藤村士郎が征く
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第10話 衝撃事実発覚!? 殺戮執事はむせ返り、仁王は頭を下げる
前書き
本当は9話と10話は一緒の話にしようとしたのですが、思った以上に燕対ゲイルが長引いたことで分けました。
京都の観光名所の一つ、決闘の地から離れた士郎達は、待ち合わせ場所に戻ってきた。
そこで・・。
「おう、やっと来たか」
そこには白いスーツと白い帽子に身を包んだ、がたいの良い中年男性が立っていた。
この男性の名は、鍋島正。川神院の元門下生で、現在の総理大臣の同期。若いころは武道四天王だったこともあり、仁王の異名が付いたほどの古強者だ。
今は福岡県に建てた、天神館と言う高校の館長(学園長)を務めている。
「一応、先に来ていたんですが、あそこでちょっとした騒ぎになっていたので、遅れました」
「カラカル兄弟と松永燕との決闘だろぉ?お前さんが、乱入するちょっと前に俺も観戦してたが、ゲイル有利に進んだのも驚いたが、気まで扱えたなんて知らなかったぜ」
「俺が7年前に教えたんですよ」
「ほー、詳しく聞きてえが、ここで立ち話しすぎると、今回の俺以外のもう一人が機嫌を損ねちまうだろうし、車内で話そうぜ」
顔をくいっと曲げた先に白いベンツが有った。
鍋島の提案に、士郎達は首肯で表し、車内に乗り込んでいった。
-Interlude-
「成程なー、それからの交流かー」
現在士郎達は、鍋島の運転により、彼自身もたまに使う隠れ名宿泊店に向かっている。
「はい、そうですね。特にゲイルからは呼び捨てにしてくれと言われているので。年は離れていても自分たちはもう、親友だろう?と」
この様に言われた時士郎は、正直嬉しかった様だ。
行く先々で、何時もの天然ジゴロぶりをいかんなく発揮して、士郎のこれまでの人生で年齢差関係なく、男友達が異様に少ないのだった(モテすぎて、妬まれるは日常茶飯事。時々により憎まれることもある)。因みに、年が長女と同じ位にも拘らず、九鬼帝からも親友呼ばわりされている。
「はは、アメリカ人らしいじゃねえか。しかしながら、松永燕が押されてるのには驚いたぜ」
「確か、ゲイルの対戦相手の女の子ですよね?」
「おう、俺んとこの天神館で一番強かったんだが・・・まだまだしごき方が足らなかったのかね?」
「あの年では十分強い方では?」
「そんな気はねえんだろぉが、お前さんが言うと嫌味に聞こえなくもねぇぞ?11の時に、天下五弓に選ばれ、12の時に武道四天王にえらばれてんだからな」
「どちらも即座に、お断りさせていただきましたけどね」
「こんなに強えぇのに、勿体ねえなぁ・・・おっと、見えてきたぜ」
鍋島の言葉に釣られてみるとそこは、都市部から離れた林の中に一軒だけが建っていた。
「じゃあ、ここからは見ての通り歩きだからよ。降りてくれ」
その言葉に、また首肯で返事を表し、車から降りた後に宿に向かって行った。
-Interlude-
鍋島の誘導により、予約してあると言う部屋へ向かう士郎と雫。
「おっと、着いたぜ。その襖を開けたら、もう一人いるからよ」
その様に誘導され士郎は、襖を開けた。そこには―――。
「フン。やっと来たか、士
ピシャン!!
中に居た人物が言い終える前に士郎は、襖を壊れないことを前提とした最高スピードで、何の迷いも無く閉めた。
そして、後ろにいた鍋島に向き直る士郎。
「鍋島さん。部屋或いは宿を間違えたんじゃないですか?」
「いや、ここで―――」
「いいえ!絶対に違います」
この宿を部屋を借りたのは鍋島本人にも拘らず、士郎はそれを断固として否定した。
「此処はいわば、人外魔境のような場所ではありませんか!」
「いや、だがな―――」
「中に居たのは、人ではありませんでしたよ!一睨みで人を射殺せそうな金色の獅子でしたよ!!」
「だがな、それ―――」
「獅子は一角馬と並んで可能性の象徴とされていますが、中に居るあれは別です!」
遅くなったが言っておく事が有る。士郎達がいる場所はすでに室内で、襖だけで隔てているだけで、士郎の言う金色の獅子にも勿論、会話内容は筒抜けだ。
「しかしだ―――」
「あれは、多くの可能性を悉く蹂躙し嬲り殲滅する野獣――――いや、魔獣ですよ!更には、今の若い人たちがほぼ全員赤子にしか見えないと言う病気を患っているんです。此処は大人しく、獣医に任せた方が無難ですよ。ええ、確実に!!!」
最後士郎が言いきった直後に、いつの間にか後ろに来ていたヒュームが士郎に向かって蹴りを放つ。
だが――――。
ギィン!!!
ヒュームの蹴りと、士郎を守る様に懐から抜き放った雫の小太刀の峰が、ぶつかり合った。
「ふん。相変わらずの技工の冴え・・・か」
「いくら貴方様であろうと、何人たりとも若への攻撃は許しませんよ」
自身の蹴りを容易に受け止めた雫に対して、彼からすれば珍しい位に素直に褒めるヒューム。
対する雫は、今は石蕗和成の代わりの士郎の護衛であり、何よりも士郎命の彼女の眼前で、それを許すはずがないのだ。
両者とも度も、直に攻撃意思を霧散させる。
「ありがとう、雫。危ないじゃないですか、何するんです!?」
「フン、別にかまわんだろう?それよりも小僧、よくも言いたい放題言ってくれたな!更にはこの場から背を向けようとは、それが貴様の十八番だったのか?」
「これは立派な戦略的撤退です。何時何時でも、前にしか行かないヒュームさんと俺は違うんです」
そして、一呼吸置いた後に士郎はとんでもない爆弾を零す――――いや、落とす。
「そんなんだから、若いころマープルさんを口説いては玉砕しを繰り返したんですよ」
「っ!?!?!?!?!?!?!?!?がほっごほ、げほごほ、がっ、ごっ、ごほげほ」
ヒューム・ヘルシングが噎せた。しかもかなり動揺した表情のまま。
かつて、こんな殺戮執事を見た事が有っただろうか、いや、無い。雇い主である九鬼帝ですらないだろう。見た事が有る人物が居るとすれば、若き頃からの旧知の仲である序列2位のミスマープルか、序列3位のクラウディオ・ネエロの二人くらいだ。そして、二人からしても珍しい事態であろう。
「ごほっ、げほごほ・・・・・・ん、んん。おい、貴様――――士郎。その事をどこで知った!!?」
事既に遅しではあるが、取り繕い終えたヒュームは士郎に聞き出すように迫る。
「半年ほど前に、マープルさんが衛宮邸に客として来店なさった事が有るんですが、その時に酔ってしまわれまして、聞いても居ないのに自分の若いころの話をし始めたんですよ」
(あと、何故か知らないけれど、最近の若者は情けないとか、最近の若者が皆、帝さんか俺みたいだったらいいのにとかも言ってたんだよな?)
「ま、まさか!?その時に!??」
「はい、聞き出す気は無かったんですが、自分は昔ミスロンドンに選ばれた事が有るとか、その前後で何度もヒュームさんに口説か「っ!?!?!?」(←これヒューム)れたとか、かなりやんちゃしてたとか、ヒュームさんは2年間ほど中二病だった「っ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」(←これもヒューム)とか、聞きましたけど?」
「・・・・・・・・・」
士郎の話を聞き終えた時、ヒュームは非常に珍しく上の空だった。気落ちしすぎて、悟りに至った仙人の様に。
それを横目で見ていた、鍋島と雫はひそひそ話を始めた。
(なんか、あんな気の抜けた奴さんを見るのは初めてじゃねぇか?)
(そうですね、何と言うか憐れみを感じてしまいますね?)
言いたい放題――――いや、思いたい放題である。
「ま、まぁ、言いたい事もある奴がいるかもしれねぇが、とっとと本題に進もうぜぇ」
鍋島の言葉に士郎と雫は座敷上に上がっていった。
暫くしてから、ヒュームも気落ちしながら続いた。
本当に珍しい姿である。
-Interlude-
「それで本題とは?」
四人とも、座敷に着いた後に士郎が、鍋島に直截に尋ねた。
因みに、今もまだヒュームは意気消沈中で、気味が悪い位に大人しい上に、存在感が薄らいでいる。
重ねて言うが、実にめずらしい姿である。
「おう、この話の前提として、言っておかなきゃならねえ事が有るんだがよ。来週の日曜日を挟んだ金、土、日、月の3泊四日の天神館の修学旅行中に川神学園と交流戦をやるんだよ」
この言葉を聞いた士郎は、いやな予感がした。
「その交流戦で15歳以上25歳未満の条件で助っ人を最大2名まで呼んでいいという事に成って「帰ります」おい!?ちょっと待て!いや待ってくれ!!」
いやな予感が当たり、鍋島の説明の最中にも拘らず帰ろうとする士郎を、何とかして引き留めようとする鍋島正。
「何を待てと言うんです?どうせ、その助っ人とやらに入ってくれと言うのでしょう?」
「おう!って!だからちょっと待ってくれって!?」
「俺が争い嫌いなのは、鍋島さんも知ってるはずです!」
そう、士郎は争い嫌いだ。自身の事は兎も角、知り合いが侮辱を受ければ喧嘩っ早くなるが、それ以外は基本的に話し合いで解決させたがるのが、士郎と言う男なのだ。
ただのスポーツなら兎も角、スポーツを名目にした戦争ごっこなど、もってのほかと言うのが士郎の意見だ。
「それは、理解してるが・・・なぁ、この通りだ!」
鍋島の要請に露骨に嫌がる士郎を見て、彼は最終手段として士郎に向かって土下座をしたのだ。
それを見た士郎はため息をついた。
「卑怯ですよ。それは・・。そんな風にされたら、断れないじゃないですか」
その言葉を耳に入れた鍋島は、即座に顔を上げる。
「じゃ、じゃあ、受けてくれんだな?」
「条件が有りますが・・」
「素性をばらすなってんだろう?それくらいお安い御用だぜ!」
「それに得物です。自前のを用意すればいいんですか?」
「いんや、こっち――――と言うより、奴さんが用意してくれる事に成ってるんだよ。ヘルシングさんよ、そろそろ復帰して説明してくれや」
鍋島の言葉に、少ししてから反応したヒューム・ヘルシングは、舌打ちを漏らしつつ説明しだした。
「揚羽様が担当している軍事鉄鋼部門で、新たに開発された可変式ブレードライフルの試作機のテスターを探している時に、この話を耳に入れた俺が協力を申し出たんだ」
「つまりそれを使えと?」
「「そうだ」」
一度引き受けたものだから、やりたくはないがやらないとなと思いつつ、もう一度深いため息をついた士郎だった。
因みに、この会談後、カラカル兄弟との夕食の席では大いに盛り上がり、その辺で気分を切り替えるのだった。
後書き
次回は幕間です。
多分短いです。
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