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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第512話】

 
前書き
篠ノ之と紅椿の話 

 
 夕食後の自室、楽な格好で俺はテレビ番組を見ているとコンコンとノックの音が響き渡り、その後――。


「あ、有坂……居るか?」


 ドア越しに聞こえてきた篠ノ之の声に、一旦テレビを消すと俺はドアを開ける。


「す、すま、ない……や、休んでいる所を……」

「いや、構わないぞ? ……学園で言ってた紅椿の事か?」

「う、うむ……」


 頷く篠ノ之、やっぱり前と態度が違いすぎて妙な感じはするのだが、彼女自身頼れるものが居ないのだろう。

 俺自身、クラスメイトは仲間だと思ってるから無論頼られたら無下にすることはしない。

 部屋へと招き入れる俺、恐る恐るといった感じで篠ノ之は部屋に入ってきた。


「………………」

「ん、どうした?」

「い、いや、済まない。 ……し、正直に言うと、だな……。 や、やはり有坂に辛辣にしていた手前、こうして嫌な顔されずに招き入れられると……な」


 本当に申し訳ないといった表情を見せる篠ノ之。


「ははっ、気にするなよ篠ノ之」

「だ、だが……」

「そんなことよりも、紅椿だろ? 反応はあったのか?」


 俺がそう言うと首を横に振り、用意した椅子に腰掛けた。


「……いや、やはり何も反応は……」

「そうか……声かけはしたか?」

「あぁ、静寐に迷惑が掛からないように、寮の屋上で何度か試したのだが……」


 落ち込む表情を見せた篠ノ之、紅椿自身が耳を傾けていないのではと疑う。

 これまでが力で抑える、上から抑えるといった形なのもあってコア自身が拒否してるのかも。


「……有坂」

「ん? 何だ?」

「……このまま私は、もう……紅椿には乗れないのだろうか……?」

「……まだ何とも言えないが。 ……厳しい事を言えば、こうなった原因は篠ノ之にあるんだからな?」

「……っ」


 俺の指摘に、唇を真一文字に結ぶ篠ノ之、前なら反論をしていたのだが、その指摘に小さく頷いた。


「篠ノ之には、やっぱり怒ってくれる大人が周りに居なかったのが一番の不幸だって事だな。 ……多分、これまで小学校や中学校でも教師から怒られた事って無いんじゃないか?」

「…………」


 黙ったままの篠ノ之、やはり図星の様だ――とはいえ、姉がISを開発し、もしその妹に何かあれば責任問題ところか首が飛ぶレベルだったのかもしれない。

 触らぬ神に祟りなし――そんな感じで腫れ物扱いされていたのかも。

 ……まあ今はそれよりも紅椿の事だろう。


「篠ノ之、とりあえずそれ、貸してくれるか?」

「……紅椿を、か」

「うん」


 戸惑いを見せる篠ノ之、勿論自身の機体を綿すとなれば抵抗はあるだろう。

 断るならそれでも構わないと思い、俺は右手を差し出して預けるように無言でそう告げた。

 そして――。


「わ、わかった……」


 消え入りそうな声で言うと、紅椿の待機形態状態である紅い鈴付きの紐を手渡してきた。

 それを受け取ると俺はギュッと優しく握り締め、心で語りかける。

 ――紅椿、聞こえているなら俺はお前と話がしたい。

 そう語りかけ、俺は瞼を閉じると真っ白な閃光が俺の視界に拡がっていった――。

 気付くと、神社らしき場所の前に俺は立っていた、美春や雅の介助無しでコア個人の世界へやって来たのは初めてだった。

 周囲を見渡す――神社の周囲には出店の屋台等があるものの、誰かが居る気配というものは感じなかった。


『……そのまま真っ直ぐ、道なりに来てください』


 そんな声が聞こえてきた、チャネル通信に似た感じの声に導かれ、俺は歩いていく。

 神社の奥、立派な御神木がそこにあり、その根本には黒髪をそのまま下ろした巫女姿の女性が正座で座っていた、一歩一歩近付くと、閉じていた瞼を開く彼女――。


「……御待ちしていました、ヒルト様」

「……君が、紅椿の?」

「……はい、紅椿と申します。 どうぞよしなに……」


 そのまま頭を下げた紅椿――だと機体名そのままなので、俺は――。


「んじゃ、ツバキだな」

「……はい? ……え……と」

「君の名前だ、俺は機体名で呼ぶよりは名前らしくこう呼ぶ方が好きだ。 ……いやだったか?」


 暫しの沈黙の後、首を横に振ると。


「いいえ、ありがとうございます……ヒルト様。 紅椿――いえ、ツバキは嬉しく思います」


 淑やかに微笑むその姿は、雅とは違った大和撫子の形だろう。


「そっか、それはよかった」

「ふふっ……。 ……ヒルト様、よろしければ、少し歩きませんか?」

「あぁ、構わないぞ」

「ありがとうございます。 それでは……」


 そう言って俺の一歩後ろにつくツバキ、隣に立つのではなく昔ながらの男性をたてる形なのだろうか。

 とりあえず来た道を戻るように歩き始めた俺、ちゃんと着いてきてるかを確認すると、歩幅小さく歩んでいた。


「……悪い。 ツバキのペースに合わせるよ」

「ありがとうございます、ヒルト様。 ……ふふっ」


 柔らかな笑みを浮かべたツバキ、歩くスピードを落としてさっき居た神社の屋台前を歩く。


「……ツバキ」

「はい、何でしょうか?」

「ん……直ぐには難しいかもしれないけどさ。 ……もう一度、篠ノ之にチャンスを与えてやってくれないか?」

「………………」


 表情に陰りが落ちるツバキ、そう簡単にはいかないのはわかってはいたが、やはり根が深そうだった。


「……あの方は、私の声に耳を傾けませんでした……」


 歩くのを止める、その場で立つツバキは言葉を紡いでいく。


「……いえ、もしかしたら……私の言葉は聞こえていなかったのかもしれません。 ……ヒルト様の様に、コアである私達と対話が出来る方というのは滅多に現れないのです。 ……それを明確に分かりやすくするために、搭乗者とのシンクロ率という数値で計ることが出来るのです」


 そういや、一学期の授業で専用機のシンクロ率云々の話があった気がする。

 一律100が基本で、其処から纏った時間によって増減するんだったか――。


「私、ツバキと篠ノ之箒様とのシンクロ率自体は高いのです。 ……それも、個人の才能を引き上げるレベルで――とはいえ、其処は私ではなく、私を産み出した方のお陰なのですが……」


 ……篠ノ之束だろう、今何処で何をしてるのやら。


「話が逸れました。 ……ヒルト様、私は……」


 言いにくいのか言葉を詰まらせるツバキ――そんなツバキの頭を、俺は撫でると驚いた様に見上げた。


「……今は無理なのは分かる、だけど……あいつ自身が今変わろうとしてる。 俺はそれを信じたい、彼女自身が――其処から人として成長する事が出来るって。 ……まあ、同じ高校生の俺が偉そうに言える立場じゃないがな」

「ヒルト、様……」


 暫く頭を優しく撫でる、それが心地好いのか瞼を閉じたツバキ。

 暫く撫でた後、ツバキは――。


「……分かりました、ヒルト様。 今一度、私は彼女に力を託します」

「良いのか、あっさり決めて」

「えぇ。 ……ヒルト様がこうまでして私を説得に来てくださいました。 ……ヒルト様、いつか……私も、ヒルト様を主君と御呼びしても宜しいでしょうか?」

「え? 構わないぞ? てか、主君って呼び方、雅みたいだな」

「ふふっ、そうですわね」


 淑やかに微笑むツバキ、そして――。


「ヒルト様、またいずれ、私に会いに来てくださいますか?」

「あぁ、構わないぞ? コア・ネットワーク経由になるが」

「えぇ。 ヒルト様は特別に、ここに来るのを許可致しますので」


 特別にという言葉を少し強調したツバキ、少し照れ、ツバキは顔を少し逸らした。


「……ヒルト様、ツバキは……いつまでも御待ちしていますわね」

「ああ、また来るよ。 ……てか、帰り道だけがやっぱりわからないんだよな……」


 周囲を見渡しても出口は無く、やはりツバキの力で戻してもらわないとダメなのだろう。


「ツバキ」


「……は、はい。 や、やり方は知ってはいます。 ……は、恥ずかしいのですが、殿方との接吻……初めてなもので」


 やっぱりキスで戻るようだ、美春はドアを出したがあれは難しいのだろうか。


「ひ、ヒルト様、瞼を閉じてくださいまし……」

「あ、あぁ」


 言われた通り瞼を閉じると、ツバキは――。


「ヒルト様、篠ノ之箒様にお伝えください。 次はもう、チャンスは有りませんよ――と。 ……ん……」


 言ってから唇に柔らかな感触が伝わる、暫く唇が重なっていると来たとき同様に視界が真っ白な閃光に包まれた。


「――か! 有坂!」

「ん……」

「き、気が付いたか、有坂!?」


 意識が覚醒した俺、どうやら戻れたらしく、まだ唇に柔らかな感触が残されていた。

 瞼を開くと、篠ノ之の顔が見える。


「気が付いたようだな。 ……い、いきなり意識が無くなるから……」

「ん……」


 本当に心配していたらしく、篠ノ之の目が僅かに涙目になっていた。


「……悪いな、篠ノ之。 ……それよりも、一回だけ部分展開だけで良いからしてくれるか?」


 身体を起こし、預かった紅椿を手渡す。


「し、しかし……紅椿が応えてくれるか……」

「……まあ騙されたと思って、な?」

「わ、わかっ、た……」


 篠ノ之は意識を集中し始める――瞼を閉じ、何度も呼吸して右手を前に突き出した。


「……紅椿、私に……応えて、くれ……!」


 願うように呟く篠ノ之の右手が光を放ち、紅椿の右腕部分が展開される。


「…………」


 何度か瞬きをし、右手を握ったり開いたりを繰り返す。


「……あ、有坂……!」

「……良かったな、篠ノ之」


 そう言うと、篠ノ之は嬉しさからか力一杯俺を抱き締めてきた。


「有坂のお陰だ! わ、私だけでは……絶対に無理だった! ……有坂、ありがとう……!!」

「ぐ、ぐぇ……」


 力一杯抱き締める篠ノ之、その豊満な乳房が押し付けられるも抱き締める力が強すぎて骨がミシミシと悲鳴を上げた。


「わ、わあっ!? す、すまない有坂、だ、大丈夫か!?」

「……ハグ死するかと思った……」


 冗談ではなくわりとマジで、ロッカーを拳一つで凹ませた力は伊達ではないという事だろうか。


「……篠ノ之、とりあえず今回はこれで大丈夫だとは思うが、次同じような事になったら、多分二度と乗れなくなるかもしれないぞ?」


 篠ノ之は神妙な面持ちで頷き、胸に手を当て、息を吸い込む。


「……大丈夫だ。 ――とはいえ、言葉ではなく、これからの私の行動で信用を取り戻す」


 力強い言葉と眼差し、口で言うのではなくこれからの行動で示すと言う辺り、本当に変わる兆しが見えてきた。


「……わかった。 篠ノ之、いつでも誰かからの第三者の厳しい目が見てるからな」

「無論だ。 ……有坂、夜分遅くにすまなかった。 ……そ、それと、だな」

「……?」


「も、もう私は、意地を張らない。 ……飯山が前に言っていた様に、有坂が指摘した通り、私は機体性能に頼りっぱなしだ。 私自身が精進しなければ……前の襲撃事件同様に足を引っ張るかもしれない。 か、可能な限りは善処するから……と、共に……訓練、を……」

「ああ、構わないよ」


 不器用だが、確実に前に進もうとしている篠ノ之。

 これから先、篠ノ之にとっては苦難が続くかもしれないが……それでも、今は小さな一歩が少しずつ、彼女を成長させると俺は信じる。

 美冬からは甘いって言われそうだが――。


「あ、有坂……も、もう一つだけ。 良いだろうか……」

「ん? なんだ、篠ノ之?」

「……その、こ、これも……ずっと謝りたかった。 ……た、戦いの最中に……攻撃した……事を」


 罰が悪そうな表情を見せた篠ノ之、フレンドリーファイアの件だろうか?

 個人的にはもう過ぎた事だし、今さら言っても仕方ないのは事実。


「大丈夫、俺は何も思ってないし。 ……それでも気にするなら、篠ノ之は状況把握して他の皆に攻撃が及ばないように、な?」

「……有坂。 ……う、うむ」


 何度も頷く篠ノ之、腕組みすると豊満な乳房が窮屈そうに身を寄せていた。

 以前なら何も思わなかったが、何故か少しドキッとしてしまった。

 それから暫く談笑を続けた、篠ノ之自身ぎこちなかったものの、会話自体は弾んだ、こういう事をきっかけにして、いつかは篠ノ之に本当の友人が出来る、その日を楽しみにした――。 
 

 
後書き
次は日曜日の話ー

モッピー知ってるよ。
今回の話で、皆がモッピーにメロメロだって事。

    _/⌒⌒ヽ_
   /ヘ>―<ヘヽ
   ((/ ̄ ̄ ̄\))
   /    ) \
  /  | | //ヽ ヘ
  |  ハ | /イ | |
  レ |/ レ| N\|||
  /| |≧ ヽ|≦ |||
 / ヽ|゛    ゛|/ /
 \_(ヽ  ̄ /⌒)ヽ
  / | T ̄ ̄| ヽ |
 / /ヽノ   \_ノ|
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