藤村士郎が征く
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第1話 別の世でも血生臭さからは離れられず裏の仕事に今日も勤しむ
前書き
思い付きに付、超気まぐれ更新です。
此処日本の神奈川県にある川神市周辺には、世界的に有名かつ多大な影響力を持った者達が集う勢力が3つある。
一つは、言わずと知れた武の総本山たる《川神院》。川神市内にあり、そこを基盤として川神学園なるマンモス高校をも運営している。
一つは、世界にその名を轟かせる《九鬼財閥》。元々はそれなりの財力を持っていた財閥ではあったが、現当主である九鬼帝の手腕により今や日本の全国各地は勿論、世界中にも多くの支部を置くまでに急速成長した優良企業である。川神市から見て東側の七浜市に本社ビルを建ててある。
そして、最後の一つは極道の頂点たる《藤村組》。ヨーロッパ及びアフリカ地域以外の約6割もの裏の世界を牛耳る影のドン。川神市から見て西側の冬木市に本拠地を構えている。
そんな二つの勢力の非常に近くに居を構える藤村組と他の二つの勢力との軋轢により、住民たちは怯えながら細々と言った暮らしを余儀なくされている―――――なんてことは無かった。
川神市周辺の3大勢力の仲は非常に良好である。
古から存在している順で言えば、一番が川神院で次の藤村組最後に九鬼財閥であるが、川神院の現総代の川神鉄心と藤村組のご隠居であるが、まだまだ現役を自称する藤村雷画の二人は古くからの友人関係である上、現在の九鬼財閥には従者部隊と言う独自の軍事面にも適したサポート部隊が有りその頂点として、二人にとっても友人であり戦闘面にとっては強敵である九鬼従者部隊永久欠番の序列零位のヒューム・ヘルシングがいるのだ。
世界一の企業とまでに呼ばれている九鬼は、他の会社からすれば新鋭の成り上がり同然であり露骨に疎まれている。
事実、九鬼財閥の当主である九鬼帝はその筋から何度も暗殺されそうになっているのだ。
まぁ、その度に九鬼従者部隊に阻まれたり、川神院や藤村組に出張られてしまい尻尾を掴まれるなどした企業が出た始末故、ここ最近ではめっきり来なくなったようだ。
そんなある日の川神院近くの駐車場に、黒塗りのベンツで半分以上で埋まっており、川神院の門の前には黒いスーツ姿の強面の男たちが立ち並ぶように居た。但し、参拝客の邪魔にならないように。
その男たちに対して近隣の住民たちは怖がるどころか、嬉々として話しかける者も居るようだ。
例えば―――。
「相変わらずご苦労さまね、“トシちゃん”。これでも飲んで元気付けてね」
「はい、恐縮です」
如何考えてもスーパー帰りの中年くらいの主婦にしか見えないおばさんに、“トシちゃん”と呼ばれた男は誠意でもらった栄養ドリンク剤をその場で飲む。
この“トシちゃん”こと吉岡利信は藤村組内のNo.5だ。
かつて、藤村組を乗っ取ろうと画策したほどの猛者であるが、それを事前に察知されバラされる寸前に、先代組長である藤村雷画と共に来た“若”と呼ばれている少年に救われると同時に、自身の歳の半分くらいの少年の器の広さに惚れ込み、今では従順に藤村組内で日々充実した日々を送っている。
とはいえ、その時以降から彼の中で別の野心が芽生えている。その野心とはズバリ――――。
“若”の専属の護衛である。別に先代当主である雷画の護衛に不満がある訳では無いが、どうせなら自身が惚れた男の下で働きたいと言うのが利信の希望だ。
因みに、現在の“若”の護衛を務めているのはNo.3の石蕗和成と言う上位に位置する壁越えの剣の達人だ。この男も“若”に魅せられた一人である。
話は戻るが、声を掛けられている男は利信だけでは無くあちらこちらとまるで親しい知り合いに挨拶する様に話しかけられていた。詰まる所、藤村組の人間は、冬木市内は勿論の事近隣住民からも慕われていて、何か緊急的な事態が起きた場合に限るが、警察の方から非公式であるが何かしらの捜索のために応援を頼まれる事すらもあるのだ。言ってしまえば、非公認の治安維持部隊の様なものだった。少なくとも現地の住民からすれば。
そんな護衛の男たちが川神院近くの住民たちから慕われている時に、院内の総代を務める川神鉄心の私室に雷画と鉄心は将棋をしていた。
「久しぶりじゃのう、雷画。こうしてお主と将棋を指すこと自体久しぶりに感じるわい」
パチッ
鉄心の歩がまた一つ雷画の領内を侵す。
「まぁ、実際そうじゃからのぉ。お互い随分老いぼれたがまだまだやることが多いしのぉ。特にお主は問題児を二人も抱え取るんじゃろぉ?」
パチッ
雷画の歩もまた鉄心の領内を侵す。但し、言葉と共に傷口をなぞる様に。
「むぅ、そうじゃが・・・そう言えば例の件、考えてくれたかのぅ?」
パチッ
更に歩は進むが勢いに覇気が見られない。
「例の件?・・・なんかあったかのぅ?」
パチッ
思い出そうと考えるあまり進める駒の位置を間違える。
「うちの百代との件じゃよ」
パチッ
容赦なく間違えた駒を取らんとして更に歩を進める。
「・・・あれか・・・って、儂にケンカ売っとるんか!鉄心!!」
バチッッ!
叩き付けて付ける様に指すものだから、全体の駒がややずれる。
「なんでそうなるんじゃ・・」
パチッ
あくまで冷静に対処する鉄心。
「そうなるにきまっとるじゃろうが!折角二人を切っ掛けに、ヨーロッパとの間での事が沈静化されつつあるのにも拘らず、儂の手でそれらを破り無かった事にしろとでもいうのか!?そうなれば、間違いなく即時開戦になる!あちらからすれば、勢力で負けていようとも戦争になるぞい!」
いささか興奮しているのか、雷画の手が止まる。
「そんなつもりはなかったんじゃが・・・・」
「じゃあ、一体どういうつもりで言ったんじゃい?そもそも、あの二人の仲を引き裂けとでもいうのかぁ!!」
バチッッ!
再度叩き付けるように持っていた歩を進める。
「別にケンカ売っとる訳じゃ無いわい。近々、少子化対策による例の法案がこのまま可決されるらしいからのぅ。そうなれば何の問題もあるまい」
「十分あるわい!そもそも、今時のわしらの様な老いぼれや親の取り決めた嫁婿を生涯にかけて共にさせるなぞ流行らんぞい。更に言うなら、儂んとこのと百代ちゃんは会った事なぞないじゃろうが」
「むぅ・・・・じゃあ、もう一つの件は如何じゃ?」
パチッ
気づかない。
「もう一つ?―――――ああ、あれか。あっちも駄目じゃよ。そもそも本人が拒否の姿勢を示しとるんじゃからのぅ」
パチッ
(ん?)そこで雷画だけは気づく。
「勿体無いのう。彼なら即時《天下五弓》・・・いや、射する得物を選ばずに間違いなく天下を取れるじゃろうに」
パチッ
そのまま気づかず鉄心は駒を進める。
「それについては同意するがのう。本人曰く、「強すぎる力は争いを呼ぶから」という事じゃよ。事実、今の世の中は強い名声に怖れを抱かずに挑戦心溢れる武闘家が多すぎるわい。あ奴は自分の力は人前で見せびらかしたくて付けたわけじゃないとも言って負ったからのぅ」
パチッ
鉄心が気づかないのを良い事に、虎視眈々と手を進める。
「むぅ」
パチッ
やはり気づかない鉄心。
「お前さんの企みならわかっとるわい。大方、戦闘に魅入られている百代ちゃんの戦闘欲を抑えるために、あやつを利用したいのが一番の本音じゃろう?他の存在を利用してまで自信の悩みを解決させようなどと元とは言え、かの武神も地に落ちたのぅ」
パチッ
このままいけばあっさりと―――。
「くぅぅ・・・。そ、そう言えば、彼は今何しとるんじゃ?」
パチッ
もはや手遅れ。
「急な話題変更などとは見苦しいぞい?鉄心。じゃが質問には答えようかのぅ。今、あやつはアメリカに行っとるワイ。ちょっとあやつ専門の仕事を頼んでいてのぅ。・・・・あとの、終いじゃ」
パチッ
これで止め。
「ん?・・・って!?王手じゃないかい!!」
鉄心は盤上でも追いつめられた。
-Interlude-
死徒。
それは現代の吸血鬼であり、人に似て人に非ざる化け物。
死徒にとっては自身の意思で同じ存在にする事も可能であり、兵隊にする事も可能であり、或いは餌位にしか思っていない元人間だ。“彼”のいた世界ではの話だが。
この世界にも死徒は存在するし概ね間違ってはいないが、違う点があるとすれば吸血行為に対する部分が変化している点と言ったところか。いや、退化と言ってもいいかもしれない。
話が少々ずれるが、この世界にも魔術基盤は存在するし魔術師も残っているはずだが、魔術は存在的にも学問としても衰退の一途をたどり、遂には“彼”のいた元の世界に比べて魔術師の数が一割にも満たないであろう位の数にまで減っているのがこの世界の魔術師の現状だった。
そして、死徒とはほとんどが元魔術師である。
そこで話は戻るが、上記での事で魔術師たちの血の薄まりが原因で例え死徒になっても、同じ存在にする事と兵隊にする事の二つが消え失せているのだ。
しかしだからと言って危険と言う訳では無い。死徒は元とは言え魔術師だ。魔術師とは基本的に自分の事しか考えず、その過程で自身の魔術の成果でどれだけ周りの人間が犠牲になっても眉ひとつ動かさない人種であり、凶悪な犯罪者など可愛く思えるような下種外道である。
そして、死徒となればその傲慢さはより膨れ上がり、元は同じ人間を餌位にしか思わず途中で吸血行為を止める事も出来るだろうが、大概の場合はそのまま血を吸いつくして殺すケースがほとんどだ。
故に、発見して一度でもその行為に及んだものは即時処刑と言うのが死徒を知る者達の中での常識だった。
そして今日も――――。
「―――――糞が、糞が、糞が、糞がぁああ!!」
今現在アメリカのとある州の廃墟周辺にて、一匹の使徒が怒りを孕んだ言葉で叫びながら全力で逃げていた。
しかもその死徒、左腕が肘から先が切られている。現にその切り口を抑えて必死なようだ。
「この俺がぁああ!あんな下等生物なんかにぃいい!!」
自身の左腕を切り落としたここには居ない張本人に向けて叫んでいた。
「と、兎に角、ここまでくれば奴も追ってこれまい。この後はこの腕の再生のためにもっと人間どもを鱈腹喰って、その後はあいつを八つ裂きにしてやるぜぇええ!」
ヒヒヒヒ、と言う下卑た笑いを浮かべながら復讐を誓う死徒。しかしそんな未来は永久に訪れることは無い。
何故ならば――――。
ちゅどっぉおおおおおおん!!!!
死徒がいた地点に突如何かが着弾して、そこに居た死徒は肉片が残っているかも怪しい位に消え失せた。
そしてその“何か”を着弾させたものは18キロ先で黒塗りの弓を持っていた。
-Interlude-
「ふぅ、これで今日も終わりだな」
その黒塗りの弓を持つ褐色肌の青年は、銀髪と赤いジャケットを模した聖骸布を風になびかせ悠然と立っていた。
「お疲れ様です“若”」
そして彼の傍に控え鞘に納めた日本刀を携えた長身の男は、件の死徒の左腕を切り裂いた張本人であり、藤村組No.3の石蕗和成だった。
「和成さんもお疲れ様です。これで依頼は終了ですね」
「はい、後処理は此処の一体の管理人の仕事なので我らは帰国いたしましょう」
「判りました。という事はヒュームさんが送ってくれるんですか?」
「フン!視界に居れて無いにも拘らずこの俺を察知するとは、相変わらず制空圏の広い男だ」
青年は誰もいない明後日の方向に話しかけると、突如獅子を思わせるような金髪の老執事が現れた。
「流石に気づきますよ。寧ろ、試されてるのかと思いましたが?」
「ククク、流石にばれたか。あと先の質問はYesだ。俺がお前に依頼したのだから当然だろう」
言い終わるとともに上を見上げるろヒューム・ヘルシング。
それに続くように青年と石蕗も見あげるとそこには、サイレンサーで音が極力消されている特別な飛行機が空中で停滞していた。
「取りあえず続きは中で話すぞ」
ヒュームの提案を短い返事で了承する二人。
ヒュームの提案の中で話すと言うから飛行機が下りて来るのを待つかと思いきや、3人はそこから一気に跳躍して一か所だけ入口を空けていた空中で待機したままの飛行機に乗り込んでいった。
-Interlude-
現在士郎達は、最短最速で日本に向かっているヒュームが手配した九鬼専用の特別な旅客機内に居た。
「それにしても今回の依頼、俺に頼む必要があったんですか?ヒュームさん自身吸血鬼殲滅の一族だって窺った事が有るんですが・・」
「必要はないが理由なら十分にあるぞ。お前の腕の程が久しぶりに見たくなったんだ、それでは足らんか?」
皮肉か含みがある言葉か或いは両方か、それらをも思わせる様にクククと凶悪な笑みを浮かべる殺戮執事。
「足りるかは判別できませんが、俺の腕なんかを見たいがために依頼してくるとはヒュームさんも物好きですね」
「言ってろ。それより貴様、相変わらずだなその過剰な謙遜ぶりわ。過ぎれば嫌味だと忠告しておいたはずだがな。貴様もそうは思わんか?《駿足の太刀》」
《駿足の太刀》とは、石蕗の異名だ。そんな名でヒュームに呼ばれた彼は、士郎の座席の後ろ側で執事然として控えているようにしていて、只簡潔に返答する。
「若自身の事です。私に異論などあるはずも、ありませんよ」
「フン、主従揃ってつまらん奴らだ。そんな調子で学生時代は《天下五弓》の一席も《武道四天王》の座も蹴ったのか?」
「酷い言い様ですが、必要ありますか?今の時代は異名などは抑止になるどころか強い興味心を掻き立てる材料にしかなりません。ヒュームさんの様な人種なら願っても無いんでしょうけど、生憎と俺はそのように思えたことは一度たりとも有りませんので」
ヒュームの言に、淡々と答える士郎。
「相変わらずの非戦闘欲主義者か・・。フン、まぁいい。本題はこれからだ」
「はい?」
「紋様の事は忘れてはおらんだろうな?」
ヒュームの言う紋様と言うのは、九鬼帝と九鬼局の間にでは無く、妾との間に生まれた子。九鬼紋白その人である。
まだ子供なのだが、以前ちょっとした機会で士郎は面識があるのだ。
「それはもちろん」
「ならいい。それでな、近々九鬼の方であるプロジェクトの関係者という事で紋様が飛び級と言う形で川神学園に編入することとなった」
そこまで聞いた士郎は嫌な予感がした。
「そこでだな、紋様の編入日に合わせて貴様も川神学園に編入しろ。いや、もう編入の手続きは出来ているから、後は―――」
「ちょ、ちょっと待って下さい!?編入って、今更高校に?冗談が過ぎますよ」
「冗談などでは無い。それとな・・・」
「――そ、それと・・?」
「雷画からはすでに許可は取っている」
あまりにも予想外な事実に士郎は固まった。まさか、祖父から裏切られようとは夢にも思わなかったからだ。
「な、なんでさぁああああああ!!?」
士郎の絶叫が旅客機内で響き渡った。
後書き
まだ一話も投稿していないにも拘らず、お気に入り登録している方がいて驚きました。
嬉しいのですが、早すぎる!
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