IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第529話】
前書き
久々更新
視界に拡がる光が収束、周囲を見ると広い庭園の中心に居て、すぐそばには洋風の屋敷があった。
「……ここがセシリアの実家になるのか?」
住む世界が違うとは正にこの事、俺の家何かこの庭園に何十件も建てるぐらい広かった。
噴水から湧き出る水が周囲に清涼感を与え、色とりどりの花はどれも手入れが行き届いている。
まるでパルテノン宮殿にある様な柱も、特に違和感を感じさせる様な事もなく、オブジェとして景色に溶け込んでいた。
「……てか探さないとな。 ……屋敷の中だろう、多分」
庭園を抜け、屋敷のドアを開く――重厚なドアは音を立てて開き、中は豪華絢爛、数々の調度品や有名な画家の絵画、鎧の甲冑等が俺を出迎える。
吊り下げられたシャンデリアには灯りが灯っているものの、やはり周囲には人の気配を感じることは出来なかった。
俺は手当たり次第にドアノブに手を掛ける――だが鍵が掛かっているのか開く事はなかった。
「てか広すぎだな、この屋敷。 ……使用人の部屋や客間があるにしても、無駄な部屋数の方が多いかもな」
何気無く呟いているとまた声が聞こえてきた――。
――え、ええ。 よろしくってよ?
セシリアの声だった、相手が誰だかわからないものの、あまり状況は芳しくないのが容易に想像出来る。
更に手当たり次第ドアノブに手を掛ける――カチャッと、開いたドア、中は広々とした脱衣場で、ここにも調度品である壺や絵の額縁等が飾られていた。
それに見とれてる時間はなかった、俺は鈴音の時と同様にバスルームに繋がるドアを開けた。
「え……?」
俺と目が合うセシリア、その姿は生まれたままの姿だった、その後ろに居たのはやはり一夏だった、それも――セシリアの乳房を後ろから持ち上げていて、その指先がセシリアの乳首に触れようとしていた。
突然現れた俺に、偽者である一夏の瞳がまたも色が変わった。
状況を理解できてないセシリア――俺は――。
「偽者だろうと何だろうと――セシリアの胸を揉んでるんじゃねぇよッ!!」
バスルームに響く怒声と共に、偽者の顔面に拳を叩き込む俺――勢いのついたその一撃に、偽者の一夏は壁に吹き飛ばされ、激しく背中を打ち付ける。
「一夏さん!!」
セシリアは吹き飛ばされた一夏の名前を呼んだ――その事に僅かながらショックを受けていると起き上がった一夏は――。
『ワールド・パージ、イレギュラーの存在を確認。 最大レベルで排除開――』
「させるかよォォッ!!」
間合いを詰め、更に拳を叩き込む――だが直ぐ様応対する偽者一夏、バスルーム内での激しい格闘戦が続く。
腹や顔面にめり込む一夏の拳、負けじとその三倍返しと云わんばかりに俺は殴り返す。
原始的な殴り合い、口の中が切れ、血でいっぱいになると俺はそれを直ぐに吐き出す。
「一夏さん! 確りなさってくださいまし! 早くこの不届き者を……!」
まるで洗脳されてる様に一夏の応援をするセシリア――チクチクと心が痛む。
「ぐぅっ!? せ、セシリア! 俺が分からないのか!? がはっ!! 有坂、有坂ヒルト……だぁっ!!」
殴られ、口に拡がる血の味――負けじと殴り返し、カウンターで腕をとって壁に叩き付ける様に偽者の一夏を投げ飛ばす。
「有坂、ヒルト……」
呟くようにセシリアはそう言う中、叩き付けられた一夏は口から黒い粘膜を吐き出し、その体は光の粒子となって消えていった。
「あ、あ、あ……っ」
茫然自失したように膝から崩れ落ちるセシリア――そして。
「貴方が……貴方が一夏さんを!!」
その瞳に見える憎悪の色――刹那、セシリアはその身にブルー・ティアーズを身に纏い、ショートブレード《インターセプター》を呼び出した。
「わたくしの一夏さんを――貴方が!!」
振るう刃――切っ先を紙一重ど避けるも、薄皮一枚で避けた為か僅かに額から鮮血が流れた。
「確りしろ、セシリアっ!!」
「気安くわたくしの名前を呼ばないで!!」
狭いバスルーム内、ヒュンッと空を切る刃、制服はセシリアの刃によって切り裂かれ、腕からも血が流れ始める。
「くっ……このままじゃ……!」
「よくも……よくもわたくしだけの一夏さんをっ!!」
俺の体を貫こうと突き刺すセシリア――それをギリギリのタイミングで避け、インターセプターは壁へと突き刺さる。
互いに顔が近くなる――このままじゃ拉致があかない上にセシリアに殺されかねない俺は、強引にセシリアと口付けを交わす。
「……!?!?!?」
何度も瞬きし、暴れるセシリア――だが、それも直ぐに治まり、思い出したのかセシリアは俺の背中に腕を回したその瞬間――。
『ワールド・パージ、強制介入』
「んむっ!!」
口付けを交わすセシリアの瞳が大きく見開かれる、俺は唇を離すと――。
「セシリア! こんな事で負けるのかッ!? いつも言ってるじゃないか!! ――わたくしは、イギリスの代表候補生――」
「……っぅ! ――セシリア・オルコットですわよ……!! えぇ! わたくしはイギリスの代表候補生にしてオルコット家当主――そして! わたくしの好きな殿方は、ヒルトさんですわ!!」
まやかしを振り払うかの様に頭を振り、セシリアは叫んだ。
『ワールド・パージ、強制介入失敗』
その言葉を最後に周囲に静寂が訪れた。
「……はぁっ、ふぅ……」
既にぼろぼろの俺は膝から座り込む、セシリアは泣きそうな表情で俺に言った。
「ヒルトさん……ごめんなさい。 ……こんなにわたくしは……貴方を……」
傷口に触れようとするセシリア、だがその途中で手を引っ込め、俺の傍から離れる。
「……大好きな殿方に、わたくしは何てことを……」
「……セシリア」
背中を向けるセシリア、様子は伺えないが僅かに肩が震えていた。
俺は、そんなセシリアを後ろから抱き締める。
「ひ、ヒルト……さん。 は、離してくださいまし……」
「……嫌だ」
「わ、わたくしは……貴方を傷付けました。 こ、こんなわたくしが……貴方を好きでいる資格なんて……ありませんもの……」
声色が明らかに落ち込んでいるセシリア――俺はそのまま強く抱き締め続ける。
「……傷付けてるっていうなら俺だってそうだ。 ……セシリアが俺の事を好きって言ってるのに、俺は返事を曖昧にして先伸ばししてる……」
「………………」
「……本来ならとっくに愛想つかれても仕方ないのに……。 ――セシリア」
「は、はい……」
強張ったセシリアの身体から力が抜け、僅かに身を預ける様に――そして、俺は口を開く。
「……正直、偽者の一夏に対して……嫉妬した」
「……ヒルトさん」
「……まだ答えは出せないけど、少なくとも……俺の中にはセシリアが居る」
「は、はぃ……」
「……好きでいる資格なんてない……そんなこと、言わないでくれ」
「…………はぃ」
そう返事を返すセシリア、顔だけ振り向くとその蒼い瞳から涙を流していた。
そのまま力強く抱き締めると、それに応える様に俺の手に自分の手を重ねた。
バスルームに訪れた静寂――湯気が立ち込める中俺は――。
「……セシリア、一旦出よう」
「そ、そうですわね……」
決して暑いからという訳ではなかったのだが、バスルーム内に居るよりは他の場所の方がいいと思った。
手を繋ぎ、そのままバスルームを出て屋敷の通路。
「……しかし、なかなかここから出れないな」
「そ、そうですわね」
「……どうすれば出られるのやら」
「えぇ。 ……で、ですが……こんな時にですがヒルトさん」
「ん?」
「……二人きりで過ごせるこの瞬間、わたくしは大事にしたいです。 ですが今は……貴方を沢山傷付けましたし、傷の手当てをしませんこと?」
確かに二人きりというのはそうそうあることではない。
怪我もしてるが俺個人としてももう少し一緒に居たかった。
俺は頷くと、セシリアも小さく頷き、彼女に手を引かれてある部屋へと入った。
室内はやはり調度品の数々で彩られていて高級なソファー等がある、応接間の様にも思えた。
「ヒルトさん、そちらのソファーに座ってくださいまし」
「ん、うん」
ソファーへと腰掛ける――ふかふかのソファーに身体が沈み、慣れない感覚に戸惑っているとクスクスと微笑むセシリア。
「うふふ、ヒルトさん。 隣に座りますわね?」
隣に腰掛け、医療品を取り出すセシリア。
処置は覚束無いものの、一通り学んでいたのかちゃんと手当てをしてくれた。
「……やはり不得手ですわね、わたくし。 ……ごめんなさい、ヒルトさん」
「ん、全然不得手って感じじゃなかったぞ?」
「ありがとうございます、ヒルトさん」
ニコッと微笑むセシリア――不思議と痛みが和らぐ感覚。
「……セシリア、ありがとうな」
「いえ。 元はわたくしの責任ですもの。 ……唇も少し切れてますわね」
「ん? まあ殴り合いだったからな」
「……痛みますか、ヒルトさん?」
心配そうに見つめるセシリアは顔を近付けてくる、僅かに首を振り、その隙だらけの唇に触れるだけのキスをすると頬が赤くなった。
「も、もう! わたくしは心配していますのに……」
「ははっ、傷なら大丈夫さ。 ……何にしても、心配してくれてありがとな、セシリア」
「……もぅ。 好きな殿方を心配するのは当たり前の事ですわよ。 わたくしがセシリア・オルコットである前に、ヒルトさんに好意を寄せる女性の一人ですもの」
セシリアの言葉に、無意識に頬を掻く俺――すると、今居る部屋の空間に亀裂が入り始めた。
「セシリア、念のため俺の後ろに……」
「え、えぇ……。 ……ヒルトさん、何だか……大きく見えますわ……」
セシリアの言葉の意味がわからず、疑問符を浮かべつつも空間に入った亀裂が徐々に大きくなっていくのに小さな不安を抱いた。
そして、亀裂が入った箇所からバラバラと瓦礫の様に崩れていくセシリアの執務室、目映い閃光が俺達を包みこんだ。
視界一面に広がった目映い閃光、それが収束すると俺とセシリアの二人はもといたドアが並ぶ空間へと戻る、目の前にはぱちくりと何度も瞬きを繰り返す鈴音が居た。
「も、もうセシリアを助けたの?」
「え?」
鈴音の言葉に、美春が言っていたタイムラグの事を思い出す。
やはりあの空間――皆の夢の中だけはもしかすると一秒という時間を無限に割った世界なのではないかと思ってしまう。
だがそうなると、今こうして一秒たつ間に他の皆はもっと不味い状況になっていなくてはならないのに、そうなっていないのは一体――。
「元の場所に戻れましたわね、ヒルトさん。 ……鈴さん、無事で何よりですわ」
「セシリアもね。 ……せ、セシリアは……向こうでヒルトに何かされたの?」
「え? ……いいえ、いつも通りヒルトさんと同じ事をしただけですわよ」
「ふ、ふぅん……」
鈴音の頬が赤くなる、一方のセシリアはいつも通りと言っているが確かにキスしたりだのはいつも通りなので何も間違ってはいないだろう。
……ある意味、この空間は不味い気がする――と。
『人の想い、もっとちゃんと考えてみては?』
そんな少女の囁き声が聞こえ、周囲を見渡すもセシリアと鈴音の二人しか居なく、今なお簪は此方に向かってるらしい位置情報が視界に表示されている。
まるでゲーム画面を見てるような気分だった――そこへ、美春からの言葉が飛ぶ。
『ヒルト、シャルへの精神攻撃が強まってきたよ! 誰か一人を救出する度に誰かが精神攻撃に晒されるって感じかも』
『わかった。 なら次はシャルの番だな』
まだ殴られた箇所が痛むも、休んでいる場合ではなかった。
オレンジのドアノブに手を掛けた俺に二人は声をかける。
「ヒルトさん、無理はなさらないでくださいまし」
「入って直ぐに戻ってくるんだろうけど、無茶して死んだら許さないからね」
「わかってるよ。 ……ふぅ」
軽く一息吐き、ドアノブを回してドアを開くとまたも目映い閃光が俺の視界を奪った。
後書き
次回はシャル、多分少しどころかかなり中身変えるかも、でももしかしたら原作通りかもかも?
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