藤村士郎が征く
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第5話 士郎「が」歩けばフラグに当たる
「おい、じじぃ。今日は修行僧の誰かに見回りさせないのか?」
ジャンヌが川神学園に転入してきた当日の深夜、百代は川神鉄心の私室に来ていた。
「んむ?まぁのぉ。今日は藤村組の方がしてくれる事に成っておる。ちょっとした理由があっての」
「ちょっとした理由?はどうでもいいが、誰が来るんだ?《駿足の太刀》石蕗和成さんか?《黒虎》吉岡利信さんか?それとも、藤村組現総組長の《闇夜の鷹》藤村切嗣さんか?」
戦闘意欲に満ち溢れている百代は、まるで玩具をねだる駄々を捏ねている子供のように鉄心に聞く。
「誰でもないし、もう深夜じゃぞ。戦闘の許可なぞ出さんぞい」
それを聞き何を―!と叫ぶ武神。
「じゃ、じゃあ、一体誰なんだよ!?」
「誰でもよいじゃろうが、お前も女の端くれならとっとと寝ろい!肌が荒れても知らんぞ!」
それを、何だとー!?と抗議するのだった。
-Interlude-
士郎は今宵、川神市内の見回りをしていた。
但し路上では無く、建築物の屋根や屋上を跳び渡って。
そして時たま止まり、その圧倒的視力によりあたりを見回す方法をとっていた。
だが、そもそも川神市内の巡回は警察は勿論の事、川神院の修行僧がやる仕事だ。
ではなぜ藤村組の大切な人間である士郎が見回りをしているかと言うと、同じ人間がやると無意識的にパターン化する恐れがあり、そこを狙う不逞の輩が現れないとも限らない。
そこで、対策の一つとして信頼できる外部のメンバー(主に九鬼従者部隊や藤村組の実力のある中堅や若手)を貸し出してもらう事だった。
周到に調査してくる不逞の輩への対策として、日にちは適当で巡回ルートはチェックポイントらしき場所がいくつかあり、そのポイントをいつ通るかも巡回者にお任せ状態だ。
しかし、それらのポイントは何れも大通りだ。故に士郎は脇道を細かくチェックしていた。
そして、案の定――――。
-Interlude-
小笠原千花は深夜の暗い脇道を必死に走っていた。
その理由は自分を後ろからにやにやとした笑みを浮かべる滓共からである。
「おいお~い、待てよ嬢ちゃん」
「俺らと遊ぼうぜぇ」
「最高にいい思いさせてやるからよ」
げへへへと下卑た笑いをしながら後追うゴミ共。
しかしそれに構うことなく、ただただ必死に逃げ続ける千花。
だがこの屑共、悪知恵位は働くようで、最初から別れて大通りに逃がさないように連携をし乍ら、千花を袋小路に追い詰めていった。
そして――――。
「きゃっ!」
後ろを何度か向きながら逃げていたので、前方不注意につき何かにぶつかってしまい転んでしまったのだ。
そして前を見上げるとそこには容姿が暗くてわからぬが一人の長身の男が立っていた。
「あっ・・・ああっ・・」
この男も奴らの仲間なのだろうと思い、これから自分が奴らに何をされるのかと直に思考出来てしまったため、体を震わせることしかできなかった。
だが――――。
「大丈夫か?君」
「・・・・え?」
目の前の長身の男は、私の身を案じてくれるばかりか優しく立たせてくれた。
そこへ後ろから追いついてきた3人組のモブA・B・Cが追いついてきた。
「おいっ、なんだよてめぇ」
「そこの嬢ちゃんは俺らとの先約が有んだよぉ」
「雑魚は失せてろよぉ、ゲヘヘヘ」
と後ろからやられやく3人衆が来て何かを呻いている。
だが千花達(正確には目の前の男だが)は取り合おうとせず、自分たちだけで話を進めていた。
「その学生服からして川神学園の女子生徒か。こんな時間まで遊びほうけるなんて・・もう少し自重するべきだぞ」
「え?あっ、は、はい・・」
男は千花の後方に居る、喚き声が気になりつつも目の前の男性の説教を聞いていた。
「とにかくもうこんな時間帯だ。送っていくから、もう帰んなさい」
「え?」
「おいっ!てめぇ、さっきからむししてんじゃねぇぞぉ!!」
「先約は俺らにあるって言ってんだろうがぁ!」
「つかよぉ、ここで俺らに逆らってみろぉ。プロボクサーの西山さんに言いつけんぞぉ!」
「それで住所と名前は?」
下種共のわめきに一切の我関せずを貫く目の前の男性にもしかしてこの人強いのかなぁと思う千花。
川神周辺は武家の血を引く者達も多いのでおかしい話では無い。
「聞いてんのかテメェ!」
「もう許さねぇ!」
「殺す殺す殺す・・」
「お前ら何やってんだよ?」
「――――え?あっ、西山さん!?」
そこにモブDが加わる。
「聞いてくださいよぉ、西山さん!」
「あの調子乗っている野郎が、俺らの得物を横取りしていったんですよぉ」
「ほぉー」
モブDは男を一瞥した後に千花を下から上を舐めるように目利きして、悪くねぇなと呟く。
「おいっ、そこの。見逃してやるからとっとと消えな。勿論そこの嬢ちゃんを残してな」
西山と言う男の後ろから、下卑た笑いを浮かべるナントか3人組。
地下から見てもこの後から来た西山と言う男、同じクラスに居る島津よりもかなり筋肉質っぽく、私はまた怖くなってきた。
しかし――――。
「おい、そこのさっきから負け犬語を喚いている奴ら、飼い主が来たんならとっとと帰れ。見逃してやるから。――――それで君のお家は何所だい?」
相当強そうな人が来たにも拘らず、相変わらずちゃんと相手をしない男性。
「ああ゛!?今なんつったべコイツッ!」
「もう、殺しちゃいましょうよ西山さん!」
「死刑!死刑!死刑!」
「確かに生意気な奴だ。現実ってのを教えてやるかぁ」
そう言うと西山と言う男が私を庇ってくれていた男性に殴り掛かる。
その男性は巻き込ませまいと私を瞬間的に横にずらした。
そのせいでこの人は顔を殴られていく。
「シっ、シっ、シっ!」
「やっちまってください!」
そうして十発以上顔を殴られていた男の人から拳が引かれる。
「どれどれぇ・・って!?」
しかし、殴られていた人の顔には傷どころか痣も殴られた跡すらついていなかった。
というか暗くてさっきから見えなかったが、褐色肌に銀髪でかなりのイケメンだった。
「で?終わりか?まだ撃ち足りないなら、撃たせてやるぞ。どうせ蚊が止まったのと大して変わらん」
「なっ・・な、な、な、舐めるなぁああ!!」
ドン!
西山―――モブDの渾身の一撃はまたしても士郎の顔にクリーンヒットした。
いや、したはずだった。だが――――。
「まさか今のが全力の一撃だったのか?だとしたら、最近のボクシングのプロ試験の基準は低いのか?まるで効かないぞ?顔マッサージにすら届いていないぞ?」
直に拳を士郎の顔から引いてみれば、先程の連打と同じく痣一つ無く余裕ぶりを見せつけるだけだった。
「「「「・・・・・・・(パクパク)」」」」
モブDにとっては正真正銘、渾身の一撃だった。
にも拘らず、この目の前の野郎は微かな痣すらない。
今、このモブたちからすれば士郎はさしずめ人の皮を被った化生の類であろう。
「さてと、ならば一応俺が手本を見せてやる、よっ!」
そう言ううと同時に、シロウから一番距離を取っていっていたモブDの懐に瞬時に移動した後に、シロウが正拳突きをするようにモブDの顔面に拳を突き刺した。
「グォオオオオオ―――・・ガっ!ご、ごっ・・・・」
士郎の正拳突きの威力により何度かバウンドしていき最終的に10メートル跳んだ上、最後にが塵バケツに頭から突っ込んでいき糸が切れたマリオネットの様に動かなくなった。
あまりの目の前の光景に士郎以外が押し黙る。
「・・・・あっ!殴り倒したら手本を参考にさせられないな。まぁいいか・・・で、お前らは如何する・・・?」
モブDを殴り倒した士郎が、次に標的をとモブ3人衆に切り替えた。
しかし当の本人たちは逃げ腰になりながら立とうとするも、上手く立ち上がれずにいた。
「おい」
「「「ひぃ!!」」」
どうやったのかわからないが、一瞬で3人を無理矢理立ち上がらせてから射殺すような睨む。
「あれを片付けてから行け」
「は、はぃいい!!?」
そのまま一人はモブDを塵バケツから取り出し残り二人と立ち去ろうとする。
「後!次に俺の視界で似たようなことを見かけたら・・・・・・・わかってるな・・!!」
今度は殺気を僅かに込めて3人に向けると、怯えた声を出しながらひたすらに逃げていった。
そんなモブ共の後ろ姿を見送っ手からスグに千花に向き直る。
「大丈夫だったか?」
「・・・・え?」
「あっ、もしかして怪我でもしているか?」
「あっ、いえ、その・・・大丈夫です」
自分を追い回していた奴らが去ったとはいえ、急に自分に向き直り話しかけられたものだから、直には反応できなかったがなんとか持ち直せたようだ。
「立てるか?」
「あっ、はい、大じょ、痛っ!?」
先程の光景に圧倒されていたので座り込んでいた自分を手に取って、優しく立ち上がらせようとしてくれる目の前の超イケメン年上男性に促されたが、如何やら足を挫いてしまったようだ。
「足をくじいたのか!?」
「あっ、あはは~、何だかそうみたいです」
「という事は俺とぶつかった時だな、すまない。・・・すまないついでに挫いた方の足を出してくれないか?」
その様に言われた千花は、足を差し出すように見せた。
それを士郎は、懐から塗り薬が入っている小ケースを取り出し(←いつも持ち歩いてるのかよ!?)彼女の挫いた患部に塗り込んでいく。
それから、負担を掛けさせないために医療テープも取り出し患部に巻き付けていく。
「これでいいと思うが、あまり負担をかけない方がいいだろう」
「あっ、ありがとうございます」
「しかし、弱ったな。このまま歩かせるわけにもいかないか・・・よし、ちょっといいかな?」
「はい?てっ!きゃっ!?」
千花の反応の問いに答える前に士郎は、何の躊躇も無く彼女をお姫様抱っこをした。
「えぇ!?あ、あのっ!?」
「不快かもしれないが、我慢してくれるか?これぐらいしか手が思いつかなかったんだ」
「え、いえ、む、むしろラッキーです(←最後の方は小声)」
視力ほどではないが、耳がとんでもなくいい士郎ではあったが、そう言う星の下に生まれてきたのか最後の方の千花の言葉を聞き逃した。
「確か仲見世通りの和菓子屋だったか。それじゃあ、出来るだけ怖い思いさせないようにするが、こ解ったら遠慮なく捕まっていてくれ」
「え?きゃっ!」
またしても千花の返答を待たずに行動に移す士郎。
路地裏から建物の屋上に一気に跳躍してから、仲見世通りの和菓子屋を目指して屋上や屋根を伝い一気にかけていく。
その間、千花は士郎の顔をじっと見つめて内心で不幸中の幸いだわ!と思っていた。
-Interlude-
「さぁ、着いたぞ」
あれから1分もかからずに千花の家の玄関前に辿り着いた士郎。
それを、こんな超イケメン年上男性にお姫様抱っこされるのがもう終わりなのかと、千花は嘆息を付いた。
そうしてやんわりと挫いた方の足に負担を掛けさせないように降ろす。
「それじゃあ大丈夫だと思うが、これからはこんな夜更けに出歩くのは自重するんだぞ」
「あっ、待ってください。えっと、小笠原千花です。今日は本当にありがとうございました!」
「ん?いや、解ってくれればいいのさ」
それじゃあと言おうとしたら士郎の懐の携帯から着信が入った。
「――――すまない、あっ、はい・・・・あー和成さん?えっと、その・・・・解りましたから今後気を付けますって。それでは」
電話相手との会話が終わったのか携帯をしまう。
「すまないが急いで戻らなきゃならないんだ。礼ならいいから、しつこいかもしれないがこれからも気を付けるんだぞ」
「あっ!?」
またしても、千花の返事を聞かずにその場から消え去る士郎。
千花からすれば、お礼と言うよりも名前を聞きたかっただけだった。あわよくば携番も聞きたかったが様だが。
「・・・・・それにしても超イケメンの上にすごい紳士だったな」
玄関前で立つ千花は、家に入る前にそんな言葉を零すのだった。
後書き
チカリンには申し訳ないですが、士郎が見回りをしたとしても簡単にフラグが立つイベントを載せたかっただけでござるの巻き。
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