藤村士郎が征く
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第13話 初期フラグは確立済み!? 白と桃のファーストコンタクト
――――8年前 夏
「くっそぉお」
百代は、鉄心の実の孫であるが、一番年下かつ門下生扱いのために、先輩方のための買い出しに行かされていた。その途中で、この現状に不満を漏らしながら荷物を持ち走っていた。
「毎日毎日、こき使われるだけだ!あのクソジジィメ!って!うわっ!?」
終いには実の祖父である、鉄心の陰口を口にしていた所で、百代が躓いた。
そして持っていた荷物は、買い物袋から放り出されて、宙に浮く。
そして、落ちるのは時間の問題だ、しかし――――。
「大丈夫か?」
「えっ!?すごっ!!?」
急に横から現れた、年上と思われる男子により、宙に浮いた荷物の数々が、手品師或いはジャグラーの様な器用さで、問題なくキャッチされた。
「あ、ああ、助かった」
「どういたしまして、だけどこんな荷物如何したんだ?」
「実はかくかくしかじかで」
「成程、門下生の一番下っ端故に、買い出しに行かされたのか。大変だな」
「まったくだ!こんなカヨワイ美少女にこんなことさせるなんて!?」
名乗っても居ないが、助けてくれた男子が同意してくれたことにより、百代は不満をあらわにする。
「女の子は大概カヨワイものだが、自分から美少女と言うのは如何なんだ?」
「私が美少女といったら、美少女なんだ!文句あんのか!」
「はいはい、美少女美少女・・」
「めんどくさそうに言うなぁあああ!!」
「そんな事よりいいのか?急いでいるんじゃなかったのか?」
「そんな事って・・あっーーーー!?」
話している間にも、時間が残酷に過ぎ去っていく事を、助けられた名前も知らない男子との会話で、漸く思い出した百代。
「うぅぅ、もう、間に合わないぞ・・」
そんな気落ちした百代を見かねた士郎は、自分だけで何か納得した顔になる。
「君、ちょっと失礼するぞ」
「なんだよぅうわぁああ!?」
いきなり声を掛けられたと思ったら、この名も知らぬ男子にお姫様抱っこされたのだ。
「な、何するんだ!?」
「早くしないと間に合わないんだろう?いいから、しっかり荷物を持っててくれ」
何なんだと悪態をつく百代。すると―――。
「ほら、着いたぞ」
「は?・・・・はぁああああああ!?!?!?」
先程まで、500メートル程離れていた街角から、いきなり目の前に川神院の門に来たものだから、大いに驚く百代。
「なんで!どうして?一体、どうやって!?」
「なにしとるんじゃ?モモ」
百代は気が動転している処で、自分を毎日のように買い出しに行かせている張本人である鉄心が声を掛けてきた。
「じじぃ!?あれ?此処に居た、あいつは?」
「何を言ってるのかわからんが、お前と儂しか今ここには、おらんわい」
「??????」
まるで、狐に頬をつままれたような顔をする百代。
じゃあ、さっきのは、釈迦堂師範代が前に教えてくれた白昼夢ってやつなのかと、首を傾げる。
「それより、ほれ!早く行って門下生の皆に飲み物を渡してこんかい!」
「わ、わかってる!」
百代は、祖父に急かされながら、門を潜って行った。
-Interlude-
次の日。
「おっ!お前!?」
「ん?ああ、君は昨日の」
土手にて、百代は昨日、助けてくれた?男子に巡り合うことが出来た。
「昨日のあれは、やっぱり夢なんかじゃなかったんだな!」
「は?何言ってるんだ?」
突拍子もない事を言う百代に、少年は首を傾げる。
「と・に・か・く!夢じゃなかったらいいんだ!っていうか、昨日のあれは何だ?それに、如何して直にいなくなったんだ!?」
迫りながら聞いてくる百代に、少年は―――。
「疑問に答えるのはいいんだが、まず自己紹介しないか?流石にいつまでも、君呼ばわりと言うのはな・・・」
少年の提案に、あっと口に出る百代。
「そういえばそうだな、私は百代だ。昨日助けてくれた礼に、好きに呼んでいいぞ!」
「俺は士郎だ、こっちも好「よし、髪も白いし、シロと呼ぶぞ」・・・まぁ、いいか」
本来の髪の色は銀なのだが、この位のの女の子に説明しても無駄だと、すぐに引き下がる士郎。
「それで、さっきの質問に答えてくれよ。如何なんだ?」
「一つ目なら簡単さ、凄く速く移動しただけだ」
簡単な説明過ぎた。
「何言ってるんだ!?私は出来ないぞ!」
「それは、鍛え方の問題と、鍛錬の量が足らないからだ」
「ぐぬぬ・・っていうか、鍛錬してるという事はお前も、武術家を目指してるのか?と言うか強そうに見えないんだが・・」
「武術家なんて目指していぞ。鍛錬しているのは、こんな時代ならいざと言うときに、自分の身ぐらい自分で守らないといけないからさ。あと、なら弱いという事で」
「ぬぐぐ、シロ、お前、覇気がないぞ!」
男とは、本来ならば、自己顕示欲の塊だと釈迦堂師範代から聞いていた百代からすれば、納得できない反応だった。
「別に良いだろう?俺自身の問題なんだから・・」
「むぅー、じゃ、じゃあ、二つ目はなんでなんだよ?」
「大事な用事があったからさ、モモと出会った此処で」
「大事な用事?此処で?」
そう、と呟く士郎。
「俺は一昨日、近所のモモよりも年下の女の子に、外に散歩しに行ってた飼い猫が傷だらけで戻ってきたと聞いて、調査してたのさ」
「む・・・そ、それで?」
「そんなとこに、5人組の小学生に出会って話を聞いたら、彼らが虐めたんだと」
「何だと!そ、それでそいつら如何したんだ?」
「勿論、虐められるという事がどんなものかと言うのを、体に教えた後に今後、二度とさせないように躾けてから返したさ」
「は?」
あまりの事に百代は固まる。
目の前のこいつは、今なんて言った?躾けた?躾けてから返した?
懲らしめると言うのは同意出来るが、その後に躾けるなど想像外だ。
「あっ、ちゃんと、飼い主と猫に許してもらえるまで、謝らせてから躾けたから安心しろよ」
こっちは、そんなこと聞きたいがために、呆れてるんじゃないんだよ。この鈍チン!
と、言いたかったが、言っても無駄なんじゃないかと感づき、堪える百代。
「そう言えばいいのか?今日も買い出しなんじゃないのか?」
「へ?・・・・あぁあああああ!?!?!?」
完全に忘れていた私。
どうしよう、どうしよう!と思ったところで、視界にシロが入り、気づいた。
「シロ!昨日のあれ、頼む!」
「まったく、仕方ないお嬢様だ。近くまでだぞ」
わかったわかったと返事しながら、士郎を急かす百代。
こんな慌ただしくも、百代にとっては一番楽しい日が、何日か続くのだった。
-Interlude-
12日目。
「武道四天王?」
今日はもう、買い出しと鍛錬を終えた百代と共に、何時もの土手に来ていた。
「そうだ!川神院の釈迦堂師範代も、昔は武道四天王だったらしいんだけど、すごく強い奴だけが選ばれるんだ。まあ、私もその内なるだろうけどな!」
「ふむ。確かにモモは、現在に年齢を考えれば十分強いし、成れるんじゃないかー?」
「むー、なんだよぉ、その興味なさげの返事は!」
せっかく、自分が夢を語っているのにも拘わらず、冷めた返事をする士郎にむくれる百代。
「興味が無い訳じゃ無いさ、ただ俺には関係の薄い話題だからなー」
「薄くなんてないだろう!?前から思ってたが、シロは自分を弱い弱いって低く見てる様だけど、あんな瞬間移動みたいなことが出来るんだ。弱い訳も無いだろう!」
そう言われてもなー、と頭をかく士郎。
「シロならいつか、武道四天王にも成れるだろう!」
そう言われて気まずそうにする士郎。
「・・・悪いが、俺が武道四天王に選ばれる事なんて無いんだよ、モモ」
だが、それなりの自信をもって告げてくる士郎に、百代は訝しむ様な瞳を向ける。
「如何して、そんな事言えるんだよ?」
そこで、士郎の口からトンデモナイ爆弾が投下される。
「実は、一年ほど前に、武道四天王に選ばれたんだよ、俺」
「何だと!?じゃあ、選ばれないってそういう事か!?なんだよー、やっぱりシロってば強いんじゃないか!」
「いや、違うんだ」
「?、何が違うんだよ?」
そして本日二度目の爆弾投下。
「その武道四天王に選ばれた話は断ったんだ」
「は?・・・・・はぁああああああ!?!?!?!?!?」
百代はこの十年間生きて来て、一番の驚きを見せる。
「なんで!如何して?何で断ったんだよ!?」
「ちょ、落ち着け、モモ」
「これが、落ち着いていられるかぁああ!!」
まるで糾弾する様に、士郎に迫る百代。
「武道四天王になることは、私の夢なんだぞ!!それを、如何して簡単に断れるんだ!!?」
直も興奮する百代。
そして、迫られながらも気まずそうに士郎が告げる。
「面倒事を招きそうだったから」
「面倒・・・・・・だったから」(←百代の耳にはこう聞こえた)
それを耳に入れた百代は、体全体を小刻みに震わせながら、激昂する。
「面倒だと!!?いくらお前でも、武道四天王を、私の夢を侮辱するなんて許さないぞ!!」
「はぁ!?侮辱!?ご、誤解だ。とにかく落ち着け、モモ――――」
「何が誤解だ!?許さない!許さないッたら、許さないぞ!」
だんだんヒートアップしていく百代。それと同時に、目じりに涙が溜まっていく。
「このっ!阿保、ボケ、朴念仁、鈍チン、女誑し(←作者の声)、バカバカバカバカバカーーー!!」
「待て、落ち着け。取りあえず謝るから!って、女誑し!?」
思いつく限りの文句を口にしていくと同時に、拳を作り気を高めていく百代。
そして―――。
「川神流無双正拳突き!!」
そして、怒りと悔しさが入り混じった正拳は、士郎に真っすぐ向かっていくのだった。
-Interlude-
「っ、 ―――・・・あー、そっか、夢か」
布団の上に居た百代は、そのまま上半身だけ起き上がる。
そこで、自分の目元を触ってみると、ほんの少しだが涙で濡れていた。
あの日から約8年間、一度もシロとは会えず仕舞い。
あの時はつい興奮してしまったが、後々考えてみると、やはり誤解だったのではないかと反省して、あの土手に行ったが会えなかった。
「――――シロ、今頃どうしてるんだろうなぁ。・・・会いたいなぁ・・・って、まだ暗っ!!」
そこで、今頃になって辺りが暗い事に気付く百代。
目覚まし時計を見るとまだ、夜中の2時頃だった。
「・・・・・・はぁ、寝直そお」
そのまま上半身を後ろに倒して、横の抱き枕を掴む百代。
そして、意識を手放そうとする直前に・・。
「・・・謝るから・・・逢いに・・来て・・く・れよ・・・シ・・・ぉ」
後書き
実の祖父である雷画と鉄心は、二人が知り合いだという事を、知りません。
けど、二人は知り合っているんでした。
感想、お待ちしてます。
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