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空虚で無気力な青年が異世界で新生活~改訂中~

作者:Rabbit
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第1話 高揚

目が覚めると、俺は闇の中に居た。一面に広がる漆黒の世界。

あるのは、ただの闇。無だ。音も寒さも、暑さもない。

俺はここがどこなのかを自然と理解する。
ここが、死後の世界なのかと。

やはり、俺は死んだということか。俺は視線を巡らして周囲を確認して、ふと気付く。
自分の身体が無いことに。

そして理解する。

ここは身体という器から剥離した魂が集まる場所。意識の集合体、魂の墓場と言ったところだろうか。

ということは、俺は輪廻転生をするまでこのままなのだろうか。

それは勘弁願いたいものだ。

意識があるということは、退屈という感情も覚えてしまう。これさえ無ければ、このままでもいいのだが。

「こんにちは」

ただ闇だけが広がるこの空間にずっと居たら、おかしくなりそうだ。
いや、すでにこの状況がおかしいか。

「無視か?」
「……はっ?」

気が付くと、目の前にじいさんが立っていた。白い布製の服を着たじいさんだ。

しかも、こんな世界に居るというのに身体がある。

「どちらさん?」
「誰だと思う?」
「じゃあいいや」
「もうちょっと興味持って」

めんどくさいな、おい。

こういう手合いは嫌いなんだが。

「はっきり嫌いとか止めてくれ。ヘコむ」
「じゃあ、簡潔に用件を」
「いってらっしゃい」
「いろいろ省き過ぎだ」

極端な爺さんだな。ホントめんどくさいわ。

だが、俺はこんな状態なため、誰かと話すというのは暇つぶしには丁度良い。

しかも、何かナチュラルに思考読まれてる気がするが、まあスルーだな。

「簡潔に、要点だけを話すとしよう」
「そうしてくれ」
「まず、お前さんは死んだ」
「だろうな」

じいさんの発言に、俺はあっさりと肯定の言葉を返す。

すると、じいさんは驚いたように目を丸くしている。

「あっさりしとるな。自分が死んだというのに」
「別に。特に未練もなかったから」
「友達はおらんかったのか?」
「友達はいた。だが、心の俺は独りだった。伽藍堂だ」

自分で言っといてなんだが、恥ずかしいな。

じいさんは小さく唸ると、何かを思いついたように手を叩いた。

「本来ならば死んだ人間の魂は、過去の罪を洗い流して転生の準備に入るのだが……」
「それでいいよ。今のままで転生したところで、 伽藍堂は変わらない。無意味な人生を繰り返すだけだ」
「ならば、別の世界なら良いのか?」
「別の世界?」

じいさんの言葉に、俺は鸚鵡返しで聞き返す。

別の世界とはどういう意味だ。

「言葉通りだ。異世界、平行世界、別次元の世界。様々な言い方があるな」
「呼び方はどうでもいい。それは端的に言うと、漫画やゲームの世界ということか?」
「簡単に言えばそうなる」

その言葉に、俺は死ぬ前に考えていたことを思い出す。

誰かに必要とされ、自分の知らない体験をすれば、この心の空虚さは埋まるのではないかと。

「歳の割にそんな達観した考えをする若者を、そのままあちらに送るわけにはいかん」
「……」
「異世界に行き、新たな考えに触れ、新たな人間に触れ、新たな環境に触れるといい。さすれば、その心の空虚も埋まるやもしれん」

じいさんの言葉に、俺は黙り込んでしまった。

確かに、今までいた世界とは違う世界に行けば、何かが変わるかもしれない。
もしかしたら、この伽藍堂な心も埋まるかもしれない。

だが、1つの問題が決心を鈍らせる。

「どうした?」
「問題がある」
「問題?」
「めんどくさい」

生まれる沈黙。

じいさんは深い、それは非常に深い溜め息を吐いた。

俺は大真面目なんだがな。

「余計悪い。もういいや。行って来い」
「はっ?」
「達者でな」

じいさんのその言葉を最後に、俺の意識はブラックアウトした。





肌寒さで俺は目が覚めた。

目を開けてみると、青空が広がっていた。身体を起こして周囲を確認すると、辺りは森だった。

だが、俺が寝ている場所は拓けた場所で、近くには湖もある。結構大きい湖だ。琵琶湖もこんな感じなんだろうか。

そんなことより、自分の状況確認だ。ちゃんと身体もある。女になっちちゃった、みたいなことも無さそうだ。

服は何というか、昔の服だな。前世にあったような服じゃない。この世界の技術レベルは分からないが、恐らく時代相応なんだろう。

『無事に到着したな』

…ビックリした。

突然頭の中に声が響くと、あのじいさんの声だった。

『必要なことだけ言うぞい。ワシも忙しいのでな』

まずは話を聞かないとな。この世界のことも分からないし。

『その世界は魔法あり、モンスターありのファンタジーの世界だ』

俺、死んだ。

絶対無理じゃん。生き残れるわけないじゃん。数分以内に死ぬ自信があるわ。

『最後まで聞けぃ。そこで、ワシからサービスだ』

男の、しかもじいさんからのサービス。

…ちょっと寒気が。

『……』

続きをどうぞ。

『サービスの内容じゃが、秘密だ。まあ、チートということだけは教えてやる。じゃあな』

……おい。

何だ、俺が心の底でキショイって思った腹いせか?
器のちっさい神だな。





じいさんの声も聞こえなくなったし、ここからは俺自身の力で生き抜く必要があるな。あのじいさんが助けてくれることは無いだろう。

とりあえずは、自分の実力というかパラメータみたいなのが見てみたいな。


名前:???
年齢:23
職業:無職

Lv:3
HP:30/30
MP:25/25
STR:10
VIT:7
INT:9
DEX:5
AGI:11


とか思ってたら、目の前にホログラムみたいな感じで出て来た。

名前が?なのは、前世では俺が死んだからか?年齢はそのまんまだな。

職業が無職っていうのは、この世界ではことか。

そして何より、ステータス低くね?いや、比較対象が無いから何となくになっちゃうんだけどさ。

もう一回言おう。ステータス低いだろ?低いだろ。低いな。これでスキルにまともなのが無かったら、チートとかウソじゃん。


獲得称号
特異(ユニーク)……【神の選定者:神によって選ばれた者に与えられる称号』



神、ねぇ。あのじいさんか?他に心当たりないから、そうなんだろうな。

効果は、っと。えーと、全属性魔法に適正ありか。なるほど。特異(ユニーク)スキルって名前が付くくらいだ。珍しいんだろうな、多分。

そうそう神に選ばれてたら、神の神々しさみたいなのが無くなるしな。

いかんいかん。見たいのは称号じゃなくて、スキルだ。


所有スキル
『武芸の才能:武芸関連スキルの習得速度が、倍になる(Lv―)』

『魔法の才能:魔法関連スキルの習得速度が、倍になる(Lv―)』

『魔力増幅:魔力が増幅する(Lv1)』

『能力補正:レベルアップ時に、各ステータスにボーナスが付与される(Lv1)』

『気配察知:一定の範囲内に入った気配を察知する。範囲はレベルに依存(Lv1)』

『鑑定眼:対象の情報を知ることが可能。情報内容はレベルに依存(Lv1)』

『健康体:状態異常にかかりにくく、怪我の回復速度が倍になる。Lvにある程度依存(Lv2)』

『格闘術:近接の格闘技が使えるようになる(Lv-)』

『体捌き:有効的な身体の動かし方を反射的に行えるようになる(Lv3)』

『ダークフレイム:属性、闇。暗黒の炎を生み出し、対象を攻撃する(Lv1)』


結構多いな。パッシブ系のスキルが多いな。『体捌き』『格闘術』は有難い。前世では武術とかやってなかったからな。柔道を初心者程度に習った程度だ。

ん?あと一つあるな。何だこれは。



特異(ユニーク)スキル……技能吸収:直接倒した敵から、ランダムでスキルを吸収する。確率は10%。Lvに依存(Lv1)』


おおっ、すごいな。内容が内容だからな。確率が低いのは当然だな。ランダムとはいえ、強力なスキルなのは間違いない。

まずは、『気配察知』を発動。すると、またも俺の目の前にホログラムのように周囲の地図のようなものが映し出される。

所々に赤い点があるのが見える。敵ってことか?

で、また離れたところに青い点が見える。これは味方か?あるいは、俺に敵意が無い存在。

しかし、意外と範囲が広い。もっと狭いと思ったが、半径300mくらいはカバー出来ている。嬉しい誤算だ。

さて、確認はこれくらいでいいだろ。まずは、あの青い点に接触してみるか。完全に味方という保証もないが、次はこの世界の詳しい情報が欲しい。

幸いなことに、見える赤い点は俺が近付くと逃げている。小動物系だったということだろうか。

すぐに戦闘なことにならずにホッとしていると、目標の青い点の周辺に赤い点が集まり始めていた。数は5。

ヤバい感じ?ヤバいな。急ごう。

俺は危険を察知し走り始めると、森を抜け街道に出た。

「くそっ!こんな時に!」

視線の先には、大きな荷物を背負った男性の姿が見えた。熊みてぇだ。その熊っぽいおっちゃんを襲っている、狼。

剣で対応しているが、やはり数が多い。助太刀しますか。さすがに、見殺しにするほどヒドイ人間ではない。

そこまで考え、俺はあることを失念していたことを思い出す。どうやって魔法使うんだ?

事前に試さなかった自分の迂闊さを呪いつつ、頭を切り替える。

とりあえず、敵に掌を向けて名前を言ってみる。

「『ダークフレイム』」

その瞬間、俺の掌から真っ黒の炎が飛び出すと狼の身体をあっという間に包み込み灰にしてしまった。

オゥ、マジかよ……。

「兄ちゃん、避けろ!」

魔法の威力に驚いていると、オジサンの言葉に敵に意識を戻した瞬間、敵と認識した俺に向かって狼が飛びかかってきていた。

スキルの影響だろう。頭の中は真っ白になりつつも、身体は自然と動いていた。俺は身体を時計回りに回転させると、右足の踵を狼の首に当てながら地面へと叩きつけた。

周囲に響き渡る、骨が折れる音。
オゥ、マジかよ……。

「ヒュウ!やるじゃねぇか、兄ちゃん!」

いや、それほどでも。スキルのお陰っす。

俺が謙遜している間に、おっちゃんも剣で狼の首を切断して殺していた。狼の首の切断面から噴き出した鮮血が、周囲を真っ赤に染める。……クジラみたいだ。

だが、俺はその光景に嫌悪感を感じなかった。むしろ、血が滾ってくる。

自然と笑みを浮かべながら、俺は血が噴き出るその光景を眺めていた。
 
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