| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

シバルリー 〜若騎士戦記〜

作者:ネグセ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第2話 アガサの若騎士

 
前書き
言い忘れてましたが、度量衡は現実と同じとします。その方が分かりやすいし、面倒でないので。 

 
526年、9月12日、午後1時13分
アガサ王国領ドナイツ城塞–––南方戦線駐屯地



ドナイツ城塞は、シュッツハルト平野より南東–––"テノジア王国"に最も近い城塞だ。
2年前、ドナイツ城塞はテノジア王国の侵攻によって陥落した。しかし、当時西方戦線から離脱し、東方戦線に配属されたルーカス、パトリックは部隊を率いて急行、ドナイツ城塞を無力化し、再び手中に収めたのだった。
その後、少数の兵士しか配属されていなかった南方戦線に戦力が注がれ、ルーカスらも配属された。
更に、西方戦線騎兵隊長のネルソン・ドレイヤーも南方戦線に配属され、アガサ屈指の戦力を誇った。



「–––ルーカス、パトリック、お前ら一体、どこ行ってたんだ」
城塞内の馬舎で愛馬の世話をしていたネルソンは手を止め、腕を組んで問うた。
二人とも、黙ったままネルソンの目を見つめる。
暫く沈黙が流れ、膠着していたが、やがてネルソンは諦めたように、ため息をついた。
「…全く、暇じゃないってのに…まぁ、今回は許す」
そう言ってネルソンは愛馬に向き直ろうとして、思い出したようにルーカス達を振り向いた。
「そうだ、次の作戦の指示が出ているぞ」
「本当か?」
ルーカスは食い気味にネルソンに問うた。
「ああ、テノジアの奴らが国境を越えて侵攻してきたそうだ。それを迎撃しろ、との事だ」
テノジア王国–––。
そこは、アガサ軍が敗北した地、かつてアガサ国王であったアルゴン王が、奮戦の末戦死した地であった。
アガサ軍の敗因は、兵士達の溜まりに溜まった疲労、そしてテノジアの気候だった。
年間を通して気温が高い事で知られているテノジアは、気温差の少ない地に住むアガサ人にとって不利な地だったのだ。
「奴らは、ここから南東のハイエル丘隆地に陣を敷いているとの報告だ」
ネルソンは、馬舎の柱に立て掛けていたバルディッシュを担ぐと、鞍に跨った。
「気を引き締めろ。メイソン騎士団…いや、メイソン帝国も参戦する恐れがある」


–––––––––––––––––––––––––


526年、9月12日、午後3時40分
アガサ王国領ハイエル丘隆地



「–––あれか」
ルーカスは馬を止めると、アーメットのバイザーを押し上げた。
視界が開けると、なだらかな丘の眼下に、テノジア軍の陣が敷かれていた。
整然と敷かれた陣の周辺には、馬による突撃を防ぐ為の拒馬や、物見櫓が無数に設けられていた。
さながら、一つの大きな砦のようであった。
「…ここから見えるだけでも、相当な兵力だぞ」
「俺達だけで勝てるのか…?」
騎兵達の間から、動揺の声が次々と上がった。
ネルソンの率いる部隊は、2千騎。対して、テノジア侵攻軍は凡そ6千500騎だった。
4千500騎と言う圧倒的な差は、気概だけで埋まる様なものではなかった。
しかし–––
「勝てる」
その声に、ネルソン達は一斉に振り向いた。
ルーカスだった。
「ルーカス、お前は何を言ってるんだ!?」
ネルソンは怒鳴った。
「敵がここまでの数を有しているとは、俺でさえ知らなかったんだ!行った所で、痛手を負って帰るのがおちだ!」
「だからこそ、勝つしかない」
ルーカスは冷静に答えた。
「少ない戦力で相手を負かすからこそ、相手は余計に痛手を負うんじゃあないのか。…みんな、それを分かっている筈だ」
ネルソンは、唖然としていた。
しかし、冷静に構えるルーカスとパトリックを見て、直ぐに納得した様に頷いた。
「…そうだな」
ネルソンは、頭の上でバルディッシュを器用に回し、テノジア軍の陣に斧頭を向けた。
「目標、テノジア軍の陣の制圧!奴らを一人として生かすな!」



–––––––––––––––––––



「––––全く、何だって王サマはこんな国、直ぐに潰そうとしないのかね」
陣の見張りをしていたテノジアの兵士は、そろそろ1週する所までに差し掛かっていた。
溜め息混じりに、横を歩くもう1人の兵士に問うた。
「"アガサの若騎士"とか言うのがいるから、って聞いた事あるぜ。何でも、奪われた城やら砦やら、直ぐに奪い返しちまうんだと」
「何だ、そりゃ?胡散くせぇ––––」
テノジアの兵士は、最後まで喋り切る事は出来なかった。
彼らが気付いた頃には、既に敵は陣中に切り込み、拒馬を飛び越えていったのだった––––。


「突き進めーッ!攻撃の機会を与えるなーッ!」
ネルソンを先頭に、陣中を突撃していくアガサ兵達は、テノジアの兵士達を蹂躙していった。
馬で踏み躙り、剣で斬り伏せ、槍で突き–––––
アガサ兵達は、瞬く間に屍の山を築き上げた。
「おおおおおッ!」
敗走していくテノジア兵の背後に肉薄し、ルーカスは半分身を乗り出しながら、馬の勢いに乗せて首に向かって剣を振るった。
簡素な装備に身を包んだテノジア兵の首は、斬撃の餌食となり、宙を舞った。
ルーカスの兜に、鮮血が飛び散った。
剣先を高く掲げながら、ルーカスは吼えた。
いつの間にか誰よりも先頭で戦っていたルーカスの姿は、さながらかつての王–––––アルゴン王を彷彿とさせる姿だった。
 
 

 
後書き
何日も掛けて書いてこれって、どうなんですかね… 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧