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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第521話】

 
前書き
オリジナル 

 
 学園の整備室――未だにフレームのみのISと修復途中の黒夜叉、そして――ずんぐりとした謎のパワードスーツらしき物がそこにあった。


「真理亜、黒夜叉の修理はまだ――だよな」


 スライドドアが開き、現れたのは有坂陽人だった。

 眼前にある修復途中の黒夜叉を見て、陽人自身あまり進んでないのがわかった。


「ごめんなさい、あなた」

「いや、真理亜が悪い訳じゃないから」


 工具を取り出していた真理亜は申し訳なさそうに謝ると、陽人も直ぐ様フォローする。

 勿論黒夜叉がなくても単独での戦闘能力が高い陽人だが、数が多いと多勢に無勢になってしまう。


「……そういや真理亜、それは使えるのか?」

「え?」


 指差す先にあるずんぐりとした謎のパワードスーツ。

 真理亜は眉根を下げつつ答えた。


「使えるには使えるけど……搭乗者保護機能が最低限しかない上に、空を飛ぶという事は専用のジェットパックがないと……」

「そうか。 ……んじゃ母さん、黒夜叉が戻るまでソイツを借りてもいいか?」

「え? えぇ……でも……まだテストは終わってないのよぉ……」


 困ったような表情を見せた真理亜に、陽人は高らかに笑う。


「ワッハッハッ! なら俺がこのままテストするぜ! それなら構わないだろ?」

「え、えぇ」

「OK! じゃあ母さん、早速借りていくぜ」


 善は急げと謂わんばかりにパワードスーツを着込む有坂陽人。

 バイザーアイに光が点り、排熱口から蒸気が噴出し、立ち上がった。


『真理亜、これの操縦って黒夜叉と同じなんだな』

「ええ。 一応ISのマニュアル操作と同様のシステムを組んでるのよぉ。 DMCも組んでるけど、黒夜叉程は性能高くないから……」

『OK、んじゃ借りていくぜ』


 ガシャッガシャッと足音を立てて整備室を後にする有坂陽人――残された真理亜は。


「……あの人ったら」


 クスクスと微笑む真理亜。

 取り出した工具で黒夜叉の修復を始めた。

 一方の有坂陽人、ガシャッガシャッとけたたましい足音、流石に喧しいとは思うのだがどうしようもなかった。

 パワードスーツのヘルメットを取る――よくよく考えたらこの格好で出歩くのは下手したら騒動になると思ったからだ。

 テストが行えそうなグラウンドを目指す陽人――擦れ違う女子生徒が興味津々に陽人に訊ねた。


「警備員さん、それって?」

「ん? いや、これは……えっと……コスプレだよコスプレ!」


 苦しい言い訳をする陽人、だが女子生徒は疑うことはしなかった。


「コスプレなんだ。 そうよね、IS以外のパワードスーツって各国まだ開発されてないし、合っても国連の作ったEOSぐらいなものだもん」

「そ、そういう事だ。 わはははっ。 じゃあお嬢ちゃん、俺は急ぐから!」


 IS以外のパワードスーツ――世界一般でも認知されていても先日搬入されたEOSぐらいだ。

 そのEOSも、千機合ってもISには敵わないという評価もある――のだが、今陽人が着ているパワードスーツはそのEOSを遥かに上回る機動性と稼働時間。

 唯一、ランドローラーが無いため速度は出せないがそれでも搭乗者保護機能が搭載されているためEOSよりかは遥かに安全面が高かった。

 グラウンドへとやって来た有坂陽人、クラブ活動を行っている生徒が無数に居たが――。


「わはははっ! ちょっとグラウンドを借りるよ、お嬢ちゃん方!」


 呆気にとられた生徒をよそに、パワードスーツを着たままグラウンドを走り込む陽人――なのだが、明らかに重そうな足音とは違って軽やかに走るその姿が非常にシュールに見えた。


「なかなか悪くねぇな、このパワードスーツ……!」


 砂ぼこりを巻き上げて疾走するその姿を見た鈴音は――。


「な、なんなのよ、あれ……何であんな重そうな足音なのに――足が速いのよぉッッ!!」


 正直、代表候補生である自分が全速力で走るよりも速かった。

 しかも時折、跳ねたり側転や宙転したりと――自身の目を疑うような光景が続く。

 無論これも陽人自身のテストだ、注目されてるのをわかった上での行動だった。

 一同唖然とするなか、突如止まると。


「うむ、問題ないな。 じゃあ次はあそこだな。 ……じゃあお嬢ちゃん方、邪魔したな!」


 脱兎の如く、学園にある射撃場へと向かった有坂陽人。

 残された女子生徒一同は唖然としたままそれを見送った。

 暫くして射撃場、スライドドアが開き、受付の生徒が書類を用意して――。


「此処に射撃場を使用する人の名前と入室した時間の記入をお願いします」


 淡々と告げる彼女――なのだが、記入する手が明らかに機械質な物だったので見上げると。


「お嬢ちゃん、これでいいかい?」

「え? ……え、えぇ」

「そっか、じゃあお嬢ちゃん暫く射撃訓練させてもらうぜ」


 そう言って奥へと消えていく有坂陽人に、ポツリと呟く生徒――。


「た、確か……警備員の人よね? ……こ、コスプレにしては妙にメカメカしかったけど……えと……?」


 奥へと消えた有坂陽人を見るのだが、既にそこには居なく、多分あれは身体を鍛える為の何かだと思い込むことにした。

 射撃場ではラウラ・ボーデヴィッヒが拳銃を構えて射撃訓練をしていた。

 華の女子高生でもたまにしか訪れないこの場所、自身の射撃の腕が鈍らないように時折来ては撃っているのだが――。


「よぉラウラ、銃声がするから誰か居るとは思ったがお前だったんだな!」

「きょ、教官!?」


 まさか有坂陽人が現れるとは思っていなかったラウラ――珍妙な格好も気になったのだが、そこは敢えて触れなかった。


「さて、久しぶりに撃つかな――の前に」


 脇に抱えていたヘルメットを被ると、有坂陽人の顔すっぽりと覆い、バイザーアイに光が点った。

 きょとんと瞬きする中、有坂陽人はアサルトライフルを構える。

 射撃場全体に鳴り響くブザー音、それと同時に投影型ターゲットが表示された、それも得点付きの。

 一旦ラウラは下がる――そして、一斉にランダムに消えたり現れたりを繰り返すターゲット――難易度が最高レベルに設定されているらしく、複数のターゲットが現れたら直ぐに消えるのを繰り返し行っていた。

 射撃場に反響する発砲音、防音用のイヤーマフが無ければ直ぐに鼓膜がダメになるだろう。

 ……それよりも、正確無比な射撃にラウラは息を飲む。

 現れる時間はコンマ単位のターゲットを確実に射抜く射撃能力に圧倒された、無論全部が高得点という訳ではない。

 だがそれでも『確実に』ターゲットに射撃を当てる技術に、ラウラは目が離せなかった。

 そしてマガジンを撃ちきったと同時にセカンドステージの準備が始まる、陽人もアサルトライフルの弾装を装填、構える。

 セカンドステージのターゲットにはテレビゲームの様に一般人として認識されるマイナス得点のターゲットが現れる。

 さっきと同様の最高レベルならばそれすらも現れたら直ぐに消えるという、得点の入るターゲットと同様の行動を行うという事だ、ラウラですら何度も何度も間違って撃ち込み、得点が儘ならないレベル。

 また射撃場内に響き渡るブザー音――さっきと同様にターゲットが現れては消えるを繰り返す――。

 反響する発砲音、ラウラ自身も正直追うのが難しいターゲットを撃ち抜く陽人――それも、今のところマイナス得点のターゲットを撃っていなかった。

 表示されたスコアは加点されてはいくものの、全く減点されていなかったからだ――その凄まじい射撃精度に、ラウラの瞳はキラキラと輝き始める。

 そして、空になったマガジンを捨て直ぐ様装填、どんどん加点されていくスコア――ブザーが再度鳴り響くと射撃訓練が終了した。


『ふう。 まだまだだな、俺も……歳かな』

「なっ……!?」


 ラウラは陽人の言葉に驚く――あれでまだまだだというのなら、私は……。

 しょんぼりとするラウラ、陽人はそれに気付いたのかアサルトライフルの安全装置を入れて――。


『どうしたラウラ?』

「い、いえ……教官の凄まじさを目の当たりにし、私もまだまだだと……」

『そうか? ……まあこればかりは練習だからな、ラウラ』


 事実そうだった、射撃訓練しなければこれ程はいかないだろう。

 パワードスーツを着てはいるが、このスーツに射撃補正するものはない、あくまでもスーツを着ての射撃テストだ――反動がかなり軽減される辺り、スーツの性能の高さが窺えた。


『さて、テスト終わりだ。 ラウラも、射撃訓練もいいがたまには女の子らしくするんだぞ』

「わ、わかりました、教官」

『わはははっ。 じゃあまたな!』

 そう言って射撃場を後にした有坂陽人――残されたラウラは、陽人と同じ最高レベルでの練習を開始した。

 テストを終え、整備室に戻ってきた陽人、来たときよりも黒夜叉の修理は進んでいた。


『真理亜、テスト終わったぜ』

「お疲れ様ぁ。 ……どうでした?」

「ん……しょ。 ああ、全然問題なかったぜ」


 バイザーヘルメットを取り外した陽人、ニカッと笑うと真理亜も安心したのか――。


「うふふ、良かったわぁ。 稼働時間の方はどうです?」

「ああ、まだ機体のエネルギー自体かなり余ってるからな。 母さん、こいつのエネルギーって何なんだ?」

「うふふ、マイクロセルって呼ばれる電池よぉ。 ……これがそうなの。 各部補助駆動を動かすのにもこれなのよぉ?」


 机の引き出しから出された小さな鉄の箱。

 重量も一キロとこれ程の物を動かすに到っては軽い方の分類だった。


「……もう少し小型軽量化したいんですけどねぇ……」

「ふぅん。 ……これって母さんが作ったのか?」

「えぇ」


 軽い返事の様に告げる真理亜、だが明らかに他の科学者や技術者が聞いたら卒倒していただろう。

 陽人自身はそんな真理亜を見ながら――。


「……世が世なら、今頃篠ノ之束じゃなく、母さんが有名になってたかもな」

「うふふ、そんなことありませんよぉ」


 口許に手を当てて微笑む真理亜、パワードスーツを脱ぐと真理亜は――。


「後でこのスーツを粒子化しておきますねぇ」

「悪いな真理亜。 ……あまり遅くまで無理するなよ」

「勿論よぉ。 ……でも、昔からこういうのが好きな私ですからねぇ」


 困ったように笑う真理亜だが陽人もそれをわかってるのか小さく頷く。


「んじゃ、また仕事の時間だし戻るか。 そろそろあの坊っちゃんの入校許可が下りそうだしな」

「坊っちゃん?」

「あぁ、ここ最近自分の許嫁にあいに来たっていう坊っちゃんだ。 確かラッセルとか――」

「ラッセル……。 あぁ、あの人の息子さんの事かしらねぇ」

「真理亜、知ってるのか?」

「うふふ」


 笑って誤魔化す真理亜に、陽人は指で頬を掻いた。

 アメリカの特殊部隊が学園に襲撃する前日の話――。 
 

 
後書き
次は原作 
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