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空虚で無気力な青年が異世界で新生活~改訂中~

作者:Rabbit
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第4話 仕事

クライン side

私はクライン・ユラ・リベレ。

リアバーグ王国の侯爵貴族を父に持つ、貴族の娘だ。

退役したが、父は王国騎士だった。

それも、王国に所属する軍団の中でも最精鋭と言われている第1近衛兵団隊長を務めていた。

第1近衛兵団は国の元首たる、国王陛下直属とされており主に王都や王宮の守備を任されている。

私も、父と同じように騎士になるはずだった。

だが、私はその道を捨てた。

この国は貴族社会だ。

貴族ということがステータスになり、位が高ければ出世の階段を早く登れることだろう。

私は騎士育成学校の卒業と同時に、王都から姿を消した。

無論、何も言わずにだ。

この国は貴族だけが力を持っている。このままでは、いずれこの国は滅ぶだろう。

貴族だから、平民だからと言っていては、限界が来る。

いや、すでにその兆候が出ているのかもしれない。

それに、貴族連中は平民を見ていない。

我々の生活を、国を支えているのは平民だというのに。

だが、私はまだ現状をハッキリと知らなかった。

だから、私は家を出たのだ。

私は冒険者となり家を出てから、かれこれ2年ほど各地を旅している。

と言っても、まだ王国からは出ていないのが現状だ。

念の為、私が貴族だと言うことは話していない。何があるか分からないからな。

という話を、目の前に座っている男に話したんだが。

「…美味いな」
「私の話を聞けぇっ!!」

私の2年間の話を、この男はまったく聞いていなかった!

奴の意識は、テーブルに並べられている料理に向けられている。

腹が減っていたのだろう。黙々と食べ続けている。

だが、男は私の声に手を止めると、私へと視線を向けてくる。

「ちゃんと聞いている」
「本当か?」
「ああ。なんやかんやで色々あって、大変だったのだろう」
「聞いてなかっただろ!」

私のことなど意に介さず、奴の意識はすでに料理へと戻っている。

何なのだ、この男は。

白を基調とした服に身を包み、顔はフードでほとんど隠れているから表情はほとんど見ることが出来ない。

ちなみに私は、胸の分部に付けていたプレートメイルは外して宿に置いてきた。

慣れたとはいえ、重いからな。

しかし、本当に何なのだこの男は。

野盗をいとも簡単に倒したかと思えば、今は食事に夢中で私の話はまったく聞いていない。

「疲れてるのか?」
「お前のせいでな!」
「へぇー」
「興味無いのか!」

意識せずとも、自然と溜め息が出てしまう。

訳が分からない男だ。

ん?

テーブルの上を見てみると、あれだけあった料理が残り3分の1ほどに減っていた。

「ちょっと待て!全部食べる気か!」
「ダメなのか?」
「当たり前だ!」

私は話を後回しにすると、今は食欲を満たすために手を動かすことにした。




それから10分ほどで残っていた料理も無くなり、私は食後のティータイム中だ。

だが、シュトラーセはまだ食べている。

まあ、食べているのは果物なのだが、よく入るな。

「よく食べるな、シュトラーセ」
「腹が減ってたからな」

シュトラーセは私の言葉に応えながら、フォークに突き刺したヒャンゴーを食べている。

甘みが強く熱帯地域にしか出来ない果物で、味は良いが値段はやや高い。

「改めて自己紹介と行こう。私はクライン・リベレ。冒険者だ」
「シュトラーセ」
「シュトラーセはどこから来たのだ?登録の時には東と書いていたが、聖教国からか?」
「いや、さらに東だ。海を越えてきた」

海の向こうからか。

西と北には別大陸があることは分かっているが、東と南はまだ未開の地だからな。

「どうしてこの大陸に来たんだ?」
「旅かな」
「何か目的はあるのか?」
「ああ」

目的か。

私の場合は、世を知ることだな。

正直興味はあるが、あまり聞き過ぎるのも野暮というものか。

「シュトラーセ、今日はどこに泊まるんだ」
「これから探す」

果物をすべて食べ終えたシュトラーセは、フォークを置くと立ち上がる。

「じゃあな」
「シュトラーセ!」

私はシュトラーセを呼び止める。

宿を探すとは言うが、すでに陽も沈んで来た。

どうするか。

そうだ!

「シュトラーセ、私が借りている部屋に泊まるといい!」
「……」
「…何だ、その目は」

そのバカな奴を見るような目は。

その正気を疑うような目は。

「お前、女だろう?男と同じ部屋はマズイだろ」

何だ、そんなことか。

「安心しろ!私は無骨者だからな!問題無い」
「……」

シュトラーセは溜め息を吐く。

何かおかしいか?

「ほら、行くぞ。北区域にある宿だ」

私が促すと、シュトラーセは観念したのかついてくる。

外に出ると、私は宿へと足を進める。

結構陽も沈んで来たな。

通りを歩く人も減って来たようだ。

ギルドの近くを歩いていると、男性が大慌てでギルドへと入って行った。

あの慌て様、ただ事ではないな。

「行ってみよう、シュトラーセ」
「ふわぁ~」

振り向くと、シュトラーセは欠伸をしていた。

「…何か言ったか?」
「行くぞ」
「何だ、何を怒っている」

無性にイラッと来たので、シュトラーセの襟を掴んでギルドへと歩いて行く。

だが、シュトラーセは落ち着いたものだ。

ギルドに入ると、先程の男性が受付のローゼに話していた。

ローゼはハーフエルフのギルド職員だ。

「助けてくれ!いきなり山賊に襲われて、妻と娘が攫われた!!」

誘拐か!

「あなたのお名前は?」
「ファドだ」
「では、依頼書を作成します。ですが、急を要する話のようですので、すぐに仕事に移ってもらいましょう」
「ありがとう!」
「お聞きになられた通りです。どなたか、この依頼を受ける方は?」

山賊め、許せん!

「私たちがやろう!」
「たち、って。俺も入ってるのか?」
「当たり前だろう」
「……わかった」

私はシュトラーセと共にローゼに近付いて行く。

「私とシュトラーセで、一時的にパーティを組む」
「リベレさんとシュトラーセさんですか。…リベレさんがいらっしゃるなら、大丈夫でしょう。では、印を水晶へ」
「ああ」
「?」

私は右手の甲にしていた印を水晶に近付ける。

水晶が発光すると、依頼の受領が完了した。

同様に、私と同じようにシュトラーセも受領を完了した。

「山賊ということは、先日から目撃情報のある《ヴィントの森》だと思われます」
「わかった。よし、行くぞ!」

私はシュトラーセの返事を聞く前に、シュトラーセの腕を掴むとギルドを飛び出した。
 
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