藤村士郎が征く
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第9話 西の飛燕VS大国の格闘王 必殺技、炸裂!?
前書き
燕とカラカル兄妹の京都での決闘は、私個人の事情により原作では5月某日だった処を、東西交流戦五日前に勝手ながら変更させていただきました。
既に転校と引越し自体は済ませておるのですがね。
2009年 6月2日 京都府 某所
古風で歴史ある街並みと、観光客向けの土産屋が立ち並ぶ地の少し広々とした場所で、国や町から正式に許可された決闘が行われようとしていた。
一方は、川神学園の夏の学生服に身を包み、黒い髪を腰にまでぎりぎり届かせた快活そうな美少女だ。
その近くには作業服を着ている中年男性がいる。顔のパーツが似ている処が多少あるため恐らく親子であろう。
もう一方はアメリカでは有名な二人組、カラカル兄弟だ。
兄のゲイル・カラカルは表世界の格闘王で、弟のゲイツ・カラカルは世界的に有名なコンピューターの第一人者で、ゲイツが相手の戦力を調べ上げ分析したのを兄に伝えて、ゲイルはその情報をもとに天才的な格闘スキルと圧倒的パワーを駆使して叩きのめすという方法で無敗を誇っている。
そんな二人が今まさに、この観光名所《決闘の地》でぶつかり合おうとしていた。
「ねーばりー強くー、いきてゆくんだー♪」
妙な歌を歌う黒髪の美少女は、多くの視線の中で戦闘前に最後のストレッチにより、体をほぐしていた。
「いちにちいっしょく、なっトウッ!トウッ!」
そんな妙な歌を終えた少女に対して、父親と思える男性が近づく。
「どう?燕ちゃん、来てる?」
「準備オッケーよ、おとん」
オトンと呼ばれているという事はやはり親子だったのだろう。そして、そのおとんと呼ばれた男性から燕と呼ばれた少女は、ほぐしを終える返事をした。
「相手は早く戦いたくて、たまらないみたいだよ!」
そんな男性のセリフに答える様に、ゲイルは笑う。
「ハッハー!カモーーン!!」
しかし、その男性自身が意気高揚している訳では無い。それに加えて、一応娘の実力を知っている上でではあるが、戦力差を比較する。
「カラカル・ゲイル――――ゲイル・カラカル、表世界の全米格闘王者だけど・・・平蜘蛛は使わないでね、燕ちゃん」
「あいあい。やってみますか」
燕と呼ばれた少女は、軽やかなステップで前に出た。
「お待たせ、じゃあ、決闘を始めようか」
それを合図に、青い髪をしたイケメン執事が両者の間に現れる。
「それでは、九鬼家従者部隊序列42番、桐山鯉。この対決、見守らせてもらいます松永様」
「ああ、しっかり見て、しっかり報告してくれ」
そうこうしている内に、観客が集まりだして辺りを熱気が包んでいく。
「ゲーイツ!ワタシの勝率は?」
ゲイルは少し後ろに控える実弟、ゲイツに分析の結果を聞く。
「99.9999%だよ、兄さん。でも妙なんだ、松永と言えば武器を使うのが有名だろう?」
「Yes。槍とか薙刀とかが相手と思いましたが?」
「彼女は、素手なんだよねぇ。あまりに華奢じゃないか?」
「Hey!ツバーメ。ワタシは素手ですが、遠慮なくウェポン使っていいんですよ?」
全米の格闘技大会を、いとも容易く総なめにした格闘王としての傲慢、そして出来るだけ強者と戦いと言う戦闘欲が合わさった、ゲイルからの挑発とも取れる発言。
これを受けた松永陣営と言えば・・。
「お気遣いどうもです。でも私は素手でいいんで」
そよ風のように受け流し、寧ろゲイルの挑発を気遣いと返した。
「さらにきている服。それで、戦えるのかい?」
「ふふ、今度転入するところの、制服なんですけどね。女子学生が闘うって感じが強いほど・・・」
「観客の反応良いからね!ザッツ、エンターテイメント!」
最初に娘が答えて、最後に父親が占めた答えで返す。
というか、これは先ほどのゲイルと同じ挑発だ。
これに対してカラカル兄弟は・・・。
「兄さん、90%以上の確率で、舐められてるよ」
「OH・・・・ファァァァーッッック!!」
受け流せずに、挑発に乗ったようだ。
その証拠に、激昂した表情のまま、ゲイルは燕に向かって突進した。
しかし、挑発した張本人は、余裕そうに迎撃する。
「宜しく、お願いしまーす」
ものすごい速さで燕に向かい突進しつつ、右ストレートを繰り出すゲイル。
しかし燕はそれを、顔の位置をずらすようにして平然と躱しつつ、体を捻り右足を下から蹴り上げる様にゲイルの右頬に入る――――いや、入ったかのように見えた燕の右足蹴りをゲイルは、先程の激昂した表情とは裏腹に冷静な顔で頭を後ろに曲げる様に躱した。
「え!?」
これに驚く燕をよそに、すぐさまゲイルは彼女の足を掴みとり、そのまま観客のいない方向に放り投げる。
しかし、イメージ外で起きたこととはいえ、燕は直に復帰し見事に着地する。
「エクセレンツ!実に美しい着地でした。NIHONでは名は体を表すと言う言葉が有るようですが、正しくその通りですね」
この様に、燕の太捌きを見て余裕の褒め言葉を向けるゲイル。
そんな対戦相手を、目の前にしている燕は怪訝な顔していた。
彼女の脳内でのイメージ内では、最初の蹴りで決まって居た筈なのに相手はいまだ健在だ。
そもそも、彼女は実力もある方だが、相手の戦力を念入りに調べ上げて分析し終えてから、確たる作戦を立てて何度もイメージをして、勝利を掴みとるのが彼女の常道だった。
故に、ゲイルのステータスも調べ上げて、挑発までして最初の気を込めた蹴りで決まるはずだったのだ。
にも拘らず、ゲイルはぴんぴんしている上、落ち着いた顔でこちらの様子を窺っていた。
それに、もしかしたら・・。
「聞いてもいいですか?ゲイルさん」
「What?ん~~・・・いいでしょう。何ですか?ツバーメ」
「さっきほどの怒ったような表情って、演技ですか?」
その言葉に、口元を少し笑うように歪ませる。その反応こそが答えも同然だった。
「ソーリー、兄さん。彼女のデータがこちらで事前に入手していたものと違って」
「気にしなくてもいいですよ、ゲイツ。それについては彼女も同じでしょうからね」
その言葉を聞いて、燕は背中に嫌な汗をかいてきたことを感じた。
何故なら、ゲイツが手に入れた松永燕のデータは、彼女自身が気づかれないようにゲイツに届くように流した情報なのだった。
「彼女も、っという事はもしかしてゲイルさん・・」
「Yes!ワタシはこれまで一度も、格闘技大会で本気を出した事あーりませーん。下手すると、キルしかねませんからねー!」
つまり、燕自身が集めたデータも、正確な情報では無かったという事だ。
「そして、表裏で名を上げている武道家や、猛者たちが使う体内から溢れるフォース――――気と言いましたか?それも使いませんでしたよ」
「え!?」
「What、その反応はあんまりではありませんか!ジャパニーズ武士道ガール。気を使えるのはアジア圏やEUの一部だけじゃないんですよ?」
この事こそ正しく、燕にとっては想定外だった。
まさか気まで扱えるなんてと、思う燕。
「さて、そろそろ再開しましょうか。オーディエンスの皆さんも待ちくたびれているでしょうから、ね!!」
ゲイルは今度こそ、本気のスピード+気を使い突進してくる。
燕にとって想定外の決闘が今、再開された。
ーInterludeー
燕とゲイルの決闘が行われている近くに、藤村組の行事で士郎と雫が、雷画の付き添いと言う形で来ていた。
本来であれば、士郎の護衛は石蕗和成の仕事なのだが、藤村組の所用と雷画の護衛も兼ねて雫に代わってもらっているのだ。
それに士郎自身にも、別のある用事が有って来ていた。
藤村組内での行事を、待ち合わせの時間という事で途中で抜けて来ていたのだった。
「それにしても、如何して待ち合わせ場所が京都のここ何だ?」
「ですよね。あそこは福岡にあると聞いていましたが」
そんな会話をしていると、少し離れた所に群衆が出来ており、熱気に満ちた歓声とけたたましい音が聞こえて来る。
「あれは・・なんでしょう?」
「決闘が行われてるな。審判は九鬼従者部隊の人だな。確かあれは・・マープルさんの側近も務めていた人だったはずだ。見た事が有る」
「ずいぶんと観客が多いですね。いくら観光名所の一つと言っても、多すぎではありませんかね?」
「戦っている人たちが有名なんじゃないか?片方は雫より一つ上そうな娘だな。というか、川神学園の制服着てるのはなんでだ?それともう一方は・・・ゲイルにゲイツさん?」
そこで士郎の口から、聞き覚えのない名前を聞いた雫。
「誰の事でしょうか?若」
「かくかくしかじかで、カラカル兄弟と言う名の方が有名な人達さ。7年前に渡米した時に会ったんだが・・・・って!!?」
「若!?」
何の前触れも無く士郎は、決闘を囲むように観戦している観客たちの一部分へ走って行った。
-Interlude-
「Hey!ツバーメ。躱すばかりしていないで、遠慮なくワタシにアタックしてもいいんですよ?」
「あはは、ちょいと今はシンキングタイムちゅうなんですけどね~?」
などと答えつつ燕は焦りの中に居た。
現状を分析した結果、基礎体力・筋力はあちらが上、気の総量は恐らく互角、あちらはゲイツに分析を任せているがゲイル自身も頭が非常によく、彼自身も燕と同様考えながら戦うタイプ故にこれも互角、そして戦闘経験の差は如何見てもあちらが上、これらを下にして如何足掻いてもゲイルの方が有利なのだ。
燕は元々、それが格上の相手であれ、力量を丹念に調べ上げた後に、弱点を突いていき崩していく戦術を取るタイプ故、こうして後手に回ると反撃を取るタイミングを掴めなくなるのだ。
現に戦況は徐々に押され始め、燕は躱し続けることしか出来なくなっていた。
「そこまで遠慮するなら、仕方あーりませーん。ならワタシも、プロトタイプの技をお見せしましょう!」
「OH!兄さん、あの技を見せるんだね!」
(何?)
燕は思わず身構え、警戒する。
そうしていると、ゲイルが両手を開いたまま両手首を合わせた格好で前に突き出すようにした。
というか、あの形・・・思い切り見たことが彼女には有った・・・というか、世界中から見ても見たことがあるモノはかなりの人数が上がるであろう。
「KA・RA・KA・RU・HAAaaaaaAAA!!!!」
ゲイルの両掌から赤い気弾が放たれた。というか、もろにドラ〇ンボー〇のかめ〇め波のパクリである。
そしてその気弾は燕にめがけて一直線――――では無く、少しずれて観客の内の一組の親子へめがけて行ってしまった。
「兄さん!そっち、違うよ!!?」
「判ってるんですが、コントロールがぁ!!」
この決闘の地で、誰よりも早く気づけたのは桐山だった。
しかし、気弾のスピードがあまりに早すぎて間に合わない。
駄目か!?と思った瞬間、一組の親子の真後ろから赤いジャケットを着た士郎がと割って入り、袖崎から取り出した中華刀で気弾を切り裂いた。
「ふーー、間に合った」
「間に合ったじゃありません!若!!」
「雫!?もう追いついたのか?」
観客の一部たる、とある親子を救った直後に雫がすぐそばに来ていた。
「ガミガミガミガミ!!――――聞いてるんですか!?若!「あ、あの・・?」はい?」
わが身も顧みない士郎の行動を雫が叱っていると、助けられた親子が恐る恐る声を掛けてきた。
「助けていただいて、有り難う御座います。お陰様で、この子も無事でした」
「いえ、大したことはしてませんので。君も大丈夫だったか?」
「うん!有り難う、お兄ちゃん!」
その様に親子の相手をする士郎の後ろから、カラカル兄弟が近づいてきた。
「OH!シロウ!久しぶりですね!」
「久しぶりじゃないですよ!?危うく大惨事になるところだったんですから!」
「ソーリー、愛しきオーディエンス達・・・」
ゲイルは士郎に言われて、親子に頭を下げる。その後ろで士郎はゲイツに向き直る。
「そもそも、日本に来てるなんて初めて聞きましたよ?ゲイツさん」
「何、サプライズだよ!ふっぅふっふーー!」
などと会話を進める士郎達をよそに、燕は助かったと思っていた。
九鬼からある依頼をされているとはいえ、出来るだけ公式試合は無敗のままでいたいのが燕の本音だ。
今回の決闘はいわば、関東に進出する際に《花を添える》的な意味の決闘だったからだ。
その《花を添える》的な決闘で、負けてしまっては身も蓋もなくなる上、九鬼からの依頼も取り消されろ恐れすらあったのだ。そのため不謹慎とは言え、このままこの決闘がうやむやに終えてくれれば有り難い燕だった。
それと気になる事が有る。
「桐山さん、あの人は何方かわかりますか?」
「はい、あの方は藤村士郎様ですね」
「っ!藤村って、あの藤村ですか!?」
「はい、その藤村ですね。藤村士郎様は、先代総組長の藤村雷画様のお孫様の一人で、現総組長の藤村切嗣様の実子でいらっしゃいます」
桐山鯉の説明に、燕は返事をしつつふいにある言葉を零した。
「かっこいいなぁ」
恐らく無意識に出た言葉であったろうが、それを確かに聞き取った桐山は思う。
(ここに、九鬼帝、九鬼従者部隊、序列零番、2位、3位、4位の内、一人でもいらっしゃれば誑し込む前に初期フラグの打ち立て作業と、仰られるでしょうね)
「それにしても、ゲイル様、燕様この決闘はいかがいたしますか?」
「What?」
「う゛っ」
桐山に問われた時にゲイルは、士郎との予期せぬ出会いに浸っていて、完全に決闘中であることを忘れていた。
そして燕は、僅かな期待を打ち砕かれた気分だった。
「ん~~?そうですね~・・・ツバーメ、今回はイーブンにしませんか?」
「え!?」
燕からすれば驚きの提案だった。
それはそうだろう、戦況はゲイルに傾いていたのだ。その彼自身が臆する要素など有りはしないのだから。
「先ほどのワタシのミスで、愛しきオーディエンスはいなくなってしまいました。それに今日はもうやる気に成れませんからね!」
「・・・・そ、そうですね。私もゲイルさんの提案を飲みますよ」
燕はこれを笑顔で承諾したが、内心は黒星がつかず終わった事への安堵と、あちらが優勢だったにも拘らず見逃された感のある屈辱だった。
直截的に表せば、「今のお前なんぞ、次戦っても楽勝だ」と言われているのだから。
「では、両者方の合意により、この決闘を引分けとします」
その言葉と共に、桐山鯉はこの場から去った。
「中途半端な終わり方になりましたが、如何です?シロウ?これからワタシたちと、この町の観光でも?」
「OH!いい提案だね、兄さん!如何だい?士郎。その娘とも一緒に京都見物しないかい?」
「大変うれしい提案ですが、これから面倒な用事が入ってまして、その上とんぼ返りで神奈川県に戻らないといけないんですが・・・そうだ!夕食ぐらいなら一緒出来るかもしれませんが、如何です?」
その士郎の提案に、カラカル兄弟は同時に、OK!と返事をした。
そんな二人に、これから待ち合わせが有るからと告げてから、その場を離れる士郎と雫。
残されたのは松永親子だけだった。
「燕ちゃん・・・」
「大丈夫だよ、おとん。・・・次は絶対に勝って見せるから!!」
屈辱を胸に刻むと同時に、この結果に納得できていない自分自身に対して、汚名返上を西の飛燕は誓うのだった。
後書き
士郎がゲイルの方だけ呼び捨てにしているのは、本人からの希望で、決して誤りではありません。
燕の事は好きですが、そう簡単に勝たせてあげませんw
感想、お待ちしてます。
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