながら、戦闘欲がないのか!?」
「無いな。この仕事が終わったら、とっとと出て行かせてもらうさ」
「なっ!!?」
スイーパーの言葉を聞いた時、百代は愕然とした。
漸く出会えた真なる強敵が、戦闘行為に楽しさを見出さないばかりか、武術家の聖地とすら言われるこの川神から、出ていくと言ったのだ。
(ふざけるなっ!そんな事、そんな事――――)
「そうか・・・だったら、せめてその仮面をはぎ取って、素顔を拝ませてもらうぞ!!」
その言葉と共に、百代はスイーパーに突っ込んでいった。
-Interlude-
今現在、大和を含めた風間ファミリーも他のギャラリーからも、大方の予想を大きく裏切る様な戦況が展開されていた。
川神百代が、相手を瞬殺して終わり・・・と、考えていたにも拘らず、当の武神は苦戦―――いや、一方的に彼女が押されていたのだった。
「あの仮面野郎、一体何モンだ!?」
「本当よ!百代お姉様が、あんなコスプレイヤーに!」
「百先輩があんなにも一方的に押されるなんて・・」
「あのフード、マジ半端ねぇぞ。まゆっち!」
「凄く強ーい!あれ誰だろうね?トーマ」
「確かに興味はありますね?」
「父上は、あれほどの強者を何所で見つけてきたのか」
(やっぱ、あいつ滅茶苦茶強ぇなぁ。あれで非戦闘欲主義者ってんだから、世の中可笑しいぜ)
ギャラリー達は、予想だにしなかった光景に、各々に勝手な感想を呟いているのだった。
-Interlude-
「くそっ!」
「これで15回目だ、武神殿。もう、半分きったぞ」
依然として、スイーパー&天神が一方的に勝る戦況だ。
しかし、百代は毒づきながらも、強者との戦闘に嬉しそうだった。
「こうなったら、ウオォオオオオオ!!」
百代は、雄たけびを上げながら天神の懐めがけて、突進する。
だが、そうはさせないと士郎が回り込んだ後、蹴りを入れて百代を吹き飛ばす。
「くっ!?」
「いぃいいいまだぁあああああ!!!」
蹴りを入れられて体制を崩す百代のスキを突こうと、天神が再度掴みにかかる。
しかし、百代は待ってましたと言わんばかりに、笑みで口元を歪ませる。
「川神流――――人間爆弾!!」
川神流人間爆弾。
その名の通り、自身を爆弾に見立てて相手事葬る、自爆業である。
しかし、当の本人には、瞬間回復があるために瞬時に全開となる。
だが、その予兆すらも士郎によって見抜かれてしまった。
「モードチェンジ、ガトリング」
百代が技を使い、天神を巻き込もうとしたところで、両者の間にガトリングモードにチェンジしたブレードライフルから、気の籠った銃弾の雨が割って入り天神に当たるであろう部分のみの爆発を掻き消したのだ。
「くっそぉおお!!」
またしても策が読まれて、今度こそ素直に悔しがる百代。
そして―――。
「つかまえたぞぉおおおおお!!!」
「くそっ!瞬間回復・・・出来ないだ・・と!?なん・・でだ?」
またしても、天神に捕えられた百代は、そのまま瞬間回復を行ったが何故か不発に終わった。
(それはそうだろう。さっきのガトリングで一発だけ、百代の体内で最も気に密接したツボを突いたから、一時的に気は使えないはずだ。でも・・・)
「もうそろそろ、使えるようになるから放せ、天神」
「これで、我らの勝利だぁあああああああ!!!」
「聞こえてないな」
天神は終始、川神百代を圧倒(正確には士郎のおかげだが)出来てるこの状況に酔いしれて、全員周りの声が聞こえていなかった。
(まぁ、いいか。鍋島さんからの依頼は交流戦を盛り上げるために助っ人として出て欲しいというものだし、ヒュームさんからは可変型ブレードライフルの性能テストのためだ。どちらも、もう十分だろう)
士郎は、顔をギャラリー連中の方へ向けると、大いに湧いていた。
その時、やはりと言うべきか、天神の方で動きが有った。
「ぐっ、くそぉおおおお!!・・・瞬間回復・・出来た!」
「なぁにぃいいいいいい!!??」
「このままぁああ――――星殺し!!!」
百代は漸く、瞬間回復に成功したところで、天神に捕まえられている状態のまま、川神流星殺しを放った。
「ぐっおぉおおおおおおお!!???」
「はぁ、はぁ、倒したぞ!・・・?」
百代の星殺しにより、射線上の天神メンバーは苦悶の声を上げ乍らモロに喰らい、天神自体が総崩れになった。
そして、やっと倒したと思った束の間に、とある笛の音が鳴る。
「天神館3年の大将撃沈により、本日の勝者は川神学園とする!!」
「何!?」
審判が有りえない事を言ったのだ。
「スイーパー!お前が大将じゃなかったのか!?」
「ああ、と言うかそれ以前に、助っ人役は大将には成れないのだよ。それに私が依頼されたのはあくまで、交流戦を盛り上げてほしい、というだけなのさ。だから無理に勝つ必要は無かったのでね。そう言う事で、私はこの辺でお暇させてもらうよ」
「なんでだよ!?」
「先に放した通り、今回の事は依頼されたこと・・つまりは仕事だ。ならばこの地にて留まる理由は無い」
この言葉に百代は激昂する。
「お前になくても私には有るぞ!さっきの続きを今此処で・・・!!」
「決着をつけたいのであろうが、私には蚊ほどの興味も無いのでな・・・御免」
「っ!待てっ!」
百代の言葉も空しく、そんな言葉と共にスイーパーは消えた。
東西交流戦、第2夜。百代の活躍により勝を拾えたが、本人はいろんな意味で悔しそうだった。
-Interlude-
川神工場地帯で、そんな激戦いや―――第2夜の兵どもの夢のあとを、眺めていた3人がいた。
一人は天神館館長、鍋島正。
二人目三人目は、川神院総代兼川神学園学長の川神鉄心と、川神院師範代兼川神学園専任体育教師のルー・イーだ。
「それにしても、あやつに依頼するとは、ある意味反則じゃないかのう?鍋や」
「いやいや、あいつじゃねえと、川神百代相手に一人は厳しいだろうと思ってよ」
「じゃからといって、“真”の世界最強を呼んでくることなかろうに。ほれ見ろい!中途半端になったせいで、残されたモモが欲求不満そうじゃわい」
「そこは祖父であるアンタが甘やかしすぎて、精神鍛錬を怠らせたのが原因じゃねえか」
「むぅ」
痛い所を突かれて、唸る鉄心。
そこにルーから声がかけられる。
「鍋島さんハ、依頼したから知っててもオカシクナイケド、学長も知ってらしたんですカ?」
「そりゃあ、知ってて当然じゃわい。あやつの素性を世界でも知ってる、数少ない一人じゃしのう」
「あいつの素性を知ってるのは、20人はいないんじゃねえか?」
「20人以下ですカ!?それは少ないですが・・アの人物は如何して、表舞台に立とうとしないんです?」
ルーの問いに鉄心は、一拍置いて答える。
「―――――あやつは本来、“裏”の住人じゃからのう」
そんな遠い目をして鉄心は、答えるのだった。
後書き
感想、お待ちしてます。
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