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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第531話】

 
前書き
ワルパ、ラウラ編 

 
 他の三人と同様、視界を覆う光が収束すると俺の目の前に建っている一軒家――ラウラの故郷、ドイツの様な感じだが何処か和のテイストが入った感じの家だ。

 とりあえず、ラウラへの攻撃を危惧した俺はドアを蹴破る――のだが、全くびくともしなかった。

 これまでは一撃で開けれたのだが――と、ドアが開く。


「む、何処の無粋者かと思えば我が嫁ではないか。 鍵を忘れたのか、ふふっ」

「ラウラ……」


 ドアを開けたのはラウラだった、その姿は普段とは違いスポーティーな感じの服装だった、無論眼帯はしたままだ。


「何にしても、私とお前の愛の巣だ。 遠慮せず入れ」


 ……愛の巣?

 やはり何かしらの攻撃を受けているのだろう――だが、シャルの時と同様偽者一夏の姿は見えない。

 ラウラに招かれ、中へと入りリビングに入る。

 広めのリビングにシステムキッチン等が完備されていた、不思議と俺の家の雰囲気に似てなくもない。


「ではヒルト、朝食を頼む」

「……ん?」

「む……どうした。 朝食を作るのは嫁の仕事ではないか」

「…………」


 何か釈然としないものの、とりあえず朝食の準備をする。

 フライパンに油を敷き、温めてる間にベーコンと卵を用意する。

 その間のラウラはというと新聞を広げて読んでいた。


「やはり中東情勢が変わってきているな、我がドイツへの影響は少ないだろうが、他のヨーロッパ各国への影響は……」


 等と新聞を読みながら呟く、その間にベーコンエッグを作り上げ、焼けたトーストにのせる――ドイツ料理じゃないが、満足してくれるだろうか。


「ラウラ、朝食出来たぞ」

「うむ、手早いな。 ……成る程、ベーコンエッグトーストか」

「それとホットココアだ」

「う、うむ」


 ホットココアを一口飲むラウラ――満足そうに頷くとラウラは俺の方へと向き。


「あー、ヒルト。 実はだな……」

「ん?」


 軽く咳払いするラウラ、僅かに嬉しそうに表情を綻ばせると。


「今日は、特別休暇が出たのだ。 だからだな、その……」


 何故かもじもじするラウラに、首を傾げる俺。


「き、今日は一日、ず、ずっと二人っきりの時間を過ごせるのだが……」

「ん? そうなのか?」

「う、うむ。 ……嫁は嬉しくないのか……久々の休暇なのだぞ?」

「あ、い、いや、嬉しいぞ? 突然の事だったから、面を食らってな」

「な、成る程。 ……う、うむ、わざわざサプライズで言ったのだ、驚いてもらわないと私も、な……」


 明らかな嘘だが、指摘しても仕方ないので黙っておく――と、ラウラは何やらごそごそとカバンを探り始め、謎の券を取り出した。


「そ、それでだな。 ……こ、これを使いたいのだが……」

「ん?」


 広げて見せた券には【何でもおねだり券】と書かれていた。

 何でもおねだり――少なくとも俺はそんなのをあげた覚えは無いのだが、断る方が面倒っぽいのでとりあえず――。


「おねだりって、何か俺におねだりするのか? 欲しいものでもあるのか?」

「ぅ……ほ、欲しいものと言ったら……一つはあるが、そ、それは今出来ても私が困るもので……ゴニョゴニョ」

「??」


 何が欲しいのかはぐらかされ、首を傾げる俺にラウラは――。


「き、今日一日、我が嫁にはエプロン姿で家に居てもらう! 異論は許さん!」

「……エプロン姿で? 了解」


 特に拒否することなく、手早くエプロンを身に付ける俺に満足そうに頷くラウラ。


「……よくわからんが、これがおねだりか?」

「ま、まだこれはほんの一部だ! つ、次はだな……お、お姫様抱っこを……」


 だんだんと言葉が小さくなるラウラ――僅かに笑みを溢すと、俺はひょいと抱き抱えてラウラをお姫様抱っこした、先の偽者一夏との戦いのダメージが残っているものの、此ぐらいなら特に問題はなかった。


「これで大丈夫か、ラウラ」

「う、うむ……。 ……ふふっ」


 嬉しそうに微笑むラウラは、首に腕を回して抱き着いてくる。

 抱えた手がちょうどラウラの足の付け根にあたり、手を伸ばせばお尻を触ることも可能だが流石にそれは不味いと思って抑制する。

 しばらく抱いた後、ラウラを降ろすと今度は俺が作ったベーコンエッグトーストを口に咥わえ、差し出す。

 食べろということだろう――照れを感じる中、トーストをかじって食べる。

 ……微妙に食べにくいものの、何とか半分ほど食べ、咀嚼――ラウラも同様に食べ始め、慌ててトーストを咥わえて支える。

 ある程度食べ、残り少なくなった所で俺が全部食べると何故かジト目のラウラ。


「……このまま口移しでと思っていたのに……」

「いやいや、口移しするにしてはこれはキツいだろ」

「……なら、全て食べ終えてから……その……ぅむ」


 何となくラウラが言わんとしてることがわかり、頬を掻く。

 未だに偽者一夏が出現しない辺り、何かしらの意図があるのだろうか……。

 食べ終えるや、ラウラは踵を浮かせ、唇を突き出す――。

 夢の中とはいえ、ラウラとキスは久々な気がした。

 肩に手を置くと僅かに身を震わせ、突き出した唇にキスし、どちらからともなく舌を絡ませ始める。

 リビングに舌を絡ませる水音響く、ラウラはうっとりしたように俺の腰を抱くように回した。

 暫くキスを続け、唇を離すと――。


「……ひ、ヒルト……き、今日は特別だ。 ……わ、私もエプロン姿に……」

「エプロン姿に? ……わかった」


 何気無くそう返事をする俺、名残惜しそうに俺から離れ、パタパタとエプロンを着替えにリビングを出た。

 エプロンならそこにあるのに何故わざわざ出るのか……その答えは直にわかった。


「き、着替えてきた、ぞっ……!」

「ああ、えらく時間がかか――」


 唖然とする俺を他所に、ラウラはエプロンの裾を必死に引っ張っていた――エプロン姿は確かにエプロン姿だが、問題はその姿だ。

 エプロンと眼帯以外は生まれたままの姿――俗に言う【裸エプロン】という姿だった、下半身に血液が集中するのを感じる中――。


「か、感想とか無いのか……!」

「あ、いや……てか何で裸エプロンなんだよ」

「よ、嫁が喜ぶと思ったからだ!」


 ……これも精神攻撃にさらされた結果なのだろうか、明かりに照らされた白い肢体、それを隠すエプロンだが無論後ろは無防備な姿。

 ……恥ずかしがってはいるものの、ある程度関係を持ってる俺からすると精神攻撃類いじゃなくても頼めばしてくれそうな気もしなくなかった。

 羞恥心で顔を真っ赤にするラウラ――。


「恥ずかしいならやめれば良いのに」

「う、うるさいうるさいっ!!」


 ……?

 羞恥心が勝りすぎなのだろうか、ラウラはあまりそういったうるさいうるさいって連呼したりはしないのだが――。


「ラウラ」

「なんだ?」

「ん、俺が誰だかわかるよな?」

「ば、馬鹿者……わ、私の嫁の有坂ヒルトだろ。 ……ま、全く、変な事を聞く奴だ」


 ふいっと顔を逸らすラウラ、そのままキッチンに入るとラウラの無防備なお尻が隠されもせず晒されている。

 若干頭を抱えたくなるこの状況――刹那、ドアが激しくぶち開けられて銀色の甲冑に身を包んだ一夏が現れた。


「無事か、ラウラ! 助けに来たぞ!」

「……敵も流石に武装を施して来てるって事か」


 頭部は晒しているものの、それ以外は銀の甲冑で防御力を高め、更に腰にはロングソードを携えていた。

 双眼は他の偽者同様に金と黒――。


「お、織斑一夏……! 私と嫁の愛の巣に何を――」


 激昂するラウラに、敵からの攻撃が強まる。


『ワールド・パージ、強制介入開始』

「あ、ぐ……ぅぅっ!? あ、たま……がぁぁ……!」


 苦しそうに膝から崩れ落ち、頭を抱えるラウラに、偽者一夏は――。


「ラウラ! ……待ってろよ、今からこの偽者のヒルトを倒してやるから」

「に、せ……もの……?」


 苦しそうに呟くラウラ、無論俺は偽者ではなく本物だ、意識も俺のもの――拳を構える俺に、すらりとロングソードを抜く偽者一夏。

 形勢は明らかに不利なものの、退くわけにはいかなかった――ここで退けば、ラウラを見捨てる形になる。

 刹那、一瞬で間合いを詰めた偽者はロングソードを横一閃――命の危機から来る超反応でそれを屈んで避けるとはらりと切られた髪が舞う、そのまま床に手をつき、ブレイクダンスをするように開脚旋回を繰り出し、足下を崩した。

 激しく不快な金属音が鳴り響く、素早く握ったロングソードの柄を蹴り、部屋の端へと追いやるとそのまま馬乗りになって唯一むき出しの顔面に向かって何度も何度も殴り付ける。

 無表情のまま殴られ続ける偽者一夏――苦しそうに喘ぐラウラが視界に映り、更に俺は拳を力強く握り締める。


「ぐ、ぅ……ぁあ! わ、たしのよ、めは……!!」

『ワールド・パージ介入、記憶改竄開始』

「アァッ!! ち、違う……! わ、私の嫁は……ヒルトだ! 織斑一夏じゃ――アアアアアッ!!」


 抱えた頭を何度も何度も横に振るラウラのその苦しそうな様子に、俺は吼える。


「ラウラ! そんな攻撃に負けるな!! 俺を嫁だと――そう言い続けたいなら……そんなまやかしの精神攻撃何か、はね除けろ!!」


 怒りに任せた拳が偽者一夏の顔面にめり込む――そこから一夏の身体は光の粒子へと崩壊していき、ラウラも――。


「うぅ……わ、たしの嫁は――――有坂ヒルト、ただ一人……だ!!」


 目蓋が開き、ラウラの紅蓮の眼が開眼されると同時に響き渡る声。


『ワールド・パージ、強制介入失敗――』


 その言葉を最後に、室内に平穏が訪れ、精神攻撃に磨耗したラウラは力なく倒れ込む。

 偽者一夏も既にその姿はなく、着ていた鎧も粒子に変わり、残されたロングソードも消えていた。

 ラウラに駆け寄り、脈をはかる――脈拍は正常で、彼女が気を失っただけだとわかりホッと安堵した。

 安堵と同時に空間の揺らぎを感じ、亀裂が入り、世界は崩壊していく。

 ラウラに俺の上着の学生服を着せ、抱き抱えた途端、視界を覆う目映い光に包まれた。

 その一方、こことは違う別の電脳空間、辺り一帯が漆黒の闇に包まれる中、電波の行き交う光に照らされた少女。


「……有坂ヒルトのデータ回収はほぼ不可能……。 このまま織斑一夏で代用しなければ……」


 誰に聞かれることのない空間で呟く少女、電脳空間に表示されているのは織斑一夏のデータ及び有坂ヒルトのデータ。

 織斑一夏のデータは完全にあるものの、有坂ヒルトのデータだけが不完全な状態で表示されていた。

 ヒルトが電脳世界にやって来た時点でその生体データの収集は完全に完了していた筈なのに、誰か一人を救出する度に膨大なデータ量が蓄積、それが肥大して電脳空間の至るところに四散していった。

 実際、有坂ヒルトに対するダメージは蓄積されている――それよりも恐ろしいのは確実に最強レベルで用意した『織斑一夏』がことごとく撃破されていく事だった。

 更にいうならば、シャルロット・デュノアに対する攻撃を行った際に感じた異物が二つ――一方は有坂ヒルトだが、もう一方は完全なアンノウン。

 それと今なお感じる誰かの『視線』、その視線によって更にこの電脳空間に違和感と居心地の悪さを感じた少女――。


「……次の標的は……束様の……」


 誰に聞かれることのない筈の呟き――闇に隠れて、少女を監視する男の銀髪が、電波の光で鮮やかに煌めいた。


 光が収束するや、第一声が届く。


「わ、本当に直ぐに出てきたね」

「でも、今回は五秒程掛かりましたわよ?」

「……何か法則でもあるのかしらねぇ……」


 三者三様、そう言いながら俺とラウラを見つめる三人。

 気を失ったままのラウラを寝かせ、残った扉の数を確認する俺。


「後は篠ノ之と美冬と未来……か」


 そう呟いたその瞬間、美春からの通信が届く。


『ヒルト、篠ノ之箒に対する攻撃が強まってきたよ』

「ん、休んでる暇はないってことか」


 痛む身体、軽い屈伸運動をすると俺は紅い扉の前に立つ――と。


「あの、ヒルトさん……少しよろしいかしら?」

「ん? 手短に頼むよセシリア」

「……ヒルトさん、篠ノ之さんに対して何のわだかまりもありませんの? これまで篠ノ之さんが貴方に行ってきた行い、少なくともわたくしは……」


 セシリアの言い分がわからないわけではない、だが――。


「……変わろうとしてる篠ノ之に、俺は何のわだかまりもないさ。 ……確かに俺は色々されたが、それは彼女だって同じだ、俺の些細な事で傷付けた可能性だって否定できない。 ……でも、そんな些末な内容よりも、これからの事が一番重要って訳さ、これがな」

「ヒルト、さん……」


 納得したのかはわからないセシリアの表情――鈴音とシャルの二人は寝かされたラウラの様子を見ながら俺にも視線を移していた。

 その時――また少女の囁きが聞こえる。


『わだかまりがある彼女達の仲を――貴方に紡げるの? それに、この事態で更に貴方に責任が――』

「……今はまだ、全てを答える時ではないが、少なくとも……俺を通して絆を紡げるのならば……本望だ」

『…………』


 誰に告げる事でもない、俺の呟きに不思議な表情を浮かべた三人の少女――眠り姫は未だ意識が戻らないなか、俺は紅い扉を開いて中へと入っていった。 
 

 
後書き
ラウラ編は原作流れのままだけど、ちょい違うのは……読んだらわかるかな

 
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