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藤村士郎が征く

作者:昼猫
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第7話 蟻の思いも天に届く、故に士郎は一子を押し上げる

 
前書き
 幕間、あんまり進んでません。 

 
 2009年 5月28日 木曜日 

 川神一子はこの半月ほど前から、毎日ではないが朝のランニングコースを変えてある場所に訪れていた。
 その場所の名は藤村士郎及びジャンヌ・オーリックや暁雫が住む屋敷である。
 偶然な出会いではあったが今や彼女は藤村邸のちょっとしたマスコットであった。


 -Interlude-


 ――――私は川神一子、皆からはワンコや犬、それにちゃんとした名前の一子と言う風に呼ばれてるわ。
 そんな今日の私は毎日じゃないけれど、ある凄い人に教えて貰いに行ってるの。

 名前は藤村士郎さん。
 じいちゃんの友達である雷画おじいちゃんのお孫さんに当たる人よ。
 銀髪に浅黒肌の日本人離れした顔をしている人なんだけど、ガクトよりも大きくて強くて優しいお兄ちゃんみたいな人なの。

 朝のランニング中に出会った人なんだけど、私が才能がない事や伸びしろなどの事で悩みを打ち明けたら、喜んで協力してくれるって言ってくれたすごくイイ人なの!
 ただ、じいちゃんたちに許可を取って来てと頼まれたんだけど内緒にしてるのよ。
 別に変な意味じゃ無くて強くなってじいちゃんやお姉様、李師範代を驚かせたいの!

 一つ気がかりなのは、士郎さんの事。
 前に士郎さんが試しに見せてくれた特殊な戦法を真似したらすごく怒られたわ。
 その時の事を思い出しただけで――――ガクガクブルブル((;゜Д゜))・・や、やめとこ。これ以上思い出すと士郎さんの前に二度と立てなさそうな気がするし。

 と、兎に角、まだじいちゃん達に言ってないけれど、黙ってれば大丈夫よね?・・・多分。
 そうこうしている内に士郎さんのお家に着いたわ。
 さぁ、今日も強くなるために頑張るわよぉ!勇往邁進!!


 -Interlude-


 「・・・・ふぅ・・ふぅ・・・お、お疲れ様でしたぁー・・・グテェ――」
 「ああ、ご苦労さん」

 士郎と雫が考えた非常に効率のいい鍛錬&訓練の今朝の分は終わりを迎えた。
 一子は士郎におんぶをされて縁側まで連れて来られた後に、休憩している。

 「だいぶ速度や瞬発力も上がってるな。予想以上かな?」
 「はふぅーー」

 士郎は縁側で寝そべっている一子の頭の上を優しく撫でる。それが気持ちいいのか、一子は顔全体が緩んでいた。まるで飼い主に撫でられて喜ぶ子犬の様だ。

 「いえ、予想通りですよ若。一子さんの一番の武器は、その二つでは無くここぞという時の集中力です。若の予想通り、一子さんは相手の動きをよく観察しながら戦うと今までの基礎練の積み重ねが花開くように、途轍もなく化けるでしょうね・・・それにしても、一子さんを撫でていると癒されます」
 「わふぅーー」

 先の発言を修正、「様」では無くて子犬そのものだ。豆柴あたりだろうか。

 「さて、次は宿題だがやって来てるかい?」
 「っ!はい、どうぞ!」

 豆柴の小犬(一子)が犬耳を立てるように反応して、鞄の中から士郎が個人的に出していた宿題のプリントだ。
 何故、士郎が一子にこんな宿題を出させているかと言うと、考えながら戦うという事はそれなりの智慧と観察力が鍵となるであろう。観察力については地道に鍛えていく必要があるだろうし、知恵と言うのなら基本では勉強はもってこいだ。
 しかし今まで一子は、授業の時間を寝ていたり聞いていなかったりして真面目に勉強してこなかったため、こうして士郎が少しづつのペースで宿題を出してフォローしているのだ。

 本来では士郎もそれほど頭がよくは無かったのだが、以前の世界でどこぞのはっちゃけ爺さんに「私の弟子であるならこれくらいで来て当然」と言わんばかりに一歩間違えなくても、一門間違えるだけで魔力による銃撃や斬撃が来るので死に物狂いで勉強した上に、この世界に来た後でさらに勉強し続けた結果、英国にあるオック〇フォー〇大学でも非常に優秀な生徒で好成績の首席卒業を成し遂げたのだ。
 例え、世界や名前に変化が有ろうとも才能の部分でも変わろうとも、士郎は士郎という事だ。

 ―――――夢に突き進んだ途中で別の道に行こうとも・・・だ。

 「・・・・ん、ちょっとしたミスが見られるけど、順調みたいだね」
 「ほ、本当ですか!?」
 「ああ、それじゃあまた宿題を出しておくから次来るまでにやっておくんだよ。解らない時には携帯に電話或いはメールしてくれればいいからさ」

 は~~いと言う気持ちのいい返事をする一子。それと同時に彼女のお腹の中からグゥ~~~~と言うお腹の音が鳴る。

 「あれ?一子ちゃん、朝食抜いてきたのかい?」
 「あ、いえ、その、はい。寝坊しちゃって・・」
 (言えない、じいちゃん達に内緒にしてるから朝食なんて作ってもらって無いなんて)

 そんな一子の内心を知らずに?士郎から提案を持ちかける。

 「なら俺達と一緒に食べるか?」
 「い、いいんですか?」
 「良いも何も、それじゃあ今日の学校はきついだろう?」
 「それはそうなんですが、でも今から作ってちゃ間に合わないんじゃ・・」
 「大丈夫だよ。多分ジャンヌが多めに作ってるだろうからな」

 その言葉を聞いたとき一子は固まった。

 「え・・・?ジャンヌ・・・・?」
 「ん?」
 「士郎―――――、雫――――――、朝食出来ましたよ――――って、川神さん?」

 一子が呆けている時に引き戸から、川神学園の制服の上からエプロンを身に着けているジャンヌが現れて一子を視界に居れたのだ。

 そして一子の様子はと言うと――――。

 「・・・・・・・え、え、えぇええええええええええ!!!?ジャ、ジャンヌさんんんんん!!?」

 実に予想通りの反応だった。


 -Interlude-


 「じゃ、じゃあ、モグモグ、ジャンヌさんは、モグモグ、士郎さんと同棲、モグモグ、してるのね?」
 「はい、そうですよ。後口に入れたモノを片付けてから喋った方がいいと思いますよ、一子さん」

 あはは、ゴメンなさーいと言う返事をする一子。
 それにしてもあっさりと認めるジャンヌ。否定も誤魔化しもしないと言うのはなかなかどうして、士郎一途であろうか。

 「それにしてもジャンヌさんの料理、すっっっごくおいしい!士郎さんも毎日こんなおいしい料理を作ってくれる恋人さんがいるなんて、うちのファミリーの皆が知ったら絶対羨ましがられますよ!」
 「有難う御座います。けれど、私より士郎の作る料理の方が断然おいしいんですよ?」
 「えぇええ!?そうなの?!」
 「ええ、お嬢様の料理の師匠は若ですからね」
 「俺は一応小料理屋も開いてるから、時間が合えば食べに来るといいよ」

 美少女3人が食卓にて朝食を食べてる時に、1人だけ台所に行ってきた士郎が戻ってきた。

 「で、でも、こんなに美味しい料理よりもさらに上だなんて高いんじゃないんですか?」
 「いえ、食材は事前に予約を取っていて注文でもされない限り、ありふれた食材なんです。後は士郎の腕次第という事ですよ」

 そうなんですかーと、返事をする一子。

 「それより2人とも、そろそろ学校の時間なんじゃないのかい?」
 「「え?」」

 そう言われてジャンヌと一子は2人して時計を見上げる。

 「え?あれ?もう、こんな時間!?まずいよジャンヌさん。こんな時間じゃ、ここから学校までで間に合わない!!」
 「確かに普通の方法じゃ、間に合わないですね」

 予想もしていなかった客人との邂逅に、ついつい楽しく談笑しつつ朝食をした結果、今からは全力で走ったところで遅刻確定の時間帯だった。何せここは冬木市で学園は川神市にあり、隣の市の上、残り時間が15分しかないのだった。

 あわわわわど、如何しよう?とチワワの様に小刻みに震える一子。

 「取りあえずこれお弁当な、一子ちゃん持っていない様だから作っといたよ」
 「あ、有り難う御座います!!・・・じゃなくて!そんな呑気にしてる場合じゃないんですよ!?」

 このままじゃあ―!と、頭を抱えてちょっと泣きべそをかく一子。遅刻するくらいでこの反応、そんなに厳しい罰でも待っているのだろうかと思い浮かべる士郎。

 「兎に角玄関に行って靴を履きましょう。話はそれからですよ」
 「そ、そんなのんびりと!」
 「先ほど、私は普通の方法ではと言ったんですよ一子さん」
 「じゃ、じゃあ、普通じゃない方法が有るの?」

 ええ、と笑顔で答えるジャンヌ。
 とにかく靴を履かないと始まらないのは同意できるので、言われるがまま玄関に向かい靴を履く。

 「さて、じゃあ行きましょうか?失礼しますね、一子さん」
 「え?え、え、わっ!?」

 ジャンヌが一子に声を掛けるや否や、お姫様抱っこしだした。

 「ジャ、ジャンヌさん!?」
 「後これも、一応付けてくださいね」
 「え?これって?」
 「簡易携帯型酸素マスクですよ。一応それを付けてくださいね」

 要領を得られない様だが、言われるがまま装着する一子。

 「それでは行ってらっしゃいませ、お嬢様」
 「壁やら車やら家の屋根やら壊さない様にな、ジャンヌ」
 「酷いですね、士郎。私はそんなことしませんし、したこともありませんよ」

 相変わらず一子だけにとって要領を得られない会話を続ける3人。
 当の一子は、頭上にクエスチョンマークを浮かべていた。

 「兎に角時間も差し迫っている事ですからもう行ってきますね、2人とも」
 「気を付けてな、ジャンヌ」
 「はい。では一子さん、しっかりとつかまっていてくださいね」

 一子が返事を返す前に、ジャンヌは二人の前から消え去った。


 -Interlude-


 一子は今、風間翔一がよく口に出す風になるという言葉通りになっていた。

 その理由として、ジャンヌが一子をお姫様抱っこした状態で屋根を伝ったり、人気の少ない道路を迅雷の如きスピードで駆けぬけているからだ。

 ジャンヌは元は名前の通り、フランスの元救国の聖処女だ。
 更には、英霊の座にまで祭り上げられてから聖杯戦争後、受肉して第2の人生を初めて数年後には第3の人生を半ば強制的に開始させられたのだ。
 その時に、元のステータスが其の儘ついてきたわけじゃないが、そんな経歴を辿ったジャンヌはかなりの潜在能力+底上げされてから生まれて、今日までその力に溺れず驕らずに鍛錬し続けてきた結果、この世界で言う壁越えで武神をも超える力量を現時点で持っていた(才能面では百代の方が上)。

 足の速さはヒュームや士郎程では無いものの、彼らに迫るスピードも獲得しているのでこの速さなのだ。

 一子は酸素マスクを付けたまま真剣な表情をしたジャンヌを終着まで見つめ続けていた。


 ーInterludeー


 遅刻か否かのチャイム音が鳴る5分前。

 「はい、到着です。大丈夫でしたか?一子さん」
 「・・・・え?あっ、う、うん。大丈夫よ」
 「そうですか、ならお互い早くクラスに行きましょう」

 そう言って素早く上履きに履き替えて、階段を上がろうとしたところで後ろから、一子の待ったがかかる。

 「待って!」
 「はい?どうかしましたか?」
 「えっと、その、貴方の事さん付けでは、無くて呼び捨てにしてもいいかしら!」

 何とも言えないフインキを漂わせているから何かの拍子で怒らせてしまい決闘でも挑まれるのかとも考えたジャンヌだが、如何やら違うようだ。
 拍子抜けの格好となっていたが、ジャンヌは口元を綻ばせた。

 「ええ、構いませんよ。それでは急ぎましょうか、一子(・・・)
 「っ!う、うん!ジャンヌ」

 そんな感じで二人は、チャイム2分前に何とか自分のクラスに到着するのだった。


  
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