君に出逢えた奇跡
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
三
離れられない二人だった。一度、高校を卒業して、別々の大学に進学して、及川は結婚して。それでもなお、岩泉を思っていた。思って、思って、それが実ったのはつい最近の出来事。友人達の後押しや時の流れに男同士であることから眼を背けた岩泉が此方を向いてくれて向き合って。そうやってやっと紡いだ二人の縁。産まれた時から、離れられない運命だった。そうとしか思えないし思いたくなかった。今が一番何より幸せだ。好きだ、そう岩泉が呟く声も、及川が幸せそうに笑う顔も二人にとってかけがえのない時間で、二人の家にはいつもふわり、ふわり、春の匂いが漂っていた。
「あ、ァ、いわちゃ、も、はやく」
強請る声をあげるのはいつも及川の方で。それは岩泉のちょっとした意地悪で。切羽詰まった焦れた声を聞くのが好きだった。だからギリギリまで膨れた熱をどんなに持て余しても強請られるまで挿れたりはしない。
ソファーの上、皮に擦れる背中のひんやりとした感覚にすら全身が震える。もう目の前はぼうっとして、何が何だかわからない。ただ眼に映る愛おしい相手の姿に縋るように腕を伸ばして淫らに足を開く。
カチャカチャ、岩泉が早急にベルトを外す音が鼓膜に響く。虚ろにはやく、はやく、そればかりが口をつく。
「んな、煽んなくても挿れてやっから」
余裕が無いのは岩泉も同じで、逸る心を抑えながらぐずぐずに溶かした秘部に自身をあてがう。ぬるり、塗るつくそこはもう、岩泉を迎える準備が出来ていて、ひゅっ、息を飲む、待ちわびたような声が頭上から聞こえるから岩泉は笑いかけながらぐっ、と腰を滑り込ませる。
熱かった、焼けるように熱くて、うねる内部は岩泉を飲み込んで離さなく、どんどん奥へと引き込む。は、熱い吐息を零した岩泉の目も熱に浮かれていて、散々焦らしたのは自分の筈なのに腰ごと及川に持っていかれそうになる。
「……っは、おいかわ」
呼ばれる声に腕を空に彷徨わせた及川を抱き寄せ、奥まで自身を埋め込んで一息。今、動いたら達してしまいそうだった。その岩泉の様子に薄眼を開けた及川が悪戯に笑って腰を振るものだからお前なあ、と舌打ちを一つ。
「余裕じゃねぇか」
動物じみた獣の瞳をした岩泉がギラギラと及川を見つめてギリギリまで引き抜くとズンッ、激しい抽送を繰り返し出す。
「っひゃ!ふか……ッァ」
散々と慣らした後孔に痛みは無さそうで歓喜に震えるようだった。背中に腕を回して密着すれば岩泉の着ているTシャツが肌に擦れてそれさえも快感を呼び起こしてしまう。ひっきりなしに声は高く高く上がって、ナカにある岩泉をキュウキュウ締め付けるものだから岩泉が眉を寄せる。
「おま、ちょっと締め過ぎ」
「ァあ、だって、きも……ちッ」
とろり、とろり、溶けた瞳も揺れる腰ももう及川の手を離れていて、ただ快感だけを奪うように自由気儘に動く。いわちゃん、いわちゃん、とうわ言の様に何度も呼ばれる名前も、巻かれた熱い腕も柔らかい唇も全てが岩泉をクラリと快感の淵に落としていく。全身が及川のことしか考えられなくなって、及川が全てになる瞬間。
「……っ、は、」
ぐちゅ、ぐちゅ、と結合部から聞こえる音がリビングに響いて二人の熱を昂らせる。吐く息も交わす言葉ももう全てが二人だけの世界で満ち満ちてくのは繋がれる奇跡みたいな幸福。
「おいかわ、好きだ……っ」
囁いた岩泉の声と抉る様なストロークに及川が大きく身体を跳ねさせて擦れた二人の腹の間で達する。それを皮切りにきゅーっとナカが収縮して搾り取られる様に岩泉もまた熱い内部に精を吐き出す。
「……は、……ッァ」
ぱたり、及川の首筋に顔を落とした岩泉がちゅっと首筋に吸い付いて、その汗で濡れた首筋を舐め上げるからぼんやりと及川がくすぐったいよう、と呟く。幸せそうに笑って。
「……ねぇ、岩ちゃん、待っててくれてありがとう」
俺と生きてくれてありがとう、ぽつり、ぽつり、瞳を伏せて呟いた及川に岩泉が顔を上げてくしゃりと笑う。それから壁の時計を見つめて時計の針が午前零時を回っていることに気づくと少し身体を持ち上げて軽く口付ける。
「今月はお前の誕生日祝い、しねぇとな。二人で」
及川もくしゃり笑って、岩ちゃんもっかいキスして、そう強請るから七月になったばかりの二人の部屋はどこまでも幸福感で溢れていた。
はんぶんこの日、二人で過ごす部屋、二人の空間、傍に居るだけで幸せ。そう思えるから、だから居てくれてありがとうの日。
ページ上へ戻る