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藤村士郎が征く

作者:昼猫
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第4話 衛宮邸に足を運ぶお客は変わり者ばかり

 
前書き
 タイトルを「葵冬馬の初恋」にしようかと迷いましたが、上記の通りにしました。 

 
 冬木市に本拠を構えている藤村組は、その近隣の7割近くが冬木市在住の会社員(構成員)の建物だ。
 そして、藤村組の本拠地たる屋敷の隣には士郎とジャンヌの愛の巣たる屋敷があった(一応、もう一人いる)。
 その屋敷を半分ほど改造して一つの小料理店としたのが《衛宮邸》である。
 深見町は、昔なじみの屋敷が今でも多く立ち並んでおり、そんな屋敷街のほぼ中央にあるモノだから知っている物しか来ない隠れ名店となっていた。
 それに、店長である士郎の諸事情により経営時間帯が他の飲食店などに比べても少ない事が理由に上がるであろう。

 そんな複雑な事情を孕んだままの小料理店、《衛宮邸》に今日もまたあるお客さんが訪れていた。


 -Interlude-


 「――――と言う訳なのだぁ!」

 ジャンヌが川神学園に転入してきたその日の夕食時に、隠れ名店《衛宮邸》に榊原小雪と葵冬馬が一人のお客さんとして来ていた。

 正確には井上準もだが、この二人は嘗て士郎により救われ或いは諭されてかなり親しい間柄だ。
 それから、士郎のみで三人の抱え込んでいる葵紋病院の闇などに協力していたが、何やら近々九鬼がそれなりに角が立てずにかつ、冬馬と準の親達を粛清(殺す訳では無い)し丸く収めるらしいとの事だという話を少し前に聞き終えて今に至る様だ。

 「ほぉー、それから準は如何したんだい?」
 「いえ、結局の所戻って来なかったんですよ。今は自宅の自室に引きこもっているようですが」

 そこに厨房からジャンヌが出て来てから士郎の横に寄った。

 「すいません、私のせいで」
 「ジャンヌは全く悪くないのだぁ。あの井上準(ハゲ)がおかしいのは何時もの事なのだぁ!」

 この四人の会話やフインキで察せる者も居るであろうが、ジャンヌと士郎以外の二人は彼女と既に顔見知りだ。
 故にHR時では初対面を装い、見惚れる振りをしたのだった。
 では何故に準は暴走したのかと言うと、約3年ほど前からイギリスにある有名な総合大学から日本に帰って来てから、士郎に会う事に渋り出して以来ほとんど合わなくなった。

 しかし、小雪と冬馬は変わらず士郎に会いに行き、約一年前に日本のとある高校に入学したジャンヌは以来、士郎の家に住み込んでいる(同棲)。
 それで、時々遊びに来る2人はジャンヌと邂逅していたのだった。
 故に3人の中で井上準のみがジャンヌの事を知らなかったと言う訳だ。

 「それにしても未だにショックですね」
 「何がなの?トーマ」
 「士郎さんとジャンヌさんとの関係がです。これでは私の入り込める隙が無くなってしまったではないですか」
 「すいません、私は士郎一筋なので」
 「いえ、私が言っているのはジャンヌさんでは無く士郎さんにですよ」
 「なぁああ!?なんでさ!!?」

 説明しよう。
 この肌黒イケメン学生、葵冬馬は様々な女性と肌を重ねてきたのだが、その中には男性もいたのだ。
 最初はノーマルだった葵冬馬も、ある日を境に男とも嬉々として肌を重ねたがるようになったのだ。

 「トーマ、いくらなんでも今からシロ兄ぃを狙うのは如何かと思うのだぁ!」
 「いえ、昔からですよ?ユキ」
 「え?」
 「そもそも私も最初はノーマルだったのですが、ある方にお会いした時から男性にも興味を持ってしまったんですよ」
 「・・・そのある方がシロ兄ぃって事なの?」
 「ええ、そうです。士郎さんに人目お会いしてから正体不明のとある衝動に駆られるようになったんですよ!最初はこの衝動に戸惑いましたが士郎さんに会うたびに強くなっていき、私は士郎さんに抱かれたいのだと気づいたんです!!!」
 「・・・・・・・」

 熱の籠ったあんまりの冬馬のカミングアウトに、士郎は後ずさった。

 「ですから本当に残念ですよ。ジャンヌさんと言う強力なライバルが居ては勝目を薄いでしょうしね」

 そのセリフと共にこの一帯の空気がどんよりとした。
 その空気を掻き消そうと何時もはやりたい放題の小雪が立ち上がる。

 「そ、そう言えばあの部屋は何なのだ?」
 「ぅんむ、ん?あーー、あの部屋か・・」

 小雪が指をさしたところに赤い扉がある一角が有った。

 「そういえばそうですね。最初はありませんでしたが何時の間にか出来ていましたけど、さほど興味を持てなかったのであえて聞かなかったんですが何なんです?あの部屋は」

 そこに、空気をどんよりさせた張本人も乗ってきた。

 「あの部屋は激辛好きの客専用の部屋なのさ」
 「専用部屋を作る必要があるんですよ。あまりの辛さに士郎自身、爆弾処理班が切る防護服を少しコンパクトにした専用の服を着て調理してますからね。勿論、厨房も専用に区切ってあります」
 「そんな服を着てよく調理できますね」

 「大丈夫ですよ、葵君。何といっても士郎ですから」

 葵冬馬の求めている正確かつ詳しい返答とは言い難いが、あっていると言えるであろう。

 どの様な精神状況・環境でも洗練された動きと腕で、熟し捌いていく家事スキル。
 何時でも紳士の心がけ・心構えを忘れない執事スキル。
 これらを踏まえた上での以前の世界で培われた《完璧なる執事(パーフェクトサーヴァント)》たるランクEXは伊達では無いのだから。

 更には、かの某英雄王により「我が宝物に加えるに相応しい」と言わしめたほど故に。

 「それでも部屋を区切るほどなんて、どれ位辛いの?」
 「・・・人によっては阿鼻叫喚化するかもしれないが、取り敢えず人間は死なない」
 「・・・え“!?じゃ、じゃあ、他は?」

 あまりの告白に恐る恐る聞く小雪。

 「換気口から排出される(にお)いだけで、その辺に居る通常の虫たちは死ぬ。ゴキブリすらも逝ったほどだからな。鳥、犬、猫なんかは、心肺停止する。外にたまたま俺が出てたら、換気口の排出口の近くに居たそれらが倒れてたから、慌てて応急処置して知り合いの動物病院に運んだよ」

 苦笑いしながらも瞳は遠くの方を見ている士郎に、二人は戦慄を覚えていた。

 「おかげで、換気口にも手を加えることを余儀なくされたよ。勿論、終えるまで激辛料理は作らなかったよ」
 「そ、それは・・・壮絶ですね・・」
 「何人くらいのお客さんがいるの?」
 「現時点では三人だな」
 「何とも少ないですが、それでは食材などは大丈夫なんですか?」
 「ああ、使えるものは普通の食材だけだし、スパイスは特別のブレンドものだ。それに本当にその日のうちに食べたい食材がある場合は、お客自身が持参してくるのさ」

 成程と、冬馬が頷いていると赤い扉がスライド式に開き、二人の男女が出てきた。

 「ご馳走様でした」
 「今日もまた最高の味だったぞ、店主よ。次回来る時も楽しみにしている」
 「それはお粗末様」
 「会計をしてもよろしいでしょうか?」
 「はい、どうぞ」

 中から出てきた二人で、男性の方は神父服に身を包んでおり、銀髪の少女の方はシスター服だ。

 「払い終えましたよ、父上」
 「うむ、では戻るか」

 そうして二人は衛宮邸を後にした。

 「神父にシスター・・教会の方々でしたか」
 「三人目は君らと同じ学生だがな」

 そう、衛宮邸を後にした二人は七浜にある言峰教会に在籍する敬虔なる神の使徒だ。

 名前は言峰綺礼と言峰カレン。

 最初出くわした時、士郎は勿論の事ジャンヌも思わず身構えたが、悪辣非情な事に手を染めていない以外は同じだったので、取りあえず様子見に徹する様になっていった。

 ここで教会の事について触れておこう。
 士郎のいた世界の聖堂教会の様な裏組織はほとんどなくなっている。
 それは魔術師たちの衰退とともに死徒の数も激減したためである。
 活動を必要とする人員が少しづつ無くなり、そうして今に至った。
 今では世界中の死徒や魔術師の動きなどを把握するための、情報収集の組織が有るくらいだ。

 だからといって、死徒殲滅の代行者が消え失せたためでは無い。
 世界中にある各地の神父たちは全員が代行者でもある。
 魔術師と死徒ととかが消え失せらわけでもない。しかし、裏組織の人員が多すぎる。
 それ故に、全世界各地の神父たちが代行者でもある訳だ。

 そして、神父(代行者)としての仕事の内に自身の後進を育成する者が有るのだ。
 少なくとも死徒の殲滅が確認されない限り、この流れは変化しえないだろう。

 「七浜の一角に外人墓地に隣接する様にある教会が有るだろう?あそこの人たちさ」
 「確かにありますね。行く機会がなかったものですから、彼らの事を始めて見ましたよ」

 そこに昔なじみの鳩時計が鳴る。

 「もう、こんな時間ですか。そろそろお暇しますよ、ユキ」
 「ホーイ、それじゃあシロ兄ぃ。バッハハァーーイ!!」
 「今日も料理とてもおいしかったです。ジャンヌさんも来週お会いしましょう」

 そのまま二人は衛宮邸を後にする。
 それと入れ替わるように新たなお客さんも入ってくる。

 こうして士郎達の夜は更けていく。


 
 
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