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藤村士郎が征く

作者:昼猫
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第8話 白昼の魍魎たちは聖処女を追いきれず、宵の魍魎たちは虎視眈々と蠢く

 1988年 某月 某所

 非常に暗くなっており、蝙蝠や蜥蜴或いは虫たちが跋扈している場所だった。
 恐らく地下空洞上になっている場所だろう。空間もかなり広いようだった。

 そんな場所にその場所が――――いや、世界が震える様にそれ(・・・)は来た。

 天災とも言うべき震えが収まった後、そこには巨大な塔のようなものが立っていた。
 上には穴が開いており、白と黒で半分づつに分けられるような色をしていた。

 その塔が現れた以外は何の変化も見られないが、その塔らしきものは異様な存在感を示しているのだった。


 -Interlude-


 2009年 6月1日

 放課後、川神学園の体育館内は異様な熱気に包まれていた。
 しかも全員が男ばかりだ。

 そんな異様な熱気に包まれている体育館内の壇上に、ある男が現れた。全裸で。
 股間は首から下げているカメラで隠れているが、横から見れば丸見えだった。誰も見たいとは思わないだろうが。

 因みにその男は、2-F所属の育本育郎だ。渾名はヨンパチ。
 性行為の体位の四十八手をすべて言えるからこの渾名を付けられていた。
 本人もそれを気にした様子も無く受け入れている。

 そんなヨンパチが舞台に上がると、男の群れから嫌にハモッタ声が聞こえて来る。

 「「「ど~~てぇ、ど~~てぇ、ど~~てぇ、ど~~てぇ」」」

 恐らくは、何かしらの集会なのだろうこの集まりは《魍魎の宴》と呼ばれており、ヨンパチはここでは《童帝》と呼ばれていた。

 「エロイ~~~ム、エッサイム」
 「「「エロイ~~~ム、エッサイム」」」

 童帝(ヨンパチ)が、すごく下らなそうなセリフを抑揚の利いた声で発すると、モテナイ男の群れ(魍魎達)から、同じセリフが返されていた。

 童帝「今日もよくぞ集まってくれた!我が同志たる魍魎達よ。諸君らの期待に応えるためにも今日も最初から飛ばしていくぞ!!」

 また抑揚の利いた声でセリフを発するヨンパチ。
 それに魍魎達が歓喜で答える。

 魍魎15「よっしゃ~~~~!!」
 魍魎43「今日も買い漁ってやるぜぇ~~~~!」

 そんな魍魎達の歓喜を、まず一枚の写真で答えるヨンパチ。

 童帝「まず始めに!偶々であろうが、昼食中にバナナを加えたまま転んでしまい、立ち上がる前に四つん這いになった小笠原千花の写真からだ!!」

 この言葉に魍魎達から次々に4ケタから5ケタの数が言葉にして上がる。

 魍魎27「11000(一万千)!」
 魍魎19「13000(一万三千)!」

 如何やら、ヨンパチが撮ってきた写真やグッズをここで競売形式にして金額を競わせているようだった。
 本人たちからすれば大真面目なのだろうが、蓋を開けてみれば実に下らない集会であった。

 そうして次々にグッズを競わせていると次に・・・。

 童帝「次は、2-Fの昼食時に持参して来た牛乳を何かの拍子で拭いてしまい口の周りが白濁液(・・・・)で汚れてしまった甘粕真与の写真だ!」
 魍魎21「12000(一万二千)!」
 魍魎35「18000(一万八千)!」

 魍魎108「100000(十万)!!!!」

 競い始めるかと思いきや、魍魎ナンバー108と呼ばれるスキンヘッドの男が一人だけ強い声で一ケタ違う額を提示したのだ。

 魍魎35「うぅ・・」
 魍魎108「雑魚がぁ」
 童帝「相変わらずだな、ほれ写真だ」

 童帝―――ヨンパチから写真を受けっ撮った魍魎108は、恍惚の表情で落札した写真を眺めている。

 魍魎108「ああ、なんて美しい絵なんだ。これはもう、ゴ〇ホやム〇クなんて目じゃないぜ!素晴らしいぃ!!」

 本人からすれば至福のひと時なのだろうが、実に独特な顔―――――キモイ。

 そうしてキモイハゲが至福にひと時に浸っている時に、魍魎達から声が上がる。

 魍魎44「童帝!そろそろ彼女の写真を出してくれよぉ!」
 魍魎99「俺はこの時のために食事代も切り詰めて来てるんだぜ!!」

 そんな魍魎達の声に、普段なら童帝たるヨンパチも直に応えるのだが・・・。

 「それが、あるにはあるんだが・・・取りあえずこれを見てくれ」

 抑揚の利いていない普段の声でヨンパチは皆に彼女――――ジャンヌの写真を見せるように掲げる。

 魍魎11「おぉおおお!なんて美しい!!」
 魍魎49「超!可愛いねぇ!!」
 魍魎53「けど際どいのがねぇぜ?」
 童帝「いや皆、実は彼女を盗撮しようと何度も仕掛けたんだが・・全然写真に納まってくれなくてさ。それで漸く撮れたのがそれらなんだが、彼女の口に注目してほしいんだ・・」 

 ヨンパチの言葉に皆が覗くと一つ一つの写真に写るジャンヌの口の形が違った。

 童帝「それは連続でとったもので、右から順になんだがこうも見えなくねぇかな?」

 それは・・・。

 「こ」「れ」「以」「状」「や」「る」「場」「合」「わ」「た」「し」「に」「も」「か」「ん」「が」「え」「が」「あ」「り」「ま」「す」「よ」
 童帝「って、感じに見えなくねぇ?」

 全部で23枚もの写真にはヨンパチに言う通り、そう見えなくもない。
 そしてそれらを見ていた魍魎諸君たちの反応は・・・。

 魍魎達「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」

 ただただ無言だった。
 そして――――。

 魍魎88「確かオーリックさんは、入学初日の帰りは藤村組でも地位と実力ともに上位の人に送迎を受けてたんだろう?」
 魍魎61「という事はこれ、若しかすればこれ以上介入しすぎると・・・」

 少々重い空気が漂い、皆の頭の中に警報が鳴り響いてもいた。

 魍魎72「よし!童帝!早く次のお宝を出してくれよ!次は誰にするんだ!?」
 魍魎47「おっしゃ~!楽しくなってきたぜぇ~~!!」

 如何やら彼らの中で、この件は暗黙の了解として拘わらない+無かった事にしたようだ。
 正確には見ていないふりをするようだった。
 これから先、永遠かは知らないがジャンヌ・オーリック(彼女)の写真やグッズがが出回ることは無いだろう。出た場合、童帝だけでは無く此処に居る魍魎達も集会も危ないだろう。

 そうして彼ら魍魎達は、気分をあっさり変えて別の得物を得るために落札しに行くのだった。


 -Interlude-


 2009年 6月1日 某所

 21年前、士郎がこの世界に移動――――転生してきた年のある地下空洞にて今現在も変わらず、黒と白に半々と別れた塔は健在であった。

 しかし、今現在の党の周りには蝙蝠や蜥蜴それに虫の1匹足りもおらず、代わりに体を炎に覆われている様な4足歩行の獣の群れが2種類いた。

 識別は簡単で、一方は全身ほぼ白で片方は全身ほぼ黒だ。

 そんな獣たちが咆哮と共に何かが発せられた、
 それは・・・。

 『叶えろ、叶えろ、叶えろ、叶えろ、叶えろ、叶えろ、叶えろ』

 と、白い方は念話を広める様に。

 『壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ』

 と、黒い方は呪詛をまき散らすように発していた。

 だが、今のところ近隣住民に被害は無い―――とういか、21年間誰もここには来ていないし、誰もこれの存在に気付いていないのだった。今はまだ、だが。

 『叶えろ、壊れろ、叶えろ、壊れろ、叶えろ、壊れろ、叶えろ、壊れろ(壊れろ、叶えろ、壊れろ、叶えろ、壊れろ、叶えろ、壊れろ、叶えろ)――――』

 発せられ続ける。そして、響く響く響く―――――。  
 

 
後書き
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